スズキGSX-S750 ABS(6MT)
さらば青春の光 2022.09.05 試乗記 日本伝統の“4気筒ナナハン”、その最後の一台である「スズキGSX-S750」が、ついに生産終了を迎える。スズキ車特有の親しみやすいライドフィールと、750cc 4気筒ならではの絶妙なパワー感を併せ持つ希有(けう)なマシン。その魅力を、最後に存分に味わった。ファンに愛されるスズキ車の条件
地味めなスズキのミドルはおおむね名車。
乱暴は覚悟のうえで言い切ってしまうが、「うんうん」とうなずいてくれる読者の存在を信じつつ進めよう。この前に「ロングセラーの」を付け加えられれば、もうだいぶ名言に近づける。具体的にはどんな車種があるかって? ヤボと知りつつ答えようじゃないか。近年に限って言っても、「GSR400」「GSX-R600」「グラディウス」「SV650」「Vストローム650」など、そこはかとなく盛りだくさん。スズキの隠れた名車たちは、その隠れキャラっぷりこそ、スズキ愛に富んだフリークスたちに好まれるゆえんなのかもしれない。「地味でどこがわるい!」だ。
現行ラインナップで“その”一角を担っている名車(と断言してしまいたい)こそ、今回試乗したGSX-S750である。前のめりにヤングなルックスはひとまずすっ飛ばして、またがった瞬間に四肢がピタッと収まるこのナイスフィーリング……やっぱりスズキはわかっていると震える瞬間だ。ライディングポジションは身長172cmの日本人中年(=筆者)にジャストフィットスムースイン! その快感と感激を胸に秘めつつ、さっそく水冷直列4気筒を始動させた。スタートは「スズキイージースタートシステム」によってセルボタンをワンプッシュするだけだ。
2022年のいま、ロードスポーツのカテゴリーではミドルクラスよりもリッタークラスのマシンがメインストリームなので、それらに比べればGSX-S750の排気音は少しだけ軽く聞こえたものの、ボリューム自体が大きめなので、おとなしいとはまったく思わない。
ハード過ぎず、ソフト過ぎず
スロットルワークに応じてビュンビュンと敏感に吹け上がるレスポンスに、ストレート4ならではの反射神経を感じながら、軽くて扱いやすいクラッチレバーを引いて212kgの車体を発進させる。その際、自動で回転をわずかに上げてくれる「ローRPMアシスト」が便利だった。渋滞でのノロノロ運転やUターンの時にエンジン回転の落ち込みを抑えてくれるので、ちょっと運転がうまくなった気にさせてくれる。
ところで212kgというその車重だが、実は上位の新型「GSX-S1000」より、たった2kg軽いだけだ。エンジンの単体重量だけならもちろんS1000のほうがずっと重いだろう。しかしS750とS1000は、骨格の素材も設計も異なる。S1000ではレーシーなアルミフレームとシートレールは別体式となっており、結構違うルックス以上に中身はまったく別物のアニキなのである。スズキドライブモードセレクター(SDMS)やブレンボのブレーキも装着されているし。
一方、S750は鉄フレームでシートレールは一体式。S1000と共通する大きな電子デバイスはトラコンぐらいだ。そのことを考えれば、S750の98万7800円とS1000の143万円の価格差44万円あまりはおのずと納得できるところ。それにしてもS750のこのお値段、幾たびモデルチェンジを経ても価格はしっかり100万円を切ってくるあたりは、いかにもスズキらしい。
市街地から高速道路を経て、郊外のワインディングロードへ。スパッとインに入ってくれるハンドリングは軽快で、視界が広いアップライトなライディングポジションと相まって、安心してスピードをコントロールできる。足まわりも過度にスポーティー過ぎず、ハードとソフトの中間をいくちょうどいいものなので、ラフな路面がいきなり現れてもドキッとすることはなかった。クイックさを極めるのはGSX-Rシリーズに任せておこう。こちらは安定感と落ち着きが長所で、ライダーは帰路のハイウェイライドに余力を残すことができる。
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これが最後の“4発ナナハン”
あくまで主観だけど、「GSX-S750、意外に乗りやすいかも?」という発見から「けっこう乗れてるぜ、オレ!」という自己満足に至るまで、それほど時間はかからなかった。この感覚は、過去に600cc級のスズキ製4気筒マシンに乗った際に覚えた親近感と同質のもので、カラダへのなじみやすさはGSX-S750、ひいてはスズキ製ミドルクラスの才能と言っていいだろう。
矢のように速かったGSX-R750から丁寧にリセットされたパワーカーブはずっと民主的で、アタマが真っ白になるような加速の恐怖もギリギリで抑えられている。もちろん、思いっきりスロットルを開けたらやっぱりとんでもなく速いが、ゆっくり走っているぶんには扱いやすいのだ。そんな緩やかな二面性が、日ごろストリートでそれほどファイトする気がない、文化系ライダーのキモチとスキルに寄り添ってくれて、とにかく楽しかった。
最後に。日本伝統の「4気筒のナナハン」は、このGSX-S750が最後になりそうだ。かつてのメーカー自主規制の名残、レースレギュレーションの遺物である“過去の排気量”をラインナップし続けてくれたスズキのナナハン愛をもってしても、2022年いっぱいで生産終了。理由は排ガス規制だという。ああ、寂しいったらありゃしない!
(文=宮崎正行/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2125×785×1055mm
ホイールベース:1455mm
シート高:820mm
重量:212kg
エンジン:749cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:112PS(83kW)/1万0500rpm
最大トルク:80N・m(8.2kgf・m)/9000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.1km/リッター(WMTCモード)
価格:98万7000円

宮崎 正行
1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。
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