メルセデスAMG C43 4MATIC(4WD/9AT)/AMG C43 4MATICステーションワゴン(4WD/9AT)
驚異の一体感 2022.07.29 試乗記 最新世代の「メルセデス・ベンツCクラス」に、メルセデスAMGの手になる高性能モデル「AMG C43 4MATIC」が登場。「F1由来のテクノロジーでパフォーマンスを高めた」という走りの質は? 欧州はフランスの道で確かめた。注目すべきはターボチャージャー
トルコ航空で羽田をたち、イスタンブールでの乗り継ぎを経てたどり着いたバーゼル空港でフランス側に入国。そこからさらにクルマで30~40分ほど揺られて到着したフランス東部の街コルマールが、今回メルセデスAMGが開催した2台のクルマの国際試乗会の舞台だった。
この街はメルセデスAMGの本拠アファルターバッハからクルマで3時間ほどとさほど遠くなく、その意味ではここを選んだのも理解できないわけではなかったが、一方でフランスの一般道となれば超高速域を試せるわけではない。今回の車種で見てほしいのは、きっとそういうところではないのだろうな……。そんなことを思いながら、まずステアリングを握ることとなったのが、新しいメルセデスAMG C43 4MATICである。
先代C43 4MATICは、メルセデスAMGの市場規模拡大に大きな役割を果たした存在だった。エンジンこそ「One man - One Engine」のものではなく、それ故に当初は「メルセデス・ベンツC450 AMG 4MATIC」を名乗っていたが、車名変更とともにメルセデスAMGのラインナップに組み込まれると、そのブランド性に加えて3リッターV型6気筒ツインターボエンジンがもたらす十分な動力性能と高い日常性能の両立などにより、高い人気を獲得するに至ったのだ。
それ故に、ブランドにとってますます重要な存在となっている新型C43 4MATICの一番の注目点はエンジンである。新たに搭載されたのは2リッター直列4気筒ターボユニット。そう聞くとガッカリするファンも多いに違いないが、実はこれ、単なるダウンサイジングユニットではなく、量産車初採用の電動・排気ターボチャージャーを組み合わせたエンジンなのである。
何よりレスポンス優先
排ガスによってタービンを回す通常のターボチャージャーは、特にパワーを求めて大型化した場合、低回転域やアクセルオフの直後など十分な排圧が得られない領域で、どうしても過給の立ち上がりが遅れ気味となる。いわゆる「ターボラグ」である。内部に電気モーターを組み込んだこの電動・排気ターボチャージャーは、こうした領域で48V電装系により回生して得られた電気によってタービンを回し、レスポンス遅れを解消する。
しかもうれしいことに、このエンジンはマイスターの手で一基ずつ組み立てられるアファルターバッハ工場製とされた。エンジン型式は「M139l」で、「メルセデスAMG A45 S 4MATIC」などが積んでいる「M139」の縦置き版であることを意味する。メルセデスAMG車としての純度が高まったという言い方は、してもいいはずだ。
最高出力408PS、最大トルク500N・mというスペックは、先代に対して+18PS、-20N・mと、ほぼ同等。そのうえで、「RSG」と呼ばれるベルト式スターター・ジェネレーターによる14PSのアシストも加わる。実のところ、A45 S 4MATICは通常のターボチャージャーで最高出力421PS、最大トルク500N・mを得ているだけに、もっとパワーを上乗せできたのではとも思ったが、開発陣によれば「何よりもレスポンスを最優先した」とのことだった。
試乗車はセダンとステーションワゴンの2車型が用意されていた。縦スリットが特徴的なラジエーターグリルや大きな開口部を持つバンパー、サイドステップ、下面がディフューザー形状とされたリアバンパーに、セダンではトランクスポイラー等々、いわば定番の仕立てとされたエクステリアでは、初めて設定された20インチのタイヤ&ホイールが目を引いた。標準の18インチに対してオプションとなるこのホイールは、一見スポークタイプかと思わせて、実は外周に近い部分がふさがれたディッシュタイプ。これは空力に配慮したデザインなのだという。
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まさに思いのまま
インテリアは、ブラックとレッドというこれまたお約束のコーディネート。サイドサポートの張り出したハイバックタイプのシートの表皮は「ARTICO」と呼ばれる合成皮革とマイクロファイバー「MICROCUT」の組み合わせで、ダッシュボードもやはりARTICOで覆われているあたりは、レザー使用率を減らすという最近のトレンドにのっとったものだが、フラットボトムのステアリングホイールだけはナッパレザー巻きとされている。
コルマールの閑静な街なかをおずおずと走りだすと、触れ込みどおりのエンジンのピックアップの良さに驚かされた。アクセルペダルに足を乗せると即座にトルクが立ち上がるさまは、まるでターボエンジンとは思えないもので、500N・mという数値以上のトルクがあるように感じてしまうほどだ。
