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ヤマハXSR900 ABS(6MT)

3気筒のディーヴァ 2022.08.30 試乗記 宮崎 正行 いよいよ新型となったヤマハのネイキッドスポーツ「XSR900」。“ネオクラシック”という言葉では表しきれない、細部まで美しい造形に目を奪われる2代目だが、走らせてみると、スロットルを開けるごとに、このバイクがさらなる魅力を秘めていることに気づかされた。

サウンドだけで“それ”と分かる

撮影当日、webCG編集部のホッタさんとは河口湖方面の某所にて現地集合。先に着いた私がのんびり待っていると、遠くから近づいてくるのはたぶん、あのバイクの排気音だ。少しだけ甲高くどこかザラついた感触のそれは、3気筒でしかチューニングし得ない独特の音色(おんしょく)を含んでいる。

「XSR900だな!」

エキゾーストノートだけで車名が分かるバイクなんて、最近の新型車にあったかな。チューボーの頃は排気音でバイク名を当てる「オレが一番バイクに詳しいぜ」ごっこを仲間内で飽きもせずやっていたけれど、それでもけっこういい確率で言い当てることができた。あの頃のバイクには、エンジンに、サウンドに、際立った個性があったからだと今でも信じている。

今回のモデルチェンジで登場した新しいXSR900は2代目(参照)。初代が発売された2016年からすでに6年が経過していると思うと、もうそんなにたったのねーとなんとも感慨深い。「MT-09」「トレーサー900 GT/トレーサー9 GT」のプラットフォーム(メインフレームやエンジン、各種制御系など)を共有する流儀は先代とまったく同じ、かつてのコンセプトワードだった「オーセンティック」はさらに「ヤマハレーシングヘリテージ」へと推し進められた。開発コンセプトの輪郭がよりハッキリとしたものに進化したのはきっと、ヤマハのエンジニアたちを突き動かす共有イメージが先代よりももっと明確になったからだろう。

「ヤマハレーシングヘリテージ」をコンセプトに開発された、新型「XSR900」。当初は2022年春の発売が予定されていたが、実際には同年6月30日にようやく販売が開始された。
「ヤマハレーシングヘリテージ」をコンセプトに開発された、新型「XSR900」。当初は2022年春の発売が予定されていたが、実際には同年6月30日にようやく販売が開始された。拡大
速度計をはじめとする各種計器類に加え、電子制御システムの操作インターフェイスとしての機能も備えた3.5インチフルカラーTFTメーター。バータイプのタコメーターは、エンジンの回転数に応じて色が変化する。
速度計をはじめとする各種計器類に加え、電子制御システムの操作インターフェイスとしての機能も備えた3.5インチフルカラーTFTメーター。バータイプのタコメーターは、エンジンの回転数に応じて色が変化する。拡大
左右に低く突き出したバーハンドルとバーエンドミラー、バンク時の配光も考慮した新設計のヘッドランプが特徴的なフロントまわり。ライダーが体を伏せやすいよう、燃料タンクの上面はフラットな形状となっている。
左右に低く突き出したバーハンドルとバーエンドミラー、バンク時の配光も考慮した新設計のヘッドランプが特徴的なフロントまわり。ライダーが体を伏せやすいよう、燃料タンクの上面はフラットな形状となっている。拡大

“カッコいい”は世代を超える

スタイリングは、レトロとモダンの融合イメージを再構築するために“80年代のレースマシン”という具体的なイメージソースを持ってきている。それを体現することで何が起きたかといえば……何というか、グッとくるものになった。え? グッとくるってなに? とヤングライダーは詰問するかもしれない。われわれオールドタイマーは答えに窮しつつも、「昔のヤマハ製レーサーはめちゃくちゃカッコよくてね……」と抗弁するほかない。CFダイカスト製の新作フレームは最薄部1.7mmを実現し、そのフォルムはまるで往年のデルタボックスのようだ。

デザインのよさを言葉にするのはむずかしいけれど、当時のレーサーのテールカウルを思わせるシート形状やサイドカバーを留めるDリングなどが、シルエットとディテールの両面でアラフィフの心をグッとつかんでくる。そんなデザインを具現していったヤマハのスタッフには若手が多かったというエピソードを聞くと、なんともいえず「ありがとう!」という気持ちになる。分かってくれて、ありがとう!

……なかなか“走り”に触れないことに対する読者のいら立ちを感じなくもないので、そろそろ始めよう。

パワーユニットに関しては、ベースとなるMT-09/トレーサー9 GTとエンジンのマッピングもギア比もまったく同じという。しかしながら、それぞれのフィーリングはかなり異なるところが面白い。ライディングポジションやボディーウェイト、車体のディメンションを明確にキャラ分けすることで、三車三様の個性がきちんと確立されているのだ。具体的には、新設計のスイングアームとリアフレームに合わせて前後サスペンションをリセッティング。ホイールベースをMT-09から65mm延長するなどの変更に応じて、ライディングポジションが最適化されている。ライポジとアシまわり、双方のていねいな煮詰めによって、XSR900はよりXSR900らしくなっている、というわけだ。

