ボルボV90 D4インスクリプション(FF/8AT)
極上のグランドツアラー 2019.08.27 試乗記 クリーンディーゼルを搭載するボルボの大型ワゴン「V90」で、600kmオーバーのロングドライブへ。そのステアリングを握った筆者の目には、家族や友人と過ごす豊かなライフスタイルのイメージが鮮やかに浮かんできた。いまでは得がたい品のよさ
久しぶりにボルボV90と対面してちょっとうれしかった。このクルマに乗っている人は“いい人”に見えると思ったからだ。全長5mに届かんとする大型車でありながら、「ボルボXC90」と並ぶ同社のフラッグシップでありながら、そのたたずまいは穏やかで、やわらかい。
最近の大型車・高価格車は、「デカい=エバってる」、「高級=威圧的」という傾向が強まっているように思える。けれども、仮に高速道路を走行中にルームミラーにボルボV90の姿が映ったとしても、「おー、なんかステキなクルマが来たな」と思って、素直な気持ちで車線を譲ることができそうだ。デカくて高級なのに、感じが悪くない。それがボルボV90の大きな魅力であり、ライバルとは違った個性だ。
上質だけどギラギラしていないという世界観は、エクステリアのデザインだけでなくインテリアにも通底している。世の中には外観と内装を別の会社がデザインしたのではないかと思えるようなクルマもあるけれど、ボルボV90は外と内がシームレスにつながっている。
光りモノや派手な色使いを避けたインテリアは、北欧家具のショールームのようで、知的で上品な雰囲気だ。「どないだー!」とこれ見よがしにアピールするのではなく、造形と素材のよさで「よろしければいかがでしょう」と控えめに提案している。アグレッシブでテンションが上がるインテリアはほかにもあるけれど、このクルマのように心を穏やかにしてくれるインテリアはありそうでない。
といった具合に雰囲気のいいインテリアだけれど、実のところ、インターフェイスはそれほどよくない。よくないというのはちょっと言い過ぎで、慣れるのに時間がかかる。初見でも直感で扱えるというわけではなく、例えばカーナビの目的地を設定するのにまごまごしてしまう。
ところが、比較的長期間お借りして、600kmオーバーの長距離出張のお供として活躍してもらうと、慣れれば扱いやすいインターフェイスだということがわかった。
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湖面を行く白鳥のごとし
それにしてもこの荷室の広さはどうだろう。広大という表現を使いたくなるほどで、小型のスーツケースひとつを積んだ眺めは寂しく感じた。後席も同様に余裕があり、運転席のポジションを身長180cmの筆者に合わせてから後席に座っても、足が組める。
この広さは魅力的だ、と考えながらエンジンを始動。今回試乗したのは、2リッターのディーゼルターボエンジンを積むモデル。ボルボV90はほかに、チューンが異なる2種の2リッターガソリンターボと、そこにモーターを加えたプラグインハイブリッド仕様をラインナップする。チューンが高いガソリン仕様とプラグインハイブリッド仕様が四駆で、今回の試乗車を含めたその他のモデルがFFとなる。
エンジンを始動しても、アイドリング状態は静かで振動を感じることもない。運転席の窓を下ろすとわずかにディーゼルっぽいガサついた音を感じるけれど、以後、数日にわたってかつてのディーゼルにあったノイズやバイブレーションといった悪癖は、みじんも感じることはなかった。
アクセルペダルを踏み込むと、ボルボV90は静止状態から優雅に発進する。優雅に感じるのは極低回転域からトルクに余裕があるからで、スペックを見れば1750rpmで440N・mというブ厚いトルクを発生していることがわかる。そしてそれほど強くアクセルペダルを踏まずとも、滑らかに速度を積み上げていく。この滑らかさは、エンジン自体のスムーズさとともに、出来のよいトランスミッションが寄与しているからだと感じる。回転をそれほど上げなくてもしっかりと加速するから、車内は実に静かだ。
大きな白いボディーが、滑らかに、静かに加速していくあたり、静かな湖面を悠々と行く白鳥のようだと感じる。湖面を行く白鳥をイメージしたのは、乗り心地が快適であったという理由もある。
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走行シーンで表情が変わる
乗り心地がいいといっても、“ふんわり軽やか”系ではなく、車体の重みをしっかりと感じさせる、“しっとり重厚”系のもの。ガソリンエンジン車「V90 T5」の装備がほぼ同じグレードと比べると、ディーゼルエンジンのV90 D4は約30kgの重量増。多少はその影響で、セッティングも変えられているはずだ。
