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第660回:大事なのはCO2削減だけにあらず 日産の新工場にみる自動車製造の未来と課題

2021.10.21 エディターから一言
新設された「ニッサン インテリジェント ファクトリー」のラインにて、統合自動検査を受ける「日産アリア」の先行量産車。
新設された「ニッサン インテリジェント ファクトリー」のラインにて、統合自動検査を受ける「日産アリア」の先行量産車。拡大

生産効率の向上に環境負荷の低減と、あまたの課題が山積している自動車の製造現場。それに対する日産の回答が「ニッサン インテリジェント ファクトリー」だ。新設された電気自動車(EV)「アリア」の生産ラインから、彼らの思い描く“未来の工場”の在り方を読み解く。

栃木工場は、日産車のなかでも「スカイライン」や「フーガ」「GT-R」といった車両の生産を担う国内の重要生産工場である。今回は、実験部を含む6つの建屋のうち、「♯2ライン」に属する2つの工場が全面刷新された。
栃木工場は、日産車のなかでも「スカイライン」や「フーガ」「GT-R」といった車両の生産を担う国内の重要生産工場である。今回は、実験部を含む6つの建屋のうち、「♯2ライン」に属する2つの工場が全面刷新された。拡大
「ニッサン インテリジェント ファクトリー」が導入されるのは栃木工場が初。投じられた資金は実に330億円で、生産設備が刷新されただけでなく、第2工場については一度更地にして、建物そのものからつくり直されたという。
「ニッサン インテリジェント ファクトリー」が導入されるのは栃木工場が初。投じられた資金は実に330億円で、生産設備が刷新されただけでなく、第2工場については一度更地にして、建物そのものからつくり直されたという。拡大
ビジターセンターに展示された新型EV「アリア」。栃木工場の新しいラインでは、同車の生産が行われる。
ビジターセンターに展示された新型EV「アリア」。栃木工場の新しいラインでは、同車の生産が行われる。拡大
「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の概要を説明する、日産自動車の坂本秀行副社長。
「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の概要を説明する、日産自動車の坂本秀行副社長。拡大

日産が思い描く“これからの自動車工場”

今回は皆さん大好きな自動車……ではなく、自動車が生まれ出(い)づるところ、工場のお話である。先日、日産の新型EV、アリアの生産ラインを見学する機会があったので、せんえつながらそこで得た所見を開陳させていただきたい。

日産の次世代戦略を担う最重要モデルとして、目下デリバリーの準備が進められているアリア。その生産は、日産車のなかでも「スカイライン」や「GT-R」といった高付加価値商品を手がける、日本の栃木工場で行われる(中国向けだけは中国の工場で生産される)。注目すべきはそのラインで、日産はアリアの生産を機に、同工場にニッサン インテリジェント ファクトリーを導入。新しいクルマのリリースに、新しい生産体制で臨むこととした。今回の見学会は、記念すべきインテリジェント ファクトリー第1号の、メディア向けのお披露目会でもあったわけだ。

というわけで、今回の見学の主たるテーマは、このニッサン インテリジェント ファクトリーというやつである。詳しくは過去記事もご参照いただきたいのだが、この聞き慣れないカタカナの羅列は、大仰に言うと自動車製造の未来へ向けた「日産独自のクルマづくりコンセプト」(プレスリリースより)である。彼らが開発した次世代の生産技術と、それを実現する設備、それらが導入された工場の総称とでもいえば、まあ間違いではないでしょう。

この“クルマづくりコンセプト”については、導入の意図、投入される技術ともに2019年にかなり詳細に説明がなされている。今回のイベントはその実物の披露が目的で、新しい情報の発表はないだろう……と油断していたのだが、そんなことはなかった。今や業界の一大関心事であるカーボンニュートラルの実現へ向けた、工場での施策が発表されたのだ。

新たに追加された“環境”という目標

そもそも2019年11月時点では、インテリジェント ファクトリーの柱は「未来のクルマを作る技術」「匠(たくみ)の技で育つロボット」「人とロボットの共生」の3つだった。それが今回の発表では、いつの間にか「ゼロエミッション化生産システム」も追加されて柱が4本になっていたのだ。

この2年間で何が起きたのか、背景に何があるかは言わずもがなだろう。日産も今年(2021年)1月には、2050年のカーボンニュートラル実現へ向けたロードマップを明らかにしており、そこにはしっかり生産段階におけるイノベーションの推進が明記されていた。

