【F1 2022】イタリアGP続報:100周年のモンツァに水を差した、フェルスタッペンとセーフティーカー
2022.09.12 自動車ニュース![]() |
2022年9月11日、イタリアのアウトドローモ・ナツィオナーレ・モンツァで行われたF1世界選手権第16戦イタリアGP。100周年に沸き立ったモンツァ、地元フェラーリの優勝を願う大勢のファンの期待は、最大のライバルの速いペースと強さ、そしてレース終盤のセーフティーカーによりくじかれてしまった。
![]() |
![]() |
![]() |
レッドブルとポルシェ、提携交渉が破談したわけ
イタリアGPを前にした9月9日、2026年シーズンからの参戦を見据えたレッドブルとポルシェの提携交渉が破談となったことが正式に発表された。
当初はレッドブルの地元、レッドブル・リンクで行われる7月のオーストリアGPで発表されるのではといわれていた“レッドブル・ポルシェ”誕生のニュースは、ついぞ聞かれることはなかった。7月下旬のハンガリーGP前には、ポルシェがレッドブルF1チームの50%の株式を取得するかたちで交渉が進められていることが分かり、8月末のベルギーGPでは、ポルシェと同じフォルクスワーゲン グループのアウディが先んじてGP参戦を表明していたばかりだった。
提携交渉の決裂の理由について、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「DNAの違い」を挙げている。かたやレーシングチーム、こなた世界的なプレミアムブランドを有する大企業。ここにDNA=企業文化の大きな隔たりがあってもまったく不思議はなく、過去にもそうした“すれ違い”による数々の失敗があった。
例えば、2002年から8年間F1で戦った「トヨタ」だ。巨額の投資の末に未勝利に終わったその敗因のひとつには、組織構造、すなわち自動車メーカーとしての経営判断のプロセスを、臨機応変かつ即断即決が求められるモータースポーツの世界に持ち込んだ結果、レーシングチームとしてうまく機能できなかったということが指摘されていた。
また、元F1王者ジャッキー・スチュワートらが興した「スチュワート」を買収し、2000年にGPに打って出た「ジャガー」も同じだった。当時の親会社であったフォードの政治的な思惑が絡み首脳人事などが混迷。大した成績を残すこともなく、たった5年間でその活動にピリオドが打たれた。
そして、そのジャガーを買収し、若々しく活動的なエナジードリンクメーカーの名を与え、新たな命を吹き込んだのが今の「レッドブル」である。元レーシングドライバーにして国際F3000シリーズでチームを率いてきたホーナーをボスに据え、レーシングチームとしての組織を手堅く構築。さらにオーナー企業の巧みなマーケティング戦略を駆使することで、サーキットの内外に関わらず、レッドブルが自動車メーカー以外の企業としてF1で異例の大成功を収めていることは誰もが知るところだろう。
今回白紙となった提携交渉は、レッドブルが自社開発を進めるパワーユニットに、ポルシェのバッジをつけることが前提とされていたというが、レッドブルが「カネは出しても口は出すな」というスタンスをとったとすれば、ビッグメーカーとしてのプライドも野心もあるポルシェが、その条件をのむことは難しかったはずである。
レッドブルが欲していたのは、かつてルノーのパワーユニットに「タグ・ホイヤー」の名前を与えたような“バッジ・エンジニアリング”であり、またホンダとの復縁が度々取り沙汰されるのも、ホンダが“政治的な厄介ごと”をチームに持ち込まなかった経験からなのかもしれない。
船頭多くして船山に登る──熾烈(しれつ)で過酷なF1の世界で、それは“敗北”を意味する。レッドブルとポルシェの「DNAの違い」による破談とは、そういうことなのだろう。
![]() |
100周年のモンツァ、ルクレールが会心のポールポジション
世界でも屈指の超高速コースでありオールドサーキットであるモンツァが100周年を迎え、ここを地元とするフェラーリは、自らのエンブレムのキーカラーのひとつ「カナリアイエロー」をあしらったデザインで必勝を誓った。
ベルギーGP同様、ここで戦略的にパワーユニットやギアボックス交換に踏み切るドライバーが続出したことで、予選後にはペナルティー降格車があふれかえることに。それでも最速のドライバーがポールポジションを維持することができ、フェラーリのシャルル・ルクレールが今季8回目、通算17回目の予選P1を獲得。熱狂的なフェラーリファン「ティフォシ」たちは喜びをあらわにした。
ライバルの降格で最前列につけたのはメルセデスのジョージ・ラッセル。2列目には、2021年のイタリアGPで劇的1-2フィニッシュを遂げたマクラーレンの2台が並び、ランド・ノリス3番グリッド、2021年の覇者ダニエル・リカルドは4番グリッドからスタートすることとなった。
