「トヨタbZ4X」でまさかの電欠!? 長距離試乗で実感した最新国産EVの実力と現在点
2022.06.10 デイリーコラム華々しい試乗会の陰で……
読者諸兄姉の皆さまは、2022年6月8日に公開された「トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ」の試乗記を、もうお読みになっただろうか? トヨタとスバルが共同開発した待望の新型EV(電気自動車)。そのデビューを祝う華々しい試乗会であったが、佐野氏もリポートで触れていたとおり、その裏では身も凍るような恐ろしい事件が起きていたのだ。今回は、吉事の陰でwebCG取材班を見舞った、晩春の惨劇についてお話したい。
webCGが参加したbZ4X/ソルテラの試乗会は、石川・金沢-長野・軽井沢間の、およそ316kmの行程で行われた。金沢から松本までの186kmを前半、松本から軽井沢までの130kmを後半とし、前/後半で車両をチェンジ。前半区間では各メディアが責任をもって充電を行い、中継地では200km以上走れる状態で車両を引き渡す約束となっていた。理由はもちろん、後半枠でそのクルマに乗る人が“電欠”しないようにするためだ。
とまあ、ちょいとややこしいイベントが付帯していた今回の試乗会だが、webCG取材班はつつがなく前半の行程を消化した。配布された「旅のしおり」をもとに、平湯バスターミナルの急速充電器で20kWhほどバッテリーをチャージ(ついでに人間の胃袋もチャージ)。奈川渡ダムで撮影を済ませ、時間もデンキもゆとりをもって松本に到着したのだ。中継地点のホテルでは、エンジニア氏と意見交換しつつ優雅にコーヒータイム。この時はまだ、自分たちが災厄に見舞われるとは思ってもみなかった。
取材班が松本を後にしたのは、15時30分のことである。予定より30分遅れの進行に「なにかあったのかしら?」と首をかしげつつ、後半であてがわれた深紅のbZ4Xに乗り込む。試乗車の状態をメモるべくデジタルメーターをのぞき込み、筆者は再び首をかしげた。走行可能距離が、約束の200kmを割り込んでいたのだ。
悪夢の高速、悪夢の峠道
確かに、乗り換え時の試乗車の残走行距離については「200km以上。ただしエアコンoffの状態でOK」と注釈があり、このbZ4Xも空調を切ったら表示は200km以上となった。それに、松本から軽井沢までのルートはたったの130kmだ。試乗会の運営スタッフも、まさかゴールにたどり着けない状態のクルマを取材陣に引き渡すはずがないだろう……。まぁ、大丈夫でしょ。多分。
後から思うに、この考えは全くもって甘かったとしか言いようがない。バラエティーに富んだ道を通った前半とは異なり、後半のルートはそのほとんどが高速道路。しかも、先述のとおりスケジュールは押せ押せで、取材班はまあまあのスピードで軽井沢に向かう必要があったのだ。読者諸兄姉ならご存じのとおり、EVはエンジン車とは違い、速度が上がると正直なまでに電費が悪化する。
加えて、後半のルートはスタートとゴールの位置関係も厄介だった。松本市の標高は592m。軽井沢のそれは、終着点である軽井沢プリンスホテルの周辺で940mである。要するに、その行程は高低差350mの“上り”だったのだ。
松本を出ておよそ1時間。雨下の小諸市を過ぎようとしていたころ、ついにbZ4Xが充電するよう警告を発した。ナビに表示された周辺の充電施設を確認するが、軽井沢までの間に立ち寄れそうな場所はなし。このまま碓氷軽井沢ICまで行くしかない。杯水車薪(はいすいしゃしん)は承知のうえでエアコンをオフにすると、フロントウィンドウにたちまち霜が湧いた。取材用の雑巾で窓を拭きながら、ヒリつく思いで上信越道をひた走る。
迫り来る電欠の恐怖におびえながら、どうにか碓氷軽井沢ICに到着。ようやく悪夢の高速区間が終わったかと息をついたのもつかの間、取材班の前に次なる難関が立ちはだかった。標高984mの、和美峠の山越えだ。交差点から伸びる下仁田軽井沢線の上り坂が、筆者にはマジで壁に見えた。
気づけば走行可能距離は21km。bZ4Xは息も絶え絶えである。
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残り走行距離はたったの2km!
