「ポルシェ・タイカン」の自動車税はいくら? 複雑怪奇なエコカー優遇税制とその課題
2022.05.06 デイリーコラム税制上の恩恵を受ける次世代エコカー
クルマの購入と維持で、ユーザーの大きな負担のひとつとなっているのが税金だ。購入時には消費税をはじめ、重量税、自動車税環境性能割、自動車税種目別割(月割り負担)が必要に。購入後も自動車税は毎年の徴収が行われ、車検ごとには重量税の負担も必要となる。マイカーの購入時には新たなクルマとの出会いに気持ちも高ぶり、税負担の痛みも忘れがちだ。しかし春の風物詩となっている自動車税など、維持にかかる諸税では、誰しもが通知書を眺め、ため息が出てしまうことだろう。
ところで、本来は厳格に規定された税制度によって全受益者に平等な負担が求められる税金だが、こと自動車に関しては、あけすけな特例もある。それが税の軽減措置となる「エコカー減税」と「グリーン化特例」だ。これらは「次世代環境車の普及のために、自動車に関する税の負担を軽減しましょう」というもの。さらに、令和元年(2019年)10月に消費税率が10%へと増税されたタイミングで自動車取得税が廃止され、新たに環境性能割が導入された。その名称からも推測できるように、エコなクルマほど税負担が少ない仕組みだ。このため、現制度ではピュアエンジン車の負担が最も重く、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の負担が最も軽くなる。世界的に今後の普及が望まれるEVやFCVなどは、税負担でも有利となるわけだ。
そこでEVを中心とした次世代電動車の税負担について見ていこう。まず環境性能割の税率について簡単に説明すると、自動車購入時の取得額に対して、登録車の場合で0~3%、軽自動車の場合は0~2%の課税がなされる。先ほども述べたとおり、環境性能割では燃費のいいクルマほど税負担が軽減される仕組みとなっており、またEV、FCV、プラグインハイブリッド車(PHEV)、天然ガス自動車は非課税となる。
これらのクルマでは購入時と車検時に負担が求められる自動車重量税もエコカー減税の措置を受け、取得時は100%減免。さらに初回の継続車検時も100%減免となっている。つまり、最大5年分の重量税が免除されるわけだ。これは軽自動車の場合でも同様となる。
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大きな恩恵が得られる自動車税の減免
それでは「6年目以降の重量税はどうなるの?」となるが、結論から言えば優遇措置はなくなり、車両重量に応じた税が課されることになる。とはいえ、自動車重量税の課税額自体がエコカーに有利なものとなっており、1.5~2tの乗用車の場合、通常は3万2800円(2年分)の負担がエコカーなら2万円に、軽自動車の場合も、通常は6600円の負担が5000円となる。ちなみに、ここで言う“エコカー”の定義は電動車に限定されず、令和2年度燃費基準を達成していることが条件となる。さらには、エコカー以外のクルマでは初年度登録から13年以上経過した車両に対して増税がなされるが、現在の基準に沿うエコカーはそれも対象外となるため、もし古くなっても税率は変わらない。愛車の継続車検時の重量税を知りたい場合は、国道交通省サイト内にある「自動車重量税額照会サービス」で調べてみるといいだろう。
一方、毎年の負担となる自動車税については、グリーン化特例が適応され、EV、PHEV、FCV、天然ガス自動車(平成21年排出ガス規制NOx 10%以上低減または平成30年排出ガス規制適合)の自家用車ならば、登録翌年度の自動車税がおおむね75%の減税となる。
また令和元年10月に自動車税種別割がスタートした際、新規登録車の年間税額が最大4500円引き下げられたが、この改定もちょっとしたエコカー優遇措置のひとつだった。最小の区分にあたる1000㏄以下では課税額が2万9500円から2万5000円へと4500円引き下げられたが、他の区分では排気量が上がるほどに引き下げ額は少なくなり、2500㏄以上の区分ではいずれも1000円の引き下げにとどめられたのだ。この種別割が適用されるクルマは永続的に引き下げられた額での課税となるが、初年度登録がそれ以前のクルマについては、従来の自動車税額が適用される。なお、13年経過後の増税措置(いわゆる旧車増税)については自動車税種別割の施行後も継続。もともと負担が低かった軽乗用税の納付額はそれまでと同じ1万0800円だが、登録車と同様に、自家用のEVなどであれば翌年度の税額におおむね75%の減税が適用される。