正直なところ、検証なしに加速する世相に置いていかれないよう、策を講ずるメーカーの皆さまは本当に大変だと思う。とはいえ実際に「カーボンニュートラルを実現する!」と言ってしまった以上、吐いたつばは飲めない。栃木工場を含む各生産拠点は、同年までにCO2(二酸化炭素)の排出をゼロにしなければならなくなったわけだ。

今回発表された日産&栃木工場の施策を見ると、まずは鋳鉄用のキュポラやアルミの溶解釜など、これまで化石燃料を使っていた工場の設備をすべて電動化し、2030年までにCO2排出量を2019年比で41%削減する。同時に、クリーンエネルギーによって生成される電力の導入や、バイオエタノール、水素、人工メタンなどを用いた燃料電池(SOFC)による自家発電システムの開発を進め、2050年にはCO2排出量をゼロにする……というものだった。

日産は代替エネルギーを使ったSOFCの開発を2016年に発表していたが、想像力に乏しい記者は、その技術が定置型の発電機としてここで再登場するとは思いもよらなかった。いろいろなところで、門外漢には想像できないカタチで実を結ぶのだから、エネルギーの技術というのはつくづくオモシロイ。

 2019年11月28日に行われた「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の説明会の様子。このときはまだ、新たな生産技術・生産設備導入の目的にカーボンニュートラルは含まれていなかった。
 2019年11月28日に行われた「ニッサン インテリジェント ファクトリー」の説明会の様子。このときはまだ、新たな生産技術・生産設備導入の目的にカーボンニュートラルは含まれていなかった。拡大
日産は2050年までに、事業活動を含むクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現すると発表。この“事業活動”や“クルマのライフサイクル”には、当然のことながら生産段階も含まれている。
日産は2050年までに、事業活動を含むクルマのライフサイクル全体におけるカーボンニュートラルを実現すると発表。この“事業活動”や“クルマのライフサイクル”には、当然のことながら生産段階も含まれている。拡大
日産は代替燃料を使った燃料電池の開発を2016年に発表している。普及が遅れていた水素ではなく、バイオエタノールを使って発電を行うシステムだった。
日産は代替燃料を使った燃料電池の開発を2016年に発表している。普及が遅れていた水素ではなく、バイオエタノールを使って発電を行うシステムだった。拡大
代替燃料を使った燃料電池車は、ブラジルなどバイオエタノールの供給インフラが整った地域における、クルマのカーボンニュートラル実現を意図したものだった。それが工場用発電機に応用されることになるとは……。
代替燃料を使った燃料電池車は、ブラジルなどバイオエタノールの供給インフラが整った地域における、クルマのカーボンニュートラル実現を意図したものだった。それが工場用発電機に応用されることになるとは……。拡大

求む! 日本版「EV36Zero」

もうひとつ気になったのは、これらの施策の実現へ向けた日産&栃木工場の“仲間づくり”についてだ。

自然エネルギーを用いた電力の調達には電気会社やエネルギー会社の協力が必須だし、バイオエタノールの調達だって同様である。この点について日産の坂本秀行副社長に質問したところ、実は日本国内の工場でも、小規模ながら“屋根貸し”(工場の屋根に電力会社の太陽光パネルを設置すること)などでエネルギー会社と協力し、すでにCO2低減の施策を進めているとのこと。一方SOFC用のエタノールについては、現在はシステム開発の段階で、生産会社等への働きかけは次の段階になるだろうとのことだった。

環境負荷低減に関する日産の取り組みとしては、最近では英サンダーランド工場を中心とした「EV36Zero」が最も知られている例だと思う。かの地では日産とバッテリーメーカーのエンビジョンAESC、そして地元のサンダーランド市が手を組み、EV生産を核とした包括的なカーボンニュートラル化のプロジェクトが進んでいる。それを見て「なんで英国やねん。日産はニッポンの企業やろがい」とスネていた狭量な記者は(もちろん、サンダーランドでの施策も応援していますよ?)、今回の発表にいささかテンションが上がってしまった。栃木なり厚木なり北九州なりが、日産の音頭でカーボンニュートラルのハブとなり、あまたの企業や自治体がそこにつながる未来を思い描いたのだ。無論それは記者の勝手な妄想だが、日産にはぜひ、日本でもスケールのデカい話を聞かせてほしい。