試乗車のカラーリングは、1980年代に活躍したソノートヤマハのマシンをモチーフにしたという「ブルーメタリックC」。黒のモノトーンである「ブラックメタリックX」も用意される。
試乗車のカラーリングは、1980年代に活躍したソノートヤマハのマシンをモチーフにしたという「ブルーメタリックC」。黒のモノトーンである「ブラックメタリックX」も用意される。拡大
タンデムシートは、往年のレーサーのリアカウルをほうふつとさせる“箱型”のデザインが特徴。シート下で光る小ぶりなLEDテールランプもスタイリッシュだ。
タンデムシートは、往年のレーサーのリアカウルをほうふつとさせる“箱型”のデザインが特徴。シート下で光る小ぶりなLEDテールランプもスタイリッシュだ。拡大
足まわりでは、従来型より55mmスイングアームを延ばすことで直進安定性を改善。タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが180/55ZR17で、ブリヂストンの「バトラックス ハイパースポーツS22」が装着されていた。
足まわりでは、従来型より55mmスイングアームを延ばすことで直進安定性を改善。タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが180/55ZR17で、ブリヂストンの「バトラックス ハイパースポーツS22」が装着されていた。拡大
安全装備も充実しており、車両の状態を正確につかむ6軸IMUをはじめ、バンク角も考慮した制御を行うトラクションコントロール、スライドコントロール、ウイリーコントロールなどを搭載。クイックシフターはシフトアップに加え、シフトダウンでも使用可能となった。
安全装備も充実しており、車両の状態を正確につかむ6軸IMUをはじめ、バンク角も考慮した制御を行うトラクションコントロール、スライドコントロール、ウイリーコントロールなどを搭載。クイックシフターはシフトアップに加え、シフトダウンでも使用可能となった。拡大
ホイールには鍛造に匹敵する強度と靭性(じんせい)を備え、バネ下の軽量化に寄与する「スピンフォージドホイール」を採用。フロントブレーキの操作系には、「YZF-R7」に続いてブレンボ製の純ラジアルマスターシリンダーを用いている。
ホイールには鍛造に匹敵する強度と靭性(じんせい)を備え、バネ下の軽量化に寄与する「スピンフォージドホイール」を採用。フロントブレーキの操作系には、「YZF-R7」に続いてブレンボ製の純ラジアルマスターシリンダーを用いている。拡大
エンジンは排気量888ccの水冷4ストローク並列3気筒DOHC。サウンドもつくり込まれており、トリプル特有のビート感と回転上昇時の音圧の高まりが、ライダーを高揚させる。
エンジンは排気量888ccの水冷4ストローク並列3気筒DOHC。サウンドもつくり込まれており、トリプル特有のビート感と回転上昇時の音圧の高まりが、ライダーを高揚させる。拡大
「D-MODE」には4種類の異なるエンジン制御を用意。トラクションコントロールなどの電子制御も、介入レベルの調整や機能のカットが可能となっている。
「D-MODE」には4種類の異なるエンジン制御を用意。トラクションコントロールなどの電子制御も、介入レベルの調整や機能のカットが可能となっている。拡大
新型「XSR900」は、「YZF-R1」や「MT-10」などと同じく「ヤマハモーターサイクル エクスクルーシブモデル」に属しており、ヤマハスポーツプラザ(YSP)およびアドバンスディーラーのみで販売されている。
新型「XSR900」は、「YZF-R1」や「MT-10」などと同じく「ヤマハモーターサイクル エクスクルーシブモデル」に属しており、ヤマハスポーツプラザ(YSP)およびアドバンスディーラーのみで販売されている。拡大

あの名ボーカルを思い出す

ハンドリングの素直さにも好感が持てる。と言ってしまうと味気ないニュートラルなものと勘違いされそうなので、早々に否定しておこう。過度にバンク角に頼らずとも車体の向きがスッスッと変わってくれる、実に気持ちのいい軽快なハンドリングなのだ。軽快だけどおだやか、クイック過ぎたりはしない。腰をズラして無理にイン側に落とさなくてもリーンウィズで十分。次々と迫ってくるコーナーをさっそうとクリアしてくれる。頑張らなくていいXSR900は、踏ん張り(スタビリティー?)の利かなくなりつつあるアラフィフの強い味方なのだった。

さて。今回のモデルチェンジで845ccから888ccへと排気量を拡大した3気筒エンジンは、ピストン、コンロッド、クランクシャフト、クランクケースといった主要パーツのほとんどが新設計されている。しかし、それらを超えて筆者が最も個性を感じたのは、音だ。他のどんなバイクとも異なる、XSR900らしいトリプルが奏でるエキゾーストノート。どうしてこんなにも気持ちよく感じるのか? と考えたときに、とある音楽理論の本で解説されていた言葉を思い出した。「倍音」、それも「非整数次倍音」だ。

……たぶん、多くの読者にとっては「なんのこっちゃ?」だろう。では、この例を挙げたら分かりやすいかもしれない。その非整数次倍音を持つ代表的なミュージシャンのひとりが、宇多田ヒカルだということを。その歌声からはベースのメロディー以外にも、さまざまな音が聞こえてくるはずだ。

音階とは別種の、聴き手を魅了するたくさんの成分、響き、サウンド。そんな快感成分≒才能がXSR900の排気音にも含まれている──と思うのだが、いかがだろうか?

(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

ヤマハXSR900 ABS
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ヤマハXSR900 ABS(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2155×790×1155mm
ホイールベース:1495mm
シート高:810mm
重量:193kg
エンジン:888cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:120PS(88kW)/1万rpm
最大トルク:93N・m(9.5kgf・m)/7000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.4km/リッター(WMTCモード)
価格:121万円

宮崎 正行

宮崎 正行

1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。

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