フェラーリの新たな高性能モデル「SF90 XXストラダーレ」「SF90 XXスパイダー」がデビュー

2023.06.29 自動車ニュース 西川 淳
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フェラーリSF90 XXストラダーレ
フェラーリSF90 XXストラダーレ拡大

伊フェラーリは2023年6月29日、新型プラグインハイブリッド・スーパースポーツ「SF90 XXストラダーレ」「SF90 XXスパイダー」を発表した。SF90 XXストラダーレは台数799台の限定生産で、2024年第2四半期にデリバリー開始。SF90 XXスパイダーは599台限定で配車予定は2024年第4四半期となっている。

SF90 XXストラダーレとSF90 XXスパイダーの外装・内装をフォトギャラリーで見る

SF90 XXスパイダー
SF90 XXスパイダー拡大
オープントップモデル「SF90 XXスパイダー」のインテリア。ルーフは、車速45km/h以下であれば走行中でも開閉できる。
オープントップモデル「SF90 XXスパイダー」のインテリア。ルーフは、車速45km/h以下であれば走行中でも開閉できる。拡大
アルカンターラとカーボン材が多用される、レーシーなコックピット。写真は「SF90 XXストラダーレ」のもの。
アルカンターラとカーボン材が多用される、レーシーなコックピット。写真は「SF90 XXストラダーレ」のもの。拡大
リアエンドには大きな固定式リアウイングが装着されている。
リアエンドには大きな固定式リアウイングが装着されている。拡大

あくまでも新シリーズ

マラネッロから“新たなシリーズ”が誕生した。その名はSF90 XXストラダーレ/SF90 XXスパイダー。こう書くと多くのフェラーリ好きはきっと「『SF90』の高性能版だね」と合点し、「別に新しいシリーズなんかじゃなくて、これまでと同じスペチアーレ=限定車でしょ」と思われるに違いない。

確かにこの新型車はすでに存在するシリーズモデル「SF90ストラダーレ」「SF90スパイダー」の“高性能版”であり“限定モデル”だ。マーケットによって購入できるカスタマーの条件は微妙に違うというが、基本的には、いまSF90シリーズのオーナーであると同時に複数台の跳ね馬を所有している人であることは間違いない。なるほど、一連の“シリーズモデルのスペチアーレ”(スペシャルバージョン。例えば「812スーパーファスト」に対する「812コンペティツィオーネ」)と同じような位置づけにも思える。

けれども、フェラーリのマーケティングのトップであるエンリコ・ガリエラ氏は「これまでの特別モデルや限定モデルとはコンセプトが違う、あくまでも“新しいシリーズ”だ」と何度も繰り返した。そしてそれこそが、この新型車があえて“XX”を名乗るゆえんでもあった。

フェラーリファンならよく知っているように、XXとは「XXプログラム」を指す。ファンにとっては「F1クリエンティ」や「チャレンジシリーズ」などと並ぶ憧れのオーナープログラムだ。

2005年より始まったXXプログラム。その内容とは、トラック専用に設計された特別なマシン(XXシリーズ)を指定のイベントやサーキットでオーナー自身がドライブし、自身のドライビングスキルを磨きながらトラック走行を楽しむ、と同時に、その走行データをマラネッロが蓄積・活用することで新たな開発の一助とする、というもの。つまり、オーナーはこの上ないフェラーリでサーキット走行を楽しむことができる(しかも30人程度の限定)のみならず、フェラーリ専属のテストドライバー気分も味わえるというわけだ。

XXプログラムに参加経験のあるオーナーいわく、「XXシリーズはピュアなレーシングカーではないけれど、プロではないジェントルマンドライバーがサーキット走行を思う存分に楽しむことができるよう設計されたマシン」なのだそう。

「フェラーリSF90 XXストラダーレ/SF90 XXスパイダー」が0-100km/h加速に要する時間は2.3秒。最高速はともに320km/hと公表される。
「フェラーリSF90 XXストラダーレ/SF90 XXスパイダー」が0-100km/h加速に要する時間は2.3秒。最高速はともに320km/hと公表される。拡大
ステアリングホイールのセンターにはエンジンの始動ボタンが、右下には走行モードのセレクターがレイアウトされている。
ステアリングホイールのセンターにはエンジンの始動ボタンが、右下には走行モードのセレクターがレイアウトされている。拡大
メーターパネルは液晶タイプ。カーナビのマップも表示できる。
メーターパネルは液晶タイプ。カーナビのマップも表示できる。拡大
走行中のダウンフォースを増大すべく、フロントのディフューザーはサイズと幅が「SF90」のものより拡大されている。
走行中のダウンフォースを増大すべく、フロントのディフューザーはサイズと幅が「SF90」のものより拡大されている。拡大

