第179回:iPadはコンパニオンとの距離を縮める!?
2011.02.05 マッキナ あらモーダ!第179回:iPadはコンパニオンとの距離を縮める!?
ヘンな虫よ、さようなら
おかげさまで、ボクもいくつかの電子書籍端末対応の電子雑誌からコラムの依頼を頂くようになった。ということで、今回はこちらのタブレット端末に関するあれこれをつづりたい。
イタリアやフランスの自動車雑誌は、意外にもタブレット型端末への対応が早かった。すでにイタリアの月刊『クアトロルオーテ』やフランスの週刊『オトプリュ』は、昨年からiPad用に電子書籍を発行している。
クアトロルオーテは紙版5ユーロに対して電子版は3.99ユーロだ。出版元のドムス出版は、自動車関係の単行本まで電子版を一緒に刊行するようになっている。
オトプリュは紙版1.9ユーロに対して、iPhone/iPod Touchにも対応している要約電子版は無料に設定している。オトプリュは2010年パリモーターショー開催中、主催者とタイアップで公式ガイドも配信した。
各国の自動車雑誌がリアルタイムに手に入る時代がやってきた。東京時代に洋書屋さんで高価かつ月遅れの号を買っていたのからすると、夢のようである。DVDのようなリージョナルコードに悩まされることもない。
わが家にとっても朗報だ。長年買い集めた各国の雑誌による重さで本棚の横板がグニャリと曲がり、危険になってきたのを契機に、切り抜き&処分を敢行することにした。ところが紙を食うヘンな虫がページとページの間から出現するたび、ボクが悲鳴をあげる事態となった。電子版の時代到来で、こんな恐怖ともさよならである。
「007」も夢じゃない
それはさておきイタリアやフランスの家電量販店にも、さまざまなタブレット型PCや電子書籍端末が並ぶようになってきた。参考までにアップルiPadのイタリア価格は16GBのWiFiモデルで499ユーロ(約5万5000円)、3G回線付きで599ユーロ(約6万6000円)である。
いっぽう名も知らぬメーカーのモノクロ画面の電子書籍端末は、100ユーロ(1万1000円)前後といったところだ。
現在どのくらいの頻度でユーザーを見かけるか? iPadを例にとれば大学ロビーで教授らしき人が使っていたり、空港の登場ロビーで新しいモノ好きそうなおじさんが自慢げに……といった感じが目下のところだ。
いっぽうで意外にもiPad密度が高いエリアがある。自動車関係のショーである。従来自動車メーカーがiPod Touchを使って行っていたドライビングシミュレーション系アプリの体験コーナーをiPadに置き換え始めているのだ。たしかに画面が大きいiPadは、よりこうしたゲームに向いている。
2010年9月に訪れたデュッセルドルフのキャンピングカーショーでは、エアサスペンションのセッティングを変えるのに、iPadの画面が使われていた。ちなみにその隣では、クルマから切り離したあとの無人のトレーラー式キャンピングカーをワイヤレスリモコンで車庫にしまうデバイスも紹介されていた。
両者を組み合わせて発展させれば、iPadでクルマを車庫にしまえる日が来るのも夢ではないだろう。映画『007 トゥモローネバーダイ』でジェームズ・ボンドが「BMW7シリーズ」を携帯電話のタッチパッド上で操作するシーンさながらである。
ジョブスさん、ありがとう?
そしてもうひとつ、モーターショーの風景を変えたiPadの使い道がある。来場客を対象にしたアンケートやデータ収集だ。
メーカーのコンパニオンが「気になった新型車はどれか」「ブース全体のムードはどうか」といったことをお客さんに質問し、回答をインプットしていく。以前もタブレット型PCを使って同様のことを行っていたメーカーもあったが、iPadの登場で一気に広まった。
美人コンパニオンと肩を寄せ合って同じ画面を見ながら一対一でしばし過ごせるようになるとは。スティーブ・ジョブスさんに感謝しなければならない。
にもかかわらず、なぜかボクのところにアンケートを取りにやってくるのは、むくつけき兄ちゃんのアルバイトだったりする。ましてや、そういうヤツにかぎって端末の扱いに慣れてないらしく、入力に手間取る。そのたび「いいからボクに貸せ」と言いたくなってしまう。
と、偉そうに書き連ねておきながら、実をいうとボクはいまだ電子書籍用のタブレットPCを持っていない。したがって現在のところ、自分の書いたモノが電子雑誌でどう公開されているのか知らない。
それで思い出すのは、戦後の富士重工のエンジニアたちだ。自家用車を持っていなかったからこそクルマを持ちたいという情熱が生まれ、「スバル360」開発の原動力になったという。
同様にボクも「いつか原稿料でタブレットPCを買うゾ」という意欲をかてに、とりあえず電子雑誌向けの文章をウンウン言いながらも書き続けている。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの 2025.10.16 イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。
-
第931回:幻ですカー 主要ブランド製なのにめったに見ないあのクルマ 2025.10.9 確かにラインナップされているはずなのに、路上でほとんど見かけない! そんな不思議な「幻ですカー」を、イタリア在住の大矢アキオ氏が紹介。幻のクルマが誕生する背景を考察しつつ、人気車種にはない風情に思いをはせた。
-
第930回:日本未上陸ブランドも見逃すな! 追報「IAAモビリティー2025」 2025.10.2 コラムニストの大矢アキオが、欧州最大規模の自動車ショー「IAAモビリティー2025」をリポート。そこで感じた、欧州の、世界の自動車マーケットの趨勢(すうせい)とは? 新興の電気自動車メーカーの勢いを肌で感じ、日本の自動車メーカーに警鐘を鳴らす。
-
第929回:販売終了後も大人気! 「あのアルファ・ロメオ」が暗示するもの 2025.9.25 何年も前に生産を終えているのに、今でも人気は健在! ちょっと古い“あのアルファ・ロメオ”が、依然イタリアで愛されている理由とは? ちょっと不思議な人気の理由と、それが暗示する今日のクルマづくりの難しさを、イタリア在住の大矢アキオが考察する。
-
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー― 2025.9.18 ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。