第741回:目指すは“日本のフランス” 「ルノー・ルーテシアE-TECHフルハイブリッド」で800kmのロングドライブに挑む
2023.03.22 エディターから一言カタログ上の航続可能距離は1000km以上
愛媛県松山市にある萬翠荘(ばんすいそう)は、1922年に旧松山藩主の子孫にあたる久松定謨(ひさまつさだこと)伯爵が別邸として建設したフランス風の洋館である。
陸軍駐在武官として長いフランス生活を送り、帰国後もフランスへの熱い思いを抱き続けたという久松伯爵。この別邸はその思いをかたちにしたものとされており、当時の最高の社交の場として各界の名士が集まり、皇族が愛媛県を訪れる際には必ず立ち寄ったほどだという。
「日本のフランス」と呼ばれ、現在は国の重要文化財に指定されているこの萬翠荘を「ルノー・ルーテシアE-TECHフルハイブリッド」で目指した。ルノー車の輸入を手がけるルノー・ジャポンが企画した燃費チャレンジ競争に参加したのである。数多くの自動車系メディアが平均燃費を競い、優勝するとフランス旅行(取材)がプレゼントされるという。
ルーテシアE-TECHフルハイブリッドのWLTCモード燃費は輸入車ナンバーワンをうたう25.2km/リッター。燃料タンクの容量は42リッターであり、模範的な運転に徹した場合はおよそ1000kmもの航続距離が得られることになる。今回のチャレンジのスタート地点である横浜市から萬翠荘までの道のりはおよそ800kmのため、たどり着くこと自体は苦もないはずだ。「フェリーに乗らない」とか「けん引しない」とか、細かなレギュレーションはあるものの、いわゆるズルをしなければ抵触しないものばかりだ。
先進的かつ複雑な制御のハイブリッド
ルートも自由とのことだが、常識的に考えると東名~新東名~伊勢湾岸道~新名神……と進むほかにはない。本州から四国に渡るルートは明石海峡大橋か瀬戸大橋かしまなみ海道か迷うところだが、webCGチームはしまなみ海道ルートを選択した。今回は消費燃料の少なさではなく平均燃費を比べるというルールのため、多少の遠回りは覚悟で一度も走ったことのない道を通ってみたいという欲求を優先したのである。どちらにしてもなじみがない道なので、四国に渡ってから西進するよりも山陽道を突き進んだほうが車線が多くて流れがスムーズなのではないかという予想も多少はあった。
webCGチームを構成するのは私=藤沢と向後一宏カメラマンの2人。向後さんはルノー車を複数台所有する愛好家(変わり者との声も)であり、運転もうまい。撮影をお願いしつつ、ときどき運転を代わってもらおうというもくろみである。
多くの読者にとってはおさらいになってしまうが、ルーテシアE-TECHフルハイブリッドのパワートレインは最高出力91PSの1.6リッター直4エンジンと同じく49PSのモーターによる動力を組み合わせて走るハイブリッドだ。エンジンには4段のATが組み合わされるほか、モーターも2段の変速が可能。スターターと発電を担うサブモーターも付いている。エンジンによる走行と容量1.2kWhのバッテリーにためた電気で走るEV走行、エンジンをモーターがアシストするパラレルハイブリッド走行、エンジンが発電してモーターで走るシリーズハイブリッド走行など、走りのパターンは多岐にわたるが、それぞれがごく自然な出来栄えであり、切り替えもまた自然だ。
EV走行に持ち込むコツ
なにしろ800kmの道のりなので、序盤はあわてず騒がず燃費の勘所を探し当てようといろいろ試してみる。ドライブモードはスタンダードの「マイセンス」のほかに「エコ」と「スポーツ」がある。スポーツは想像どおりのセッティングで、アクセルを踏み込んだときのレスポンスが素早くなり、アクセルオフ時の回生ブレーキが強くなる。エコはその逆でアクセルオフ時はコースティング優先(うっすらと回生する)。アクセルを踏んでも反応が鈍い。800kmの大半が高速道路であることを考えると、やはりエコを選ぶしかないだろう。ルノーのセッティングを信じる。
