第713回:重厚長大にはなりません! MINIブランドの今後をデザイン責任者に聞いた
2022.08.08 エディターから一言夢が詰まったコンセプトカー
2022年7月26日、次世代MINIを示唆した「MINIコンセプト エースマン」のワールドプレミアイベントが、ドイツ・デュッセルドルフで開催された。会場となった市内のスタジオには、MINIブランドの責任者であるシュテファニー・ヴルスト氏のほか、MINIブランドのデザイン責任者であるオリバー・ハイルマー氏、そしてBMWグループのデザイントップであるエイドリアン・ファン・ホーイドンク氏が姿を見せた。
今回お披露目されたMINIコンセプト エースマンは、全長4.05m、全幅1.99m、全高1.59mと、コンセプトカーだけに横幅は若干非現実的な数値だが、サイズ的には先代「MINIカントリーマン(日本名:MINIクロスオーバー)」と同等。3ドア/5ドアハッチバックやコンバーチブルが属する、プレミアムスモールコンパクトセグメント(プレミアムBセグメント)のクロスオーバー電気自動車(BEV)といったところ。2024年には市販バージョンが登場予定だ。
注目すべきポイントは、徹底的に要素をそぎ落としながら、ひと目でMINIと分かるデザインとなっているところ。フロントグリルは従来の六角形から八角形となり、ヘッドランプのシグネチャーはもはや円形ではなくサイドに回り込み、面のつくり方もかなり無機的だ。インテリアも徹底的にシンプルなデザインで、まさに「ミニマリズム」を体現している。環境に配慮してレザーやクロームを使用せずに、リサイクル素材を多用している点も要注目である。
デジタル化ももうひとつの見どころ。ハイルマー氏が「没入型」と説明する、多彩なユーザーエクスペリエンスは、乗員の気分に合わせてインタラクティブに楽しむことができる。実際のプロダクトでどこまで具現されるかは未知数だが、とても夢が詰まったコンセプトカーだ。
全員がMINIのアイコンを理解している
今回筆者は、プレゼンテーション終了後に行われた、オリバー・ハイルマー氏のラウンドテーブルに参加することができた。そこでハイルマー氏が語った言葉を紹介しよう。
「未来のMINIのために開発したMINIコンセプト エースマンは、ハンドビルトのデザインスタディーです。パーフェクトにできたと思っています。ディテールに至るまで、すべてMINIのデザイン部門で制作しました」
こう語るハイルマー氏は、開発の経緯について次のようにコメントした。
「MINIブランドは、1950年代に大きな革新とともに登場しました。また時を経るにつれてプレミアムブランドに変化してきました。われわれはMINIのアイコニックなデザインを常に再解釈しながら進化させてきました。今回、われわれの大きなチャレンジは、可能な限り飛躍することでした。幸いなことにわれわれはリソースに恵まれているので、大胆な挑戦が可能でした」
「今回われわれは、MINIのキャラクターを定義づけるデザイン要素について、徹底的に洗い出しました。それからデザイナーたちはスケッチを描き始めました。面白かったのは、デザイナーの世代が違っていても、それぞれがアイコニックなMINIを描いていたことです。全員がMINIのアイコンを理解していたのです」
「すぐにわれわれはフルサイズモデルの制作を開始しました。『MINIクーパー』とMINIカントリーマンの間に位置づけられることを意識しながら、3~4カ月を費やしました」
最大限のスペース確保がMINIの伝統
レザーやクロームを使用しないデザインについては次のように語った。
「われわれは、2021年3月に次世代の社会的責任を果たすための、クリエイティブなマインドセットを設定しました。それは表層的な部分だけでなく、生産や素材調達、ロジスティクスなど、あらゆる部分に関わることで、デザインを通じて循環経済の実現に貢献して、環境負荷をなくすことです。まだビッグバンは起きていませんが、おそらく来年以降にステップ・バイ・ステップで多くの変化が起きるでしょう。われわれは正直であるべきと考えています。大きな目標ですが、必ず達成できると信じています」
「コンセプトカーをエココンシャスにつくることは簡単です。しかし、市販モデルに盛り込むのは大きなチャレンジになります。再生ニットによるファブリックを使用しながら、十分なクオリティーを実現することや、既存モデルでは内外装のさまざまな部分に使用されているクロームを使わないデザインは、チャレンジングでした。しかしわれわれは、異なる表現手法をすでに見つけました」
クロスオーバーBEVとなった理由については次のように語る。
「2010年に、それまでになかったコンセプトのMINIカントリーマンをリリースし、大きな成功を収めました。そして、クロスオーバーセグメントは、近年市場が顕著に拡大しています。MINIコンセプト エースマンは、MINIのラインナップをさらに拡大し、従来とは異なるターゲットグループにリーチし、彼らのニーズに応えることができます。ロングホイールベース&ショートオーバーハングで、フロアにバッテリーを搭載するBEVアーキテクチャーは、コンパクトなサイズに高効率なパッケージングが可能です。スモールカーという限られたサイズのなかに、最大限のスペースを確保する。これはMINIの伝統なのです」
ファンなブランドであり続ける
MINIブランドは、2025年以降にリリースするニューモデルすべてをBEVとし、2030年には全ラインナップのBEV化を予定しているが、顧客の反応はどうなのだろう?
