第37回:あり得ないほどスカスカか? 奇跡のお買い得グレードか? 一番安い「CX-60」を試す!
2023.05.25 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ当初ノーマークだった安すぎる“釣り”っぽいグレード
いよいよ完全復活、小沢コージの勢いまかせ!! 今回は先日の丸本社長インタビューに続き、やっと乗れたマツダの待望のモデルをチェックします。それはある種“貧民の「CX-60」”たる(怒られるか?)「25S Sパッケージ」、299.2万円也~!!
2022年デビューの入魂のプレミアム味SUV、CX-60ですが、あり得ない新作直6ディーゼルやFRプラットフォームもさることながら、同時に300万円切りのスタート価格にもびっくり仰天したわけです。
ご存じ全長4.7m前後のFR骨格SUVはぶっちゃけメルセデスなら820万円、BMWなら741万円から始まるカテゴリーなわけですよ。一方、昨今のマツダは素直に「プレミアム」とは言いませんが「ブランド価値経営」をモットーとするのは明白。数を追わずに質を追求するのが2012年以来のスカイアクティブ戦略なわけですから。
よって今まで以上にスタイルと走りを追求したCX-60計画が発表されたとき、安くても400万円スタート、高けりゃ500万円スタートか? と勝手ににらんでたわけです。それでもベンツとBMWより200万~300万円安いしね。
ところがどっこい、2022年の春に価格を聞いてびっくり。なんと驚愕(きょうがく)の299.2万円スタート!! ちょっと安すぎるくらいに安くて、当時の「CX-5」と同程度どころかCX-5が2リッター直4スタートなのに、CX-60は2.5リッター直4スタートだから、排気量500cc分の超過料金も取ってないし、17cm長いボディー分もFR骨格分も全く取ってない。こりゃほとんどダンピングレベルってか、なんかマツダ「安売りしすぎでしょ?」と思ったのも事実。
とはいえ9月に発売されてみると、本当にCX-60らしさが詰まってるディーゼルの「XDハイブリッド」や「PHEV」は500万円以上だし、特にほぼ400万円以下の25Sは、最大の売りたるディーゼルが選べないのはもちろん、2.5リッター直4は実質CX-5用エンジンを縦置きにした程度。ディーゼルで投入した2段エッグ燃焼技術や「スカイアクティブX」的な希薄燃焼技術もないし、ぶっちゃけ25Sはやはりあのサイズが欲しい人やディーゼルが嫌いな人向け、または道路公団の方々などが乗るイキスギ系ストイック仕様なのでは!? 要は「買いやすさで釣る」グレードかもと思ってたわけです。
実際、初期受注はハイブリッド系が多いようで、平均購入価格は500万円以上とか。なるほどマツダブランド価値(向上!?)経営、うまくいってるじゃないですか!! と思ってましたね、当初は。
全車ピロ1&リアスタビ外しのしなやか足
ところが発売後に発生した早期納車グレードの「足硬問題」。XDハイブリッドやPHEVに公道で乗ると路面の凹凸での突き上げが厳しすぎる、ぶっちゃけ「足が硬すぎる」問題ですが、実は一部グレードにしなやかな足が存在し、それが小沢コージ的に『YouTube』でガンガン報告したリアサスの「ピロボール1個&スタビ外し」仕様なのです。
しかもこの設定がなんとディーゼルの「XD」の2WDと、4WDのごく一部、さらにガソリンの25S全車に適用。このエピソードを聞いたあたりから「安いけど25S、実はいいんじゃね?」という話の流れになってきたわけです。
前置きが長くなりましたが、肝心の25Sのそれも最安のSパッケージ(299.2万円)、ついに乗りましたよ。残念ながらオプション盛り盛りで試乗車の価格は350万円を超えてましたが。
しかし内装は基本的にSパッケージそのものでインパクトはかなりデカい。確かにインパネは相当なるさっぱり風味で素っ気なさ全開。特に上位グレードでは見たことのなかったダッシュまわりのブラックパネルはすごい。露骨に樹脂むき出しで衝撃的なシンプルさ。
