シボレー・コルベットE-Rayクーペ3LZ(4WD/8AT)
未来への懸け橋 2024.09.04 試乗記 「シボレー・コルベット」史上初のハイブリッドモデルであり、初の4WDモデルである「E-Ray」。伝統の6.2リッターV8 OHVエンジンと先進の電動ユニットの組み合わせは、どのような走りを見せるのか? “初物づくし”のアメリカンスポーツの真価に触れた。ハイブリッドは意外やシンプル
コルベット初のハイブリッドモデルに与えられたE-Rayなるサブネームは、いうまでもなく、電動(Electric)を意味する「E」と、本国仕様のコルベットのサブネーム「Stingray(スティングレイ)」をもじったものだ。さすがは英語ネイティブの国だけに、その字面といい、語感といい、E-Rayというそのネーミングは、めちゃくちゃカッコいい。
コルベットといえば、ジョー・バイデン現アメリカ大統領も、1967年に父親からプレゼントされた2代目コルベットを今も所有していることで知られる。ついでにいえば、高齢を理由にもうすぐ大統領の座を退くバイデンさんだが、さすがはサングラスネイティブの国(?)の人だけに、「Ray-Ban(レイバン)」をかけた姿だけは、80歳をすぎても見事にキマッている。なんにつけても、ネイティブ≒元祖に追いつくのは簡単ではない。
閑話休題。そんなコルベットE-Rayだが、ハイブリッドネイティブの日本車から見ると、その動力システムはよくも悪くもシンプルだ。その基本構成はフロントアクスルに仕込まれたモーター(最高出力162PS、最大トルク165N・m)と、センタートンネルに潜り込ませた1.9kWhのリチウムイオン電池だけである。
つまりE-Rayは電動4WDなのだが、高性能ミドシップのフロントをモーター駆動にして4WD化する発想に、市販車で先べんをつけたのは日本の「ホンダNSX」だった。ただ、NSXはリアにもモーターを組み込み、さらに左右独立フロントモーターのトルクベクタリングによる強烈な旋回性も売りとした。対するE-Rayは、リアエンジン周辺は従来のままで、ただフロントに電動システムを追加したカタチとなっている。荷室などの実用性にもほとんど影響はないうえに、6.2リッターOHVの「LT2」エンジンの502PS、637N・mというスペックや8段DCTのギアレシオも変わりない。
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EV走行は“便利なオマケ”
コルベットE-Rayでは、フロントの電動モーターのみによるEV走行が可能なのも大きな特徴となっている。ただし、前記のようにフロント電動システムの独立性が高いのが、よくも悪くもE-Rayの特徴といっていい。よって、日本で一般的なシリーズパラレルハイブリッドのように、必要に応じてEVで発進したり、走行中にエンジンが停止したりはしない。E-RayでEV走行するには、EV走行専用の「ステルスモード」か「シャトルモード」でパワートレインを起動する必要があるのだ。
ちなみに、ステルスモードは条件が整えば72km/hまでの速度で最大6.4kmのEV走行が可能だという。そのシステム内容から想像できるとおり、EV走行時のコルベットE-Rayは前輪駆動である。もうひとつのシャトルモードも同じEV走行専用だが、ガレージや敷地内での低速移動を想定したモードである。
ステルスモード時は省エネのためにエアコンも自動的にオフとなることからもわかるように、これはあくまで、早朝や深夜の近所迷惑を回避するための一時的な隠密行動を想定している。酷暑下となった今回の取材では、ステルスモード走行時はシートベンチレーターが絶対不可欠な命綱となった。
ステルスモードのE-Rayは、電池残量があるかぎり、ていねいに運転すれば額面どおり約70km/h以下でのEV走行が可能だが、急な上り坂やアクセルを深く踏み込むなどの高負荷運転になったり、あるいは電池が底をついたりすると、自動的にエンジンが始動して通常の走行モードに移行する。こうしていったんエンジンがかかってしまうと、電池残量に関係なく、エンジンを停止して再起動しないかぎりはステルスモードに復帰することはない。このことからもわかるように、E-RayでのEV走行は、あると便利な機能ではあるが、あくまで余技にすぎない。
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フロントモーターはあくまで黒子
逆にいうと、ステルスモードやシャトルモードでのEV走行以外では、E-Rayがハイブリッドであることを明確に体感することは、よくも悪くもむずかしい。
標準の「ツアー」モードでは、アイドリングストップはするが、発進時はきっちりとエンジンが始動してからスタートする。日本のフルハイブリッド車のようにEV発進することもないし、エンジン側にマイルドハイブリッド機能が追加されているわけでもないので、アイドリングストップからの再始動もまったくもって普通のマナーである。
E-Rayのセンターディスプレイには「E-パフォーマンスApp」という専用ページがあり、そこにはフロントモーターとリアエンジンのリアルタイム出力(もしくはトルク)値が表示できる。それを観察しているかぎり、あくまで日常レベルの発進や緩加速ではエンジン走行が主体で、モーターアシストも最小限。資料などによると、フロントモーターは車速やアクセルペダル開度だけでなく、舵角やヨーレートなどもパラメーターにして緻密にトルクを発生しているというが、ディスプレイ上のリアルタイム表示によれば、制御の基本ロジックはさほど複雑ではないようだ。
アクセルを大きく踏み込むような瞬間には、フロントモーターのトルク配分も大きくなるが、そのまま大きなトルクを持続するわけでもない。また、ステアリングを切っているときは、フロント配分は控えめにした回頭性重視の制御をしているようにも見える。
さらにいうと、フロントにもっとも頻繁にトルクが配分されるのは日常用のツアーモードで、その上の「スポーツ」や「サーキット」などの硬派モードになるほど、フロントトルク配分の頻度は逆に減る。やはり、回頭性を重視しているのだろう。そのかわり、サーキットモードでは強く加速する際にフロントトルクをドーンと増大させて、ロケットのように強力なコーナー脱出加速を期するようだ。
