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モータリストVMS6(4MT)

eバイクにも走る喜びを! 2023.06.07 試乗記 青木 禎之 世界中から魅力的なバイクを取り寄せているモータリスト合同会社が、独自ブランドの電動バイク「モータリストVMS6」をリリース。その特徴は、4段セミATの採用にあった! バイクならではの操る喜びを追求した意欲作を、箱根のワインディングロードで試した。

限られたパワーを賢く引き出す

バイクの輸入販売を手がけるモータリスト合同会社が、自社ブランドでリリースした電動バイク、モータリストVMS6で、国道1号線を箱根峠に向かって駆け上がる。車重115kgに最高出力6kWの電気モーターだから、ほぼ“ピンクナンバー”どおりの動力性能。絶対的な速さは控えめなので、カーブが続く上り坂がなんだか惜しい気もするが、一方でいかにも新しい乗り物にまたがっている高揚感がある。俊敏なスロットルレスポンスを生かして限られたパワーを最大限引き出そうとしながら、「やったるで!」と心のなかでリキむのがなんだかおかしい。

ふとバッテリー残量が気になってメーターに目をやると、試乗開始時からほとんど減っていない。「大したもんだ」とうれしくなって“曲がり”をいくつかこなしたところ、視界の隅でメーターがパタパタと点滅したかと思ったら、パワーの供給が途絶えた。スロットルをひねっても、道端に寄せてスターターキーを回してもウンともスンとも言わない。「このキッパリしたところがエレクトリックだね!」なんて感心していても仕方ないので、30mほど先の駐車場まで電欠したバイクを押していった。

……モータリストVMS6は、「ギアチェンジできる電動バイクを世に出したい」という同社代表の意を受けて開発されたモデルである。わが国の四輪市場ではMTはほぼATに駆逐されてしまったが、趣味性が強い二輪の世界では、まだまだマニュアルが主流。ギアを自ら選択操作してパワーをダイレクトに感じ、マシンを意のままに操るまたは操っている気になるのは、モーターサイクルに乗る醍醐味(だいごみ)のひとつだ。“ギア付き”eバイクの試みにはもろ手を挙げての賛成しかない。

モータリスト合同会社が自社開発した電動バイク「VMS6」。区分的には、「AT小型限定免許でも運転できる原付二種」となる。
モータリスト合同会社が自社開発した電動バイク「VMS6」。区分的には、「AT小型限定免許でも運転できる原付二種」となる。拡大
シンプルなモノクロの液晶メーター。バッテリーの残量計は、パーセンテージではなく10段階の目盛り表示となる。
シンプルなモノクロの液晶メーター。バッテリーの残量計は、パーセンテージではなく10段階の目盛り表示となる。拡大
モーターのアウトプットは定格出力1.0kW、最高出力6.0kW。最大トルクは驚異の280N・m! ……とされているが、計測方法などが異なるので一概にエンジン車とは比べられない。4段のセミATとチェーンを介して後輪を駆動する。
モーターのアウトプットは定格出力1.0kW、最高出力6.0kW。最大トルクは驚異の280N・m! ……とされているが、計測方法などが異なるので一概にエンジン車とは比べられない。4段のセミATとチェーンを介して後輪を駆動する。拡大
バッテリーには電圧72V、容量70Ah(5.0kWh)のリチウムイオン電池を採用。関係者によると、実走における航続距離は70~80kmとのことだ。
バッテリーには電圧72V、容量70Ah(5.0kWh)のリチウムイオン電池を採用。関係者によると、実走における航続距離は70~80kmとのことだ。拡大

トランスミッションはまさかの「カブ」

このギア付きeバイクの計画が具体的に動き出したのは2019年。その後のコロナ禍で、製造元の中国メーカーとの意思疎通が難しくなって苦労を重ねたというが、昨2022年、みごと市販にこぎ着けた! 二輪ならではの転倒時の安全性などに配慮して、特別なケースに容量5.0kWhのリチウムイオンバッテリーを収納。航続距離は約120kmをうたう。価格は99万円だ。

機構が複雑になるのを嫌って回生システムは持たないが、目玉のトランスミッションには、なんと「ホンダ・スーパーカブ」のそれを活用! つまりセミオートマチックたる自動遠心クラッチを備えた4段MTである。言うまでもなくクラッチ操作は不要で、ギアチェンジもカブ流に足先でシフトレバーを踏むとアップ、すくい上げるとダウンとなる。リンケージの関係で、かかと側のレバーはない。

モータリストの意欲作は、実車を前にするとなんとも不思議なカタチで、ビキニカウルをまとったヘッドランプまわりを見ればカフェレーサー風といえるが、全体のフォルムから電動ファイターとも称せるし、シート位置の高さとソフトなサスペンションにはオフローダーっぽさも感じる。個人的には、細いラインで構成された余白ある姿が「カマキリのようだ」と思いました。かつての英国バックヤードビルダーに通ずる「味のあるスタイル」といえましょうか。

タイヤは前後とも17インチ。シート高は850mmと高めなので、身長165cm短足仕様の自分の場合、停車中は意識して片足で支えることになる。とはいえ、いわゆるオフ車のようにウェイトが軽いので、さほど不安にはならない。