上位グレードに付いてるメッシュメタルやインレイメタルウッドなどの装飾パネルもないし、細かく見るとドア内張りのアッパーがハード樹脂に、合皮部分がファブリックになってるのも結構な割り切り。メーターも上位グレードがフルデジタルなのに対し、Sパッケージは真ん中のみデジタルですし、オプションを盛らなければセンターディスプレイも10.25インチのまんま。
かたやエクステリアで意外に頑張ってたのがピアノブラックの縦バーフロントグリルにクロームメッキのシグネチャーウイング。このあたりはハイブリッド系の「プレミアムモダン」や「エクスクルーシブモダン」と全く同じで顔のゴージャスさには意外と差がない。
とはいえ前後左右のクラッディング類は全面的に無塗装樹脂だし、特に直6の上位2グレードではツヤツヤのクロームで「INLINE6」と入ってたサイドシグネチャーがないのは痛い。このあたり、露骨にしょぼさを感じます。
ピザのようなSUV
一方、気になる走りですが、25Sの2.5リッターガソリンノンターボ、意外によかったです。8段ATがローギアードになってるので、出足が思った以上にいい。スペック的には最高出力188PS/最大トルク250N・mと大したことないですが、さほど不満はありません。ただし、トルクが薄いぶん、エンジンをブン回しがちな部分はあります。
また25Sには2駆のFRモデルと4WDモデルがあり、両方乗りましたが、FRのノーズの軽さと4WDのバランスのよさが好印象。
肝心の足硬問題ですが、全車ピロ1&スタビ外しグレードなので、気になる突き上げナシ。このあたり、気にする人は気にする、気にしない人はまるで気にしないポイントですが、前者な人はディーゼルの2駆か、25Sのどれかを買っといたほうが無難かもしれません。
とはいえ上位グレードの乗り心地問題は「改善」もしくは「走行距離」で徐々に解消されていくでしょうし、人によっては全く気にしないのでホントに難しい。
しかし、CX-60はパワートレインのバリエーションが4つもあり、価格に幅がありすぎるうえ、安いほうが足がしなやかって設定は、やはりもったいない。
正直、マツダブランド価値経営の国内における難しさを感じます。勝手に予想すると本来25Sの、それもヤリすぎなほど安いSパッケージは設定したくなかったのではないでしょうか。
なぜならマツダCX-60がいきなり400万円、あるいは500万円スタート! になったら「なにを勘違いしてるんだマツダは」「プレミアムにでもなったつもりか!」という批判が間違いなく生まれます。特に国内のウルサ型、なんでも安けりゃいい系メディアから。
小沢個人としてはそれでもよかったと思うのですが、そうなると間違いなく国内全体の販売にも関わってくる。そこで苦肉の策ともいえる25S Sパッケージの設定。
一方、逆にXDハイブリッドやPHEVは、ハイパワーで足硬めなメルセデスのAMG、BMWのMパフォーマンスモデル的に捉えたほうがいいのかもしれません。要するに「CX-60 XDハイブリッド マツダスピード」……的ポジション。そうやってマニアックな深いマツダファンには腹落ちしていただく。
ともかく、これでCX-60にはXDハイブリッド、PHEV、XD、25Sと全部乗れましたが、ここまで加速やハンドリング、乗り心地までがバラエティー豊かなSUVってありません。
そういう意味ではトッピング具材によって味がいろいろ楽しめるクルマ、よくできた「走るピザのようなSUV」として考えればいいのではないでしょうか?
ちなみにコージ的リコメンドは25S、またはXDの「Lパッケージ」で、2駆と4駆は、25Sならどちらでもよくて、XDは基本2駆がオススメ。これが300万円台前半からほぼ400万円で買えるってすごいっすよ。欧州プレミアムのほぼ半額ですから。まさしく奇跡のお買い得グレード!(笑)
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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