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快適だった乗り心地がさらに快適に
エンジンとモーターが合わさって664PSというシステム出力を発生するE-Rayは、0-60mph(約96km/h)加速も2.5秒と、現行「Z06」をしのぐ「史上最速のコルベット」をうたう。それもあって、E-RayもZ06(や来るべき「ZR1」)と同様のワイドボディーに、タイヤもフロントが275mm幅の20インチ、リアが345mm幅の21インチという幅広大径サイズを組み合わせている。
瞬間的なシステム出力こそ(日本仕様の)Z06をわずかに超えるE-Rayだが、基本となるエンジン性能は標準のLT2そのままで、しかも、いざというときには4WDならではのフロントのけん引力も加わる。簡単にいうと、E-Rayの体感的なシャシー性能は、余裕しゃくしゃくである。
実際、今回のE-Rayは、筆者がこれまで乗ったどの8代目(C8)コルベットよりも、乗り心地がいい。C8を含めた歴代コルベットは、この種のスーパースポーツカーとしては望外に乗り心地がよかった。加えて近年のモデルでは、磁性流体による連続可変ダンパーがソフトになるツアーモードでの、フワリとした上下動も大きな特徴だった。しかしE-Rayでは、そうした上下動もぴたりと抑制されており、文字どおりの、見事なまでのフラットライドを披露する。
この素晴らしい乗り心地には、C8のサスペンションチューニングがいよいよ煮詰まってきたのに加えて、標準のクーペ比で140kgという重量増、しかもその重量増がフロントやセンターに集中していて前後重量配分が改善されたこと、そしておそらくはセンタートンネルに電池が詰め込まれたことによる低重心化と剛性アップ……がすべて奏功していると思われる。実際、段差を斜めに乗り上げるなど、この種のタルガトップが苦手とする場面での剛性感も、E-Rayでは印象的なまでに高い。
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燃費のための電動化にあらず
似たような電動4WDのミドシップといっても、左右トルクベクタリングでウニウニと曲げていたNSXとは異なり、E-Rayの乗り味はよくいえばナチュラル、意地悪にいえば、そのありがたみを明確には感じづらい。しかし、それは絶対的なフロントトルクが控えめで、かつ電動ならではの電光石火かつ緻密なトルク配分によるところも大きいのだろう。
しかし、これほどの高性能ミドシップを、ウエット路面でも安心して踏めたのは、やはり4WDの恩恵というほかない。とくにフロント配分が頻繁になるツアーモードでは、旋回時にフロントが引っ張られる感覚がかすかに漂い、それが安心感につながっている。
サーキットモードでは、そうした安心感が薄れるかわりに旋回が明らかに鋭くなる。それでも、コーナー出口で思い切った加速態勢に入っても、走行ラインがまるで乱れないのは余裕のシャシー性能に加えて、やはり4WDの効果だろう。そして、フルスロットル時のカン高いV8の鼓動と、キイーンという電動音が混然となった“E-Rayサウンド”はなんともオツというほかない。
そんな安定した走りをいいことに箱根の山坂道を走り回ったこともあってか、試乗中の燃費は、コルベットのなかでもとくに優れたものではなかった。日本仕様の正確な燃費性能は不明だが、米国EPA(環境保護庁)によるシティー/ハイウェイ複合燃費は、同じLT2エンジンを積む標準クーペとE-Rayは同等の約8.1km/リッターとなっている。
つまり、E-Rayの現時点での存在意義は、コルベットの環境性能を大きく引き上げることより、「電動モデルである」という事実そのものにあるのだろう。これだけで環境規制をクリアできる市場もあるし、さらにEV走行距離を延ばしたり、外部充電のプラグイン機能を追加したりすることもむずかしくなさそうだ。現状のコルベットE-Rayにはそこまで特別感はないが、逆にいうと、コルベット本来の魅力や味わいをほとんど損ねないどころか、より熟成された味わいを醸し出しつつ、このクルマの将来的な生き残りの可能性を高めてくれているわけだ。それがなによりありがたい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
シボレー・コルベットE-Rayクーペ3LZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4680×2025×1225mm
ホイールベース:2725mm
車重:1810kg
駆動方式:4WD
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:502PS(369kW)/6450rpm
エンジン最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/5150rpm
モーター最高出力:162PS(119kW)/9000rpm
モーター最大トルク:165N・m(16.8kgf・m)/0-4000rpm
タイヤ:(前)275/30ZR20 97Y XL/(後)345/25ZR21 104Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:19mpg(約8.1km/リッター、EPA複合モード)
価格:2350万円/テスト車:2354万6200円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション フロアマット(4万6200円)/ETC 2.0車載器(販売店取扱商品)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2075km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(6)/高速道路(2)/山岳路(2)
テスト距離:589.6km
使用燃料:87.53リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)/6.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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