第45回:世界最強SUV決定戦(前編) ―お金持ち必見! 世界で一番イキれるクルマはこれだ!!―
2024.11.06 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
ミニバンがはだしで逃げ出す、究極のオラオラマシンことラグジュアリーSUV。世界の億万長者に愛され、石油資源を鯨飲して爆走する巨大戦艦のなかでも、最もイキれる一台はどれか!? webCG史上最もしょうもないテーマを、元カーデザイナーと真剣に討論する!
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「Gクラス」は不純になった?
ほった:……それでは皆さん、これより「世界最強SUV決定権」を開催いたします。字面のとおり最高に頭の悪いテーマなので、IQをガンガン下げていきましょう。
清水:このお題、マンガでいえば『アストロ球団』だね!
ほった:例えが古すぎません!?(笑) しかしそのとおり! 世のお金持ちが愛してやまないコワモテSUVをかき集め、誰が一番強いのかを決めたいと。そういうことなんですよ。それしかないんですよ僕には!(山口 隆の声マネで) 久々のおふざけ回なので一升瓶でも持ってきたかったんですけど、ここ(吉祥寺商工会議所)って飲食禁止なんですよね。残念です。
渕野:ふーむ。……自分は常々考えているんですけど、クルマって持ち主の分身みたいなもので、パーソナリティーが強く表れると思うんですよね。日ごろおとなしい方でも、ごっついSUVに乗っていたら「本当は強くたくましく思われたいのかな?」みたいなところが、あるじゃないですか。
清水:(……おふざけ回のムードが)
ほった:(一瞬で……)
渕野:で、このジャンルで一番のモデルといえば、やっぱりメルセデスの「Gクラス」かなと思いますけど、どうですか?
ほった:……順当ですけど、ワタシとしては正直もう、あんまりスゴみを感じないんです。
渕野:見慣れてしまったから?
ほった:見慣れたというか見飽きたというか。それに押しの強さでいえば、もっと強烈なのがどんどん出てきてますからね。「トヨタ・アルファード」的なトレンドの流入もあって(参照:その1、その2)。清水さんのなかでも、最強SUVの勢力図は変わってるんですよね?
清水:勢力図も変わったし、Gクラス自体のイメージもちょっと変わっちゃったね。そりゃ今でもGクラスは順当だけど、デザイン的には6年前にフルモデルチェンジして、フロントにラウンドがついたでしょ? あれだけで不純! って思っちゃってね。(全員笑)
それでもやっぱり王道はこのクルマ
ほった:モデルチェンジ前のGクラスは、清水さん的にはよかったんですか?
清水:スゴくよかったし、最強だったと思う。でもフルチェンジで、見た目のピュアさが微妙にそがれたよね。この間、首都高を走ってたら、前型の水色のGクラスが合流してきたんだよ。それ見て「なんて上品で強そうなんだろう!」って感嘆したんだ。すっごいステキだったの。いっぽう今のGクラスは、ツヤ消しブラックの「G63(メルセデスAMG G63)」ばっかりでしょ。しかも都心部だと、掃いて捨てるほどいるじゃない。
渕野:でも、それが一番売れてるんですよね。Gクラスのなかで。
清水:そうなんです。ボディーカラーはわかんないけど、G63が販売の6割を占めてるそうです、全世界で。
渕野:6割!? 一番高いのが……。
清水:Gクラスはフルチェンジして、見た目はそんなに変わってないけど、完全にオラオラグルマになったんですよ。
ほった:今日びだと、それが正しい“お金持ちSUV”の在り方かもしれませんけどね。まぁその割に、迫力はいまひとつだけど。……それにしても高くなりましたよねぇ、Gクラス。G63だと3000万円オーバー。
清水:先代はそこまでじゃなかったよね。
ほった:そう、「350d」とか……。
清水:350dは新車が1000万円くらいだったし、中古ならもっと安かったし。オレですら「維持費の安いディーゼルだったら欲しいな~」みたいに思ってたもの。でも今は、そんな考え消し飛んだよ!
