すでに開発中!? 「GRヤリス」「GRカローラ」に次ぐトヨタの「GR〇〇」を考える
2023.02.06 デイリーコラム決してたやすいビジネスではない
高性能グレードを別系統仕立てにして販売する戦略そのものは、決して目新しいものじゃない。1980年代ごろのBMW Mを手始めにドイツ勢が積極的に推し進め、21世紀になってその本格的な興隆を目撃するや世界のブランドがこぞって追随した。見た目にも、そして数字的にもアピールしやすい“メーカー製チューニングカー”は、台あたりの収益を上げるとともにブランドイメージをも向上させる、さぞかし付加価値の高い戦略であるとフォロワーたちの目には映ったことだろう。
もっとも、実際にこのビジネスを成功させることはなかなか難しかったようだ。結局のところBMW MにメルセデスAMG、アウディスポーツ(RS)を加えたいわば“元祖御三家”のほかに大成功をおさめたブランドなどさほどなく、今すぐ思い出せる名を挙げても、レクサスのF、レンジローバーのSV、ボルボのポールスター(現在はBEVに特化)、アストンマーティンのAMRといった具合で、しかもご覧のとおりプレミアムブランドばかり。ゼネラルブランドの有名例で言うと、アメリカ勢に少し(クライスラーSRTやフォードSVOなど)と、ルノースポール(R.S.)、日産NISMOくらいだろうか。
そもそも付加価値があって、さらに価値を上乗せしやすいはずのプレミアムブランドにとっても難しい戦略(だから成功すればうまい)というのに、価格と販売網で勝負するがゆえに流行(はや)りに敏感なゼネラルブランドが、ブランド性の確立まで忍耐の必要なこの領域で成功することはさらに厳しいことだろう。
成功の鍵を握るポイントはモータースポーツ活動における活躍=勝利のイメージだ。例えばルノーはモータースポーツのトップカテゴリー(F1やルマン24時間)における大成功というバックグラウンドがあり、しかも忍耐強くマニアックな開発を続けてきたから斯界(しかい)でも有名になった。もっとも、そのR.S.さえアルピーヌと合体してしまうのだが、それはさておき。
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状況的に「トヨタならやれる」
そう考えると世界を見渡しても今やゼネラルブランドでこの戦略の適したブランドは、ルノーと同等のモータースポーツ実績を持つトヨタくらいしか残っていない。それまでTRDや外部のトムスなど分散していたレース=高性能イメージを再構築し登場したGRブランドは、F1に参戦したのちWEC(世界耐久選手権)、WRC(世界ラリー選手権)といった最高峰モータースポーツ活動で成果を上げたタイミングとも重なり(いや、その戦略性の妙も認めざるを得ない)、業績の安定とも相まって、成功するための条件が見事にそろっていた。
もっとも、肝心の高性能モデルやグレードに魅力がなければ成功はあり得ない。キーとなったモデルはブランドオリジナルのスポーツカー(「86」と「スープラ」)ではないだろう。これらはあくまでもGRというブランドが“高性能”であることを象徴するいわば旗印だ。実績をつくっていくのはゼネラルブランドの神髄というべき大衆車の高性能版、つまり「GRヤリス」(厳密には「ヤリス」とは異なる専用設計だが)や「GRカローラ」のほうだと思う。ルノースポールのように、ごく普通のモデルにある種の“狂気”を持ち込んだ高性能化の手法は、あからさまなギャップを生み出し、それゆえクルマ好きを狂喜乱舞させた。GRスポーツ→GR→GRMNという高性能車三段活用や限定販売ビジネスといった過去の成功例に学んだ戦略もまた、最近になって一気に認知の高まった要因だといえそうだ。「GRスーパースポーツ」の市販断念は残念だったけれど。
もっともGRが今後ドイツ御三家のように成功するためには、言わずもがなのことながら、これからのモデル展開がいっそう重要になってくる。今しばらくはニューモデルで世間を驚かせ続け、しかも既存のモデルの着実な進化も怠ってはならないから、そう簡単ではない。このビジネスモデルを推進した社長と役員のコンビが会長と社長に上方スライドした今、視界は良好、その継続性(=ブランド成長の肝)には問題がなさそう。とはいえ、陰ったときには踏ん張りより早い決断もあり得るという一抹の不安もあるが……。
理想はハイパフォーマンス・ハイブリッド
お節介に先のことを心配していても始まらない。まずは次のモデルに期待しようではないか。「MR2」や「セリカ」といったヘリテージのある専用スポーツモデルの復活誕生を心待ちにするのもいいけれど、ドイツ勢を見ても成功の礎となってきたのは “フツウのクルマ”ベースのフルチューンモデルである。ゼネラルブランドならば特に、その領域で勝負しなければ高性能車をつくる意味がないし、個性も表れない。
そう考えると次なるGRの候補は、個人的に見てみたいという願望も加えて、新型として発表されたばかりで、しかも話題を振りまいた「クラウン クロスオーバー」(のターボハイブリッド)と「プリウス」だ。いずれもメーカーでなければ総合的なチューンナップの難しい電動モデルであり、それゆえGR=メーカー謹製チューニングの意味がある。泥汗くさい(嫌いじゃないけれど)モデルばかり、というイメージを払拭(ふっしょく)することもできる。今やスポーツが高級の一端を担っている以上、“スマートな過激さ”も欲しい。ハイブリッドカーの高性能版はそんなイメージアップにも有効だ。
さらに付け加えるならば、クラウン クロスオーバーをGR化することで、待望の高性能SUVも生まれる。これまで、見た目や足まわりの変更にとどまる“GRスポーツ”ならSUVも見られたが、パワートレインにまで手を入れた高性能版はない。「GRクラウン クロスオーバー」が誕生すれば、その第一歩となってさらに「GRハリアー」といったプラットフォームを共有する人気モデルへの派生も可能になる。さらに“話題のあのデザイン”をまとう「GRクラウン スポーツ」も見てみたいものだ。
最後に。燃費を気にするハイブリッドカーに高性能版なんて本末転倒な話だって? それはエコの基準をどこに置くかで変わるだろうし、今やハイブリッドカーにしたところでエコ一辺倒ではない。各種制御を磨き上げて高性能化を図ることは次世代モデルへの進化にも寄与する。ユーザーの欲望や興味が尽きない限り、ハイブリッドカーもBEVも、その高性能版が今後も登場し続けることだろう。
(文=西川 淳/写真=トヨタ自動車、BMW、webCG/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。