第762回:【Movie】メンズモード見本市で“センターをとってしまった”あのクルマ
2022.06.23 マッキナ あらモーダ!取り持ったのは「海の縁」
ヨーロッパ最大級の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」が2022年6月14日から17日にイタリア・フィレンツェで開催された。102回を迎えた今回は、2023年の春夏商品が約700ブランドによって展開され、バイヤーをはじめとする来場者は約1万6000人を記録した。
イタリアの高級アパレル業界には、大切な市場であったロシアの先行き不透明感や、原材料価格の高騰といった不安定要素が影を落とす。また、期間中は連日30度を超える猛暑。筆者が訪れた日も36度の最高気温を記録した。中庭に集うピッティ名物ともいえるファッションインフルエンサーたちは、バッチリと装いをきめていることもあり、日陰を選んではまるで日時計のごとくこまめに移動していた。
しかし、イタリアの新型コロナウイルス関連規制がほぼ撤廃されて初の回ということで、関係者たちのテンションは決して低くなかった。閉場時間後も、市街のバールやトラットリアの屋外テーブルに場所を変えて、多くのファッショニスタたちが食前酒を楽しんでいた。
ところで、今回の会場にはマセラティの姿があった。なぜ自動車ブランドが? というと、米国のアパレルブランド、ノースセールとのコラボレーションのためだ。
対応してくれたノースセールのマーケティングディレクター、マウリツィオ氏によると、企画の端緒は両社が以前から南仏サントロペのヨットクラブのパートナー企業を務めていたことだという。そして「ノースセールの商品はセーリングウエア、マセラティのシンボルは海神ネプチューンの鉾(ほこ)。両ブランドともオーシャン(大洋)と深い関係があるのです」と解説する。加えてマウリツィオ氏は、「一部の高級車系ブランドのアパレルとは異なり、私たちはオフィシャルマーチャンダイジング商品ではありません。長期にわたるパートナーシップを維持してゆきます」と語った。
ブースの玄関に置かれた「マセラティMC20チェロ」の注目度がすさまじい。ピッティの会場にクルマが展示されるのは、決して初めてのことではない。旅にロマンをはせたある出展者が往年のイタリア製小型車「アウトビアンキ・ビアンキーナ」を何台も並べたり、ランボルギーニがオフィシャルマーチャンダイジング商品のプロモーションとして車両展示を行ったりしたことがあった。しかし、今回のMC20チェロは車両に近づけることもあり、かつてないほどの注目を浴びていた。
筆者が考えるに、その理由の第1は「新しいこと」。ピッティを訪れる人は、クルマよりもファッションに関心を抱き、服にお金をかける人が少なくない。だが、新型コロナ規制の影響で、彼らが新しいモノに飢えていたことは確かだ。
第2の鍵は、MC20チェロがコンパクトであることだろう。全長4669mm、全高1224mmというサイズは、限りなく体にフィットするイタリアの服と共通するセンスがあると読んだ。
今回の動画では、そのMC20チェロの人気の光景とともに、出展したクルマに関連するアパレルブランドと、関わる人の思いをお伝えする。
【MC20チェロも登場したピッティ・イマージネ・ウオモ】
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/動画=Akio Lorenzo OYA/編集=藤沢 勝)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第925回:やめよう! 「免許持ってないのかよ」ハラスメント 2025.8.28 イタリアでも進んでいるという、若者のクルマ&運転免許離れ。免許を持っていない彼らに対し、私たちはどう接するべきなのか? かの地に住むコラムニストの大矢アキオ氏が、「免許持ってないのかよ」とあざ笑う大人の悪習に物申す。
-
第924回:農園の初代「パンダ」に感じた、フィアットの進むべき道 2025.8.21 イタリア在住の大矢アキオが、シエナのワイナリーで元気に働く初代「フィアット・パンダ4×4」を発見。シンプルな構造とメンテナンスのしやすさから、今もかくしゃくと動き続けるその姿に、“自動車のあるべき姿”を思った。
-
第923回:エルコレ・スパーダ逝去 伝説のデザイナーの足跡を回顧する 2025.8.14 ザガートやI.DE.Aなどを渡り歩き、あまたの名車を輩出したデザイナーのエルコレ・スパーダ氏が逝去した。氏の作品を振り返るとともに、天才がセンスのおもむくままに筆を走らせられ、イタリアの量産車デザインが最後の輝きを放っていた時代に思いをはせた。
-
第922回:増殖したブランド・消えたブランド 2025年「太陽の道」の風景 2025.8.7 勢いの衰えぬ“パンディーナ”に、頭打ちの電気自動車。鮮明となりつつある、中国勢の勝ち組と負け組……。イタリア在住の大矢アキオが、アウトストラーダを往来するクルマを観察。そこから見えてきた、かの地の自動車事情をリポートする。
-
第921回:パワーユニット変更に翻弄されたクルマたち ――新型「フィアット500ハイブリッド」登場を機に 2025.7.31 電気自動車にエンジンを搭載!? 戦略の転換が生んだ新型「フィアット500ハイブリッド」は成功を得られるのか? イタリア在住の大矢アキオが、時代の都合で心臓部を置き換えた歴代車種の例を振り返り、“エンジン+MT”という逆張りな一台の未来を考察した。
-
NEW
BMWの今後を占う重要プロダクト 「ノイエクラッセX」改め新型「iX3」がデビュー
2025.9.5エディターから一言かねてクルマ好きを騒がせてきたBMWの「ノイエクラッセX」がついにベールを脱いだ。新型「iX3」は、デザインはもちろん、駆動系やインフォテインメントシステムなどがすべて刷新された新時代の電気自動車だ。その中身を解説する。 -
NEW
谷口信輝の新車試乗――BMW X3 M50 xDrive編
2025.9.5webCG Movies世界的な人気車種となっている、BMWのSUV「X3」。その最新型を、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? ワインディングロードを走らせた印象を語ってもらった。 -
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。