スバル・クロストレック ツーリング(FF/CVT)
非凡なるフットワーク 2023.05.12 試乗記 フルモデルチェンジを機にグローバルで統一された車名と、FFモデルの設定が関心を集めるスバルの新型クロスオーバーSUV「クロストレック」。ラインナップのなかで最もベーシックな「ツーリング」を郊外に連れ出し、先代「XV」からの進化とFFの走りを確かめた。2リッターハイブリッドに一本化
スバルXVがモデルチェンジしてクロストレックと改名した。スバルの主力市場、北米では先代モデルからクロストレックを名乗っていたが、今回、世界でクロストレックに統一されたという。「インプレッサ」ベースのSUVとして2010年に国内デビューした時は「インプレッサXV」だった。
車名は二転三転しているが、このシリーズはスバルのなかでも大きな成功作である。XVを名乗るようになった2代目と先代の3代目でほとんどカタチが変わっていない、その効果(?)もあって、スバル車のなかでも一番多く見かける気がする。
SUVというよりも、よりスポーツハッチ風にイメージチェンジした印象の新型は、エンジンが2リッターハイブリッドの「e-BOXER」に一本化された。2リッター/1.6リッターのナマボクサーを落として、「アドバンス」の名で最上級グレードに祀り上げていた電動ユニットのみにしたというのは、新シリーズ最大のニュースだろう。
グレードは「ツーリング」と「リミテッド」のふたつに整理されたが、価格帯は先代の220万~295.9万円から266.2万~328.9万円へと上がっている。
試乗したのは最もベーシックなFFのツーリング。といっても“素”の広報車にはなかなか乗せてもらえないもので、11.6インチディスプレイのカーナビ、「アイサイトセイフティプラス」の視界拡張テクノロジーなど、数多くのオプションが載って322万3000円と、素のFFリミテッド(306万9000円)よりはるかに高くなっていた。
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基本は“エンジンのクルマ”
webCG編集部Sさんからクルマをバトンタッチする時、「どう?」と聞いたら、「いいですよ、すごく」と答えが返ってきた。
走りだしてすぐ、筆者がすごくいいと感じたのはフットワークである。まず乗り心地がいい。サスペンションはよく動いてくれるし、「ヨコハマ・ジオランダーG91」タイヤの当たりはソフトで、荒れた路面でも突き上げを食らうことはない。18インチのリミテッドに対して、ツーリングは17インチ。軽快でやさしい乗り心地の主因はこのタイヤセットかもしれない。
身のこなしも、これまで乗ったどのXVよりも軽く感じられた。プロペラシャフトのある4WDよりFFは50kg軽く、今回のツーリングだと車重は1550kg。ステアリングは軽く、操舵に反応するフロントの動きも軽快で、前車軸重960kgのノーズヘビーをまったく感じさせない。
そうした非凡なフットワークに比べると、XVからキャリーオーバーしたe-BOXERのパワートレインはオールドスクールだ。この電動ユニットは2リッター水平対向4気筒に、片手で掴んで持てる10kWの小型モーターを組み合わせた1モーター・パラレルハイブリッドである。ごく低負荷の発進時ならEV走行するからマイルドハイブリッドではないのかもしれないが、モーターだけでながなが走り続けるようなことはない。基本は“エンジンのクルマ”である。ハイブリッドと声高に謳うほどでもないからe-BOXERと呼ぶのかと納得した印象は今回も変わらない。
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燃費は相変わらず
変速機はおなじみのCVT。ツーリングにもシフトパドルが付き、7段CVTとして使える。フロアのセレクターは、最近はやりのジョイスティック的な電気スイッチではない、昔ながらのアドレスを持つレバーである。でもこういう新しすぎない操作系はスバリストには好感を呼びそうだし、実際、使いやすい。
145PSの最高出力、188N・mの最大トルクなど、エンジンのアウトプットは旧XVから変わっていないが、以前ほどの力感はないように思えた。とくに高速道路での追い越し加速はひとり乗車でもパンチ不足を感じた。FFなら動力性能でも軽快さを期待したのだが。
ハンドルの右スポーク、「SIドライブ」のスイッチには「ECO-C(エコクルーズコントロール)」の表示もある。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)作動中にECO-C側を押すと、EV走行領域を最大限にして最も燃費コンシャスな運転をするという。低負荷だとエンジンを止めてコースティングに入る回数がたしかに増えたように感じたが、しかしそういう努力をしても、2リッターのハイブリッドとしては相変わらず燃費に見るべきものはなかった。約320kmを走って、11.8km/リッター(満タン法)にとどまる。
じゃあ、トヨタの「THS」が載ればいいのか? クロストレックを選ぶ人の多くは首を縦には振らないはずだが、それにしても、足まわりの出来を考えると、e-BOXERにももう少しリファインがあってよかったように思う。
基本性能のよさを実感
アイサイトセイフティプラスで筆者が一番ありがたかったのは、フロントグリルカメラからのノーズ左右映像だ。見通しのきかないコンクリ壁の車庫からおそるおそる前進して道路に出る時に、これほど役立つ視界拡張機能はない。
高速道路でハンドルから手を放すと、15秒後には警告が出始め、次第に強まり、45秒経つとハザードの点滅やホーンで周囲に異常を知らせながらブレーキングに入り、停車後にはドアロックを自動解除する。ドライバーが意識を失った事態を想定したそんなシステムも入っている。
だが、そうした先進装備はそれとして、試乗中、最後まで好印象だったのは、やさしい乗り心地とライトウェイトなフットワークという基本性能である。そのおかげで、人柄ならぬ車柄のよさを感じた。ほかのクロストレックには乗ったことがないが、ベーシックグレード好きとしては、FFのツーリングを高く評価したい。
17インチでもホイールハウスが余ってショボイ感じはしないし、ダークメタリック塗装のアルミホイールも、18インチのデコラティブな切削光輝ホイールよりカッコイイと思う。
雨天時にバックしていて気づいたのは、リアビューカメラのレンズに付いた水滴が映像を大きく損なうこと。これは早急に改善してほしい。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
スバル・クロストレック ツーリング
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1800×1580mm
ホイールベース:2670mm
車重:1550kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:188N・m(19.2kgf・m)/4000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:65N・m(6.6kgf・m)
タイヤ:(前)225/60R17 99H M+S/(後)225/60R17 99H M+S(ヨコハマ・ジオランダーG91)
燃費:16.4km/リッター(WLTCモード)
価格:266万2000円/テスト車=322万3000円
オプション装備:ルーフレール<ブラック塗装>(5万5000円)/11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ&インフォテインメントシステム<本革巻きシフトレバー、ピアノブラック調シフトパネル、シフトブーツ、シャークフィンアンテナ、ガラスアンテナ、インパネセンターリング加飾、ドライバーモニタリングシステム、コネクティッドサービス[スバルスターリンク]、リアビューカメラ>(17万6000円)/アイサイトセイフティプラス 視界拡張テクノロジー<デジタルマルチビューモニター、前側方警戒アシスト>(6万6000円)/フルLEDハイ&ロービームランプ+ステアリング連動ヘッドランプ+アダプティブドライビングビーム+コーナリングランプ、運転席10ウェイ&助手席8ウェイパワーシート+運転席シートポジションメモリー機能+運転席自動後退機能+リバース連動ドアミラー+ドアミラーメモリー&オート格納機能(12万1000円)/ステアリングヒーター(1万6500円)/フロントシートヒーター(3万3000円)/LEDリアフォグランプ(5500円)/ナビゲーション機能(8万8000円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3037km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:324.8km
使用燃料:27.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/12.6km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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