電動車の次なる進化のキモは? 「e-POWER」にかける日産の戦略と技術開発の最前線
2023.03.17 デイリーコラムEVと「e-POWER」の両輪で未来に臨む
日産というと、日系自動車メーカーのなかでは“EV(電気自動車)推進派の筆頭”みたいに言われる存在である。もちろん、それが的ハズレというわけではない。広くEVを売り始めて今年で13年目の老舗だし、エネルギーインフラにクルマを組み込む“V2H”や“V2X”の施策にも前のめりだ。バッテリーのリサイクル事業にも早くから取り組んできたあたりには、パイオニアとしての自負すら感じる(参照)。日産、スバラシイ。
加えて、EVに積極的だからといってHEV(ハイブリッド車)の未来に懐疑的でないあたりも、このメーカーの特異なところだ。詳しい方ならご存じのとおり、彼らはこのほど、EVとHEVの両方に使う次世代電動パワートレインを発表した(参照)。詳細は当該ニュースをご覧いただくとして、ざっくりまとめると「EV用ユニットとHEV用ユニットの部品共用化をさらに進めてモジュール化し、パワートレインのコンパクト化と低コスト化を図る」というものだ。
過去にも紹介しているとおり、日産はEVと並んで、シリーズハイブリッドシステム「e-POWER」の搭載車も、これからの電動化戦略の柱に据えている(その1、その2)。例えば電動車のモデルミックスに関しては、最新の発表では「19車種のEVを含む27車種を展開する」と説明。27-19=8で、残りの8車種はHEVというわけだ。また今回の説明会での配布資料を見たところ、「主要市場における新車の100%電動化」をもくろむ2030年代早期の時点でも、その電動車の4分の1ほどはe-POWER車が占めるグラフとなっていた。
日産によると「キックスe-POWER」などはメキシコで“みなしEV”として補助金の対象にもなっているらしく、やはり電気インフラが整わない地域では、HEVは環境負荷低減に有効な手立てなのだ。日産も、向こう10年はe-POWERに主力の一翼を担わせようとしているわけで、そりゃ改良・改善に力が入るというものですよ。
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劇的な進化を続ける半導体と集積回路
かように今後の進化・発展に大きな期待が寄せられているe-POWERだが、2016年11月の先代「ノート」でのデビュー以来、これまでの6年余りでも長足の進化を遂げてきた。
先行開発に供されたのは「リーフ」をベースとしたテストカーなのだが、そのe-POWER試作車と第1世代のノートe-POWER、現行にあたる第2世代のノートe-POWERのエンジン(?)ルームをのぞいてみると、第2世代e-POWERではパワーユニットが大いにコンパクト化している。
特に顕著なのが、エンジンルームの左側(写真で言うと向かって右側)にのぞくインバーター。第2世代では第1世代と比べ、実に40%もの小型化と30%もの軽量化を実現しているのだとか。わずか6年でこの進化はスゴいが、その飛躍を支えたのが、基盤の組み方の変更などによる空間効率の追求、そして基盤そのものの高効率化だ。
お話をうかがった日産の技術者によると、初代リーフの頃は、どのサプライヤーに話してみても「電動車のパワートレイン用の基板なんて、商売になるかいな」とけんもほろろ。当時の日産は各種コントローラーを内製してガンバっていたという。それが、電動車の普及につれてサプライヤーの態度も変わり、今日では「こんな技術があるんだけど」と、あちらから提案してくるまでになったのだとか。今後は、より損失が少なく高効率なSiC半導体も投入し、インバーターのさらなる高出力化・高密度化を推し進めていくとのことだった。
ちなみにだが、サプライヤーに頼る部分も大きくなった今日の基盤開発だが、その現場ではいまだにハンダゴテの職人が健在。素人だと視認もできない細かい回路の改良もこなす、技術五輪のチャンプみたいな人が活躍しているのだとか。“未来のクルマの開発”というとソフトウエアの話ばかり聞かせられる昨今だが、まだ職人の指先に負うところも少なくないのだそうだ。
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これからは「エクストレイル」式が主流?
話を電動パワートレインの進化に戻すと、そのキモはインバーターの高効率化だけではない。最終的に駆動力を発生するモーターも、日進月歩で進んでいる。
例えば今日の日産では、リーフとノートe-POWERでモーターを共用している。それどころか、実はインバーターの主要コンポーネントやモーターコントロール基盤も同じと、すでに大幅な部品の共用化が実現しているのだ。 ……が、それはモーターとは関係のない話なので、今回は割愛する。とにかくリーフとノートe-POWERのモーターは同じものなのだ。さらに「アリア」のモーターも見ると、前者が永久磁石式、後者が巻線磁界式という違いはあるが、いずれもステーターは銅線をぐるぐると巻き付ける巻線式だ。これが最新の「エクストレイル」では、無数の角型銅線をブスブスと差し込んで組み立てる、セグメントコイル式となっている。なぜか?
こちらでも技術者の方に話を聞いたところ、丸型銅線を使った巻線式では、銅線占積率(空間あたりの銅線の密度みたいなもの)に限度があり、体積あたりの高出力化が難しくなるのだとか。また銅線と銅線の間にすき間が生まれるため、放熱性でも不利になるという。氏いわく、「空気は最強の断熱材(憎悪)」とのことだった。断面の四角い角型銅線を使ったセグメントコイル式は、これらの点でコンベンショナルな巻線式より有利なのだ。
生産設備も絡んでくるので今すぐにとはいかないだろうが、今後は日産製EVおよびHEVでも、セグメントコイル式のモーターが増えてくるのかもしれない。
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フクザツな要素がフクザツに絡み合う
さらに、同じ技術者に「これからのモーターの進化のキモは?」と尋ねたところ、シンプルに「小型化・軽量化!」との回答を得た。車種によっては1万rpmを超えてブン回る自動車用のモーターは、遠心力で壊れないようローターが(そしてステーターも)鉄のカタマリでできており、当然のこと、これがとてつもなく重いのだ。この鉄塊を磁力で回すのだから、要するエネルギーは膨大である。モーターの構成部品を軽量化できれば、高効率化につながるというわけだ。
ここで筆者のごとき素人は、「そこまで分かっているんなら、小型化・軽量化すればいいのに!」と安直に思うのだが、コンパクトなモーターでクルマを動かすパワーを出すには、今以上に高回転化しなければならない。そしてモーターを高回転化するには、インバーターを制御する基盤の処理速度も上げねばならず、半導体の進化が不可欠……と、その課題はピタゴラスイッチ的に他の領域にも広がっていくのだった。
自動車というのは、さまざまな構成要素が絡み合ってできており、どこかひとつがよくなっただけでドーンと進化するわけではないのだ。こればかりは電動車だろうと純エンジン車だろうと変わらない、自動車開発についてまわる不変の悩みだろう。今回の取材では、そんな当たり前の事実も再認識できた次第である。
(文=webCGほった<webCG”Happy”Hotta>/写真=日産自動車、本田技研工業、webCG、newspress/編集=堀田剛資)

堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。