報道陣の質問に回答する坂本副社長。バイオエタノールの生産については、日本でも各地で事業化が模索されている。日産が代替燃料による燃料電池を実用化したら、大きな推進力になると思うのだが……。
報道陣の質問に回答する坂本副社長。バイオエタノールの生産については、日本でも各地で事業化が模索されている。日産が代替燃料による燃料電池を実用化したら、大きな推進力になると思うのだが……。拡大
栃木工場の敷地内に設けられた太陽光パネル。自然エネルギーによる発電については、日本国内の工場でも既に導入済みで、今後は順次その規模を拡大。代替エネルギーとの併用でカーボンニュートラルを実現するとしている。
栃木工場の敷地内に設けられた太陽光パネル。自然エネルギーによる発電については、日本国内の工場でも既に導入済みで、今後は順次その規模を拡大。代替エネルギーとの併用でカーボンニュートラルを実現するとしている。拡大
日産は2021年7月に、英サンダーランド工場を中心としたカーボンニュートラルへの取り組みを発表。日産とエンビジョンAESC、サンダーランド市が合計10億ポンド(約1527億円)の投資を行い、ゼロエミッションの実現へ向けたソリューションを確立するとしている。
日産は2021年7月に、英サンダーランド工場を中心としたカーボンニュートラルへの取り組みを発表。日産とエンビジョンAESC、サンダーランド市が合計10億ポンド(約1527億円)の投資を行い、ゼロエミッションの実現へ向けたソリューションを確立するとしている。拡大

新工場にみる全方位的な取り組み

……話がすっかりカーボンニュートラルに偏ってしまったが、今回の主題はあくまでニッサン インテリジェント ファクトリーの見学。そこには環境負荷の低減以外にも、さまざまな技術が盛り込まれているのだ。あらためて、今回アリアの生産に際して日産が導入した新技術をおさらいすると、それは以下の15項目である。

(1)パワートレイン一括搭載システム
(2)サスペンションリンク自動締め付け&自動アライメント調整
(3)ヘッドライニング自動組み付け
(4)CPM(コックピットモジュール)自動組み付け
(5)新接合工法「ディンプル溶接」
(6)クルマの知能化に対応する電装システム
(7)8極式巻線界磁モーター(磁石レス)巻線の自動化
(8)塗装外観自動検査
(9)統合自動検査(仕様&キズ検査)
(10)ボディーとバンパーの一体塗装・焼き付け
(11)高効率エアリサイクルを実現する塗装ドライブース
(12)IoTによる品質保証管理システム
(13)デジタル技術による早期作業習熟の実現(IOSS)
(14)リモート設備メンテナンス
(15)設備故障診断システム&予知予防設備保全

……ご覧の通り、箇条書きするだけで腕が痛くなるボリュームである。これらすべてを学んでいたら日が暮れてしまうので、今回の取材では、座学と4つの工程・部署の見学を通し、取り組みの趣旨がおさらいされることとなった。

ビジターセンターでの説明会の後、記者が最初に見学したのは、アリアに搭載されるモーターの生産ラインだった。同車には高回転時の抵抗を抑えるために、巻き線型ローター式モーターが使われている。見せてもらったのは、そのローターに銅線を巻く工程で、高速・高精度・高密度での巻き上げを実現するとともに、8つのローターを同時に製作することで生産効率を高めているという。

「日産アリア」の塗装工程の様子。塗料と塗装技術の革新により、樹脂(バンパー)と金属(ボディー)の両方を、同時に塗装することが可能となった。
「日産アリア」の塗装工程の様子。塗料と塗装技術の革新により、樹脂(バンパー)と金属(ボディー)の両方を、同時に塗装することが可能となった。拡大
塗装工程では、ドライブースの採用により塗装カスの完全リユースを実現。ブース内エアの再利用も可能となり、塗装に用いるエネルギーを25%削減した。
塗装工程では、ドライブースの採用により塗装カスの完全リユースを実現。ブース内エアの再利用も可能となり、塗装に用いるエネルギーを25%削減した。拡大
ロボットによって自動でヘッドライニングが組み付けられる様子。ヘッドライニングは自動車に採用される電装品の増加により、年々重量がアップ(裏側に機器や配線などが配置されるため)。組み付けが重労働となっていた。
ロボットによって自動でヘッドライニングが組み付けられる様子。ヘッドライニングは自動車に採用される電装品の増加により、年々重量がアップ(裏側に機器や配線などが配置されるため)。組み付けが重労働となっていた。拡大
巻き線型ローターの製造工程。上で前後しているのが銅線を吐き出すノズルで、動きのタイミングや銅線の張り具合などを工夫することで、高速・高精度・高密度な層状自動巻き上げを実現したという。
巻き線型ローターの製造工程。上で前後しているのが銅線を吐き出すノズルで、動きのタイミングや銅線の張り具合などを工夫することで、高速・高精度・高密度な層状自動巻き上げを実現したという。拡大

