ポルシェ911ダカール(4WD/8AT)【海外試乗記】
これぞ万能ポルシェ! 2023.02.15 アウトビルトジャパン モロッコの砂丘で、サーフィンを楽しむ!? 1984年、ポルシェは全輪駆動の「911」でパリ-ダカールラリーを制覇。そしていま、「911ダカール」が帰ってきた。1605kgの軽さと480PSのパワフルさを誇る全輪駆動のニューモデルを、砂漠でテストする。※この記事は「AUTO BILD JAPAN Web」より転載したものです。
スポーツカーで砂山に!?
アトラス山脈の南、「サハラの玄関口」と呼ばれる150m級の砂丘がそびえるモロッコで、夜は寒く、昼は短く暖かい砂のアスファルトの上を、ツッフェンハウゼンからのキャラバンが疾走している。一台あたり20万ユーロ(約2860万円)以上もする911のオフローダーだ。
最初の1人が砂利道に入り、次の1人が砂煙の中に突入していく。それは到底、道とはいえない。そして、ラリーモードで100km/h以上のスピードで走る。面が砂になり、深くなり、目の前の無人の土地から砂丘が伸びてくる。タイヤの空気を1.2気圧まで抜くと……、なんというか、砂山に突っ込んでいくかのようだ……。
これはいったい何なのか、何が起きているのか。気持ちと心が「ダメだ」「置いていけ」「やめろ」「やめろ!」と声高に叫ぶ砂地の荒野に、2ドアのスポーツカーを走らせるというアイデア。誰が狂っているのだろうか。
1984年のパリダカ優勝車をイメージ
われわれは今、ポルシェ911ダカールの試乗会に参加している。「有名なラリーに向けて練習する人たちがいるなか、ポルシェは全輪駆動の伝説の改革が何を可能にしたかを提示したい」。それが、10年余り前、ポルシェの開発者であり、現在はダカールプログラムを率いるトーマス・クリッケルベルグ氏が漠然と考えていたことだった。そこで考えついたのが、1984年の911ダカール優勝車を復活させるのはどうだろうというアイデアだった。当時の美点と今日の技術革新とを組み合わせた一台である。
1981年、ポルシェはIAA(フランクフルトモーターショー)で、4×4としてコンバーチブルのスタディーモデルを発表、そのスタディーモデルは、1983年には「911カレラ3.2 4×4」、1984年にはラリー優勝車、そして1988年には「ポルシェ911カレラ4」となり、その旅は新たな次元に突入していった。クリッケルベルグ氏はサムアップして、その後、重要な開発段階でも何度も親指を立てるようになった。そして、プロジェクトは具体化していったのだった。
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アスファルトの上でも本物のポルシェ
3年前からは、ピレリも参加した。タイヤは専用に開発されたものを使用。クルマの外観をさらにまとまりのあるものにする粗いトレッドは深さ9mm、強化されたサイドウォールとトレッドは2つのカーカス層で構成されている。そして、911ダカールの足もとには、フロント:245/45ZR19、リア:295/40ZR20サイズの「ピレリ・スコーピオン オールテレインプラス」というオールテレインタイヤが装着されている。したがってポルシェは、アスファルトの路面でもスポーツカー並みのダイナミクスを約束する。
911ダカールには、最高出力480PS、最大トルク570N・mの3リッターツインターボ6気筒エンジンが搭載されている。8段PDK仕様では、0-100km/hを3.4秒で到達し、最高速度はワンダータイヤでも240km/hが限界となる。その代わり、ポルシェは「ハイレベル」モード、つまり地上191mmの高さで170km/hまでの加速を可能にする。ランプブレークオーバーアングルはSUVレベルだ。ホイールアーチはより広くなり、フロントとリアのシルはステンレススチール製エレメントで固定されている。また、エアインテークにはステンレス製のグリルを採用し、石の破片から保護している。
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新しいドライビングモードで軽快な走りを実現
砂丘で、なぜこんなに足取りも軽く動ける(=常にアクセルを踏んでいられる)のか、ちなみに同行した「カイエン」よりも優れているのは、新開発のドライビングモードである「ラリー」および「オフロード」と、重量のせいだ。1605kgと「911カレラ4 GTS」より10kg重いだけなのだ。後部座席を取り払って、軽量ガラスを装着し、フロントリッドやリアスポイラー、シートはCFRP製だ。
もちろん、伝説のラリードライバーであるヴァルター・ロール氏もマシンのセットアップに携わった(氷雪路の上でも)。それにしても、こんなクルマが世界に必要なのだろうか。そして、限定生産モデルとして? もちろんイエスだ。ポルシェには常に、ビーコン、パフォーマンスのピーク、「すごい」と言われるクルマが必要なのだ。それには、完全にフィットしている。
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このリフトシステムは他の911にも適合する
そしてサンドサーフィンでは、特にその後の疲れ切った幸せな数分間が印象的だ(幸いなことに内蔵のトーイングアイは必要なかったが……)。このようなことは、大量生産モデルシリーズでも成功することだろう。他の911に搭載されるリフトシステム? なんとも楽しそうだ。移動が制限される世の中でも、元気に“遊べる”大きな砂場は存在し続けるのだ。ちなみに、これは電気的に行うこともできる。
もうひとつ。2500台限定のポルシェ911ダカールには、(傷のつきにくい)限定時計がおまけで付いている。しかしその費用はLED付きの豪華なルーフバスケットに使ったほうがいいように思う。すべての911ダカールには、すでに適切な12Vの電源接続口が上部に備わっている。折りたたみ式のシャベルや回収ボード、水や燃料を入れるキャニスターも用意されている。また、レトロな塗装仕上げもいろいろとある。スタートナンバーも購入した人が選べるようになっている。そして、1984年当時の「Rothmans(ロスマンズ)」の代わりに、ニコチンフリーの特許を取得した「Roughroads(ラフロード)」と書かれている。
結論
果たして砂漠を泥まみれで走るスポーツカーは、この世界に必要なのだろうか? 確かにそのとおりだ。ポルシェのようなブランドに、このようなクルマが必要なのだろうか? という疑問を持つ人は確かに存在するだろう。その疑問への私からの回答は「イエス」だ。ハードウエア+ソフトウエア+ドライビングエクスペリエンスを、これほどまでに提供するブランドはない。機能することーーそれが(それも)重要なのだ!
(Text=Tom Drechsler/Photos=Porsche AG)
記事提供:AUTO BILD JAPAN Web(アウトビルトジャパン)
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AUTO BILD 編集部
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