「VMS6」のプロジェクトがスタートしたのは2019年ごろ。2020年末にバイクが形となり、コロナ禍を経てようやくリリースを迎えた。生産を担うのは中国・重慶の威利科技実業有限公司だ。
「VMS6」のプロジェクトがスタートしたのは2019年ごろ。2020年末にバイクが形となり、コロナ禍を経てようやくリリースを迎えた。生産を担うのは中国・重慶の威利科技実業有限公司だ。拡大
このミッションケースに見覚えがある……という人はなかなかのホンダ通。4段のセミATは、実は「ホンダ・スーパーカブ」と共通のものなのだ。
このミッションケースに見覚えがある……という人はなかなかのホンダ通。4段のセミATは、実は「ホンダ・スーパーカブ」と共通のものなのだ。拡大
ハンドルバーに備わるスイッチボックス。「HML」のスイッチを押すと、モーターのパワーが、ハイ/ミドル/ローの3段階で切り替わる。下の「DR」は、ドライブ(前進)とリバース(後退)の切り替えスイッチだ。
ハンドルバーに備わるスイッチボックス。「HML」のスイッチを押すと、モーターのパワーが、ハイ/ミドル/ローの3段階で切り替わる。下の「DR」は、ドライブ(前進)とリバース(後退)の切り替えスイッチだ。拡大
シート高は850mmと高めだが、車体が非常にスリムなので、足つき性はこの数字から想像するほどは悪くない。
シート高は850mmと高めだが、車体が非常にスリムなので、足つき性はこの数字から想像するほどは悪くない。拡大
走りにはこだわりがあり、フロントには高剛性の倒立フォークを採用。ブレーキは前後ともにディスク式で、前後のブレーキを連携させて作動させるコンビブレーキ機能が備わっている。
走りにはこだわりがあり、フロントには高剛性の倒立フォークを採用。ブレーキは前後ともにディスク式で、前後のブレーキを連携させて作動させるコンビブレーキ機能が備わっている。拡大
足まわりではトラクションをしっかりかけられるよう、リアアームの取り付け位置を変更して軸間距離を延長。タイヤサイズは前:120/70-17、後ろ:130/70-17が標準で、オプションで14インチのタイヤ&ホイールも用意される。
足まわりではトラクションをしっかりかけられるよう、リアアームの取り付け位置を変更して軸間距離を延長。タイヤサイズは前:120/70-17、後ろ:130/70-17が標準で、オプションで14インチのタイヤ&ホイールも用意される。拡大
充電口は車体の右側、ミッションケースの後方に配置。満充電に要する時間は、100V電源で約4~5時間とされる。
充電口は車体の右側、ミッションケースの後方に配置。満充電に要する時間は、100V電源で約4~5時間とされる。拡大
バイクならではの“操っている感”を大事にした「モータリストVMS6」。モトクロッサーか、あるいは「どっかり座ってアクセルをひねるだけ」というモデルが多い今日のeバイクのなかにあって、非常にユニークなマシンに仕上がっていた。
バイクならではの“操っている感”を大事にした「モータリストVMS6」。モトクロッサーか、あるいは「どっかり座ってアクセルをひねるだけ」というモデルが多い今日のeバイクのなかにあって、非常にユニークなマシンに仕上がっていた。拡大

バイク本来の“遊び”がある

さっそくスタートすると、VMS6は電動バイク特有の力強い発進加速を見せ、スムーズに速度を上げていく。漫然と走っているとアッという間にレブリミット(?)に到達。ローで約38km/h、セカンドで約55km/h、サードであっさり60km/hを超える。なるほど、電動バイクながらタイミングを合わせてギアレバーを踏んでいくのが楽しい。

身もフタもないことを言うと、極低回転からトルクが豊かな電気モーターと半自動トランスミッションとの組み合わせゆえ、普通にライドしている限り、あまりシフトダウンの必要性を感じない。パワーソースの実用域が広いので、トップギアたる4速に入れたまま無精に使うことも可能だ。実際、モータリスト代表の方も、「3、4速だけでも成立します」と笑いながらおっしゃっていたが、せっかくだからガチャガチャと積極的にギアを使って、VMS6のポテンシャルを発揮させたい。

アップライトで気楽なポジションながら、あえて腰をズラしてカーブを“攻めて”みたり、できるだけ早くスロットルを開けるようにしてみたり、なにはともあれ「やってる気になる」のが大事だと思う。バイク本来の、そんな遊び心を喚起させるところがVMS6の魅力だ。

今後、電動バイクがどのように発展していくのかはわからない。そんな状況下、相対的な参入ハードルの低さを生かして、カブのトランスミッションを使うというナイスなアイデアでギア付きeバイクを実現、商品化させたのは立派だ。過渡期にあっては、冒頭で触れたような多少の不具合はつきもの。すぐに「そんなこともあったよね」と笑える日が来るんじゃないでしょうか。

(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

モータリストVMS6
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モータリストVMS6(4MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=1912×850×1085mm
ホイールベース:1375mm
シート高:850mm
重量:115kg
最高出力:6.0kW(8.2PS)
最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)
トランスミッション:4段セミAT
一充電走行距離:約120km
交流電力量消費率:--km/kWh
価格:99万円

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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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