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スズキVストローム1050XT(MR/6MT)

よみがえる怪鳥 2020.06.26 試乗記 河野 正士 往年のパリ-ダカールラリー出場マシンをほうふつとさせるカラーリングをまとい、スズキから新型のアドベンチャーツアラー「Vストローム1050」が登場。リッタークラスのエンジンを搭載する、スズキ製アドベンチャーのフラッグシップモデルを試す。

電子制御ではなく“地力”で勝負

スズキらしい質実剛健さと、スズキらしくないトレンディーさ(……という表現が今やトレンディーではないが)を併せ持つ車両。それが「スズキVストローム1050XT」の印象だった。

質実剛健さを感じたのは、飾り気のない、実直な走りのパフォーマンスだ。19インチホイールを履く穏やかなフロントまわりの反応は、混雑した街中でも、少し路面が荒れた首都高速でも神経質なところを見せない。しかし、前後が空いたのを見計らいペースを上げてコーナーに向かえば、気持ちよく“攻める”ことができる。ブレーキ操作と体重移動だけで旋回を始めるスポーツバイクほどクイックな反応ではないが、決して鈍重ではない。このままワインディングロードに持ち込んでも、前後サスペンションのピッチングを生かして十分にスポーツライディングを楽しめるだろう。「そうそう。アドベンチャーバイクってこんなハンドリングだった」と再認識した。

近年、アドベンチャーモデルは欧州を中心に販売台数を伸ばし、ドル箱カテゴリーとなっている。それまでの「スポーツバイクやネイキッドバイクから派生した、大型カウルを装着したスポーツツーリングモデル」から、「上体を起こしたアップライトなポジションと、荒れた舗装路やオフロードも走破できるマルチパーパスモデル」へとそのスタンダードが移行したことも、このカテゴリーが活況となった要因である。

そして、その活況なアドベンチャーカテゴリーでは、各メーカーが電子制御技術を含む多くの最新テクノロジーを真っ先に投入し、先進性を徹底的にアピールして激しいシェア争いを展開している。その結果、二輪における“アドベンチャー”は“ラグジュアリー”と同義語となり、四輪でいうSUV(それも高級なヤツだ)的な存在となりつつある。

そんな中にあって、Vストローム1050は自らの足腰を鍛え上げ、“素”の出来栄えで勝負してきた。そして、その鍛え上げた足腰が実によい働きをしていると感じられたのだ。

2019年11月のミラノショーで発表された「Vストローム1050」。「Vストローム1000」の後継モデルにあたり、ロングツーリング性能の向上と新たな排出ガス規制への適合が図られている。
2019年11月のミラノショーで発表された「Vストローム1050」。「Vストローム1000」の後継モデルにあたり、ロングツーリング性能の向上と新たな排出ガス規制への適合が図られている。拡大
タイヤサイズは前が110/80R19、後ろが150/70R17。同車専用設計のアドベンチャーバイク用タイヤ「ブリヂストン・バトラックス アドベンチャーA41」が装着される。
タイヤサイズは前が110/80R19、後ろが150/70R17。同車専用設計のアドベンチャーバイク用タイヤ「ブリヂストン・バトラックス アドベンチャーA41」が装着される。拡大
サスペンションは前後ともにKYB製で、前はφ43mmの倒立フォーク。後ろはリンク式モノショックで、ダイヤル調整式のプリロードアジャスターが備わる。
サスペンションは前後ともにKYB製で、前はφ43mmの倒立フォーク。後ろはリンク式モノショックで、ダイヤル調整式のプリロードアジャスターが備わる。拡大
スズキの“スポーツアドベンチャーツアラー”である「Vストローム」シリーズ。今日では「250」「650」「1050」の3モデルがラインナップされる。
スズキの“スポーツアドベンチャーツアラー”である「Vストローム」シリーズ。今日では「250」「650」「1050」の3モデルがラインナップされる。拡大
スズキ の中古車

Vツインの魅力をしっかり味わえる

パワーユニットも実にいい。エンジンそのものは前モデルから変更はないものの、ライド・バイ・ワイヤをはじめとする新型の電子制御スロットルシステムを搭載するとともに、点火タイミングなどを再考。さらに、今回試乗したXTモデルにはボッシュ製6軸IMU(慣性測定ユニット)も採用しており、車体の状態をより細かく検出し、その時、その状態に適した制御を実現しているのだ。

実際に回してみると、低回転域ではVツインらしい鼓動感はあるものの、ビッグツイン特有のギクシャクはなく、それが穏やかなハンドリングと実によくマッチしている。そして5000回転に近づくあたりから徐々にビートを増し、これもVツインの“らしさ”である小気味よい回転フィールと力強い加速を見せる。出力特性を変更できる「SDMS(スズキドライブモードセレクター)」には「A」「B」「C」の3段階の制御が用意されていたが、個人的には一番元気がいいAモードが好みだった。Vツイン特有のトルク感が強く、リアタイヤが路面をつかむ感覚が分かりやすかったのだ。

ライバルの中には、この多様な走行モードに足まわりのセッティングが連動する電子制御サスペンションシステムを持つモデルも少なくない。前述の通りVストローム1050はそれを装備していないが、都内および郊外をコースとした今回の試乗では、まったく不満を感じなかった。それどころか、ハードなオフロード走行や超ハイスピードでのロングツーリングでもしない限りは(日本でそんなことをしたらスピード違反だが)、しっかりとつくり込まれたサスペンションセッティングとエンジンの出力特性によって、電制サスのライバルたちとも十分に渡り合えるという印象を強めたほどだ。