よりサーキット指向の強いロードカー

これまでXXプログラム用のマシンは、「エンツォ・フェラーリ」や「599」、さらには「ラ・フェラーリ」といったモデルをベースにごく少数(30台前後)がつくられてきた。今回の新型車は、そんなXXシリーズの性能をオンロード(公道)でも楽しめるように企画されたモデルというわけである。もっとも、この新型車でXXプログラムそのものに参加することはできないのだが……。

それはともかく、従来のシリーズモデルの高性能版、例えば812コンペティツィオーネや「488ピスタ」と何が違うというのか?

それはベースとなったSF90ストラダーレがすでにマラネッロの新世代を象徴する存在=最高出力1000PSの軽量プラグインハイブリッド・スーパースポーツカーとして企画されたシリーズモデルであり、それゆえ他のスポーツカーシリーズ、例えば812(12気筒の2シーターFRモデル)や488(8気筒の2シーターMRモデル)よりも、エンツォ・フェラーリやラ・フェラーリといった限定車に近い、けれども量販(シリーズ)モデルという位置づけである点だ。逆に言うとSF90 XXシリーズが登場したおかげで、SF90シリーズの(微妙な)立ち位置もあらためて明確となった。SF90ストラダーレで5340万円(国内発表時)というその価格がすでに物語っているとおり、12気筒モデルを含む他のスポーツカーシリーズよりも“かなり格上”の存在だったのだ。

開発部門の責任者であるジャンマリア・フルジェンツィ氏もまた、「SF90とSF90 XXは同時に開発がスタートし、後者はよりサーキット指向の強いロードカーで、ドライビングファンはXXマシンに近い。ダウンフォースは250km/h時で最大315kgだ」と言い、今や性能を語る顔となったテストドライバーのラファエル・デ・シモーネ氏もまた「SF90が持っている性能を誰もがサーキットでフルに引き出せるようつくり上げた。フィオラーノのラップタイムでは驚くほど速い」と断言する。ちなみに気になる公式ラップタイムは2023年の後半に計測される予定だ。SF90ストラダーレはラ・フェラーリより速い79秒であったから、そこから一体どれくらい速くなっているのだろう?

最後に、その速さの秘密=モデルの概要について語っておく。ポイントはエアロダイナミクス、パワートレイン、そして最新制御のシャシーである。

大型リアウイングと合わせて外装で特徴的なのが、前後フェンダーに設けられたルーバー。これもまた空力性能の向上に寄与している。
大型リアウイングと合わせて外装で特徴的なのが、前後フェンダーに設けられたルーバー。これもまた空力性能の向上に寄与している。拡大
「3つのルーバー」は内装の意匠にも生かされている。写真は運転席側のドアパネル。
「3つのルーバー」は内装の意匠にも生かされている。写真は運転席側のドアパネル。拡大
パワーユニットのシステム最高出力は、「SF90ストラダーレ/スパイダー」比で+30PSとなる1030PS。変速ロジックが専用仕立てとされた8段DCTが組み合わされる。
パワーユニットのシステム最高出力は、「SF90ストラダーレ/スパイダー」比で+30PSとなる1030PS。変速ロジックが専用仕立てとされた8段DCTが組み合わされる。拡大
シートはサーキット走行を意識したバケットタイプ。4点式のシートベルトが用意される。
シートはサーキット走行を意識したバケットタイプ。4点式のシートベルトが用意される。拡大
欧州での価格は「SF90 XXストラダーレ」(写真)が77万ユーロ(約1億2000万円)で、「SF90 XXスパイダー」が85万ユーロ(約1億3300万円)。販売台数は前者が799台、後者は599台となっている。
欧州での価格は「SF90 XXストラダーレ」(写真)が77万ユーロ(約1億2000万円)で、「SF90 XXスパイダー」が85万ユーロ(約1億3300万円)。販売台数は前者が799台、後者は599台となっている。拡大