街から出たところでペースを上げていく。エンジンの吹け上がりは直列4気筒らしいビート感があって軽快そのもの。それでいてトルクは分厚く、アクセル操作に対する反応も鋭敏で、どこからどのように踏み込んでも即座に欲しいだけの力を得ることができる。トルクコンバーターの代わりに電子制御多板クラッチを用いたおなじみの「AMGスピードシフト9G MCT」を組み合わせたことも、この切れ味の良さにひと役買っているのだろう。
ワインディングロードでの走りの良さにも目を見張った。特に、コーナー進入でアクセルを戻し、立ち上がりに向けて再び踏み込んだ時の即応するトルクのツキは感動モノ。この時のクルマとの一体感は、この上ないものだ。
電動・排気ターボチャージャーのメリットは低回転域限定ではない。例えば、こうしてアクセルオフした際にも電気の力でタービンを回し続けることで、次のアクセルオフ時に即座に反応するレスポンスを実現しているのである。
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常用域で気持ちいい
このパワートレインの完成度にフットワークも見事に応えている。電子制御ダンパー、前後駆動力配分を31:69とした4MATIC、そして最大操舵角2.5度、100km/hまでは基本的に後輪を前輪と逆位相に操舵するリアアクスルステアリングなどを組み合わせたシャシーは、20インチタイヤを履くにしては乗り心地はしなやかだし、操舵に対する応答も正確。今や全長4.8mに迫る体躯(たいく)を意識させない。ただし、セダンとステーションワゴンでは今回、明らかにセダンのほうがシャキッとした感触だったのは、今どきちょっと意外ではあった。日本で乗ったCクラスでは、そんな差は感じなかったのだが。
率直に言って、走りは想像以上。V型6気筒から直列4気筒へのダウンサイジングには、分かってはいるけれど寂しいという思いが事前にはなくはなかったのだが、実際にアクセルを踏み込んだら、消し飛んでしまった。
あえて言えば、低回転域からとにかくピックアップがいいぶん、トップエンドの伸び切り感がそこそこに感じられたのは事実だが、それこそ今回の試乗ルートではそこまで回せる機会はまれだったし、日本の交通環境でも同じだろう。このエンジンの狙いは、やはり常用域の快感だったというわけだ。
伝統の「One man - One Engine」の哲学と、最新鋭の電気の力の融合により、内燃エンジンの喜びをさらに大きく引き伸ばした新しいパワーユニットを得た、新しいメルセデスAMG C43 4MATIC。まさに今の時代の寵児(ちょうじ)というべき一台の登場と言えそうである。
(文=島下泰久/写真=メルセデス・ベンツ/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
メルセデスAMG C43 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4791×1824×1450mm
ホイールベース:2865mm
車重:1765kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:408PS(300kW)/6750rpm
エンジン最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)265/30ZR20 94Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.1-8.7リッター/100km<約11.0-11.5km/リッター>(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
メルセデスAMG C43 4MATICステーションワゴン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4791×1824×1466mm
ホイールベース:2865mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:408PS(300kW)/6750rpm
エンジン最大トルク:500N・m(51.0kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)245/35ZR20 95Y/(後)265/30ZR20 94Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:9.2-8.8リッター/100km<約10.9-11.4km/リッター>(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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