ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーP530(4WD/8AT)
別格のオーラ 2022.08.05 試乗記 「ランドローバー・レンジローバー」がフルモデルチェンジ。進化のポイントは盛りだくさんだが、眺めても動かしても圧倒的であるところは新型でも変わらない。さすがは高級SUVの本家本元とうならされる仕上がりだ。変わらないけど別物
新型レンジローバーの内外装デザインは先代とそっくりである。意匠上の基本的なキーはほぼ変わっていない。とくにエクステリアデザインのそれは、先代とほぼ同じといっていいくらいだ。
たとえば、すべてブラックアウトされたピラーで支えられたフローティングルーフやリアに向けて下降していくルーフライン、ウィンドウ下端のベルトラインとクラムシェルボンネットから伸びたプレスラインの2本で構成されるショルダーライン、リアに向けて上昇していくサイドシル……といった数々は、それこそ初代モデルから連綿と受け継がれる“レンジ”に見せるためのキーである。ほかにも、フロントドア前方のサイドベント、スプリットテールゲート、リアバンパー下部のボートテールデザインも50年というレンジローバーの歴史のなかで生まれたディテールであり、それらは新型でもしっかり継承されている。
……と、写真で比較すると、新旧レンジは「間違いさがし?」といいたくなるほど似ているのだが、実際にはまるで別物だ。その理由は、実車を眼前にしたときにヒシヒシと伝わってくる質感である。
各部の段差をなくすフラッシュサーフェス化も、歴代レンジが(とくに先々代の3代目以降で)積極的に取り組んできたテーマのひとつで、そのレベルは先代でも飛びぬけていたが、この新型ではさらにブッ飛んでいる。パネルの合わせ目は遠目では気づかないほどに狭く、ガラスとパネルの段差の小ささ(というか“なさ”)には驚く。
とにかくカタマリ感がすごい。とくに今回の試乗車のように、ブラックの車体色に各部のディテールをことごとくダーク化する「シャドーエクステリアパック」なんてオプションを組み合わせると、まるで黒御影石かなにかのオブジェのようである。
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由緒正しい(?)4.4リッターターボ
インテリアも同様である。水平基調のダッシュボードや、それを支えるセンターコンソールのアルミ調の支柱、さらにはメーターフードの角度まで先代モデルに酷似する。一見するとシフトセレクターが特徴的なダイヤル式でなくなった程度の差しかないように見えるが、実際にはウッドパネルはさらに凝った曲線で造形されている。13.1インチにまで大型化したセンターディスプレイはフローティングしており、液晶メーターパネルの解像度は感心するほど精緻である。エアコン調整もタッチパネル式に見えるが、実際は各ボタンともクリック感のあるプッシュ式のままで、タッチ式よりも走行中の操作が確実だ。
さらに分厚く立派になったヘッドレストには「メリディアン・シグニチャーサウンドシステム」に含まれるスピーカーが各席2個ずつ内蔵されているという。ただし、これには音楽やラジオを聴くだけでなく、もうひとつの重要な機能もある。
新型レンジローバーには3リッター直列6気筒ディーゼルのマイルドハイブリッド搭載車や、3リッター直列6気筒ガソリンのプラグインハイブリッド車(PHEV)もあるが、今回の試乗車は4.4リッターV8ターボを積むトップモデルである。標準とロングがあるホイールベースのうち、今回は標準モデルである。
ジャガー・ランドローバーのV8といえば、これまではフォード由来のスーパーチャージド5リッターが使われてきたが、同エンジンは基本的にフェードアウトモードに入っている。で、新しい4.4リッターターボがBMW製なのは公然の秘密。それは2019年にジャガー・ランドローバーとBMWが結んだ戦略的なパワートレイン包括提携の一環だろう。もっとも、思い返してみれば、BMW傘下時代に開発された3代目レンジローバーも同社製エンジンを積んでいただけに、これはこれでそれなりの由緒がなくもない。
圧倒的に静か
従来のスーパーチャージド5リッターとの排気量や過給方式のちがいから、新しい4.4リッターターボを不安に思う向きもあるかもしれないが、心配無用だ。とにかく滑らかでパワフル、ピーキーなそぶりもない。さらに印象的なのは“音”で、アクセルを踏み込んで明確な加速態勢に入ったときには雑みが取り払われた快音がしっかりと耳に届くのに、アクセルオフやわずかに踏んだだけの巡航時には、エンジン音はほとんど意識できないほど静かになる。
エンジン音だけでなく、レンジローバーはとにかく静かなクルマだ。それにはサイドウィンドウに2枚ガラスを使うほど入念な遮音に加えて、前記のメリディアンのシステムに組み込まれた「アクティブノイズキャンセリング」が効いているようだ。同システムはキャビンに伝わるノイズをリアルタイムでモニターしながら、13個のスピーカーから個別に逆位相の音を出してノイズを打ち消すという。
