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モートロン・ヴィジョン/フェローFW-06

電動バイクの現在点 2023.05.29 試乗記 青木 禎之 グローバルでじわじわと浸透しつつある電動バイク。新興のメーカーがさまざまなモデルをリリースしているが、その実力はどれほどのものなのか? オーストリアの「モートロン・ヴィジョン」と中国の「フェローFW-06」に試乗し、電動バイクの“今”を確かめた。

個性豊かなマイナーブランドの競演

バイクの輸入販売を手がけるモータリスト合同会社のプレス試乗会が、静岡県は箱根の「バイカーズパラダイス南箱根」で開催された。マイナーブランド好きとして胸を高鳴らせながら現地に赴くと、初めて実車を目にするモデルがズラリ。ワクがムネムネ(昭和)。

同社が展開するブランドを簡単に確認すると、イタリアンにオシャレなスクランブラーが人気のファンティック、映画「さらば青春の光」で活躍したスクーターを復活させたランブレッタ、台湾発のスクーターとして日本でも定着しつつあるSYM……と、ココまではある程度把握していたけれど、英国調のリアルクラシックを標榜(ひょうぼう)するロイヤルアロイのスクーターと、ブリティッシュテイストを売りにするオーストリアの新興ブランド、ブリクストンのバイクとなると、恥ずかしながら、初見です。

さらに会場には、近未来的な(!?)二輪車が並んでいる。モータリスト社が力を入れている電動バイクの一群で、まんまショーモデルのような電動バイク「OLI」が守旧派バイカーを驚かせるGOWOW(ゴーワオ)、キッズ向けの電動オフマシンが楽しいスペインのトロット。そして「今日試乗するのは、MOTRON VIZION(モートロン・ヴィジョン)とFELO(フェロー)FW-06の2台です」とwebCGスタッフ。知らんがな。

……いや、知らないのは個々のモデルの詳細についてで、試乗&報告する気は満々です。さっそくコンパクトなスモールeバイクと、やけにスポーティーなeスクーターのチェックを開始した。

「バイカーズパラダイス南箱根」で開催された、モータリスト合同会社による試乗会の様子。同社では洋の東西を問わず、各国のユニークなバイクを輸入販売している。(写真:webCG)
「バイカーズパラダイス南箱根」で開催された、モータリスト合同会社による試乗会の様子。同社では洋の東西を問わず、各国のユニークなバイクを輸入販売している。(写真:webCG)拡大
まず試乗したのはオーストリアのメーカー、モートロンの原付二種モデル「ヴィジョン」。全長1760mm、車重100kgと、非常に軽量・コンパクトなモデルだ。
まず試乗したのはオーストリアのメーカー、モートロンの原付二種モデル「ヴィジョン」。全長1760mm、車重100kgと、非常に軽量・コンパクトなモデルだ。拡大
バッテリーの容量は1.87kWh。脱着式で屋内でも充電が可能だが、重さが16kgもあるので、持ち運びにはそこそこ力がいる。
バッテリーの容量は1.87kWh。脱着式で屋内でも充電が可能だが、重さが16kgもあるので、持ち運びにはそこそこ力がいる。拡大
定格出力1.0kWのモーターはボッシュ製。ベルトドライブで後輪を駆動する。
定格出力1.0kWのモーターはボッシュ製。ベルトドライブで後輪を駆動する。拡大

電動ミニバイクならではのカッコよさ
モートロン・ヴィジョン

モートロンは、オーストリアのKSRグループが2021年にリリースした新興ブランド。わが国のラインナップとして、「ホンダ・カブ」に“ステキ風味”を振りかけたかのような電動スクーター「キューベルティーノ」と、同じく「ホンダ・グロム」の電動化マシン的なスタイルを採るヴィジョンが用意される。外観に関しては、いずれも個人の感想です。

ヴィジョンの大きさは、全長×全幅×全高=1960×810×1000mmだから、ほぼグロムに同じ。ミニバイクらしく足つきがよく、軽く湾曲したシートにまたがって手を伸ばせば、ごく自然なポジションで走りだせる。

電動モーターの定格出力は1.0kWなので、125ccまでの小型自動二輪免許で乗れる。いわゆる“原二”扱いだ。価格は44万円。最大トルクは、グロムを上回る14.6N・m。車重は本体84kgにバッテリー16kgがプラスされて100kgとなり、これまたグロムの104kgといい勝負。

電動マシンらしく出足はスムーズで力強いが、その後の速度の伸びは控えめで、チャレンジングな上り坂が続く天下の険では、「モアパワー!」と感じる場面もある。加えて、舗装が悪い区間では、その足まわりに「モアしなやかさ!!」との感想を抱くが、ハンドリング自体は穏やか。総じてクセのないライドフィールで、モートロン・ヴィジョンをして、ファンバイク的なはっちゃけたキャラを想像して乗ると、ちょっと拍子抜けするかも。