一般道から高速道路に入ると、“しっとり重厚”に“しっかり”が加わる。まず、タウンスピードでは軽快な切れ味を感じさせたステアリングフィールが、車速が上がるに従って手応えを増す。2940mmという長いホイールベースは矢のように走る直進安定性をもたらす。
そして路面の凸凹を乗り越える時のショックは、コツンとボディーの一部で受けるのではなく、サスペンションを含めた車体全体で受け止めているように感じる。ボディーが強靱(きょうじん)であることと、そこに組み合わされるサスペンションのセッティングが適正であることの証左だろう。ショックが分散しているから、多少荒れた路面が続いたとしても、乗員は平和な気持ちを保つことができる。
おもしろいのは追い越しの場面や、後に経験したワインディングロードで、2リッターのディーゼルターボがちょっと乾いたいい音を発しながら、スポーティーなフィーリングで回ることだ。街中で見せた、穏やかさとは別の表情だ。
このディーゼルターボエンジンは、レスポンスのいい小型ターボチャージャーと、高出力を発生する大型ターボチャージャーを組み合わせたツインターボのシステム(ボルボは2ステージターボチャージャーと呼ぶ)。したがって、例えば市街地では小ターボが活躍し、高速域では大ターボが登場する、という役割分担があり、それがしっかりと機能しているのだ。
大きいことが苦にならなければ……
速度域を問わず快適な乗り心地と、扱い方によって性格を変えるエンジンによって、長距離ドライブは安楽なだけでなく楽しい。ゆったりと距離を重ねていると、「金持ちケンカせず」という言葉が浮かんだ。
ボルボの最新モデルだけあって、先行車両についていったり、車線からのハミ出しを注意したりといった運転支援装置は万全。だから家族や友人と遠くへ出掛けて、途中で運転の楽しさをシェアしようなんていう場面でも、安心してハンドルを委ねることができる。
運転支援装置についてひと言加えると、ボルボはインターフェイスに優れていて、ほぼひとつのアクションで追従の体勢に入ることができる。このあたり、ただACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)が使えるだけでなく簡単に使えるというところに、黎明(れいめい)期からこのシステムに取り組んできたボルボのアドバンテージが表れている。
残念ながら今回は一人旅だったけれど、仲間を乗せてテントを積んでフジロックに行くとか、大人4人でワイナリーにワインを箱買いしに行くとか、このクルマの先には豊かなライフスタイルが待っているような気がする。
ただし、下町のわが家に帰ると、厳しい現実も待っていた。デカいボディーは日本の狭い道では持て余すこともあるのだ。コインパーキングも、場所によっては高そうなホイールを擦らないように気を使う。
玉川高島屋のらくらくパーキング(ほかの駐車スペースに比べて少し余裕がある)しか使わないというなら話は別だけれど、優雅な高速クルーズや快適な長距離移動と引き換えに、都内をちょこまか走り回って用事をこなすという用途には向いていない。
やはり野に置け蓮華草。ボルボV90はゴミゴミした場所であくせくと走らせるのではなく、のびのびとした環境や使い方で真価を発揮する。そしてそういう用途で乗られる方には、自信を持ってお薦めできる。
(文=サトータケシ/写真=三浦孝明/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ボルボV90 D4インスクリプション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4935×1890×1475mm
ホイールベース:2940mm
車重:1790kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:200PS(147kW)/4000rpm
最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1750-2250rpm
タイヤ:(前)245/45R18 100W/(後)245/45R18 100W(ミシュラン・プライマシー3)
燃費:16.2km/リッター(JC08モード)
価格:794万円/テスト車=833万4000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマガラスサンルーフ(20万6000円) ※以下、販売店オプション ポールスターパフォーマンスソフトウエア(18万8000円)
テスト車の年式:2018年型
テスト開始時の走行距離:1万4883km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:666.8km
使用燃料:41.3リッター(軽油)
参考燃費: 16.1km/リッター (満タン法)/15.3km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。