ほった:ってなわけで、Gは非常にコスパが悪いというのが私の意見です。
渕野:なるほど……。でもやっぱり、このセグメントで王道といえばGクラスなんですよ。大きさはもちろんですけど、メルセデスっていうステータスや趣味性、特別感を高次元で併せ持ってますから。
ほった:その辺はうまいですよね、本当に。
渕野:だからこそ、フルモデルチェンジでもそんなにイメージを変えなかった。フロントフェイスはちょっとラウンドしたかもしれないですけど(笑)。それに丸目で、とても単純なシルエットをしてるから、見方によってはかわいいと感じる人もいるんじゃないですか。だから男女ともに好評なんです。女性でもこれに乗ってる方、結構おられますよね。
清水:セレブの奥さま御用達ですよね。
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王者を脅かすイギリスの刺客
渕野:そんなわけで、Gクラスはフルチェンジしても外装は変わらなかったけど、内装は最新のメルセデスっぽくなりました。唯一無二の外見は変えずに、装備とか乗り心地とかをアップデートしてる。本当に、現行型は盤石なクルマなんじゃないかな、どの方向から考えても。どんな人も満足させられるっていう意味で、本当にすごいクルマです。
ほった:古いお城を完全リフォームしたみたいな。
渕野:そうそう(笑)。ただ世のなかには、ド定番とは距離を置きたいって層もいるわけです。Gクラスはデザイン的にもすごくよくできていますけど、お二人の言うとおり数が増えすぎたと。では、その対抗馬になりそうなのはどれかというと……ランドローバーの「ディフェンダー」ではなかろうかと思います。
清水:カーマニア的な好感度は、そっちのほうが断然高いですよ!
渕野:ディフェンダーはデザインもよくできているし、私もお金がありゃ欲しいと思うぐらいです。街で見かけるのは、大体ボディーがブラックで、大径タイヤでフル装備! みたいな仕様ですけど、私が欲しいのは、小径の白い鉄ホイールを履いた、ベーシックないで立ちのやつですね。
ほった:いかにもクルマ好きな選択ですね。そして私も、大いに同意です。
渕野:ディフェンダーは結構有名人も買ってるみたいですし、Gクラスからちょっと外したいって人にとっては、すごくいい選択肢になっているんじゃないでしょうか。
清水:いまさらロレックスはちょっと、っていう感じで。
渕野:そうです。
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オラオラ超大国アメリカの代表は?
ほった:しかし、うーむ。しかしですよ? ……ディフェンダーって、“最強”なんですかね? 今回のテーマは世界最強SUV決定戦で、世界で一番イキってるやつを選ぼうってお題なわけですよ。いいデザインとかいいSUVを決める大会じゃないんです。ディフェンダーはデザイン的に、実寸よりボディーがちっちゃく見えるじゃないですか。サイズの割に迫力がないというか、お上品なんですよね。デザインのいいSUV決定戦ならコレかもしんないけど……。
……ワタシとしてはですよ、今回のテーマだったら、やはりこいつがチャンプじゃないかと思うんですよ。(おもむろに「キャデラック・エスカレード」の写真を見せる)
清水:そうね! ほった君がアメリカンSUVをエントリーしてくれないと、みんな納得しないよ!(笑)
ほった:前にお話しした「レクサスLX600」とか、こいつとかが話題に上がってこないとおかしいんですよ! 最強SUV決定戦としては!!
渕野:「最強」っていう定義がちょっとわかりづらいんですけど。(全員笑)
清水:でもさ、アメ車ファンとしては、そもそもエスカレードでいいの? 「ダッジ・ラム」とか「フォードF-150」じゃないの?
ほった:いやいやいや。あいつらはSUVじゃなくて、ピックアップトラックじゃないですか!(笑) そりゃ確かに、Fシリーズとか「シルバラード」「タンドラ」を入れるんなら、話は変わってきますよ? でもやつらは規格外! 戦う前から勝利確定だから、あえて控えているんです。大人の気遣いです。
清水:ええ~。世界最強っていったら、やっぱそっちじゃないかって思うけど。
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信号で並んだときに「勝ったな」と思えるクルマ
清水:それにさ、ピックアップとの比較は別にしても、今のエスカレードって、ちょっとお上品じゃない?
