ホンダ・フリード+ ハイブリッド クロスター(4WD/7AT)
至極まっとうな選択 2022.09.19 試乗記 この(2022年)9月にちょうどデビュー6周年を迎えた現行型「ホンダ・フリード/フリード+」。根強い人気を誇るホンダのコンパクトミニバンは、度重なる改良を経てどのような進化を遂げたのか。2列シートのハイブリッドモデルを借り出し、その仕上がりを確かめた。6年たってもまだ売れる
2代目にあたる現行フリードが登場したのは6年前、2016年の9月である。そこそこの長寿モデルなのに、いまなおホンダの主戦力だ。
2022年上半期、一番売れたホンダ車は軽の「N-BOX」である。ホンダのベストセラーどころか、白いナンバーを含めた日本車不動のトップセラーで、毎月平均1万7000台ほど売れている。そのN-BOXに次ぐホンダのセカンドベストセラーがフリード(同約7300台)である。2020年2月発売と、ずっと若い現行型「フィット」は月約4900台にとどまる。「ちょうどいい」どころか、軽を除くホンダ車で販売成績がイチバンいいのがフリードなのだ。
この6月、フリードシリーズがまたブラッシュアップされたので、最新モデルに乗ってみた。試乗したのは2列シート5人乗りモデル「フリード+ ハイブリッド クロスター」の4WD車(308万4400円)。フリード+の全部のせの上級グレードである。
現行フィットから、ホンダは2モーターのハイブリッドを「e:HEV」と呼び、適応車種を広げているが、今回の小変更でもフリードのハイブリッドは1モーター式の「スポーツハイブリッドi-DCD」のままである。そのほかのモデルでも機構的な変更はない。初代フリードは8年弱を生きた。売れ続けてはいても、フルチェンジが近づいているのだろう。
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十分に快適かつ存外にスポーティー
フリードに乗るのは3年ぶりだった。前回はマイナーチェンジ直後の7人乗りFFの1.5リッターガソリンモデルだった(参照)。そのときの記憶をたどりつつ乗った最新フリード+に“モデル末期”のネガティブな印象はまったくなかった。
まず乗り心地がいい。雑みのないなめらかな乗り心地は、これまでに試したフリードのなかでも最良で、「MQB」プラットフォーム(車台)のフォルクスワーゲン車に通じるものがある。荒れた舗装路や高速道路での大入力時でも、足まわりは今の「シビック」よりもむしろしっとりしていてフトコロが深い。この乗り心地のよさには、FFより60kg重い4WDの車重が効いているのかもしれない。
1.5リッターハイブリッドは、最高出力110PS(81kW)の4気筒エンジンに7段DCTと最高出力29.5PS(22kW)のモーターを組み合わせたものである。モーターのみのEV走行もするとうたうが、朝の始動時はエンジンがかかったし、走りだしてもEV感はほとんどない。しかし“電動アシスト付きエンジン”としてよく練れたパワーユニットである。
2モーター式の現行フィットと比べると、エンジン/モーターの出力は見劣りするし、車重も重いが、パワーは十分だ、というか十分にレスポンシブでスポーティーに感じる。そのため、山坂を走っているとパドルシフトもほしいと思った。
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機能的で使いでのある車内空間
3列シート6~7人乗りが売りのフリードを2列にして、荷室をより多目的に使えるのがフリード+である。
低床のため、タイヤハウスを含むフロア左右の張り出しは目立つが、3列目を省いた荷室は天地の空間がたっぷりしてる。2列目を倒せば、ロードバイクやMTB(マウンテンバイク)が車輪を外さずに立てたまま積める。両側の側壁にフックで留める場所食い虫のサードシートがないため、かさものを積み降ろすのもラクである。
セカンドシートを畳んでフラットフロアを拡大すると、奥行き160cm、対角線上で190cmの長さがとれる。一方、前席背もたれは水平まで倒せて、後席座面と隙間なくつなげることができる。仮眠や車中泊にも好都合だろう。前席にはAC100V(100Wまで)のソケット1つと3つのUSBソケットが備わる。
今回からシート表皮には“ファブテクト”と呼ばれるフッ素樹脂加工が施された。撥水だけでなく油染みを防ぐ撥油性も備える。“家化”するクルマに応えた防汚シートで、マヨネーズを添えたテリヤキハンバーガーのソースを仮想敵に開発されたという。
同乗者もドライバーも幸せになれる
満タンにした試乗車をwebCG編集部で受け取ったとき、正面のディスプレイに「航続可能距離1145km」と出ていた。純EV「ホンダe」のユーザーなどには“目の毒”みたいな一満タン走行距離である。フリード4WDの燃料タンク容量は53リッター。このときはリッター20km以上走る予測だったわけだ。
しかし今回、約360kmを走って、満タン法での実燃費は16.7km/リッターだった。車載燃費計は18.6km/リッターを示していた。いずれにしてもハイブリッドならではの好燃費だが、航続可能距離表示はいささかモリすぎである。それと、FFモデルだと36リッターに減量される燃料タンクの格差も、次の新型では改めたほうがいいと思う。
だが、おそらくは2代目フリードの最終バージョンになる試乗車に乗っても、これまでの好印象は変わらなかった。運転しやすく、使いやすい。ハイトワゴンとしてはファン・トゥ・ドライブで、家族のために運転していても滅私奉公感はない。ものすごくまっとうな選択だが、退屈なクルマではない。そんなキャラクターはモデル末期でも変わっていない。完熟フリードである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ホンダ・フリード+ ハイブリッド クロスター
サイズ:全長×全幅×全高=4265×1695×1735mm
ホイールベース:2740mm
車重:1460kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:110PS(81kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:134N・m(13.7kgf・m)/5000rpm
モーター最高出力:29.5PS(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:160N・m(16.3kgf・m)/0-1313rpm
タイヤ:(前)185/65R15 88S/(後)185/65R15 88S(ヨコハマ・ブルーアースE50)
燃費:15.6km/リッター(WLTCモード)
価格:308万4400円/テスト車=319万6600円
オプション装備:ボディーカラー<トワイライトミストブラック・パール>(3万3000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー<DRH-204VD>(3万9600円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ、フリード+ ハイブリッド車用>(3万9600円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:734km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:358.3km
使用燃料:21.4リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:16.7km/リッター(満タン法)/18.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。