最後発でライバルに挑む「日産セレナ」の“強み”とは?
2022.12.19 デイリーコラムサイズのキープは大前提
従来型の登場から6年余りの時を経て、日産のミニバン「セレナ」がフルモデルチェンジした。2022年11月28日に告知された時点ではまだ“発表”の扱いだが、「ガソリン車は今冬、e-POWER搭載車は来春発売」とアナウンスされており、6代目となる新型の正式発売はいよいよ秒読み態勢だ。
スペックや価格が明らかになり、プロトタイプモデルに試乗する機会も与えられた今の段階でまず目に留まる新型の見どころは「サイズ」。(より強い存在感を演出するための意匠により3ナンバー枠に踏み込んだ一部グレードを除き)従来型と同様、ベースとなるボディーが全幅1.7m以下のいわゆる5ナンバー枠におさめられ、サイズ拡大が行われなかったというのはポイントだろう。
規模の大きさで世界1位と2位の自動車マーケットがいずれも“大きなクルマ”を好む中国とアメリカであることも関係して、グローバル市場に照準を合わせたモデルについては、「モデルチェンジのたびにボディーサイズが拡大される」という動きが通例のようになっている。
一方、国内のマーケットをピンポイントで狙うセレナの場合は、そうした海外マーケットへの忖度(そんたく)は必要ない。ボディーサイズと税制面の結びつきがなくなって久しい現在でも、多くの人に「3ナンバーのクルマは大きくて運転しづらい」というイメージが根強く残っているということで、キャビン空間の大きさこそが大きな訴求ポイントになるミニバンでありながら、制約の厳しい5ナンバーサイズにこだわった開発が行われてきた。
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日産独自のワザが光る
ひと足先に世代交代を済ませたそんなライバルたちと比べた際の、セレナのアドバンテージは何か? まず、セレナにはe-POWERという強いブランド力を持つ電動化モデルが存在することだろう。
もちろん、トヨタの「ノア/ヴォクシー」にもハイブリッドモデルはあるし、「e:HEV」と名づけられた2モーター式の「ホンダ・ステップワゴン」のハイブリッドは、モーターを使って駆動力を発生するセレナと同様のメカニズムをベースとしながら、さらに高速クルージング時を中心に効率に優れた“エンジン出力直結モード”も備えるという点で、見方によっては日産方式よりも凝ったつくりのシステムといえる。
しかし、2016年の誕生当初は「電気自動車の新しいカタチ」などと、ちょっと反則気味(?)のフレーズでプロモーション活動を展開し、日常シーンでの減速をアクセルオフのみで賄うワンペダルドライビングも積極的にアピールしていた日産のe-POWERは、ライバル社のハイブリッドとは異なった独自アイテムというブランド力を獲得しているといっていいだろう。
実際、「日産で初めて発電機の駆動用に特化した専用エンジン」と紹介できる新開発のユニットと組み合わされたセレナ用のシステムが、走りも静粛性も従来型より格段に進化したことは確認済みだ。価格面から純ガソリンエンジン車も設定しているものの、セレナ=e-POWERというイメージでこれまで以上に訴求できる点は、大きな強みであるはずだ。
そのほか、コスト面ではつらいはずなのに、大きく重いゲートを開くことなく荷物の出し入れが可能な「デュアルバックドア」を踏襲した点や、同一車線内運転支援システム「プロパイロット」の全モデルへの標準化なども、アイキャッチなポイントとして強力である。
ただし、e-POWER搭載モデルの価格は最低でも320万円ほどと、やはりそのお値段はなかなかのもの。そんな価格面でのハードルの高さと、現状では4WD車が純ガソリンエンジン車でしか選べないという点が、新しいセレナのウイークポイントとして目立つ部分といえるかもしれない。
(文=河村康彦/写真=日産自動車、花村英典、webCG/編集=関 顕也)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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