レクサスRX450h+“バージョンL”(4WD/CVT)
全米が泣く予感 2023.02.15 試乗記 最近はあまり声高にうたわれないが、レクサスの神髄はやはり“おもてなし”にこそある。パワートレインも機能装備もすばらしい「RX450h+“バージョンL”」だが、困ったときに頼りになる隠された“スペック”にもぜひ注目していただきたい。PHEVが“フツーのハイブリッド”に
新型レクサスRXのPHEVモデルが450h+である。これまでレクサスはハイブリッドを“h”で表してきたが、そのあとに+がつくとPHEVになる。
今度のRXは2015年以来7年ぶりにモデルチェンジした5代目だ。レクサスは日本車のなかでもオーナーのブランド忠誠度が高い。例えば3代目RXに10年かれこれ乗った顧客が、次もRXにしよう! EVシフトも気になるが、まだ純EVに手を出す勇気はない。なんて経緯で選ぶのが450h+かもしれない。
大きめのバッテリーを積むPHEVだから871万円と高価だが、新型シリーズでプラグインではないハイブリッドは、新しいスポーツモデルの「500h」しかない。RXの“フツーのハイブリッド”がPHEVにバージョンアップしたことになる。
RX450h+のパワートレインは「NX450h+」と基本的に同じである。2.5リッター4気筒ハイブリッドのアウトプット数値も変わらない。駆動用リチウムイオンバッテリーの容量18.1kWhも同じだ。後輪はリアモーターで駆動する4WDで、2WDモデルはない。
外部充電は200Vか100Vの普通充電のみ。PHEVのSUVでも「三菱アウトランダー」とは違って、CHAdeMOの急速充電には対応していない。“バージョンL”はレクサスの上級グレード名だが、450h+は“バージョンL”しかない。
利得の大きいオプション
旧型RXのオーナーが初めて乗ったとして、まず最初に驚くのはドアである。取っ手はフツーだが、内側にスイッチがあり、レバーは固定でストロークしない。軽く握るだけで開けられる。
車内から出るときも、ドアの取っ手をつかんで押せば開く。eラッチシステムと呼ばれる。迷わず直感的に操作できるのに、いいもの感や新しいモノ感の驚きが大きい。レクサス流のおもてなしを象徴するような新趣向だと思う。
試乗期間中は寒かった。至れり尽くせりの装備のなかで一番ありがたかったのは運転席の輻射ヒーターだ。ステアリングポストの裏側にある20cm四方くらいの電熱ヒーターで、膝から足を“おこた”さながらに暖めてくれる。手動でオンオフもできるが、エアコンをオートにしておけば、よしなにしてくれる。2万2000円でこんなに利得の大きいオプションはないと思った。シートヒーターとステアリングヒーターは標準装備だから、コールドスタート直後から寒い思いをすることがなかった。こうした暖房装置を心置きなく使えるのは、電欠しないPHEVならではだろう。
先に燃料経済性について触れておくと、今回、402kmを走って29.5リッターを消費した。燃費は13.6km/リッター(満タン法)。車重2160kgのヘビー級でこのデータは悪くない。このとき、車載コンピューター表示によると、EVとしての「通算燃費」は4.3km/kWhだった。これは車重相応という感じだ。残念なのはガソリンが無鉛プレミアム指定であること。日本製のPHEVならレギュラー指定であってほしい。
走りは“EV推し”
外部電源でフル充電すると、EV走行換算距離は86km(WLTCモード)である。車重が150kg軽いNX450h+(88km)とほとんど変わらない。今回、フル充電からの航続距離を確認することはできなかったが、カタログ値だと電気だけでフルマラソン2回分を走れることになる。
「オート」モードにしておけば、ハイブリッドとEV走行を最適にミックスして走る。実際の印象としては明らかに“EV推し”で、高速道路の100km/h以上でも峠の上り坂でも、アクセルを全開にしなければEV走行する。
センターフロアのボタンで「EV」モードに固定すると、航続距離が1kmになったところでエンジンがかかった。今度は「チャージ」モードボタンを押して64km走ったら50kmに回復した。そのまま走り続けると、EV航続距離は最大65kmまで増えた。走行中のセルフチャージでは満充電にはならない。フルで8コマの充電量メーターで7コマが最高だった。
重たいクルマを走らせている感じは拭えないが、動力性能はすばらしい。充電モードだとマックス185PS、228N・mの2.5リッターエンジンだけで走ることになるが、その場合でもひとり乗車で不満を感じることはまったくなかった。ただ充電モードでは停車中でもエンジンが回り続けるので、そのときだけは静粛ではない。
レクサスならではの“スペック”
諸経費込み900万円クラスのレクサスだから、運転支援システムは最上級のものが備わる。なかでも感心したのは「プロアクティブドライビングアシスト」の減速支援という機能である。信号待ちの前車に近づいたり、前走車に続いてカーブに進入したりするときなどに、自動ブレーキが働く。その制動フィールが極上なのである。まるでスピードを吸い取ってくれるかような滑らかな減速は、どんな熟練ショーファーにも不可能だと思う。
と、そんなふうにRX450h+は時に驚きを伴うほどの“いいもの感”を与えるクルマである。そして、歴代RXのなかでも最も“大作”な感じがした。
試乗中、平均燃費表示の出し方がわからなくて困った。試乗車にフルサイズの紙のトリセツは載っていなかった。そこで、センタースクリーンのボタンを押して、レクサスオーナーズデスクに問い合わせてみた。コール1回で出た女性に質問する。技術的なことにくわしいスタッフが別にいるらしく、しばらく待たされたが、対応は最後まで実に丁寧かつ誠実で、かえって申し訳ない気がしてきた。10分あまりのやりとりの末、センターディスプレイのタッチスイッチでいくつかの階層を進んでいくと、平均燃費の「最新値」が表示されることがわかった。
ディーラーを持たず、ネットでクルマを販売するメーカーも現れる時代。こうしたサービスもレクサスの強力な“スペック”である。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
レクサスRX450h+“バージョンL”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4890×1920×1700mm
ホイールベース:2850mm
車重:2200kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:185PS(136kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:228N・m(23.2kgf・m)/3600-3700rpm
フロントモーター最高出力:182PS(134kW)
フロントモーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:309PS(227kW)
タイヤ:(前)235/50R21 101W/(後)235/50R21 101W(ブリヂストン・アレンザ001)
ハイブリッド燃料消費率:18.8km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:83km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:86km(WLTCモード)
交流電力量消費率:178Wh/km(WLTCモード)
価格:871万円/テスト車=944万8100円
オプション装備:ボディーカラー<ソニックカッパー>(16万5000円)/ルーフレール+パノラマルーフ<チルト&アウタースライド式>(20万9000円)/充電ケーブル<AC200V・15m>(8800円)/デジタルキー(3万3000円)/輻射ヒーター(2万2000円)/“マークレビンソン”プレミアムサラウンドサウンドシステム(27万9400円)/寒冷地仕様(2万0900円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2542km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:402.2km
使用燃料:27.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.6km/リッター(満タン法)/14.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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