ボルボV90リチャージプラグインハイブリッドT8 AWDインスクリプション(4WD/8AT)
主役交代がみえてきた 2022.05.30 試乗記 モーターの出力向上やバッテリーの大幅な強化を果たしたボルボのステーションワゴン「V90リチャージプラグインハイブリッドT8 AWD」に試乗。電動車としての魅力や、同型のパワートレインを搭載したSUVとは異なる走りの印象をリポートする。電動車市場で存在感をアップ
日本のプレミアムセグメントで、ボルボの電動車が好調なセールスをみせている。ボルボ・カー・ジャパンの調べによると、2022年3月のEV(電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)の販売台数は、トップがBMWの312台で、これにボルボが1台差の311台で2位につけている。3位は158台のメルセデス・ベンツ、4位が95台のレクサス。2022年の年初から約4カ月の販売台数でも、レクサス、BMWに次ぐ3位になるなど、EV/PHEV市場でその存在感を強めているのがわかる。
ボルボは2025年には販売車両の半数(日本は40%)をEVにし、2030年までにはEV専売の自動車メーカーになることを掲げている。これに向けて、すでに2020年には内燃機関搭載モデル全車に48Vマイルドハイブリッドを搭載していて、いまやすべてのシリーズにPHEVを設定。EVについても、「C40リチャージ」に続き、「XC40リチャージ」を新たに追加するなど、着々と準備を進めているのだ。
そんな動きのなか、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)プラットフォームを採用する「60シリーズ」と「90シリーズ」では、PHEVの電気モーターと駆動用バッテリーの性能を大幅に向上させることで、電動車としての魅力を高めている。パワートレインの主役がエンジンからモーターに変わるというのだ。
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EV走行距離が41kmから81kmに倍増
仕様変更のハイライトのひとつが、バッテリーの増量によるEV走行距離の拡大だ。今回取り上げるV90リチャージでは、バッテリーの容量が正味9.1kWh/総容量11.6kWhから同14.9kWh/同18.8kWhと約6割アップし、EV走行換算距離が41kmから81kmへとほぼ倍増している。また、後輪を駆動する電気モーターも最高出力が87PS(65kW)から145PS(107kW)へ、最大トルクが240N・mから309N・mへと性能アップが図られている。
一方、前輪を駆動する2リッターエンジンは、最高出力こそ317PS(233kW)と変更がないが、これまではターボとスーパーチャージャーを併用していたのに対し、最新版ではターボのみの過給に変更された。スーパーチャージャーの廃止により低回転域で性能ダウンが心配されるが、エンジンに組み合わされるCISG、すなわちスターター兼発電用モーターの性能を最高出力46PS/最大トルク160N・mから同71PS/同165N・mに向上することで、加速時のモーターアシストを強化し、スーパーチャージャーの廃止を補うという。
プラグインハイブリッドシステムの性能向上とともに、新しいV90リチャージにいわゆる“ワンペダル機能”が搭載されるのも見どころのひとつだ。EVやPHEVではモーターの回生ブレーキを利用して減速とエネルギー回収を行うことが多いが、ワンペダル機能を搭載することでアクセルペダルだけで加減速はもちろんのこと、車両停止も可能になる。ワンペダル機能を搭載するPHEVは珍しいが、使い慣れると便利であるし、設定により機能をオン/オフできるので、個人的にはあってうれしい機能である。
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モーターだけでもグングン走る
V90リチャージの場合、「ハイブリッド」「パワー」「ピュア」「コンスタント4WD」の4つの走行モードが用意されている。このうちの基本がハイブリッドで、バッテリーに十分電気がある場合には優先してモーターで走行し、必要に応じてエンジンを起動させるというものだ。パワーはエンジンを常時使うことで強力な加速を実現する。ピュアモードは基本的にはリアモーターだけで走行するモード。コンスタントAWDは常時4WD走行を行うことで、滑りやすい路面での走破性を高めている。
さっそく基本のハイブリッドモードで走りだすが、バッテリー残量に余裕があったため、発進後もモーターが主導権を握る。発進加速は十分に速く、その後もモーターだけでグングン加速していく。一般道はもちろんのこと、高速道路でも、アクセルペダルをよほど大きく踏み込まないかぎり、エンジンの出番はない。今回は、バッテリー残量に余裕がある状態で箱根のワインディングロードを登る場面があったが、モーターだけで必要な加速が得られ、すいすいと坂を登っていくのがとても頼もしかった。
一方、勢いよく加速したい場面や、バッテリー残量が少なくなってくると、フロントに搭載されているエンジンが自動的に始動する。その際、メーター右側に表示されるバッテリーのアイコンが“滴(しずく)”に変わり、燃料を消費しているのがわかるが、とくに大きく加速するのでなければエンジンは静かさを保ち、その存在を隠しているようである。
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俊足のスポーツワゴン
EV走行を行うピュアモードは、ハイブリッドモードでエンジンが始動していない状況と同じように振る舞い、その加速には十分余裕がある。ハイブリッドモードでも爽快なEV走行が堪能できるので、乗り慣れるとあえてピュアモードを選ぶ機会は少ないかもしれない。
パワーモードに切り替え、アクセルペダルを大きく踏み込めば、シフトダウンし回転を高めたエンジンが勇ましいサウンドを伴いながら、フロントをぐいぐいと引っ張っていく。リアモーターとの協調制御で実現する4WDのおかげで、加速時の安定感も高く、安心してアクセルペダルを踏み込めるのがうれしいところだ。
ところで、この日の試乗は、SUVの「XC60リチャージ」とあわせて行ったのだが、ステーションワゴンのV90リチャージは、全高や最低地上高がより低いだけに、XC60リチャージ以上に挙動が落ち着いており、スポーティーな運転が楽しめるモデルに仕上がっていた。
荒れた路面では245/40R20サイズの「ピレリPゼロ」タイヤが路面からのショックを伝えがちなのが気になるものの、XC60リチャージより軽いボディーとよりパワフルなエンジンを手に入れたV90リチャージは、まさに俊足。PHEVでありながらリアシートや荷室も十分なスペースを確保しており、余裕あるサイズのステーションワゴンをスポーティーに走らせたい人にとっては、期待に応えてくれる一台といえるだろう。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ボルボV90リチャージプラグインハイブリッドT8 AWDインスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4945×1890×1475mm
ホイールベース:2940mm
車重:2130kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:317PS(233kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3000-5400rpm
フロントモーター最高出力:71PS(52kW)/3000-4500rpm
フロントモーター最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/0-3000rpm
リアモーター最高出力:145PS(107kW)/3280-1万5900rpm
リアモーター最大トルク:309N・m(31.5kgf・m)/0-3280rpm
タイヤ:(前)245/40R20 99W/(後)245/40R20 99W(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:14.5km/リッター(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:75km(WLTCモード)
EV走行換算距離:81km(WLTCモード)
交流電力量消費率:240Wh/km(WLTCモード)
価格:1054万円/テスト車=1108万1650円
オプション装備:ボディーカラー<バーチライトメタリック>(9万2000円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンドオーディオシステム<1400W、19スピーカー、サブウーハー付き>(36万円) ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<フロント&リアセット/スタンダード/工賃含む>(8万9650円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1289km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。