ドライブモードをエコに決めたうえで重視すべきはEV走行だ。エンジンでの発電も絡んでくるため単純ではないが、回生で稼いだ電気で走ればその区間の燃料消費はゼロということになる。ダッシュボードにはEV走行を優先するスイッチがあるが、高速走行中は操作を受け付けないようになっているため、EV走行に持ち込めるよう工夫するしかない。何度か試しているうちに、望む速度域に達するまでアクセルを踏む→右足の力を少し緩める→再びじわりと踏み込むという操作をすると、メーターに「EV」の文字が表示されやすいことが分かってきた。走り始めた時点では5リッター/100km(20km/リッター)くらいだった燃費が、これ以降はするすると伸びていくことになる。
車速は80~100km/hくらいで、あくまでトラフィックに合わせて走ることにした。というのも、ルーテシアE-TECHフルハイブリッドはアクセルをゆっくりと踏み増していくとEV走行のまま110km/hくらいまで引っ張れるからだ。また、アダプティブクルーズコントロールは使わなかった。ロングドライブにはうってつけの装備なのだが、かつて日産自動車のエンジニアに「プロパイロット」について教えてもらった折、燃費重視なら使わないほうがいいですと言っていたのを思い出したのである。追従走行のため、前のクルマが少しでも加速するとそれに合わせてこちらも加速してしまうのがよくないらしい。
800km以上もの燃費ドライブなんて……と思われるかもしれないが、ルーテシアE-TECHフルハイブリッドでのチャレンジは決して退屈ではない。ハイブリッドパワートレインにありがちなあいまいさがまるでなく、細かなスピードコントロールが可能なため、何時間ドライブしていても飽きることがない。足まわりもさすがルノーというべき仕上がりで、車格に対してはるかに大容量のダンパーを使っているかのようなゆとりを感じる。大きな段差を越えても衝撃をビシッと一発で収束し、うねりのある路面でも4つのタイヤが路面をつかんでいることが手に取るように分かる。シートは座面と背もたれが分厚く、クラスの壁を超越したクオリティーだ(そのぶん後席はちょっと狭い)。ロングドライブではセンターアームレストを頼ることの多い私だが、この旅ではそれが欲しくなることが一度もなかった。
おかわりの800km
初日は岡山市に宿泊し、いよいよ翌朝はしまなみ海道へ。あまり寄り道はできないが、道の駅などで下車してみると、聞きしに勝る絶景に目を奪われる。瀬戸内海の暖かな風が心地よく、「今日はここに泊まって一杯やりたいな」などと労働意欲が減退していくのを感じるが、ゴールはすぐそこだ。気を取り直して燃費チャレンジに戻る。
前日に横浜市を出発したのが朝9時で岡山のホテル着が夜8時。この日の朝は8時に出発し、萬翠荘到着が12時ちょうどだった。途中で幾度かの休憩を挟みつつ、都合15時間で828.0kmを走破。平均速度は62.0km/hで、平均燃費は3.8リッター/100km(約26.3km/リッター)だった。25.2km/リッターのWLTCモード燃費をわずかに上回ったにすぎないが、今は達成感に満ちあふれている。というのも、平均燃費は刻一刻と変化するわけだが、3.9リッター/100kmと表示されている時間が長く、ちょっとでも気を抜くと4.0リッター/100kmに転落。3.8リッター/100kmでのゴールは目標としていたラインだったからである。よそのメディアのことは分からないが、webCGチームとしては目いっぱいの結果だ。
松山市で給油したところ34.07リッター入り、航続可能距離は1060kmと表示された。ルーテシアE-TECHフルハイブリッドは全長4mソコソコのコンパクトサイズでありながら、中身は立派なグランドツアラーである。よくできたシャシーとシートのおかげで腰もおしりも痛くなければ、ドライブの疲れ自体がまるでないのが素晴らしい。その証拠に松山からの帰路もwebCGチームはルーテシアE-TECHフルハイブリッドによる自走で戻ったのだった。
各メディアによる燃費チャレンジの結果は、4月の中旬に発表されるらしい。この手の賞レースで上位に入ったことがないためまるで自信はないが、パスポートの更新くらいは済ませておいてもいいかもしれない。駅前留学も始めないと。
(文=藤沢 勝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。