「われわれのカスタマーは、MINIがエンジン車かBEVかについて、特に気にしていません。むしろ、“私はMINIブランドから離れたくない。もっとスペースを備えたMINIが欲しい”という声が聞こえてきます。MINIカントリーマンの顧客は、ロングドライブを頻繁にする傾向がありますが、MINIエースマンでは、さらに広々としたパッセンジャースペースを提供できます」
「しかし、MINIブランドのユニークネスはキープし続けます。MINIは、何よりもまずファンなブランドであり続けたいと考えています。それが他のプレミアムブランドとの差別化にもつながります。それがわれわれの方向性です。重厚長大なスタイルのクルマにはなりません。MINIは今後もMINIであり続けるのです」
短い時間ではあったが、ハイルマー氏の言葉からは、社会の変化や顧客ニーズの変化に対応させるために、MINIブランドを進化させつつオリジナルな個性を磨き続けるという、固い信念を感じることができた。次世代のMINIは、ますます多くのカスタマーを引きつけることになりそうである。
(文=竹花寿実/写真=BMW/編集=藤沢 勝)

竹花 寿実
-
第855回:タフ&ラグジュアリーを体現 「ディフェンダー」が集う“非日常”の週末 2025.11.26 「ディフェンダー」のオーナーとファンが集う祭典「DESTINATION DEFENDER」。非日常的なオフロード走行体験や、オーナー同士の絆を深めるアクティビティーなど、ブランドの哲学「タフ&ラグジュアリー」を体現したイベントを報告する。
-
第854回:ハーレーダビッドソンでライディングを学べ! 「スキルライダートレーニング」体験記 2025.11.21 アメリカの名門バイクメーカー、ハーレーダビッドソンが、日本でライディングレッスンを開講! その体験取材を通し、ハーレーに特化したプログラムと少人数による講習のありがたみを実感した。これでアナタも、アメリカンクルーザーを自由自在に操れる!?
-
第853回:ホンダが、スズキが、中・印メーカーが覇を競う! 世界最大のバイクの祭典「EICMA 2025」見聞録 2025.11.18 世界最大級の規模を誇る、モーターサイクルと関連商品の展示会「EICMA(エイクマ/ミラノモーターサイクルショー)」。会場の話題をさらった日本メーカーのバイクとは? 伸長を続ける中国/インド勢の勢いとは? ライターの河野正士がリポートする。
-
第852回:『風雲! たけし城』みたいなクロカン競技 「ディフェンダートロフィー」の日本予選をリポート 2025.11.18 「ディフェンダー」の名を冠したアドベンチャーコンペティション「ディフェンダートロフィー」の日本予選が開催された。オフロードを走るだけでなく、ドライバー自身の精神力と体力も問われる競技内容になっているのが特徴だ。世界大会への切符を手にしたのは誰だ?
-
第851回:「シティ ターボII」の現代版!? ホンダの「スーパーONE」(プロトタイプ)を試す 2025.11.6 ホンダが内外のジャーナリスト向けに技術ワークショップを開催。ジャパンモビリティショー2025で披露したばかりの「スーパーONE」(プロトタイプ)に加えて、次世代の「シビック」等に使う車台のテスト車両をドライブできた。その模様をリポートする。
-
NEW
レクサスLFAコンセプト
2025.12.5画像・写真トヨタ自動車が、BEVスポーツカーの新たなコンセプトモデル「レクサスLFAコンセプト」を世界初公開。2025年12月5日に開催された発表会での、展示車両の姿を写真で紹介する。 -
NEW
トヨタGR GT/GR GT3
2025.12.5画像・写真2025年12月5日、TOYOTA GAZOO Racingが開発を進める新型スーパースポーツモデル「GR GT」と、同モデルをベースとする競技用マシン「GR GT3」が世界初公開された。発表会場における展示車両の外装・内装を写真で紹介する。 -
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。










