公称の航続距離は79km。峠に遊びに行くというよりは、街なかの道を便利に行くのが合っている。昭和風に言うなら「近所にタバコを買いに行く下駄(げた)バイク」的な立ち位置だが、それをまるで感じさせないのが、21世紀の電動ミニバイクのいいところだ。あと、燃料タンクに見える小物入れが意外に使えそう。

走行モードは「ECO」と「POWER」の2種類が用意されるが、後者を選んでも、電動車ならではの力強い出足を除くと、動力性能は控えめだ。
走行モードは「ECO」と「POWER」の2種類が用意されるが、後者を選んでも、電動車ならではの力強い出足を除くと、動力性能は控えめだ。拡大
システムの起動はコンベンショナルなキーシリンダー式。液晶ディスプレイの右側には、ちょっと便利な「R」(リバース)モードのスイッチが備わる。
システムの起動はコンベンショナルなキーシリンダー式。液晶ディスプレイの右側には、ちょっと便利な「R」(リバース)モードのスイッチが備わる。拡大
燃料タンクのように見えるスペースは、実は収納ボックス。ヘルメットをしまえるような広さはないが、そこそこに使えそうな容量である。
燃料タンクのように見えるスペースは、実は収納ボックス。ヘルメットをしまえるような広さはないが、そこそこに使えそうな容量である。拡大
タイヤサイズは前:110/70-12、後ろ:120/70-12。サスペンションは、倒立式のフロントフォークとシングルショック式のリアスイングアームの組み合わせだ。
タイヤサイズは前:110/70-12、後ろ:120/70-12。サスペンションは、倒立式のフロントフォークとシングルショック式のリアスイングアームの組み合わせだ。拡大

ウサギマークのかっとびマシン
フェローFW-06(その1)

背後にライバルのeスクーターの気配。ミラーで追いすがる姿を確認しながら、「押すよ、押すよ、押しちゃうよォ」と心の中であおりながら、そして上りのライトハンダー(右コーナーのことね)を終えた瞬間に「S」ボタンをプッシュ! たちまちロケットのように加速して後続車を引き離す……てな劇画調の妄想が楽しいフェローFW-06。中国は上海に本社を置くHYT Moto社が送り出した「新世代の電動スポーツモーターサイクル」だ。

やたらとスポーティー&スタイリッシュなルックスにたがわず、骨格はスクーターで一般的なアンダーボーンタイプではなく、剛性の高いダイヤモンドフレーム。エンジンブロック……もとい! バッテリーパックにも応力を担わせるところがいかにも新世代。

搭載する電気モーターは定格出力5kW、最高出力10kWを発生するので、運転には普通二輪免許(AT限定普通二輪免許)が必要となる。カタログ上の走行可能距離は140km。バッテリーは5年または5万kmの保証付き。価格は99万円だ。

FW-06で興味深いのは、「BMW CE 04」同様、モーターを車体側につるしてベルトで後輪を駆動すること。右側からだとディッシュホイールが丸見えの、片持式アームがレーシィだ。アームの自重を減らして路面への追従性向上を狙っているのだろうが、一方で、同車自慢のドグクラッチを用いたトランスミッションがリアの車軸付近に付くのが痛しかゆし。

いわば2段ATで、「ポルシェ・タイカン」のように(!)カバーする速度域を広げ、加速力とのバランスをとっているのだ。「オートマチックトルクシステム」(ATS)と呼ばれるだけあって、そうと知らなければギアチェンジに気づかないほど完成度が高い。なんでも、すでに第6世代なのだそう。中国の電動メーカー、頑張っているなぁ。

2019年のEICMA(ミラノショー)で発表され、2022年夏にリリースされた「フェローFW-06」。いわゆるコミューターではなく、「新世代スポーツモーターサイクル」を標榜している。
2019年のEICMA(ミラノショー)で発表され、2022年夏にリリースされた「フェローFW-06」。いわゆるコミューターではなく、「新世代スポーツモーターサイクル」を標榜している。拡大
フェアリングを飾るウサギのエンブレム。フェローは中国のHYT Moto社のブランドで、創設者はホンダでバイクの開発に携わった経歴の持ち主だ。
フェアリングを飾るウサギのエンブレム。フェローは中国のHYT Moto社のブランドで、創設者はホンダでバイクの開発に携わった経歴の持ち主だ。拡大
バッテリーはリチウムイオン式で、容量は約5.6kWh(96V 58Ah)。バッテリーパックはフレームの強度メンバーとしての役割も負っており、フレーム重量の軽量化(-30%)と高剛性化(+50%)にも寄与している。
バッテリーはリチウムイオン式で、容量は約5.6kWh(96V 58Ah)。バッテリーパックはフレームの強度メンバーとしての役割も負っており、フレーム重量の軽量化(-30%)と高剛性化(+50%)にも寄与している。拡大
スイングアームの先にはドグクラッチ式の2段AT「オートマチックトルクシステム」を採用。最高速110km/hという、高い高速走行性能を実現している。
スイングアームの先にはドグクラッチ式の2段AT「オートマチックトルクシステム」を採用。最高速110km/hという、高い高速走行性能を実現している。拡大

