ホンダ・スーパーカブ110(4MT)
思わず旅に出たくなる 2022.07.28 試乗記 仕事に、レジャーにと活躍する「ホンダ・スーパーカブ110」がマイナーチェンジ。新エンジンとキャストホイールでモダンなマシンに生まれ変わった。安全性と環境性能を高めた改良モデルに試乗し、スーパーカブならではの魅力をあらためて実感した。次の時代も走り続けるために
世の中がなかなか落ち着かない今日このごろ、ゆっくり旅でもしたいと思っている方、けっこういるんじゃないでしょうか。「でも、こんなにガソリンが高くっちゃあ……」
そこでニッポンの至宝たるスーパーカブですよ! 今回お借りしたのは、新しいロングストローク型エンジンを搭載したホンダ・スーパーカブ110。お値段30万2500円。
気になる燃費は、67.9km/リッター(WMTCモード値)。新旧カブオーナーの人なら、「まぁ、そんなもんでしょう」と驚かないかもしれないが、普段四輪に乗っているドライバーからしたら冗談のような数値。カブ110のタンク容量は4.1リッターだから、1回給油すれば278kmほど走れる計算になる。机上では、東京から新潟まで行けちゃいますよ! 全行程、下道になりますが。
2022年4月14日に発売された新しいスーパーカブ110は、新しい排ガス規制(平成32年/令和2年)をパスした単気筒エンジンを採用。ボア×ストロークは従来の50×55.6mmから47×63.1mmと、さらにストロークが伸ばされた。8PS/7500rpmの最高出力は変わらないが、最大トルクは0.3N・m太い8.8N・m/5500rpmを発生する。
言うまでもないが、組み合わされるトランスミッションは、自動遠心クラッチを使ったセミオートマチックというべき4段ギア。ギアを変える際に、シューズの甲を痛めることなく、かかとでも操作できるシーソー式のシフトペダルを持つ。通常のマニュアルバイクとは逆で、前に踏むとシフトアップ。停車時には「4→N(→1)」とギアを変えられるロータリー式なので、街なかを行く日常使いでは(ほぼ)一方向の操作だけでこと足りる。ギアが入ったまま停車しても、自動遠心クラッチが働くのでエンストはしない。クラッチ操作が不要なので、スーパーカブ系のモデルにはオートマ免許(AT限定小型二輪免許)でも乗れます。念のため。
カブ流のファン・トゥ・ライド
新型では、ホイールがスポークからキャストタイプになったのもニュースだ。前:70/100-14、後:80/100-14のタイヤサイズは変わらないが、使用するバイアスタイヤがチューブレスとなった。ブレーキもフロントがディスク式になり、足まわりは見た目も大幅に近代化。法規に合わせて、フロントブレーキはABS付きだ。
あらためてスーパーカブ110に接すると、思っていた以上にコンパクトで軽い。高さ738mmという低いシートにまたがってキーをひねれば、プルプルとエンジンが軽やかに目を覚ます。メーターパネルには、アナログの速度計に加え液晶画面が設けられ、時間、燃料残量といった情報のほか、シフトポジションが表示されるようになった。
老若男女、乗り手を選ばないカブ110は、控えめながら十分な動力性能を発揮して軽快に走る。特筆すべきは街乗りに特化したハンドリングで、すきあらば路地に入りたがるような回頭性のよさが印象的。最小回転半径が1.9mとごく小さいので、狭い道でのUターンも厭(いと)わない。
試しにシングルカムをブン回して走ってみると、ローで約40km/h、セカンドですでに60km/hを突破する。主要国道の速い流れに乗って走っていると、荒れた路面では車体が前後に揺動するピッチングが収まらず、「ダンピングが足りない」と評論家を気取りたくなる場面もあったけれど、それはカブの使い方を間違えている。
一方で、例えばカーブ手前でシフトダウンする際に、(カブに備わらない)クラッチレバーではなく、シフトペダルの操作タイミングでエンジンの回転数を合わせて駆け抜けたりするのは存外に楽しい。昔かたぎの人からは「仕事の道具で遊ぶな」と怒られそうだが、仕事のアシとしては一般的なスクーターや電動バイクにその座を奪われつつあるいま、上級版スーパーカブたる「C125」ではなく、あえて110を趣味のバイクとして遊び倒すのもアリなんじゃないでしょうか。
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遠出するならこまめな休憩を
メーカーもそのあたりはとっくに意識していて、ボディーカラーは試乗車の青メタ以外に、白や黄色、ベージュといったオシャレ系も用意される。が、ここは昔ながらの濃緑を選んで、面倒くさそうに毎回キックでエンジンをかけたりすると“らしくて”いいかも。「ヤマハSR400」では儀式に昇華したキックスタートだが、排気量の小さなカブ110では簡単にかかります。
カブのシートは、クッション厚めで座り心地がよさそうだが、いや、実際にソフトなあたりで座り心地はいいのだが、上半身が直立するライディングポジションゆえ、ライダーのオシリへの負担はじんわり積み重なる。下道ツーリングにあたっては、こまめに小休止を取ったり、頻繁にプチ観光したりするといいと思う。立派な荷台を活用して泊まりの荷物を満載して、うーん、旅に出たいなァ……。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1860×705×1040mm
ホイールベース:1205mm
シート高:738mm
重量:101kg
エンジン:109cc 空冷4ストローク単気筒SOHC 2バルブ
最高出力:8.0PS(5.9kW)/7500rpm
最大トルク:8.8N・m(0.9kgf・m)/5500rpm
トランスミッション:4段MT
燃費:67.9km/リッター(WMTCモード)
価格:30万2500円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。