時間は17時過ぎ。車窓の景色が少しずつ暗くなるなかで、ついにbZ4Xは最後の警告を発した。走れる距離はいよいよひとケタとなり、筆者は生まれて初めて、EVがパワーセーブモード……通称“亀モード”に入るのを体験した。容赦なく減っていくメーター上の数字。30秒ごとに、「あと何km?」と充電設備までの距離を聞く佐野氏……。bZ4Xが弱々しい足取りで峠を登り切ったとき、筆者が覚えた安堵(あんど)と虚脱感は、どんな言葉でも言い表すことはできまい。
それから小30分後、webCG取材班は、しなの鉄道沿いの充電施設「軽井沢U-Station」で雨宿りをしていた。メーターパネルに表示される走行可能距離は、2km。ゴールへは「50km以上走れる状態」でクルマを届けなければならず、充電が必要だったのだ。
しかし、この期に及んでも不運は続くもので、1つしかない急速充電器には無慈悲にも先客が。筆者らは四半刻ほど雨に打たれた後で、ようやくデンキにありつき、都合1時間を浪費してから最後のゴールへとへさきを向けた。充電後のbZ4Xの走行可能距離は68km。半分死んだ脳みそで、「“急速”っていっても、意外と入らないもんだな」なんて思ったのを記憶している。
最終的に取材班が軽井沢プリンスホテルへ到着したのは、日暮れも間近の18時30分のことだった。筆者の編集者人生で最大の、実に1時間もの大遅刻だ。しかし事情が事情だったためか、誰も怒ったり、イヤミを言ってきたりする人はいなかった。
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ご利用は計画的に!
以上が、bZ4X/ソルテラ試乗会の裏で、webCG取材班を見舞った事件のてん末である。実測で100kmくらいしか走らなかった「三菱i-MiEV」から幾星霜。この十余年で劇的な進化を遂げたEVだが、その使用感はやっぱり、エンジン車のように「いつなんどきでも憂いなく乗れる!」と言えるものではなかった。
ただ、だからといって「やっぱEVはダメだ!」というつもりも、ノンポリな筆者にはない。定期的にガソリンスタンドに行かなきゃいけない理不尽をもって、エンジン車をこき下ろす人っていないでしょ? どんな動力機関にだって長所短所があるわけで、ひっきょうアナタがそれを気にするか、それによってホントに不自由を被るかどうかだ。
それに今回の悲劇は、充電不足・長距離移動・高速走行という、EVにとっての3大イジワル要素がジェットストリームアタックを仕掛けてきたがゆえのことである。多少なりとも計画性のある人なら、まぁこんなヒドイ目に遭うことはないでしょう。webCG編集長のこんどーが、「BMW i3」をブイブイ乗り回しているように、今日的な性能のEVであれば、“買ってみたらフツーに使えた”ってなる人は案外多いんじゃないかと思う。逆に、筆者のように無計画な人、頻繁に遠出する人、自身は計画的だけど無理なドライブを家人に求められるパパ&ママなどは、まだEVに乗るのはちょっと早いかも……というのが、筆者の偽らざる実感です。
今回取材したbZ4X/ソルテラに、「日産アリア」、そして「日産サクラ/三菱eKクロスEV」と、この2022年には新型の国産EVがどーんとデビューする。今までよりずっと多くの人が「ボクに/ワタシに、EVってどうかしら?」と考えることでしょう。ウェブの海にこの失敗談を放流することで、「はやりに乗ってEV買ったけど、やっぱダメだったわ」という人がちょっと減って、「EVにしてよかったわ」という人がちょっと増えれば、ワタシも怖い思いをしたかいがあったというもんである。
(文=webCGほった<webCG“Happy”Hotta>/写真=トヨタ自動車、スバル、webCG/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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