レクサスLX600“エグゼクティブ”(4WD/10AT)
にじみ出る“別格感” 2022.05.24 試乗記 グローバルマーケットで絶大な人気を博す、レクサスのフラッグシップSUV「LX」。後席をセパレートタイプとし快適性を高めた「LX600“エグゼクティブ”」に試乗し、豪華さと歴代最高の悪路走破性が織りなす独自の世界観を味わった。持たざる者には想像がつかない
レクサスLX600の最上級モデルが“エグゼクティブ”だ。1800万円。LX600は全車3.4リッターガソリンだが、標準モデルより600万円高い。しかも他のLX600が5~7人乗りであるのに対して、4人しか乗れない。いや、後席をふたり乗りのエグゼクティブラウンジにして、4人しか乗せないのがこの仕様である。中東などではズバリ“VIPグレード”と呼ばれる。
1800万円の4シーターだから、1席450万円の計算だが、なかでも特等席は運転席の対角線上にあるリアシート左側だ。助手席が空席なら、ボタンひとつでそれを前方に追いやり、広いレッグルームがつくれる。電動オットマンを出して脚を投げ出し、48度まで倒れる背もたれを寝かして寛ぐもよし、眠るもよし。
リアシート両席にはそれぞれ11.6インチタッチディスプレイ付きのリアエンターテインメントシステムや、マッサージ機能のあるリラクゼーションシートが与えられる。後席の空調システムも“エグゼクティブ”は専用設計になる。ただし、大仕掛けのリアシートを前に畳んだりして荷室を広げることはできない。
世界最高クラスの悪路踏破性にエグゼクティブな後席居住性を組み合わせたSUVをいったいどういう人が使いこなすのか、持たざる者にはなかなか想像がつかないが、邸宅の中に小さな動物園があるような中東のお金持ちなら、いくらでも“使いで”があるのだろう。
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フラットで快適な乗り心地
このクルマに試乗するひと月前にディーゼルの「ランドクルーザー300ZX」に乗った。基本構造を同じくするとはいえ、LX600“エグゼクティブ”は運転席でもアナザーワールドである。
オレンジ色に近い専用の革内装がまず日本車離れした印象を与える。「ランボルギーニ・ウルス」にこんな色のインテリアがあったような気がする。
ドアを閉めたら、正面のメーターパネルでシルバーの輪が回転し始めた。コスミックなその動きが止まると、それが計器盤のリングになる。
走りだすと、印象的なのは乗り心地のよさである。乗り味がやさしい。車重2.6tのオフロード四駆! なんていうワイルドさはカケラもない。舗装路の大きなギャップなどでラダーフレーム車特有のブルンという揺れをまったく感じないわけではないが、これまでの「LX570」に比べたら、そのまるめかたは大進歩である。
先述のランクル300との比較では、とくに高速域での乗り心地が段違いにいい。LX600のサスペンションには、ランクルにないアクティブハイトコントロール機構が備わる。その効果というよりも、「フラットな安定感を確保した」と謳うダンパーチューニングのような日常性能にレクサスの手が及んでいると感じた。
いずれにしても、ランクル300のあとに味わうLX600はフラットで快適な乗り心地が最大のサプライズだった。
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納得のパフォーマンス
エンジンは「LS」などにも使われている3.4リッターV6ツインターボである。LX570用の5.7リッターV8からは、絵に描いたようなダウンサイジングターボ化だ。
しかし、415PSのパワーも650N・mのトルクもLX570を大きくしのぎ、しかも車重は130kg軽くなっている。チカラに不足のあろうはずはない。
フロントガラスやドアガラスにはレクサスで最も厚い5.7mmのガラスが使われているという。ボディーの遮音対策もランクル300より明らかに入念だ。
ATは10速。高速道路での100km/h時の回転数は10速トップでわずか1300rpm。パドルでシフトダウンしてゆくと、1400、1700、2100、2500と小刻みに上がり、5速でやっと3300rpmになる。それでも車内の静けさは10速トップ時とそう変わらない。ランクル300用の新型3.3リッターディーゼルは、それほど静かではないから、日本のレクサスLXはこのガソリンエンジンのみで正解だと思う。
LX570の8段からバージョンアップした10段ATは、とても賢い。Dレンジでの車速に応じた自動変速が適切で、重いボディーを無闇に空走させることがない。LX570では、車重に対してもっとフットブレーキの制動力がほしいと感じさせることがあったが、今回そのようなこともなかった。2tを超すような重量車は加速性能よりも止める性能のほうが大事である。
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すべてが別格の“レクサス仕上げ”
約340kmを走って、燃費は満タン法実測値で6.2km/リッター。車載燃費計表示は6.1km/リッターだった。走り始めたときは5.1km/リッターと出ていた。ガソリンは無鉛ハイオク指定。いまどき堂々たるガスガズラーである。
でも、売るほど原油の採れる国がメインマーケットなのだから、ノープロブレムだろう。センターコンソールにあるクールボックスの注意書きは英語、ロシア語、日本語、アラビア語の順だった。
しかし、燃費も含めて、日本車としては“別格感”を感じさせるクルマである。正味半日の試乗だったので、オフロードは経験できなかったが、オンロードを走ってこれほど“いい気持ち”にさせてくれる国産SUVがこれまであっただろうか。
大きく重くても、運転していて大味な感じはまったくしない。ステアリングやペダル類の操作フィールにも“レクサス仕上げ”の磨きを感じる。運転物件として気持ちいいクルマである。
標準モデルでも1200万円。「レンジローバー」以外のランドローバー車はぜんぶ買える。この“エグゼクティブ”なら「ディフェンダー」のいいやつが2台買える。もちろん高いが、しかし高いだけのことはあるなと思わせてくれるクルマだった。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レクサスLX600“エグゼクティブ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5100×1990×1895mm
ホイールベース:2850mm
車重:2600kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.4リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:10段AT
最高出力:415PS(305kW)/5200rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2000-3600rpm
タイヤ:(前)265/50R22 109V M+S/(後)265/50R22 109V M+S(ダンロップ・グラントレックPT5A)
燃費:8.0km/リッター(WLTCモード ※社内測定値)
価格:1800万円/テスト車=1829万1500円
オプション装備:ボディーカラー<マンガンラスター>(16万5000円)/オーナメントパネル アートウッド<鷹羽(たかのは)>(11万円) ※以下、販売店オプション ホイールロックナット<シルバー>(1万6500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4332km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:337.9km
使用燃料:54.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.2km/リッター(満タン法)/6.1km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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