スペックの違いはわずかだが……

写真を見ていただければ分かるように、SF90 XXストラダーレ/SF90 XXスパイダー最大の特徴はリアに大きな固定式ウイングを備えたこと。マラネッロがこれほどこれ見よがしなリアウイングをロードカーに採用するのは、実に、1995年に発表された「F50」以来のこと。デザイン部門責任者のフラビオ・マンゾーニ氏いわく、「『F40』やF50といったヘリテージに触発されつつ、ロードカーとして最も効果的に莫大(ばくだい)なダウンフォースを稼ぐためにデザインされた」という。SF90 XXストラダーレが発生するダウンフォースは、SF90 ストラダーレのそれから倍増しているのだ。

「ここ最近のマラネッロ製ロードカーといえばシンプルビューティーが多かった。SF90ストラダーレもまたすでに完成されたデザインをまとっている。けれどもそこにリアウイングという“異物”を加えても成立するように、そして空力と重量、デザインバランス、さらにはマーケティング上の要望(=顧客のリクエスト)にも最大限応えられるようにデザインした。フロントの特徴的なSダクトやリアの全く新しいロングテールデザインなどとともに、全体のバランスを鑑みつつ美しいマラネッロ製ロードカーとしてバランスよく成立させることが最も難しかった」とフラビオは語っていた。

実際、その姿を間近で見ると、派手なエアロデバイスをまとっているとはいえ、仰々しさはまるでない。3本のルーバーデザインが“ここぞ”とばかり各所(ドアの内側までも!)を引き締めており、実にフェラーリらしい、けれども存在感のあるスタイルだ。

電動パワートレインの基本構成は既存のSF90と変わらない。フロントに2基、リアはV8ツインターボエンジンと8段DCTとの間に1基の電気モーターを置く。エンジンでSF90比+17PS、モーターで同+13PS、それぞれファインチューニングが施されシステム最高出力は1030PS(同+30PS)。DCTは、よりダイナミックな加速特性とエキゾーストノートが得られるよう変速ロジックが変更されている。バッテリーサイズは変わらず、電動走行距離も25km。車両重量は各種エアロデバイスの追加にもかかわらず-10kgとした。

パワースペックにしろ、軽量化にしろ、「たったそれだけ?」と思われるかもしれない。それだけのために、ほとんど倍のプライスタグ(欧州での販売価格はSF90 XXストラダーレが77万ユーロ<約1億2000万円>、SF90 XXスパイダーが85万ユーロ<約1億3300万円>)を掲げるの? 筆者も最初はそう思った。違うのだ。SF90ストラダーレ&スパイダーがそもそもハイスペックであり、絞りに絞った車重であった。高性能版での“わずかな性能アップ”もまた、既存のSF90シリーズがいかに優れたマシンであったかと物語っている。

そのほか、サーキット走行中に効果的な「エクストラ・ブースト」機能や、「296」シリーズでもおなじみの「ABS EVOコントローラー」など、SF90が潜在的に備えているパフォーマンスをジェントルマンドライバーが安心して引き出せるようにする最新技術は枚挙にいとまがない。

実はすべてが異次元だったスーパーカー、SF90シリーズをサーキットで骨までしゃぶりたいと思ったら、SF90 XXシリーズに乗り換えるほかなさそうである。すでに「行き先はすべて決まっている」とガリエラ氏は言っていたけれど……。

(文=西川 淳)

【フェラーリSF90 XXストラダーレ/SF90 XXスパイダーのスペック】
(※印のみSF90 XXスパイダーの値でほかは共通)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4850×2014×1225mm
ホイールベース:2650mm
乾燥車重:1560kg(※1660kg)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
エンジン最高出力:797PS(586kW)/7900rpm
エンジン最大トルク:804N・m(82.0kgf・m)/6250rpm
モーター最高出力:233PS(171kW)
システム最高出力:1030PS(757kW)
タイヤサイズ:(前)255/35ZR20/(後)315/30ZR20
ブレーキサイズ:(前)398×38mm/(後)390×32mm
燃料タンク容量:68リッター
最高速度:320km/h
0-100km/hの加速時間:2.3秒
0-200km/hの加速時間:6.5秒(※6.7秒)
燃料およびCO2排出量:ホモロゲーション取得申請中
 

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