アルピーヌA110 R(MR/7AT)
懐の深いクラブスポーツ 2023.02.07 試乗記 アルピーヌの軽量ミドシップスポーツモデル「A110」に、走りを突き詰めた「A110 R」が登場。専用の足まわりとエアロダイナミクスが与えられ、同時に徹底した軽量化がなされたA110は、“Radical”という形容がふさわしい希有(けう)なマシンだった。最も“過激”な「アルピーヌA110」
昨年(2022年)、F1日本グランプリのタイミングに合わせて神奈川・横浜で世界初公開された「アルピーヌA110 R」。その国際試乗会が、スペインはマドリードの郊外で開催された。
既報のとおりA110 Rは、A110における最も走りに特化した仕様だ。その価格はベースグレードであるA110の845万円に対して1500万円と、非常に高額となっている。しかもアルピーヌはこのA110 Rを、特殊な限定モデルではなくカタログモデルに据えるというから驚かされる。そして同時に、彼らの新たな顧客層開拓に対する意欲と、ガソリンモデルとしてのA110の余命を可能な限りポジティブなものにしようという心意気が感じられた。
そんなA110 Rのキャラクターは、アルピーヌによれば「最も過激なモデル」だという。“R”のバッジは“Radical”、「過激な」とか「徹底的な」という意味合いであり、当然ながらA110が持つ本来の性能を解き放つチューニングが施されている。しかしこれを走らせたとき、面白いことに筆者は、そこに過激さよりもスポーツカーとしての純粋さを強く感じた。
では、なぜアルピーヌはA110 Rを“過激”と表現するのか? ここがA110 Rにおける、キーポイントだといえそうだ。
試乗はまず、クローズドコースで行われた。見慣れたコックピットで新鮮に感じられたのは、R専用に仕立てられたレーシーなトリミングだ。ダッシュボードは光の反射を防ぐために、一面スエード調の素材で覆われていた。ステアリングホイールにも滑り止めのために同様の処理が施され、12時の位置が赤いレザーでマーキングされている。
シートはサベルトのカーボン製フルバケット。「A110 S」もカーボン製のシートを採用しているが、こちらはさらに肉薄で、2脚合わせて約5kgの軽量化を実現しているという。こう書くと体への当たりも相当硬いものと思われそうだが、座面には的確なポジションにパッドが貼り付けられており、座り心地はかなりいい。
そして実際に走らせてみると、その乗り心地のよさに、さらに驚かされた。
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専用のアシがかなえる驚異の旋回性
A110 Rの足まわりにはZF製の車高調整式サスペンションがおごられており、中間グレードのSに対して、スプリング剛性が前後ともに約10%、スタビライザー剛性がフロントで10%、リアで25%高められている。
サーキット試乗車では車高もA110 S比で20mmほど低くセットされていたが、ピットロードを走りだしただけで、これが単に硬いだけの足まわりではないとわかった。20段階の減衰力調整機能を持つダンパーが、かなりスムーズにバネ下の動きを制御していたのだ。
1981年までF1が開催されていたハラマサーキットは、全長3.4kmほどのミドルコース。平均速度が高い割に回り込んだ複合コーナーが多く、アップダウンもある。そんなテクニカルかつチャレンジングなコースを、A110 Rはオンザレールで駆け抜けた。
そのうえで大きな役割を果たしていたのは、「ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2」だ。「ホンダ・シビック タイプR」や「ポルシェ911 GT3」、同じくポルシェの「718ケイマンGT4 RS」といった本格派のクラブスポーツがこぞって採用する、浅溝のハイグリップラジアル。正直そこには“流行(はや)り”を感じたが、聞けばなんとこのカップ2は、そもそもミシュランがアルピーヌとの共同開発を経て世に出したタイヤなのだという。このタイヤを装着したA110 Rでひとつ気をつけることがあるとすれば、ミドシップスポーツカーであるこのクルマのフロント荷重が、極めて軽いこと。筆者もできる限りタイヤを温めようとウオームアップ走行したが、1コーナーのブレーキングではオーバーランして、グラベルにはまりかけた。
タイヤが温まってからのA110 Rのコーナリングは、切れ味の鋭さと懐の深さが高い次元で両立していた。低中速コーナーにおけるターンインの手応えは、“ガッシリ”というより“じわり”。ブレーキングからの高い荷重をダンパーが柔軟に受け止める印象で、そこにまず“A110らしさ”を強く感じる。コーナーのアプローチでブレーキをリリースしながらステアしていくと、かなり素早くノーズが切れ込む。ハラマは回り込んだコーナーが多いが、慣れないコースに目測を誤っても、きちんと曲がりきれるほど舵が素直に利く。
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フットワークを徹底的に磨く
感心するのは、このときのリアの安定性だ。クルマが一番不安定になる旋回中でも、タイヤは路面を捉え続ける。ちょっとやそっとじゃオーバーステアに至らないどっしり感が、A110やA110 Sとの大きな違いである。そしてクリッピングポイントに向かってアクセルを開けていくと、リアにトラクションをかけて、素早く立ち上がっていく。その加速感は、思わずおじけづくような速さではない。軽さとパワーが一気に押し寄せる、心地良くてチャレンジしがいのある加速感だ。