ウサギマークのかっとびマシン
フェローFW-06(その2)

FW-06の、高さ784mmと短足仕様(←ワタシです)に優しいシートにまたがって走り始めると、上半身はリラックスした姿勢ながら、ライダーの足まわりはややタイト。バックステップのオプションが欲しい長身オーナーが出てきそうだ。

車重121kgと「ホンダPCX」より10kg以上軽いボディーを、電気モーターならではのいきなりの大トルクで走らせる。スムーズで速いが、そのぶんスロットルレスポンスに過敏なところがあって、操作に繊細さを欠く乗り手としては、ハイスロならぬロースロが欲しくなる。

路面からの入力を“ナマ”で伝え気味のサスペンションは、ハンサムスクーターとしてもう一段の洗練が望まれるし、フルカラーの液晶メーターが日の光の下で見にくいとか、ターンシグナルのスイッチを、曲がるたびに左右にスライドさせていちいち戻さないといけないといった細かい点が気になるが、それを挙げつらうのは、重箱の隅をつつきがちなニッポンのユーザーの悪癖である。

FW-06は、電動スクーターとしての基本性能が高い。モーター駆動の静粛性ゆえ、走行中のビビリ音やパーツのこすれる音が耳につく……といったマイナス要素はよく抑え込まれているし、なにより急坂急カーブも「バッチ来い!」な走りがいい。乗っていて楽しいスポーツスクーターだ。これならバックステップに加え、スポーツサスペンションでカスタム……なんて不純なことを考えてしまうわけです。

パワーを急激に引き上げるSボタンは、つまり電流の量を激増させる単純かつパワフルな仕組みだ。左手ホーンボタンの横に設けられ、押している間だけ作用させるのは耐久性を考慮してのことだと思うが、一事が万事。そうしたアグレッシブな姿勢がウサギマーク(FELO)の強みだと思う。問題は、Sボタンを押すのがついついクセになっちゃうことだな。

(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

ハンドルバーのスイッチボックスに設けられた「S」ボタン。このボタンに頼らずとも「FW-06」は十分にパワフルで、むしろ、穏やかな側の走行モードがひとつ欲しいと思ってしまった。(写真:青木禎之)
ハンドルバーのスイッチボックスに設けられた「S」ボタン。このボタンに頼らずとも「FW-06」は十分にパワフルで、むしろ、穏やかな側の走行モードがひとつ欲しいと思ってしまった。(写真:青木禎之)拡大
シート高は784mmで、クッションの下は小物入れとなっている。他のスクーターに見られるようなフロアボードがないことから、足つき性は良好だ。
シート高は784mmで、クッションの下は小物入れとなっている。他のスクーターに見られるようなフロアボードがないことから、足つき性は良好だ。拡大
ハンドルバーの中央に備わるLCDディスプレイ。車速や走行距離、SOC(State Of Charge=バッテリーの残量をパーセントで表示したもの)、走行可能距離などを確認できる。
ハンドルバーの中央に備わるLCDディスプレイ。車速や走行距離、SOC(State Of Charge=バッテリーの残量をパーセントで表示したもの)、走行可能距離などを確認できる。拡大
シングルチャンネルのABSやトラクションコントロールといった安全装備も採用された「フェローFW-06」。電動のスポーツスクーターとして、かなり完成度の高いモデルだった。
シングルチャンネルのABSやトラクションコントロールといった安全装備も採用された「フェローFW-06」。電動のスポーツスクーターとして、かなり完成度の高いモデルだった。拡大
モートロン・ヴィジョン
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テスト車のデータ

モートロン・ヴィジョン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1760×810×1000mm
ホイールベース:--mm
シート高:--mm
重量:100kg
定格出力:1.0kW(1.4PS)
最大トルク:14.6N・m(1.5kgf・m)
トランスミッション:--
一充電走行距離:79km
交流電力量消費率:--km/Wh
価格:44万円

フェローFW-06
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フェローFW-06

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1832×711×1087mm
ホイールベース:1236mm
シート高:784mm
重量:121kg
最高出力:10kW(13.6PS)
最大トルク:--N・m(--kgf・m)
トランスミッション:2段AT
一充電走行距離:140km
交流電力量消費率:--km/Wh
価格:99万円

青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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