スズキVストローム1050DE(6MT)
頼れるフラッグシップ 2023.06.02 試乗記 スズキの大型アドベンチャーツアラー「Vストローム1050」に、オフロード性能を高めた「DE」が登場。21インチのフロントホイールと専用のトラクションコントロールを備えたデュアルパーパスモデルの旗艦は、どんな走りを見せてくれるのか?成熟したVツインエンジンの完成度
スズキVストローム1050DEは、Vストローム1050をベースとし、オフロード色を強くしたマシンだ。フロントホイールを21インチとして走破性を意識したタイヤを装着。トラクションコントロールには、タイヤの流れを一定に制御する「G」モードを装備している。
最初にこのマシンを見たときは「大きいバイクだな」と思った。Vストローム1050よりもサスペンションストロークが10mm増え、フロントホイールも大径化されているから、さらに迫力が増している。同じクラスのライバル「BMW 1200GSアドベンチャー」と比べると、車重はほぼ同等でシートは10mm低く、ホイールベースでは85mm長い。テスターは身長が178cmだが、両足を着こうとするとカカトが浮く。しかもステップがふくらはぎにあたるので、なお足つきがよくない。バイク歴の短い小柄なライダーだと、扱うのに苦労するかもしれない。
熟成の進んだVツインエンジンは非常に力強い。ライディングモードを最もパワフルな「A」モードにして走っていると、非常にトルクフルで低中速からでも自由自在に加速する。排気量が大きいので鼓動感も強めだが、角のあるフィーリングではなく、低中速で走っていると実に心地よい。スロットルを開け閉めしたときのレスポンスがマイルドなこともあって、とても扱いやすい特性だ。引っ張れば高回転までストレスなく回るけれど、回すと突然パワーが出てくるような特性ではなく、中速での力強さが回転数に比例して増幅されるような感じだ。
振動は5000rpmくらいからタンクとハンドルレバーに現れる。6000rpmからはシートにも出るが、これくらいの排気量のツインとしては標準的なレベル。特に疲れるほどではないし、普段常用する5000rpm以下ではとても滑らかである。緻密に制御されていて、アップ/ダウンとも気持ちよく変速するクイックシフターとも相まって、細かい部分までとてもよく煮詰められたエンジンに感じられた。
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コーナリングが心地いい
先述のとおり、最初は最もパワーの出るAモードで走りだしたのだが、これが乗りやすいので「常にAモードでよいのでは?」と思っていた。ところが試しに「B」モードにしてみたら、非常に快適。パワーの出方がジェントルになり、長時間走っても疲労が湧いてこない。それでいて開ければパワーも十分すぎるほどにある。結局、これ以降は終始Bモードで走ることになった。
ちなみに、Cモードにするとさらにパワーの出方が控えめになるのだが、雨のなかで試してみたところ、ウエット路面でもちょっと穏やかすぎた。ストリートでは雨でも使わないかもしれないが、オフロードなどで極端にグリップが悪い場所などを走るときは、有効なはずだ。
テスターが気に入ったのはコーナリングだ。バンクさせていったときにサスが沈み、ステアリングが切れて旋回に入る一連の動きのすべてがしっとりと上質で、大径フロントホイールのビッグバイクでしか体感できないハンドリングだ。
もちろん、限界域で攻めていったら17インチタイヤ(Vストローム1050はスタンダードモデルでもフロント19インチ)の絶対的なグリップと安心感にはかなわない。しかし、ストリートでそこまで攻めることがどれだけあるのかは疑問。それだったら日常域でのコントロールが楽しい(ライダーによって好みは分かれるだろうが)マシンのほうがいいと思う。
高速道路のクルージングは、快適性、安定性ともに、文句のつけどころがないレベルだった。クルージングくらいの回転域なら振動も皆無。防風効果も高くてシートの座り心地も良好。どこまでも走っていけそうな感じがする。
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スズキの本気が感じられる
今回は本格的なオフロードは走らなかったが、この大きさのマシンをオフで振り回すには相当な技術が必要だろう。もっとも、このサイズさえクリアしてしまえば、Vストローム1050DEは車体のバランスがいいのでとても走りやすい。撮影したようなフラットダートであれば、戦車のごとく突き進んでいく。
アドベンチャーバイクのなかでは最低地上高は低めだが、このマシンはどちらかというと、本格的にオフを攻めるというよりは、未舗装路を含めた荒野を突っ走るという性格。エンジンの搭載位置が低いので、大きな車体にもかかわらず低重心ならではの安心感がある。この車体とリアの滑り方を制御するGモードを備えたトラクションコントロールのおかげで、想像以上に積極的な走りができる。
足まわりに関して言えば、ブレーキも非常にいい。絶対制動力もさることながら、握り込んでいったときのリニアさが素晴らしい。緊急回避を想定してフルブレーキングをしてみたが、車体が大きくて安定しているし、ボジションがアップライトで減速Gにも耐えやすいことなどから、安心して制動力を増していくことができる。ABSはキックバックが若干多めだったが、作動自体はとても安定していた。
このクラスには、BMW 1200GSアドベンチャーや「ホンダCRF1100Lアフリカツイン」「トライアンフ・タイガー1200」「ハーレーダビッドソン・パン アメリカ1250」などの強豪があふれている。どのモデルも最先端のメカニズムを搭載しているが、電子制御が進んで操作が難解なマシンもある。そんななかにあってVストローム1050DEは、6軸IMUを使った高度なセンシングを行いながら、モードの切り替え表示やスイッチ類がシンプルなのもいい。もちろん、ライバルに見劣りしない高いパフォーマンスや快適さを確保しているし、これに乗っていたらなにが起こっても平気だと思えるような、頼もしさがあった。スズキの本気を感じるマシンである。
(文=後藤 武/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2390×960×1505mm
ホイールベース:1595mm
シート高:880mm
重量:252kg
エンジン:1036cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:106PS(78kW)/8500rpm
最大トルク:99N・m(10.1kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:19.3km/リッター(WMTCモード)
価格:171万6000円

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。