ほった:そう! 上品なんですよ。みんな気づいてないんですけど、エスカレートってすごい上品なクルマなんです。実物を見ると。
清水:いやいや、だから今回のテーマ的に上品すぎない? って言ってんの! もっとエグいやつじゃないと。
ほった:何をおっしゃる。あれでも十分迫力大爆発でしょ! 虚弱・軟弱・貧弱なライバルのために、あえて力を抑えてやってるんですよ。なんて優しいやつなんだ……。
渕野:……あの~。今回のお題の最強SUVって、販売でも成功してるというか、お金持ちの皆さんを広く満足させられる、広く支持されているクルマっていうのも、条件かなと思っていたんですけど。
ほった:いや、そういう難しい話じゃなくて、信号とかで隣にクルマが並んだときにこう……。
清水:「勝ったな!」って思えるやつね!(全員笑)
ほった:それはもう、エスカレードに乗ってれば、横にGが来ようがナニが来ようが「勝ったな」ってなりますよ!
清水:それ、Gクラスの側も負けたとは思わないでしょ。でも、ダッジ・ラムとかF-150とか、ああいうのが隣に来たら、Gクラスに乗っている人も「こいつには負けた」って思うかも。
渕野:F-150とか出てきたら、そりゃそうですよね。
ほった:まぁ完全に別世界の乗り物ですからね。やっぱフルサイズのピックアップは含めちゃダメです。子供のけんかにアブドーラ・ザ・ブッチャーが出てくるようなもんです! ケガ人が出る。
清水:ダメなの?(残念そう) じゃあ、それはなしね。
渕野:少なくとも日本市場で正規で販売されるクルマにしましょうよ(笑)。
清水:了解です。日本限定なのに世界最強っていうのが落ち着かないけど……。
ほった:今回はそれで許してください。
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ラグジュアリーSUV界の“顔面凶器”
渕野:それで、国産でこういうクルマの対抗馬になりそうなのが……。
ほった:LXですね、レクサスの。
渕野:そうです。清水さんの好きな(参照)。これ、売れてるんですか?
ほった:そもそも買えないんですよ、海外需要が多すぎて。
清水:もともと中東が7割だっけ?
ほった:ですね。ロシアが戦争でダメになったから、その分をちょっと日本に回せるかもって話も聞きましたけど……あの話はどうなったんですかね?
清水:回してるんじゃないの?
ほった:回してこの状態ですか。すごいな。
渕野:それってブランド力ですかね、このデザインですかね?
ほった:両方じゃないですか。ベース車であるランクル(トヨタ・ランドクルーザー)の威光は、世界的にも半端じゃないですから。それに、もののデキとブランドの両方がないと、この手のクルマは売れないと思います。
渕野:なるほど。……で、実際このデザイン、最強なんですか?(笑)
清水:ん~。顔についてはかなり最強だと思います。アメリカンピックアップを除けば、顔は最強。……ただ全体としては、「ジムニーシエラ」が最強かなぁ。(全員笑)
渕野:ええ~。
ほった:どんどん最強SUVの定義がおかしくなっていく!
清水:シエラは、Gクラスがまだピュアだった頃のデザインにごく近いでしょ。それがあの値段(196万2400円~)で買えるっていうのはスゴい!
ほった:確かに、コスパ最強ではありますね。ジムニーに乗ってたら、横にロールス・ロイスが来たって、まったく、みじんも負けた気にならない。
清水:ならないよね。向こうも負けたとは思わないだろうけど(笑)。
ほった:ちっちゃすぎて気づかれないかも(笑)。
渕野:ジムニーは置いといてレクサスLXに話を戻すと、このクルマも内装がラグジュアリーじゃないですか。Gクラスも内装が充実してるんで、所有の満足感は高いと思います。個人的には普通の“300”(トヨタ版の「ランドクルーザー“300”」)のほうが好きですけど。
清水:デザイン的にもですか?
渕野:デザイン的にです。
清水:確かにLXは顔だけだから……。
ほった:清水さんはそれが大事なんでしょ?
清水:もちろん! 人もクルマも顔が命(笑)!
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=メルセデス・ベンツ、ジャガー・ランドローバー、ゼネラルモーターズ、ステランティス、フォード、トヨタ自動車、スズキ、荒川正幸、向後一宏、花村英典/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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