DS 4リヴォリE-TENSE(FF/8AT)
新時代の高級車 2022.05.11 試乗記 小型車と大型車ばかりだったDSのラインナップに、待望のCセグメントモデル「DS 4」が復活。どこか中途半端だった先代モデルと明確に違うのは、ラグジュアリーブランドの高級車にふさわしい乗り味を手にしているところだ。ベルサイユ近郊で試乗した第一報をお届けする。ブランド独立から8年を経て
2011年にシトロエンブランドのモデルとして登場した「DS4」。「シトロエンC4」と車台を共有し、日本では1.6リッターガソリンターボエンジンを搭載して発売された。が、あんまりパッとしなかった。リアドアのウィンドウがはめ殺しだったことしか記憶にない。
あるとき日産からやってきたカルロス・タバレス氏がグループPSAのCEOに就任、手始めにDSをシトロエンから独立させた。だがDS 4についてはエンブレムがダブルシェブロンからDS専用のものに変わった程度。途中でディーゼルエンジンも追加されたが、これならC4でいいかと思わせるモデルだったのは否めない。
2010年代後半、車台やパワートレインこそプジョーやシトロエンと共有するものの、DS専用のデザインや仕立てが与えられた「DS 7クロスバック」や「DS 3クロスバック」が登場し始め、ようやく人々はDSに対し、本気でブランド構築をしているんだなと認識するようになった。2021年にモデルチェンジして2代目となったDS 4はそういう流れのなかで生まれている。2022年4月末の日本デビューと同じタイミングでプラグインハイブリッド車(PHEV)の「E-TENSE」に試乗した。場所はフランス・パリ郊外。
気が抜けないほどカッコいい
サイズは全長×全幅×全高=4415×1830×1495mmと、Cセグメントハッチバックのど真ん中。ただし205/55R19という直径700mm超の大径タイヤを装着するほか、ルーフとボディーサイド下端をブラックアウトすることで、車体の天地の厚みを目立たなくしている。
フロントマスク両端の稲妻のようなDRL(デイタイムランニングランプ)とデコラティブなフロントマスク、ヘッドランプユニット、リアコンビランプは新世代DSのお約束だ。ボディーのあちこちに複雑かつシャープなキャラクターラインが入っており、それが全部うまくいっていて、とてもカッコいい。カッコよすぎて気を抜いた服装で降り立つことが許されない雰囲気がある。
E-TENSEというのは、DSが電動車に対して用いるグレード名であり、コンパクトなDS 3に限ってEVであることを意味するが、DS 4を含めその他のモデルの場合、PHEVに対して用いられる。1.6リッター直4ガソリンターボエンジン(最高出力180PS、最大トルク250N・m)と8段ATに、総電力量12.4kWhのバッテリーから電力供給を受けて作動するモーター(同110PS、同320N・m)が組み合わせられる。
180PSのエンジンだけでも不足なく走らせられる車体サイズにモーターパワーが上乗せされている(システム全体としての最高出力は225PS)わけで、非常に力強く、発進から高速域での追い越し加速まで全域で十分な速さをもたらす。踏めばどこからでもグイッと加速する。勇気をもらうことのたとえではなく、物理的に背中を押してくれる。“電動”はかつて大排気量エンジンでしか得られなかった爽快さをもたらしてくれる。
DS史上最良の乗り心地
モーターで発進し、途中でエンジンが始動する一般的なPHEVの振る舞いで、エンジンがかかる瞬間の音と振動も不満のないレベルに抑えられている。同時に乗った「プジョー308」のPHEVと同じ動きだが、これから述べる乗り心地のよさのぶん、満足感はDS 4のほうが高かった。
DS 4は「EMP2」というプジョーとシトロエン、DS、オペルが共有する車台を用いて開発されている。EMP2は2013年登場の現行「シトロエン・グランドC4スペースツアラー(当初はC4ピカソだった)」が初出しで、以降のグループPSAのCセグメント以上の各モデルに用いられてきたが、途中何度か明確に進化を遂げた。剛性感が上がり、静粛性と乗り心地が向上した。
今回のDS 4で確実にまた一段レベルアップし、DS史上最良の乗り心地を獲得している。同時に同じルートでテストした「DS 9」(これも当然EMP2)よりも乗り心地がよくて戸惑った。パリ郊外のそこそこ荒れた舗装路を、これ以上ないほど巧みな振動吸収によって快適さを保った。
このクルマにはフロントカメラが前方の路面を常時スキャンして路面の凹凸を識別、ダンパーの減衰力を最適化する「DSアクティブスキャンサスペンション」が備わっていた(「リヴォリ」に標準装備)。DS 4の快適性の大部分は車体とダンパーの基本的な性能の高さによるものだとは思うが、この飛び道具的な電子制御システムもいくらかは貢献しているはず。いずれこのシステムが備わらないグレードも試して確かめたい。
ついに実現した「小さな高級車」
試乗したDS 4リヴォリE-TENSEはCセグメント最良の乗り心地を誇る。特定の路面状況では、PHC(プログレッシブハイドローリッククッション)なる、セカンダリーダンパーを組み込んだサスペンションシステムを備えたシトロエンC4のほうが快適だと感じることもあるが、総合的には現在DS 4がCセグハッチの頂上にあると思う。
2010年代半ばにシトロエンから独立するかたちで誕生し、プジョー、シトロエンとは別のブランドとしてプレミアムを掲げたものの、どことなく中途半端で位置づけがわかりにくかったDS。その名がかつてのシトロエンの名車と同じということもあって、中年より上(僕とか)のシトロエン愛好家からは「大事な名前を使っちゃってもう!」というちょっとした反発もあった気がする。
けれども新型DS 4に触れ、DSというブランドのイメージがかなりクリアになった。このクルマはありそうでなかった、これまで多くのメーカーが挑戦するも決定版を示すことができなかった小さな高級車だ。DSには大きいモデルもあるけれど、大小ではなく、DS 7クロスバックやDS 9を含め、エンジン縦置きの保守的な高級車に挑戦しているという意味で、小さな高級車、言い換えれば革新的な、新たな価値観の高級車を目指しているのだろう。DS 4は、彼らの「だってそのうちエンジンの向きなんて関係なくなりますからね。新しい高級ってこういうことでは?」というメッセージに思えた。
(文=塩見 智/写真=ステランティス/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
DS 4リヴォリE-TENSE
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4415×1830×1495mm
ホイールベース:2680mm
車重:1760kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:180PS(133kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
タイヤ:(前)205/55R19/(後)205/55R19(グッドイヤー・イーグルF1アシメトリック5)
ハイブリッド燃料消費率:16.4km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:56km
充電電力使用時走行距離:56km
交流電力量消費率:200Wh/km(WLTCモード)
価格:572万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※スペックは日本仕様
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

塩見 智
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
NEW
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
NEW
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。 -
第83回:ステランティスの3兄弟を総括する(その1) ―「ジュニア」に託されたアルファ・ロメオ再興の夢―
2025.9.3カーデザイン曼荼羅ステランティスが起死回生を期して発表した、コンパクトSUV 3兄弟。なかでもクルマ好きの注目を集めているのが「アルファ・ロメオ・ジュニア」だ。そのデザインは、名門アルファの再興という重責に応えられるものなのか? 有識者と考えてみた。