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EVとFCVの自動車税は2万5000円の一律
ところで、自動車税はご存じのとおりクルマの排気量によって課税額が決まるのだが、ではエンジンを持たないEVやFCVの場合は、どの排気量区分におさまるのだろうか? 意外なことに、すべて排気量1000cc以下と同じ扱いとなるため、年間で2万5000円の一律となる。これは「日産リーフ」も「アウディe-tron」も「ポルシェ・タイカン」も同様で、加えて新車登録年度の翌年度は75%の軽減措置もとられる。エンジン車だと1.5~2リッターで3万6000円、3.5~4リッターで6万5500円と、排気量による明確な差があるため、EV、FCVでは「すべてが同じ区分」となるのが少々驚きだ。また排気量がゼロのEV、FCVは、ボディーサイズが軽自動車枠におさまっていれば軽自動車扱いとなる。
さらに、EVのなかでもイマイチ税制区分が分かりにくいのが、レンジエクステンダー搭載車だ。これまでに市販化されているのは「BMW i3レンジ・エクステンダー装備車」だけなので、このクルマに限定される話なのだが、レンジエクステンダーを搭載したEVはPHEVと同じ扱いとなるため、自動車税は排気量に依存する。しかし、i3レンジ・エクステンダー装備車の発電用エンジンは、排気量647ccの2気筒。このため税制面ではEVの「i3」と全く変わらないことになる。
ここまでは全国一律で受けられるエコカーの優遇税制の話だったが、個別の施策に取り組む自治体もある。特筆すべきは東京都と愛知県で行われているZEV導入推進税制で、平成21年度(2009年度)から令和7年度(2025年度)までに初回新規登録を行ったEV、FCV、PHEVは、なんと自動車税が5年分全額免除となるというから驚きだ。
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優遇措置には負の側面もある
このように、多方面で税制の恩恵を受けている次世代エコカーは、購入・維持で得をするのは確かだ。しかしながら、それがいつまで続くのかという現実にも直面している。減税措置となる「エコカー減税」と「グリーン化特例」は、来年にあたる2023年4月までの特例措置なのだ。これは令和2年(2020年)12月21日に閣議決定されたもので、その際に2年間の延長措置がとられた。今後もEVを中心とした電動車の普及促進政策がとられる方針に変更はないため、延長が図られるとは思うが、現段階では不明である。
加えて電動車の拡大と普及は、税収の減少にもつながっていく。特にエンジン排気量に由来する自動車税、そして燃料税の減収は深刻だろう。特にスポットを当てなくてはならないのが、ガソリンと軽油に課せられている税収の行方だ。燃料に関する税金の半分は道路財源なので、燃料を使わないEVやFCVのオーナーは、道路インフラのコスト負担も減免されているという事実がある。今後、EVとFCVが増加すれば、ユーザーによる負担の差に不満が高まる可能性があり、また政府や自治体が、道路財源を確保すべく新税を創設する可能性があるのだ。
地球や地域の環境を守るために次世代エコカーの果たす役割は大きく、EVやFCVに限定せずとも、好適なエコカーの普及は促進されるべきだ。しかしながら、特定のクルマのオーナーだけが減税措置や補助金の交付を受けるようでは、インフラコストは受益者が平等に負担すべきという前提が崩れていってしまう。そして、エコカー向けの減税分を穴埋めするのも、補助金の財源となるのも、われわれの税金なのだ。
そもそも自動車税種別割で、日産リーフなどの実用車とポルシェ・タイカンのような高性能EVの税率が同じというのは、やはり疑問がある。走行時にCO2を排出しないという点は同じだが、車格やキャラクターの違いから、エネルギーの使い方も効率も大きく異なるからだ。消費される電気にも自動車特有の課税はないのだから、どこかしらで差別化を図るべきではないか。ただ、10年ほど前に国交省が自動車のモーター出力の細分化を検討したこともあったため、いずれは是正措置が取られることになるだろう。なんにせよ、EV、FCVを車格を気にせずお得に楽しめるのは、ここ数年が最後のタイミングとなるのかもしれない。
(文=大音安弘/写真=日産自動車、トヨタ自動車、BMWジャパン、NEXCO東日本/編集=堀田剛資)
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