ロボットの導入で負荷の大きな作業を自動化

この工程、ひとつのローターに巻かれる銅線の長さは実に350m。1極につき118周なので、8極合わせて944回も銅線を巻くことになる。もしこれを人手でやるとしたら、どれだけ非人道的な作業となることか。ましてや今回導入された機械では、この作業を20分で、しかも8個同時に行うのだ。工場の自動化の話をすると、いまだに「労働者の口減らしだ!」と批判する人がいるが、こうして自動車産業の現場を取材すると、作業の量も、速さも、質も、もはやそうした次元にはないことを痛感する。

次に見学したパワートレイン一括搭載システムでも、同じようなことを感じた。“SUMO”なんて、某不動産検索サイトみたいな名前で親しまれているこのシステムは(実際には「Simultaneous Underfloor Mounting Operation」の略だそうだ)、シャシーやパワートレイン、ドライブトレインなどからなるアンダーフロアを、その名の通り一括で、自動でボディーに組み付けることができる。

アンダーフロアは設計の段階からフロント/センター/リアのモジュールに分かれており、この3つをベースとなる土台に載せ、一気にボディーとドッキングさせるのだ。“つくり分け”は各セクションのモジュールを変えるだけなので、純エンジン車であろうとe-POWER車であろうと電気自動車であろうと、このシステムでの組み付けが可能。日産によると、理論上は「3×3×3で、全27通りのクルマをつくることができる」とのことだった。

加えて大きいのが、従業員が負担の大きい作業から解放されたことだ。通常、この工程では上からつるされたボディーに下からアンダーフロアを組み付けるのだが、これまでは5~6人の作業者が中腰になって車両の下に入り、重い工具を上へかざして、何本もボルトを固定していた。記者のような軟弱者は、こうして書いているだけで腕・首・腰・足が痛くなる。しかも、一人が一日にこなす台数は300~500台だったというので、これも相当に大変な作業だっただろう。

「アリア」のモーターでは、ローターに永久磁石ではなく巻き線が用いられる。電気によってローター側の磁力を制御することで、高回転時の抵抗を軽減するためだ。
「アリア」のモーターでは、ローターに永久磁石ではなく巻き線が用いられる。電気によってローター側の磁力を制御することで、高回転時の抵抗を軽減するためだ。拡大
パワートレイン一括搭載システムでは、シャシーやパワートレイン、ドライブトレインなどからなるアンダーフロアを一括でボディーに組み付ける。複数の工程を一工程にまとめると同時に、その完全自動化を実現した。
パワートレイン一括搭載システムでは、シャシーやパワートレイン、ドライブトレインなどからなるアンダーフロアを一括でボディーに組み付ける。複数の工程を一工程にまとめると同時に、その完全自動化を実現した。拡大
土台の上に、フロント/センター/リアの3つに分けてモジュールを搭載。これらの組み合わせにより、パワートレイン一括搭載システムではEVやハイブリッド車、純エンジン車の“つくり分け”が可能となっている。
土台の上に、フロント/センター/リアの3つに分けてモジュールを搭載。これらの組み合わせにより、パワートレイン一括搭載システムではEVやハイブリッド車、純エンジン車の“つくり分け”が可能となっている。拡大
ラインに設けられた、土台の位置を微調整するアクチュエーター。0.5mm単位でアンダーフロアの位置を調整し、スムーズで正確な組み付けを実現している。
ラインに設けられた、土台の位置を微調整するアクチュエーター。0.5mm単位でアンダーフロアの位置を調整し、スムーズで正確な組み付けを実現している。拡大

“生産性向上”以外の深刻な理由

まあ先述のローター同様、それでも「これまで作業に関わっていた5~6人はどうなるの?」とうがった見方をする御仁もおられよう。ご安心あれ。車両の電動化や予防安全・運転支援システムの採用などにより、自動車は年々複雑化している。工数も増しており、製造に求められる労力は増加傾向にある。現場の機械化・効率化は、自動車工場に必須の進化なのだ。