素人目にはまだまだ使えそうに思えた先代レンジローバーのオールアルミ車体構造ながら、新型ではまた新しい「MLA-Flex」アーキテクチャーを投入した。それはPHEVや今後登場予定の電気自動車への対応も考えた設計というが、バルクヘッドにあえてスチールを使うところなどには静粛性や乗り心地への配慮もうかがわせる。また、前記のパネル合わせの驚異的な詰めっぷりも、この新アーキテクチャーの高剛性ありきのデザインだろう。そうでなければ、パネル同士が干渉してしまいそうだ。
新型レンジローバーは標準モデルでも全長5m超、全幅2m超、全高1.9m弱という巨体だ。しかし、伝統の車両感覚のつかみやすさに加えて、低速では最大7.3度まで逆ハンドルを切る後輪ステアリングもはっきり効果的で、この体格からすると取り回し性はすこぶる良い。
スローなのにリニアなハンドリング
今回の試乗は軽井沢周辺の市街地と山坂道にかぎられたが、ハンドリングも乗り心地も徹底して重厚でソフトタッチである。舗装路のみとなった今回の試乗ではドライブモードは「エコ」「コンフォート」「ダイナミック」の3種類のみを味わった。エコとコンフォートはまるで船のようにおおらかで、ダイナミックにしてもけっしてガチガチにはならない。前記の静粛性も含めて、その味わいはすべてのランドローバー車に共通するものがありつつも、すべてが別格のオーラがある。
車検証による前後重量配分は“50.4:49.6”と素晴らしいバランスでも、いかんせん2.7t近い車重ともなれば、コーナーでの身のこなしは、ゆったりどっしりしたものにならざるをえない。ステアリング感覚もマイルドそのものなのだが、その反応にラグや遅れのようなものがないのが素晴らしい。スローなのにリニア。これを両立する調律は一朝一夕にできるものではないだろう。
このご時世では、どうしても気になるのが受注状況だ。今回試乗したV8モデルについては、3年先(=マイナーチェンジ前?)までの生産計画台数分を受注してしまったことで、ひとまず予約受け付けを停止しているという。ディーゼルとPHEVはまだオーダーを受け付けているそうだ。どちらもV8よりは小さなエンジンとなるが、いずれも直列6気筒であり、音と振動の素性は悪くないはずである。それにディーゼルはV8より車重が100kg軽いので、操縦性などはV8より期待できるかもしれない。
今回の試乗車の価格はオプション込みで2500万円近い。ディーゼルの最安グレードでも、オプションを軽くトッピングするだけですぐに2000万円に達する。もはやスーパーカーだ。ただ、この1年ほどで「ディフェンダー」や「ディスカバリー」にあらためて乗る機会もあったが、価格だけでなく、見ても乗ってもレンジローバーはやっぱり別格に贅沢な味わいなのも事実である。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランドローバー・レンジローバー オートバイオグラフィーP530
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5065×2005×1870mm
ホイールベース:2995mm
車重:2680kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:530PS(390kW)/5500-6000rpm
最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)/1850-4600rpm
タイヤ:(前)285/40R23 111Y M+S/(後)285/40R23 111Y M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:7.6km/リッター(WLTCモード)
価格:2228万円/テスト車=2401万1630円
オプション装備:23インチ“スタイル1075”ホイール<グロスブラックフィニッシュ>(21万5000円)/23インチフルサイズスペアホイール(0円)/シャドーエクステリアパック(18万5000円)/ヒーター付きウインドスクリーン(3万4000円)/フロントセンターコンソール用急速クーラーボックス(11万4000円)/家庭用電源ソケット(2万1000円)/テールゲートイベントスイート(5万5000円)/24ウェイ電動フロントシート<ヒーター&クーラー、ホットストーンマッサージ機能付き>&リアエグゼクティブクラスコンフォートシート(45万5000円) ※以下、販売店オプション デプロイアブルサイドステップキット<SWB用>(59万5980円)/ドライブレコーダー(5万6650円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1111km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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