日産ジューク 16GT FOUR(4WD/CVT)【試乗記】
冷たい高性能 2011.01.31 試乗記 日産ジューク 16GT FOUR(4WD/CVT)……296万1000円
「日産ジューク」のハイパワー&4WDグレード「16GT FOUR」に試乗。足まわりの仕上がり具合を中心に、その走りを峠道でチェックしてみた。
期待の後発グレード
日産のコンパクトカー用Bプラットフォームに、強化した井桁サブフレームを追加して、「マーチ」や「ノート」とは全く違う世界観をつくり出した「ジューク」。1.5リッターのパワーユニットは、それらBセグメントの共用エンジンというよりもむしろ「革新的なダウンサイジング」という感じで、非常に好感がもてた。質感も、ひとクラス上。でも、個人的には実に「惜しい!」と思えるクルマだった。
その理由は、「SUV的なボディ形状だから腰高感が出るところに、かなり強めのロール剛性が与えられた」から。
もっとわかりやすくいうと? これだけ見晴らしが良い(そしてトレッドの狭い)ボディでキビキビ走ろうとすれば、当然ロールしたら怖いし、それを止めようとすれば足まわりは硬めになる。そのせいで、路面とのコンタクト感がやや希薄になっていた。ダンパーの質感やタイヤの選択もまた、実に惜しいと思ったのである。
そんな1.5リッターモデルの試乗会で、日産自動車のエンジニア氏は「それなら、あとで追加される1.6リッターのターボモデルには期待してください」とおっしゃった。つまり、走りのターボ車用にセッティングが煮詰められた足まわりならば、たとえ腰高なジュークでも、ご所望の質感とスタビリティを味わえますよ、ということなのである。
あきれるほどのコーナー上手
結論から言ってしまえば、その仕上がりは、期待と違うところにあった。
ひとことで言えば、この「16GT FOUR」は“1.5リッターの上のグレード”というよりは、それ自体がコーナリングマシンだったのだ。今回試乗した箱根のターンパイクのような、速度レンジの高いコーナーが連続する峠道では、あきれるほどにスタビリティが高く、そして速い。
その大きな要因は、電子制御式の4WDシステムにあると思われる。このクラスでは初となるトルクベクトル機能を付けたジュークの「4×4-i」システムは、ドライバーが気づかぬうちにアンダーステアを消し去り、オーバーステアに転じる予兆をヨーレイトセンサーから検出して、事前に制御してしまう。このクルマで過大なアンダーステアを出しながらギャンギャン走っているようなら、自分のドライビングを見直した方がいい。
しかしそのあまりにも自然な制御は、逆に言えば、たとえばフォルクスワーゲンの「XDS」なんかよりもはるかに細かい制御をしているにもかかわらず、シームレス過ぎて乗り手が効果を感じにくい。結果、16GT FOURが喧伝(けんでん)するような、熱いスポーツ感はくみ取れず。思いのほか“クールな高性能”になっている。
ただ、僕が今回この16GT FOURに求めたのは、こうした走りではない。見晴らしがよく取り回しもいいジュークの走りを、新たに用意された足腰がどう受け止めるかという点では、あまり良い方向のセッティングだとは思えないのである。
たくましいけど惜しい足
コーナリング性能を高めたことで(というよりも、背の高いコンパクトSUVのロールやピッチングを抑えたというのが本音だろう)、このグレードでは大切な要素となる高速道路での直進性は犠牲になった。路面の凹凸に対して小さな入力がコツコツと伝わってくるから、高速走行時の大きな入力を見越してバンプ(突き上げ)側を固めたのかと速度域を上げてみると、そこでダンピングがピタリと合うわけでもない。この足まわりに対する速度域のスイートスポットは、非常にわかりづらい。
その固めた突き上げに対してなんとか乗り心地を確保しようと、リバウンド側は緩めてはいるのだが、それが上下方向の揺り返しになっており、収まらない。
また重心が高いSUVゆえに操舵(そうだ)に対する反応が敏感で、たとえば片手で運転をすると、路面の起伏を通過する際に少しでも力の入った方向にかじが取られてしまう。電動パワステの効き方そのものは良いから、これにもう少しステアリングセンターの“座り”を与えてほしかった。
荷物もほとんど積み込まない単独走行での印象ではあるのだが、総じて、もう少しだけダンパー(とタイヤ)にお金を掛けてほしいと思った。乗り味でいえば、兄貴分にあたる「デュアリス」の、ザックス製ダンパーを使った足のような、しっとりとして追従性の高い操縦性が望ましい。こうしたクルマのスポーティさは、反応を過敏にしてコーナリング速度を高めることだけではないはずだ。
もうひとつのキモ、1.6リッター直噴ターボ「MR16DDT」ユニットは、必要にして十分な190psを発生する。エグゾーストノートやエンジンノイズはチープな印象で、豊かなトルクとは裏腹に“2.5リッター以上のNA車に相当する質感”を備えているとは思えないが、小排気量化が進む時代のエンジンとしてはひとまず合格。むしろ高回転をキープしがちなCVTが、そのチープさ加減を助長してしまうのが惜しかった。でも、DSGのような技術を持たなければ、これで対応するしかないのだろう。
ジュークにも言い分があるとすれば、その根拠はトレッドの狭さなのだろう。ホイールベースも短いけれど、その点は4×4-iシステムやリアマルチリンクサスのおかげで、ほとんど気にせずドライブできる。つまりそれだけ、コンパクトな(しかもSUV風な)クルマをスポーツカー風に仕立てるのは難しいのだと思う。
すごくカッコイイんだけど……あぁ惜しい!
(文=山田弘樹/写真=峰昌宏)
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。