2020年にここモンツァで初優勝したアルファタウリのピエール・ガスリーが5番グリッド、アルピーヌのフェルナンド・アロンソ6番グリッド、そして2番手タイムだったマックス・フェルスタッペンはペナルティーで5つ下がり、7番グリッドから上位を目指すこととなった。
アレクサンダー・アルボンが虫垂炎で欠場したことで、急きょウィリアムズでGPデビューを飾ることとなったニック・デ・ブリースが健闘し8番グリッド。さらにアルファ・ロメオのジョウ・グアンユー9番グリッド、そしてウィリアムズのニコラス・ラティフィが10番グリッドからレースに臨むこととなった。
![]() |
フェルスタッペン、序盤から怒涛の追い上げ
2019年のイタリアGPでポール・トゥ・ウィンを飾ったルクレール。再びモンツァを熱狂の渦に巻き込みたかったのだが、フェルスタッペンの容赦のない追い上げに揺さぶられることになる。
53周レースのスタートでトップを守ったルクレールに続いたのは、2位ラッセル、3位リカルド、そして4位になんとフェルスタッペン。彼は早くも2周目に3位に上がると、5周目にはメルセデスをかわし、いよいよ2秒前方の首位ルクレールに照準を合わせた。
レッドブルは得意のストレートではなく、コーナリングを重視した大きめのリアウイングを採用し、レースでの戦いやすさを優先。フェラーリはといえば、コーナーではなく直線での速さを伸ばすセッティングに振ったことで、予選では速さを顕示できたものの、レースでは結果的にペースでレッドブルにおいていかれることになった。
12周目、セバスチャン・ベッテルのアストンマーティンがコース脇にストップしたことでバーチャルセーフティーカー(VSC)が出ると、背後からのフェルスタッペンの脅威を感じていたフェラーリは、早めのピットストップに賭けることになる。
トップのルクレールは、VSCの間にソフトタイヤからミディアムに交換し、3位でコースに復帰。一方フェルスタッペンは25周までソフトで引っ張った後にミディアムに履き替えると、ルクレールが1位、10秒のギャップをおいてフェルスタッペン2位、ラッセル3位というオーダーとなった。
![]() |
![]() |
興ざめのセーフティーカーゴール、フェルスタッペンは5連勝
2位に落ちたフェルスタッペンだったが、勢いは止まるところを知らず、ファステストラップを連発しながらルクレールのリードタイムをどんどん削り取っていった。その差が5秒を切った34周目、フェラーリは2度目のタイヤ交換に踏み切り、これでフェルスタッペンが再びトップに立ち、ソフトタイヤに履き替えた2位ルクレールは、およそ20秒のギャップを詰めるべく、残り15周の段階から反撃を開始した。
だが、ミディアムで周回を重ねるフェルスタッペンは、ルクレールより0.2~0.4秒程度遅いだけで、残り周回数からしてもフェルスタッペンの優勝は手堅いと思われた。
そんな折、フェラーリとティフォシに一瞬希望の光が差す出来事が起こる。46周目、入賞圏の8位を走っていたリカルドのマクラーレンがコース脇に止まり、程なくしてセーフティーカーが出ると、各陣営のピットが慌ただしくなった。もちろんフェルスタッペン、ルクレールもソフトに履き替え、最後のスプリント勝負に備えたのだが、ニュートラルに入らないマクラーレンの撤去に時間がかかり、一向にレースは再開されない。
結果、セーフティーカーが先導するかたちでファイナルラップが始まり、リスタートはされずに興ざめのチェッカードフラッグが振られることになった。
これでフェルスタッペンは5連勝を達成し、チャンピオンシップでのリードを116点にまで拡大。今季6戦を残し、計算上は次戦で2年連続のタイトルに手が届くまでになった。
2位に終わったルクレールは、再開されなかったレースにフラストレーションをあらわにしながら、「ティフォシの前で勝てるはずだった」と悔しさをにじませた。タイトルへの夢はとっくについえていたが、100周年の特別な年に、せめてモンツァを赤い熱狂の渦に巻き込みたかったというのが本音だったろう。
3位ラッセルにとっては、孤独な戦いの末に勝ち取った今季7度目の表彰台。フェラーリのもう1台、カルロス・サインツJr.は、降格ペナルティーを受けて18番グリッドから4位とダメージ最小化はできたものの、やはりフェラーリにとっては、フェルスタッペンとセーフティーカーに水を差された、残念な母国GPとなってしまったようである。
シーズン後半戦早々の3連戦を乗り切ったF1はヨーロッパを離れ、今季最後のフライアウェー6戦へ。第17戦シンガポールGP決勝は、10月2日に行われる。
(文=bg)