なぜ“原付チャリ”の排気量リミットは50ccから125ccになったのか?
2025.10.30 デイリーコラム事態は“絶望的なムチャ振り”から
地味~なイントロだけれど、必要なので最初に掲示しよう。日本自動車工業会(自工会)が発表した“数字”だ。日本の二輪車(バイク)の保有台数は2023年4月の時点で1030万台。でもって、そのうち最も小さなモビリティーという位置づけの「原付一種」に分類されるのは433万台である。全体の4割超だ。
原付一種は免許を取るのも車両の扱いもそれほど難しくはなくて、ガソリン代や保険料などの維持費はリーズナブル。回復の兆しが見えない右肩下がりの減少傾向とはいえ、これらの原付バイクがまだまだ日本人の“生活のアシ”であることを教えてくれる数字だ。
そんな原付一種の足元を揺さぶる“お達し”がお上から届いたのは、2019年2月のこと。国交省が公布した「国内第4次排ガス規制」には、その適用を2025年11月から始めることが明記されていた。問題はその中身。定められたレギュレーションが「優しさゼロだな!」「このドSめ!」と各メーカーが悲鳴を上げるほど対策が難しい内容だった。現行モデルに搭載される50ccエンジンではクリアなんてゼッタイに無理! という、ぜんぜんサステイナブルじゃない目標値(規制値)が掲げられていたのである。
そしてもうひとつ、解決しなければいけない問題があった。50ccという排気量そのものだ。日本ではこれまでメジャーだった50ccという排気量が、あれれ、世界的にはいつのまにかマイナーな存在になってしまっていた。
「え、そうなの?」と日本のユーザーの多くは思うかもしれない。たしかに20世紀の50ccのバイクは世界中を元気に走り回っていた。でも、あのころと今とでは事情はかなり変わった。2025年現在、“ゼロハン”はすでに、ワールドワイドでは過去のものになっている。
例えばホンダインディア(インド)やアストラホンダ(インドネシア)、ホンダUK(イギリス)の現行二輪車ラインナップ(公道モデル)に50ccは1台も存在しない。すべて100cc以上。そんな排気量に新しい技術を投じてもコスト割れ必至だ。
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立派になって価格もアップ
以上の要件が重なってしまうと、日本のメーカーが現役50ccエンジンにチューニングや規制対策を施し、どんなにがんばって延命させても……労多くして功少なしであることは自明の理だろう。「こりゃ合わないわ~」と言ったか言わなかったか(たぶん言った)、次善の策として原付二種ベースの“新基準原付”という新たなコンセプトを全国オートバイ協同組合連合会と自工会がメイクしたわけだ。新基準原付は総排気量50cc超~125cc以下で、最高出力は4.0kW以下に抑える。もちろん原付免許で運転可となる。
そんな“妥協案”を国交相と有識者に要望し、公に認められるという手のかかる段取りを経て、2025年10月16日に新基準に適合させた原付バイク4台が発表された。時間のないなか、一発目の花火打ち上げにこぎ着けたホンダのスタッフにまずは「おつかれさまでした」と伝えたい。そのスピード感はさすがのひとことだ。
シンプルにまとめよう。新基準原付。変わったのは「50ccという排気量がなくなって、従来の50ccと同等の110ccや125ccが生まれた」ということである。ナンジャラホイ? つまり走るために準ずるべき交通ルールに関しては何も変わっていないということ。 “排気量だけ”がアップした。パワーアップやトルクアップが実現したので、乗り物としての走行パフォーマンスは明らかに向上している。これがメリット。おまけにブレーキも車格もリッパなこと、この上なし。
デメリットは車両価格の上昇で、ホンダ50ccスクーターのラインナップのなかで最もリーズナブルだった「タクト」が17万9300円であったのに対し、例えば(直接の比較は難しいけれど)新基準の「ディオ110 Lite」は23万9800円。同じ“原付一種のスクーター”ながら、ざっと6万円アップしている。20万円をヒョイと超えてくると、さすがに「ゲンツキもけっこう高くなったなー」としょんぼりするユーザーは多いだろう。
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よりハッピーになれる要素はある
極めてドメスティックな成り立ちの新原付は今後、原付二種の開発のわきでオマケ的にプラスされる、という道筋を辿ることになりそうだ。そりゃそうだ。苦肉の策だもんな。それもまた時代のうつろい。乗車定員やメーターの表示速度を減らすなどして、原付一種としての体面を保っていくのである。
さて、新しい基準による新しい“原チャリ”のカタチ。それらの乗り物はぼくたちにハッピーをもたらしてくれるのか? 担保されているのは、上り坂をこれまで以上にグイグイと力強く登ってくれること。(50ccモデルよりは)ビッグな外装に多少のイバりを感じられること。山坂の多い地域では重宝されるだろうし、装備的に不満を感じることも少ないだろう。
一方でそのパワフルさゆえ、スピードの出せる幹線道路では、きっと30km/hリミットがもどかしく感じられるはずだ。まだ試乗していないのでなんとも言えないけれど、50ccでかったるかった低速でのスローさはスカッと解消されている気がする。それってかなりうれしいはず。楽しいはずだ。
バイクのクラスが排気量ではなく出力で区分されることへの違和感は、きっと自分が昭和生まれだから。古くさいね オレ! カビの生えたノスタルジーから抜け出せていない。でもスペックそのものにバイクの夢や未来を重ねて眺めていた習慣はそんなに簡単には変えられないよ。それが小さな本音でもある。
でも地元の免許センターで原付免許を取ったばかりの高校生が125ccに乗れるのはちょっとうらやましい。往時、初めて乗った50ccの「スズキ・アドレス」に「なにこれ、めちゃくちゃ速いゼ!」と鼻息荒く全能感に包まれていたミヤザキ少年。あのときの青臭い心根のままに前後14インチ+アイドルストップ+油圧フロントディスクブレーキの豪勢なディオ110 Liteに乗った日には……極上のAORが空耳で聞こえてきそうだぜ。俺ってオトナじゃ~ん♪
(文=宮崎正行/写真=本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)
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宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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