第180回:反硬派系・古典車ファンの夢? 後付けパワーステアリング
2011.02.12 マッキナ あらモーダ!第180回:反硬派系・古典車ファンの夢? 後付けパワーステアリング
涙なみだの「ノン・パワステ」
「パワステ付き」という表現は、今や死語であろう。
しかしボクが免許をとった1980年代中盤、パワーステアリング付きは自動車教習所の宣伝文句のひとつだった。
実際ボクの通っていた教習所もそれを売りにしていた。具体的にはパワステ付きのトヨタ初代「クレスタ」だった。山崎努がCMに出演していたやつである。
しかし、それに慣らされてしまったのがいけなかった。最初の自分のクルマとなった親のお古、1981年式「アウディ80」は、ボディカラーこそ美しい赤だったが、パワーステアリングが装備されていない「LE」という標準仕様だった。そのうえ、後輪駆動のクレスタと違って、アウディは前輪駆動だ。ステアリング操作するときの重さが、本当に泣けた。
もしデラックス仕様のATでパワーステアリング付きの「GLE」(たしか約80万円高だったと思う)だったら、こんなつらい思いをしなくてよかったのに、と親を恨んだものだ。
後年、ステアリングがやたら軽い「ビュイック」を2台も乗り継いでしまったのは、アウディ時代の反動かもしれない。
いっぽうで、そういうステアリングの重いアウディで、クルマとのなれ初めを果たしたおかげで、無駄な据え切りをせずにタイヤをいたわる習慣がついた。また、仕事を始めてからどんなにかじが重いモデルに乗っても、「あのアウディと比べれば」と思えば耐えられたのだから、目に見えぬ財産と思うことにしている。
ラクラク代は19万円から
そんなステアリングに対する思い出のあるボクは、ここ数年ドイツ・エッセンの「テヒノクラシカ」、パリの「レトロモビル」といった各国のヒストリックカーショーで、あるスタンドが気になっていた。
「ヒストリックカー用、後付けパワーステアリング」である。
2011年2月にパリで開催された「レトロモビル2011」にも、スタンドが設営されていたので、ここはひとつ詳しく話を聞いてみることにした。
スタンドには、「プジョー404」や「シボレー・コルベット」など、さまざまな古いクルマのステアリングが生えていて、来場者はかわるがわるクルクルと回して試している。
「EZ(イージー) エレクトリック・パワーステアリング」は、オランダに本拠を置く企業によるものだ。その名のとおりデバイスは電動である。対応してくれたジョン・シュロイダーさんは「戦前車から戦後車まで、あらゆるクルマに対応しています」と胸を張る。
後日訪問した同社サイトの対応車種一覧には、「トヨタ・ランドクルーザー」や、「ダットサンZ」まであった。
実際の装着は、指定の工場に持ち込んで行う。すでにフランスでは80カ所の拠点で対応しているという。「丸1日預けて頂ければ、対応します」とのことだ。
気になるお値段の目安は?
それに対して彼は「安いものはボルボ用で1700ユーロ(約19万円)、高いものだとランボルギーニ、フェラーリ用で4500ユーロ(約50万円)です」と教えてくれた。
心配なのは、高いオリジナル性が求められるコンクール・デレガンスの審査にパスできるのか? である。するとジョンさんは、
「ステアリングコラムにモーターを付けるだけで、オリジナルの機構部分は改変しないので大丈夫です」と教えてくれた。
ジョンさんのその答えかたが「待ってました」風だったことからして、同様の問い合わせは少なからずあるのだろう。同時に、そばで見ていると操舵(そうだ)が大変そうな戦前車でも、実は電動パワーステアリングを装着していて、ドライバーの涼しげな顔も痩せ我慢でない、という例がすでにあるとみた。
ボクがそんな話をしていると、ひとりの来場客が別のスタッフに熱心に問い合わせていた。聞けば、彼はファセル・ヴェガの「ファセリア」を所有しているという。
ちなみにメーカーは、主要パーツが日本の光洋電子工業と日本精工によるものであることを高らかにうたっている。
バイワイヤ時代には、きっと……
ふと思い出したのは、以前本エッセイの動画編でシトロエン戦前型「トラクシォン・アヴァン」の操作法を披露してくれた知人・ディディエ氏である。動画内にはディディエ氏が切り返しでヒーヒー言っている姿が収められている。
そこで後日、彼に「どうよ?」と聞いてみた。
だが彼は、「電動アシストは不要」と言い切った。「ステアリングが重いのは、切り返しをするときだけ。それも魅力のひとつだと思えば、問題なし!」。あくまでもオリジナルを好むのだそうだ。
前輪駆動で当然パワーステアリングなしであるトラクシォンの操舵の重さは昔から有名である。そこまでくると、愛好家の間では「あばたもえくぽ」なのだろう。
今回記していて、ちょっと想像したのは未来だ。
操舵装置に例のバイワイヤ技術が導入され、ステアリングホイールとタイヤが電気信号のみでつながっている日が来たときである。