強化された電子制御も「Vストローム1050」のポイント。上級モデル「XT」には、下り坂の勾配に応じてABSの制御を最適化する「スロープディペンデントコントロール」や、荷重状態に応じて制動力を補正する「ロードディペンデントコントロール」なども備わる。
強化された電子制御も「Vストローム1050」のポイント。上級モデル「XT」には、下り坂の勾配に応じてABSの制御を最適化する「スロープディペンデントコントロール」や、荷重状態に応じて制動力を補正する「ロードディペンデントコントロール」なども備わる。拡大
1036ccのV型2気筒エンジンについては、電子制御スロットルの採用や吸排気タイミングの調整により、燃費性能を保ちつつ出力を向上。環境負荷の低減も果たしている。
1036ccのV型2気筒エンジンについては、電子制御スロットルの採用や吸排気タイミングの調整により、燃費性能を保ちつつ出力を向上。環境負荷の低減も果たしている。拡大
新たに採用された「S.I.R.S(スズキインテリジェントライドシステム)」。「SDMS」のモード選択や、ABSおよびトラクションコントロールの制御の切り替えが可能だ。
新たに採用された「S.I.R.S(スズキインテリジェントライドシステム)」。「SDMS」のモード選択や、ABSおよびトラクションコントロールの制御の切り替えが可能だ。拡大
“クチバシ”と呼ばれる、フロントカウルと一体となった泥よけ。昨今のオフロードモデルやアドベンチャーモデルではおなじみの装備だが、他社に先駆けてこれを採用したのはスズキだった。
“クチバシ”と呼ばれる、フロントカウルと一体となった泥よけ。昨今のオフロードモデルやアドベンチャーモデルではおなじみの装備だが、他社に先駆けてこれを採用したのはスズキだった。拡大
ロングツーリングの快適性を高める大型のウインドスクリーン。上下50mm、11段階の高さ調整機能が備わる。
ロングツーリングの快適性を高める大型のウインドスクリーン。上下50mm、11段階の高さ調整機能が備わる。拡大
シート高は850mm。前後に分割されたセパレート式で、表皮に滑りにくい素材を使用することでライダーの安定性を高め、長距離ツーリング時の疲労軽減に寄与している。
シート高は850mm。前後に分割されたセパレート式で、表皮に滑りにくい素材を使用することでライダーの安定性を高め、長距離ツーリング時の疲労軽減に寄与している。拡大
テスト車のカラーリングは、パリ-ダカールラリーの出場マシンをモチーフにした「ヘリテージスペシャル」。往年のワークスカラーをほうふつさせる「チャンピオンイエローNo.2」もファンをうならせる出来栄えなので、ぜひチェックしてほしい。
テスト車のカラーリングは、パリ-ダカールラリーの出場マシンをモチーフにした「ヘリテージスペシャル」。往年のワークスカラーをほうふつさせる「チャンピオンイエローNo.2」もファンをうならせる出来栄えなので、ぜひチェックしてほしい。拡大

スズキが世界のトレンドをけん引する

冒頭に書いたもうひとつの印象、すなわち「スズキのトレンディーなアプローチ」については、少し説明が必要かもしれない。そもそも新型「カタナ」の発表で欧州を沸かせたスズキではあるが、まさかアドベンチャーカテゴリーにもネオクラシックを持ち込んでくるとは思わなかったのだ。

ファンならご存じのことと思うが、今回のVストローム1050は、1988年に発売されたスズキ初のアドベンチャーバイク「DR750S」のデザインがモチーフになっている。そのベースとなったのはファラオラリーで勝利したラリーマシン「DR-Z(ジータ)」であり、当時はアドベンチャーバイクというよりビッグオフローダーであった。Vストローム1050は、これらのデザインに強く影響を受けている。DR750SやDR-Z的な“クチバシ”については前モデルから採用しているが、今回はボディーデザインだけでなく、カラーリングもDR-ZのDNAを強く反映したラインナップとなった。

たしかに欧州では、ここ数年で“レトロオフロードテイスト”というトレンドが盛り上がりをみせ始めていた。ネオクラシックブームから派生したその新しい潮流は、樹脂製の外装パーツを装着した1980年代風のオフロード/エンデューロバイク、そして“パリダカ”に代表されるラリーの競技車両に焦点を当てたもので、かの地ではそうしたカスタムとともに、当時の雰囲気を再現するイベントが盛り上がりを見せている。新型Vストローム1050の発表で、その流行は加速するかもしれない。

この、“スズキらしさ”と“スズキらしからぬ”という2つのトピックスを巧みにまとめ上げ、激戦のアドベンチャーカテゴリーで存在感をアピールしたVストローム1050XT。かつてDR-Zに魅(み)せられた往年のファンはもちろんだが、これまでスズキというブランドに距離があったライダーにもぜひ試してほしい車両だ。スズキのイメージも、アドベンチャーモデルのイメージも、きっと変えてくれるだろう。

(文=河野正士/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

スズキVストローム1050XT
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スズキVストローム1050XT(MR/6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2265×940×1465mm
ホイールベース:1555mm
シート高:850mm
重量:247kg
エンジン:1036cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ
最高出力:106PS(78kW)/8500rpm
最大トルク:99N・m(10.1kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:20.3km/リッター(WMTCモード)/29.2km/リッター(国土交通省届出値)
価格:151万8000円

河野 正士

河野 正士

フリーランスライター。二輪専門誌の編集部において編集スタッフとして従事した後、フリーランスに。ファッション誌や情報誌などで編集者およびライターとして記事製作を行いながら、さまざまな二輪専門誌にも記事製作および契約編集スタッフとして携わる。海外モーターサイクルショーやカスタムバイク取材にも出掛け、世界の二輪市場もウオッチしている。

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