……というか、そもそも今の日本の自動車産業は、生産の合理化を推し進めていかないと立ち行かなくなる、逼迫(ひっぱく)した事態にある。

説明会にて語られたところによると、今回取材した栃木工場を含め、今、世界の自動車生産現場で問題となっているのが、“人材不足”だという。「工場で働きたい!」という人が減り、採用が難しくなっているのだ。特に日本は高齢化が進み、労働人口の減少が著しい。加えて昨今の世相にみる“働き方の変化”である。新卒でいきなり「自動車製造に人生をささげます」と工場の門をくぐる人は、ますます少なくなってきている。

これまで現場を担ってきたピッチピチの男性だけでなく、女性や、あるいはセカンドキャリア層にも工場に来てもらうためにはどうすればよいか? ニッサン インテリジェント ファクトリーは、そうした視点からも「これからの自動車工場の在り方」を模索したものだった。

パワートレイン一括搭載システム導入前の、アンダーフロアの部品組み付け作業の様子。日産はロボットによる工場の自動化について、「“人減らし”ではなく、より幅広い人に工場で働いてもらうため」と説明している。
パワートレイン一括搭載システム導入前の、アンダーフロアの部品組み付け作業の様子。日産はロボットによる工場の自動化について、「“人減らし”ではなく、より幅広い人に工場で働いてもらうため」と説明している。拡大
新工場ではIoTを用いた生産設備の保守管理システムや、設備故障診断システムを導入。生産設備を監視し、現場の保全員に指示を送る集中管理室のスタッフは、いずれもこの道20~30年の大ベテランである。工場が合理化されても、いきなり人が不要になるわけではないのだ。
新工場ではIoTを用いた生産設備の保守管理システムや、設備故障診断システムを導入。生産設備を監視し、現場の保全員に指示を送る集中管理室のスタッフは、いずれもこの道20~30年の大ベテランである。工場が合理化されても、いきなり人が不要になるわけではないのだ。拡大

より多くの人が働きたくなる環境を

主な施策は既述の通り、負荷の大きな作業の自動化で、これまでに紹介してきたもののほかにも、ヘッドライニングの組み付けや品質点検工程など、かつては「人でなければ難しい」とされてきた工程にもロボットを導入した。また、教官がいなくても自分で作業学習ができるデジタル教材の導入なども、こうした変化に対する取り組みのひとつといっていいだろう。持続可能性とは、なにも環境負荷低減だけを指す言葉ではないのだ。栃木工場でのもろもろの施策からは、時代に即した進化に臨む、日産の姿勢がうかがえた。

……と同時に、「募集をかけても人が集まらない」という、“失われた世代”の一員(=記者)としては戸惑いを隠せない製造業の実情に、少なからず日本の危機を感じてしまった。

改善すべきが待遇なのかイメージなのかはわからないが、世の工場は早急にこの現状を打開する必要があるだろう。“ものづくり”はこの国の根幹を担う産業のはずなのに、多くの人がそれに携わるのを忌避するとなれば、将来における深刻な打撃はまぬがれない。そもそも、日本の基幹産業に日本人が誇りを持てないなんて、悲しいことではないか。

いずれにせよ、少なくとも記者が禄(ろく)を食(は)む自動車産業のかいわいでは、変化する時代に合わせて工場も変わろうと蠢動(しゅんどう)している。業界の末席を汚すものとして、日産のインテリジェント ファクトリーやそれに準じた各社の施策が実を結ぶことに、ぜひ期待したい。

(文=webCGほった/写真=日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)

塗装外観自動検査の工程では、ロボットが光の反射によってゴミの付着やキズなどの欠陥を検出。直径0.3mm(!)の微細なゴミも見つけられるという。
塗装外観自動検査の工程では、ロボットが光の反射によってゴミの付着やキズなどの欠陥を検出。直径0.3mm(!)の微細なゴミも見つけられるという。拡大
検出された欠陥は、スマートフォンによって集中管理システムへ転送・保存。最後は人の手によって除去・修繕される。0.3mmのゴミを検出するロボットはできても、それを除去するには、まだ人の手に頼らなければならないのだ。
検出された欠陥は、スマートフォンによって集中管理システムへ転送・保存。最後は人の手によって除去・修繕される。0.3mmのゴミを検出するロボットはできても、それを除去するには、まだ人の手に頼らなければならないのだ。拡大
デジタル教材を用いた自主学習の様子。MR(複合現実)技術により、バーチャルに生産ラインや現物を再現。時間や場所の制約なしに、よりリアルな作業訓練を受けられるようになった。
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技術革新により、自動車の生産工場が、より多くの人にとって「働きたい」と思える場所になることに期待したい。
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