シボレー・コルベットZ06(MR/8AT)【海外試乗記】
あこがれの“ヴェット” 2022.12.15 アウトビルトジャパン 史上最も過激な「コルベット」。いま、ヨーロッパにはC8の「コルベットZ06」が1台だけある。その色は鮮やかなイエローだ。われわれAUTO BILDは、その希少かつ貴重なモデルを独占取材し、実際に試乗してみた。※この記事は「AUTO BILD JAPAN Web」より転載したものです。
欧州とアメリカを分ける規制の壁
モータージャーナリストにとって、あこがれの一台である。船から上陸したばかりの新型Z06。「ラウジッツリンクに来れば、見ることができますよ」と、コルベットのエキスパート、パトリック・ハーマンからお声がかかった。彼はわれわれ走り屋の窓口であるだけでなく、多くのアメリカ仕様のモデルをヨーロッパに適合させているのだ。
「F-Z 6071」は、アメリカのボウリンググリーン(ケンタッキー州)の工場からヨーロッパに船で送られた最初のZ06である。ハーマンは、それをEUの規制に適合するよう質の高い調整を施す。何千キロも走って、すべてが現地の要求を満たしていることをテストし確認するのである。
このZ06は、EUの要件を満たした最初の市販車だ。それはなによりも排気系に表れている。USモデルでは中央の4本のテールパイプに流れ込み、ド派手なサウンドを周囲に放つ。
そして、その部分がまさに問題なのだが、私たちが美しいと思うものは法律によって迷惑なものと定義されているのだ。そのため、旧来の市場向けには、よりオーソドックスな排気システムが必要とされ、もちろんガソリンパティキュレートフィルターも装着しなければならなかった。ヤンキーはそんなこと一切気にしない!
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5.5リッターV8エンジンを新開発
しかし、それはあくまで一過性のものであって、私たちが気にする必要はない。Z06は性能がすべてだ。この構成でもまだ残忍な音がするので、ラウジッツリンクのピットでのコールドスタート時には、近くのドレスデンにいても聞こえるような咆哮(ほうこう)を放った。
喜びの源は、現代のエンジン技術にある。信じがたいことだが、シボレーはコルベットZ06に真新しい5.5リッターエンジンを与え、シリンダーバンクあたり2本のオーバーヘッドカムシャフトと32個のバルブにより、古くからのコルベットの伝統を破ったのだ。これまでコルベットのV8はすべてボトムマウントのセントラルカムシャフトと、クラシックなプッシュロッドとロッカーアームによるバルブトレインを採用してきた。
全部が? いや、1980年代末にアングロサクソンの小さな村が猛烈に抵抗したのだ。この村はヘセルと呼ばれ、当時ゼネラルモーターズが所有していたライトウェイトスポーツカーの専門メーカー、ロータスの本拠地である。ここで、C4コルベットの「ZR1」用に伝説の「LT5」が開発され、現在のC8 Z06の「LT6」と同じ設計で製造されたのだ。このように、新型車は大きなレガシーを受け継ぎながらも、過給機なしという点では、祖先に忠実なのだ。
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違うのはエンジンだけではない
そして、それはさらに良くなる。LT6は、モータースポーツから、あるいはフェラーリや「メルセデスAMG GTブラックシリーズ」との共同開発からも知られているように、フラットプレーンクランクシャフトを備えている。これは、エンジンがレース由来のものだからだ。より正確には、過去2年間のルマン24時間レースで純粋なスピードという点で「GTE-Pro」マシン最速を記録した「C8.R」から転用されたものだ。
エンジンブロックはもちろんのこと、鍛造ピストンもオールアルミ製で、ドライサンプ潤滑システムによって強大な遠心力のもとでも重要な部分にオイルが行き渡るようになっている。その結果、レブリミットは8600rpmとなった。
シャシー面でも、トップモデルの予備軍(ZR1の可能性についてはまだ沈黙が続いている)には、もはやベーシックモデルとの共通点はあまりない。フロント20インチ、リア21インチという大径ホイール、ワイドトレッド、ハードな基本セッティング。スプリングだけでも標準モデルより35%硬くなっている。
そのため、ショックアブソーバが反発したときに、スプリングの伸びに対してショックアブソーバの移動量が多すぎるという問題があった。そこでコルベットでは、構造体に一定の基本張力を与えるヘルパースプリングと呼ばれるスプリングを設置した。ポルシェでも「911カレラGTS」以降でおなじみのものだ。
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さらなる速さを実現するオプションの数々
オプションの「Z07パッケージ」(試乗車に装着されていた)には、アダプティブサスペンションの専用チューニングにより、さらに引き締まったサスペンションセッティング(オーダーコード:FE7)が用意されている。また、フロントスプリッター、フリック、巨大なリアウイングを備えたカーボンファイバー製エアロキットも同梱(どうこん)されているが、残念ながら傾きを調整することはできない。
そして、フロント399mm、リア391mmのセラミックコンポジットブレーキと、リアアクスルに345mm幅のスティッキーな「ミシュラン・カップ2 R」を装備している。もちろんこれらはZ06のニーズに合わせた特別なものだ。
オプションとして、カップ2 Rタイヤには、オーストラリアのメーカーであるカーボンレボリューション(Carbon Revolution)のフルカーボンリムを装着することも可能だ。フェラーリや「ルノー・メガーヌR.S.トロフィーR」のカーボンファイバー製ホイールもここが製造している。これだけでも、従来のリムより18.6kgの軽量化になる。
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まさに“公道用レースカー”
しかし、理論的な話はもういい、実践してみよう。コーナリングの写真では、右側のゲートからスイングしている。ボタンを押せば、5.5リッターに命が吹き込まれる。車内では、外から見るよりもさらに一段とソウルフルなサウンドを奏でる。ピットレーンからクルージング、ここラウジッツリンクの路面のつなぎ目や排水溝も、標準モードのZ06はきれいに吸収してくれる。この妥協のない設計は、意外と知られていない。
写真には、シャシーのなかで何かが起こっている様子が写っているはずなので、当面はノーマルモードのままにしておこう。カップ2 Rの温度が上がっていなければ、生卵の上を走っているような感覚になるので、とにかく最初はタイヤがリミッターだ。しばらく走って、初めてクルマに命が吹き込まれる。コーナリング速度が上がり、シートボルスターが肋骨(ろっこつ)に深く食い込み、パトリックの顔がどんどん大きくなっていくのだ。
ローンチコントロールによるスタートでは、タイヤがアスファルトに食い込んでいくのが感じられる。タイヤが温まったところでパトリックはモードを「シャープ」に切り替え、ローンチコントローラーを作動させ、スタート・フィニッシュ・ストレートに向かって猛烈にプッシュしていく。コルベットは0-60マイル(96km/h)=2.6秒と規定している。
EUの自動車が最終的に何を実現し、何を消費するかは、まだホモロゲーションされていない。だが1周目にして、この測定器は本当に速いタイムを期待できることが、すでに明らかになっている。
結論
Z06と新開発の5.5リッターエンジンによって、シボレーはついにコルベットを現代によみがえらせたのだ。この“ヴェット”は、ベーシックモデルとの共通点がほとんどない。“公道用レースカー”という表現がぴったりだ。
(Text=Alexander Bernt/Photos=Chevrolet)
記事提供:AUTO BILD JAPAN Web(アウトビルトジャパン)
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AUTO BILD 編集部
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