スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)
執念のたまもの 2025.04.04 試乗記 待望のフルハイブリッドシステムが搭載された「スバル・クロストレック」に試乗。トヨタ由来と説明される「S:HEV」だが、その走りにスバルのオリジナリティーはあるのか? 乗り心地を含めたクルマの完成度は? 幅広いシーンでハンドルを握って確かめた。構成要素の多くはスバル独自のもの
日本では、こうしてクロストレックに積まれての船出となったスバル初のストロングハイブリッド(参照)は、資本関係にあるトヨタのシリーズパラレル式ハイブリッド(かつての「THS-II」)を転用したものといわれる。
ただし、核となるエンジンはスバルが自社開発・自社生産する水平対向4気筒で、しかもトヨタの同等システムは横置きなのに、スバル版は当然ながら縦置きとなる。もっといえば、AWDシステムもトヨタ得意の電動式ではなく、エンジン車同様に後輪へのトルク配分を油圧多板クラッチでおこなうもので、スバルが「アクティブトルクスプリットAWD」と呼んできたタイプである。
実際、そのハイブリッド用トランスアクスルはスバルの北本工場で自社生産している。筆者のような素人が軽く考えただけでも、モーターやリチウムイオン電池、制御プログラムなどの一部の部品はトヨタと共用しているかもしれないが、トランスアクスルケースやギアセットなどの大物部品の大半は、スバル独自のものになっているはずである。つまり、今回の「クロストレック プレミアムS:HEV」に搭載される「e-BOXERストロングハイブリッド」(以下、S:HEV)は、トヨタの特許を使ってつくられてはいるのものの、モノ自体はほぼスバル独自と考えたほうが実態に近そうだ。
すべてのパワーの源となるエンジンの排気量は、ご承知のように2.5リッター。他社競合車の顔ぶれを考えると、1.8~2リッターのほうがバランスよさげに思わなくもないし、18.9km/リッターというWLTCモード燃費も競合車と比較すると物足りない。しかし、主要市場である北米での使われかたや、北米ではより多く売れるであろう「フォレスター」とのパワートレイン共通化、そしてスバルならではの性能へのこだわりから、あえて2.5リッターが選ばれたようだ。
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走行マナーはやっぱり似ている
継続販売される2リッターe-BOXERでは車体後方にあるパワーコントロールユニットを、今回のS:HEVではエンジンルーム内に移設した。それをうまく生かして、クロストレックS:HEVでは、燃料タンク容量を48リッターから63リッターに大容量化しているのは良心的だ。その容量はトヨタでいうと1クラス上の「RAV4」のそれ(55リッター)よりさらに大きく、カタログ燃費とタンク容量を単純計算した航続距離は1190km強に達しているから、現実世界でも無給油での1000km走破はむずかしくないだろう。ちなみに、WLTCモード燃費が16.4km/リッターでタンク容量が48リッターの2リッターe-BOXERの航続距離は、単純計算でも約787kmと800kmを切る。
というわけで、今回の試乗車は2グレードあるS:HEVのうち、上級仕様となる「EX」で、12.3インチのフル液晶メーターに純正ナビ、「アイサイトX」が標準装備となる。
S:HEVの走行マナーは、予想どおり、おなじみのトヨタ製ハイブリッド車(HEV)によく似ている。日常域のゼロ発進では基本的に電動走行(EV走行)で、電池に余力があれば市街地では電気だけで走る。で、アクセルを多めに踏み込めば即座にエンジンが始動して加勢し、アクセルをゆるめたり、負荷が低くなったりすればエンジンが停止する。0-100km/h加速は、10秒強の2リッターe-BOXERに対して8.7秒だそうだ。体感的にも2リッターe-BOXERよりは明らかに力強く、市街地でのダッシュのよさはいかにも電動車である。いっぽうで、高速での伸びはスポーツモデルと呼びたくなるほどではない。
水平対向らしくエンジンそのもののビート感はそれなりに明確だが、走行中のエンジンの始動・停止マナーはすこぶるスムーズだ。さらに感心したのは、エンジンが“出入り”するときのシームレス感である。
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初物とは思えない完成度の高さ
熟成きわまっているトヨタのHEVでも、EV走行にエンジンが加勢する瞬間に、ブルッと振動が伝わる“段付き感”があって、それがときに滑らかなEV走行に対する“異物感”になってしまうこともある。しかしスバルのS:HEVでは、水平対向エンジンのトルクがまさにシームレスな介入と離脱を繰り返す。不快な段付き感はほとんどない。
これは水平対向エンジンらしい優れた振動特性か、縦置きならではのフリクションロスの小ささか、これを仕上げたスバル開発陣の執念と技術力か、あるいはそのすべてによるものか。いずれにしても、この滑らかさはS:HEVの美点として売りになると思う。
アクセル操作からわずかに遅れてトルクが立ち上がるラバーバンドフィールは、長らくトヨタ系ハイブリッドの弱点とされてきた。S:HEVでもそれが皆無とはいわないが、ほぼ気にならない。右足にピタリ追従するリニア感は、トヨタ、ホンダ、日産、そして三菱やマツダなどの(プラグイン含む)本格ハイブリッドのなかでも、上位のデキと申し上げたい。これもスバル技術陣の執念か。