アルピーヌは今回、1.8リッター直列4気筒ターボに一切手を加えておらず、最高出力はA110 Sと同じ300PSにとどめている。その理由は、フランス国内のCO2排出量に準じた課税を抑えることが主な目的のようだが、代わりにアルピーヌは各部にカーボン素材をふんだんに投入することで、涙ぐましくもその車重を34kg軽量化している。
1082kgの乾燥重量に300PSのパワーの組み合わせで、パワーウェイトレシオは3.6kg/PSを実現。その瞬発力はついに0-100km/h加速で3.9秒を実現するまでに至ったが、むしろA110 Rの軽さと蹴り足が生きるのは、直線ではなくコーナーだといえるだろう。
リアウィンドウをカーボンフードに置換し、隔壁をハニカム構造のアルミパネルにして重心高を下げ、同時にホイールもフルカーボン化してバネ下重量の低減を図る。パワーを上げない代わりに、偏執的とも思えるフットワークの磨き上げを追求する姿勢こそが、“Radical”なのである。
より高い速度域を狙った空力のセッティング
空力特性の変更も、A110 Rにおける大きなテーマだ。
標準仕様のA110に対して、A110 Sはそのダウンフォースを、フロントで60kg、リアで81kg増強させている。対してA110 Rは、フロントが+30kgと少なく、代わりにリアは+110kgと大幅に増やしている。これはA110 Rのターゲットが、より高い速度域であることを示している。
フロントバンパーにはA110 Sと同じスプリッターを装着しつつ、開口部を専用パーツで狭めることにより空気抵抗を低減。ダウンフォースを高めたA110 Sが代わりに5%空気抵抗を増やしているのに対して、A110 Rはこれを標準車と同じ値まで下げることで、最高速をA110 Sの275km/hから285km/hまで高めた(-20mmのトラックハイト時)。
一方、リアダウンフォースの大幅な増強は、まずカーボンサイドステップでフロアを広げて床下面積を拡大(剛性アップにも貢献)。そのエンド形状で空気の流れを変えることにより、フロア下の空気がタイヤに直接当たって乱流を起こすのを防いでいる。さらにA110 Sで設定されたスワンネックタイプのリアウイングは、取り付け位置をよりハイマウントにし、かつ後方へオフセットすることでダウンフォース量を増強した。
こうした効果もあってだろう、A110 Rの高速コーナーにおける挙動は、とても安定している。
ただ速いだけのクルマではない
今回の試乗でひとつ残念だったのは、ウオームアップを含めて周回数が5周しかなく、その本性までは把握しきれなかったことだ。
試乗車はフロントダンパーの減衰力の設定が低めで、タイヤに高い荷重をかけ続けることが難しかった。慣れないハラマにどうしても早めのブレーキングをしてしまうが、対してリアはどっしり落ち着いているので、動きにリズムがつくれなかったのだ。
思うに、このフロントダンパーの減衰力設定は、オーバーステアのリスクを減らそうというアルピーヌ側の配慮だったと思う。減衰力やタイヤの内圧、そして前後の車高バランスをいろいろ試せば、A110 Rはもっとニュートラルなハンドリングを得られるはずだ。そしてこうしたセッティングを試行錯誤できる楽しみこそが、車高調整式サスを備えるA110 Rの最大の魅力である。
総じてアルピーヌA110 Rは、とても懐が深く、優しい操縦性を持ったピュアスポーツに仕上げられていた。サーキット試乗のあとには一般道も走行したが、オープンロード向けに車高を高めた試乗車の乗り心地は思った以上に快適で、サーキットまでの移動も、雨さえ降らなければ十分にこなせるという実感を得た。
ここで話を冒頭に戻すと、では、このA110 Rのなにが“過激”なのかといえば、それは走りの楽しさを徹底して追求する姿勢だ。655万円という標準車との差額の多くが、そこに注ぎ込まれているといっていい。このご時世にして、申し分なく過激なクルマだと言えるだろう。
ちなみにアルピーヌ・ジャポンは上半期に18台の日本導入枠を確保したが、それらは既に完売したという。しかしA110 Rはカタログモデルである。A110の生産が続く限り、その販売は継続されるとのことだ。
(文=山田弘樹/写真=アルピーヌ/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アルピーヌA110 R
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4255×1800×1240mm
ホイールベース:2420mm
車重:1090kg
駆動方式:MR
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:300PS(221kW)/6300rpm
最大トルク:340N・m(34.6kgf・m)/2400rpm
タイヤ:(前)215/40R18/(後)245/40R18(ミシュラン・パイロットスポーツ カップ2)
燃費:--km/リッター
価格:1500万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
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