「オレは昔のようなヤツがいいぜ」という硬派ドライバーのために、こんどは「後付けメカニカル操舵装置」なんていうものが古典車ショーに陳列されているかもしれない。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
拡大
|

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第970回:クルマの背中に浮かぶ文字たち――空いた字間が語るもの 2026.7.16 アナタは自動車のボディー背面に施されたメーカー/ブランドのロゴについて考えたことがあるだろうか? 字間を詰めたり、広げたり、時代によって変わるそのトレンドと、その背景にあるメーカーの思惑を、自動車史にも精通する大矢アキオが語る。
-
第969回:裏地に『大脱走』! ピッティ・イマージネ・ウオモと自動車模様 2026.7.9 イタリアで開催された世界屈指の紳士モード見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」を、現地在住の大矢アキオが取材。自動車にまつわるアパレルの最新トレンドを探り、新興ブランドのひたむきさと、老舗の刻んできた年輪に触れた。
-
第968回:初代「ルノー・トゥインゴ」は「フィアット500」と同じ旋風を起こせるか? 2026.7.2 リバイバルデザインの新型「ルノー・トゥインゴ」がデビューしてはや3カ月。このクルマの登場により、オリジナルにあたる初代がネオヒストリックとして脚光を浴びることはあるのか? 「フィアット500」の例を振り返りつつ、欧州在住の大矢アキオが考察する。
-
第967回:初代「トヨタ・クラウン」や“ヨタハチ”が「ミッレミリア」を走った! 2026.6.25 イタリアの歴史あるヒストリックカーラリー「ミッレミリア」に、日本のクルマが初めて参加! 石畳の道を行く初代「トヨペット・クラウン」に「トヨタ・スポーツ800」「2000GT」「スープラ」の姿を、現地在住の大矢アキオがリポートする。
-
第966回:フェラーリ・ルーチェ 地元イタリアで一般人はこう見た&大矢的こころ 2026.6.18 その斬新すぎるデザインで物議を醸している、フェラーリ初の量産電気自動車「ルーチェ」。このクルマは、おひざ元のイタリアではどのように受け止められているのか? かの地において自動車史と自動車文化をつぶさに見てきた大矢アキオがリポートする。
-
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2026.7.19ミスター・スバル 辰己英治の目利きスバルとSTIでクルマの走りを鍛え、モータースポーツにも積極的に取り組んできた辰己英治さん。彼の目に、“スポーツカーの水準器”こと「ポルシェ911」はどのように映ったのだろう? 走りの楽しさを追求した「カレラT」グレードに乗っての印象を聞いた。 -
ホンダCB750ホーネット(6MT)【レビュー】
2026.7.18試乗記ホンダのスポーツネイキッド「CB750ホーネット」が、話題の「E-Clutch」を獲得。ライディングの幅を広げる自動クラッチシステムは、パンチの利いた2気筒のストリートファイターにどんな走りをもたらすのか? その仕上がりを確かめた。 -
人気沸騰「ランクル“FJ”」を手にするもうひとつの方法
2026.7.17サブスク「KINTO」で「ランドクルーザー“FJ”」に乗る<AD>2026年5月に発売されるやオーダーが集中し、受注停止となってしまった「ランドクルーザー“FJ”」。しかし、あきらめるのはまだ早い。“FJ”とのカーライフを実現できる、トヨタの新車サブスクリプションサービス「KINTO」という手段があるのだ。 -
新型「アルピーヌA110」はどんなクルマに? グッドウッドを駆けたテストカーから読み解く
2026.7.17デイリーコラムアルピーヌが次期型「A110」を示唆する「A110フューチャー」を初公開。グッドウッドで走る姿を披露した。そこから分かる未来のA110の姿とは? 電動化がアナウンスされているが、エンジン車の設定はあるのか? 公式発表とテストカーの姿から深掘りする。 -
ベントレー・ベンテイガ スピード(4WD/8AT)【試乗記】
2026.7.17試乗記「ベントレー・ベンテイガ」に最上級グレードの「スピード」が登場。ブランドの在り方をストレートに伝える名称のトップパフォーマンスモデルだが、従来型との最大の違いはその心臓部にV8エンジンが積まれていることだ。およそ不満のあろうはずもないが、最新モデルの仕上がりをリポートする。 -
写真で解説する新型「日産エルグランド」
2026.7.16画像・写真新型「日産エルグランド」は、日本伝統の美をデザインに生かしながら、同社独自の最新技術を組み合わせて“走りのよさ”も徹底追求したという意欲作。その見どころを写真とともに解説する。