S:HEVといっても、運転にまつわる操作系は、既存のe-BOXERや純エンジンと基本的に同じだ。シフトセレクターにもMレンジが残されていて、同レンジでステリングパドルを操作すると6段階のマニュアル感が楽しめる寸法になっている。
ただ、スバルのS:HEVも含めた旧THS-II方式のシリーズパラレルハイブリッドには、一般にイメージされる変速機は備わらない。S:HEVも、選んだポジションに応じて加速反応と減速度が変化するだけ。つまり、疑似演出である。とすれば、マニュアルの頭文字である“M”という表記も厳密にはウソなわけで、個人的には別の文字に書き換えてほしいと思う。似たような表記例は他社の一部にもあるが、クルマのような自分の生命・財産をあずける機械では、なにより誠実さを求めたいのだ。
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さらなる進化を期待する点も
今回は2月の取材で、試乗車はスタッドレスタイヤを履いていた。一般的に、燃費、ドライやウエット路面でのグリップとトラクション、ステアリングの正確性やしっかり感などでは、スタッドレスは不利である。
クロストレックS:HEVは、シャシーについても2リッターe-BOXERの60kg増という重量への対応と、これまでに蓄積された知見を生かして、リアダンパーロッドの延長(横力を受けたときのフリクション低減)やダンパー内部構造の見直し(縮み側にチェックバルブスプリングを追加して初期圧を出す)などの手が加わった。それによって「上質で安心感の高い乗り味をさらに進化させた」とスバルはいう。
直進性の高さにステアリングの正確さ、フルバンプに近い状況からのコシの強さ……といったクロストレックの美点は、スタッドレスでも大きく損なわれてはいなかった。ペダルブレーキ操作時にもしっかり回生できる回生協調ブレーキも今回からの新技術だが、その操作性やリニアな利きもほぼ文句なし。ただし、凹凸が連続するような不整路面では、ドシバタという強い振動が発生してしまうクセも残る。まあ、こうした部分はやはり、標準装着タイヤでじっくり確かめたいところだ。
18.9km/リッターというカタログ燃費は、現行のスバル自社製モデルで最良。これまでのスバル純正4WDはすべてフルタイムだったが、S:HEVでは状況に応じてクラッチを解放する2WDになることもある。これも燃費のためだ。実感としては、上りこう配の高速燃費ははっきり不得手だが、山坂道で積極的に走っても悪化は少なく、下りこう配ではエンジン車やマイルドハイブリッド車以上に燃費の改善が顕著である。
このスバル初のストロングハイブリッドに触れるのは、筆者個人は今回が初めてだった。他社競合車比では燃費に特筆できる部分は少ないが、パワートレインと回生協調ブレーキの味つけは上々、乗り心地にはさらなる進化を期待……というのが、クロストレックS:HEVの第一印象である。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資/車両協力=スバル)
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テスト車のデータ
スバル・クロストレック プレミアムS:HEV EX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4480×1800×1580mm
ホイールベース:2670mm
車重:1660kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター水平対向4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:160PS(118kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:209N・m(21.3kgf・m)/4000-4400rpm
モーター最高出力:119.6PS(88kW)
モーター最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18 98Q M+S/(後)225/55R18 98Q M+S(ヨコハマ・アイスガードiG70)
燃費:18.9km/リッター
価格:405万3500円/テスト車=426万2500円
オプション装備:本革シート<グレー>+アクセサリーコンセント<AC100V/1500W>+ルーフレール(20万9000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:6200km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:357.1km
使用燃料:29.2リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.2km/リッター(満タン法)/13.0km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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