クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

ホンダXL750トランザルプ(6MT)

僕らの理想の現実解 2023.07.14 試乗記 宮崎 正行 ホンダのアドベンチャーモデル「トランザルプ」が“ナナハン”になって復活! スリムなボディーに排気量754ccのパラツインエンジンを搭載した「XL750トランザルプ」は、親しみやすくて走りも上々、しかも高い満足感も味わえる、文句ナシの一台に仕上がっていた。

初代をほうふつとさせるカッコよさ

2000年に最終モデルが発売された“Vツインナナハン”の「アフリカツイン」が、2016年にパラツインのリッターバイクとなって復活したときは、やっぱりうれしかった。そして同時に「どうにもならなさそうな巨人感」がだいぶ薄らいだようにも感じた。実際に乗って「重いしデカいし」と思いつつ、でもなんとかなった(ように思わせてくれた)ことがとてもうれしくもあり、どこか残念でもあり……。めんどくさいおじさんライダーですみません。

そしてトランザルプ。出た! あのトランザルプだ。アフリカツインを頂上とするホンダのアドベンチャーモデルのラインナップに、今度は新型トランザルプが加わったのだ。パリダカ2年連続優勝マシン「NXR750」の威光を借りて発表された初代「トランザルプ600V」の発売は1987年だった。車名のとおり排気量は600ccだったが、海外モデルの「XL650V」「XL700V」を経て、2023年発表の新型ではついに750ccにまで拡大されている。キャパだけで言えばパリダカマシンに追いついた! そして目の前に現れた久々の国内仕様モデル、XL750トランザルプは、びっくりするくらい初代のカラーリングにうりふたつ。ワークスカラー、フロント21インチ、ゴールドリム。うーん懐かしいぞ、カッコいいぞ。

そういえば往時、国内仕様の600ccモデルはたったの300台限定リリースで、街を行くトランザルプの多くは1991年以降に発売された「トランザルプ400V」か、並行輸入された海外モデルだった。そんなことを思い出しつつ早朝の恵比寿、編集部から試乗はスタート。恐れていた足つきは思いのほか悪くはなく、身長172cmの筆者の両足裏は前半3分の1が着地している。ホッ。これなら大丈夫。オプションのローシートを選べばあと30mmもダウンするので安心感はいや増すだろう。208kgの車体はビビっていたほど重くはなく、引き起こしのときに毎回「よいしょ」と言わなくて済みそうだ。

「ホンダXL750トランザルプ」は、2023年5月に発売された新型のアドベンチャーツアラーだ。車名のトランザルプ(TRANSALP)とは、“アルプス越え”を意味する。
「ホンダXL750トランザルプ」は、2023年5月に発売された新型のアドベンチャーツアラーだ。車名のトランザルプ(TRANSALP)とは、“アルプス越え”を意味する。拡大
走行情報などを表示する5.0インチフルカラー液晶インフォメーションディスプレイ。4パターンの表示デザインと2種類の背景色が用意されている。
走行情報などを表示する5.0インチフルカラー液晶インフォメーションディスプレイ。4パターンの表示デザインと2種類の背景色が用意されている。拡大
タイヤサイズは前:90/90-21 54H、後ろ:150/70R18 70Hと、悪路走行もしっかり想定したもの。試乗車のタイヤはオン/オフ双方の性能を併せ持つ「メッツラー・カルーストリート」だった。
タイヤサイズは前:90/90-21 54H、後ろ:150/70R18 70Hと、悪路走行もしっかり想定したもの。試乗車のタイヤはオン/オフ双方の性能を併せ持つ「メッツラー・カルーストリート」だった。拡大
大型のアドベンチャーツアラーだけに、シート高は850mmとかなり高め。ただしスリムな車体形状もあって、スペックから想像されるほど足つき性は悪くない。後方には耐荷重8kgのキャリアが装備される。
大型のアドベンチャーツアラーだけに、シート高は850mmとかなり高め。ただしスリムな車体形状もあって、スペックから想像されるほど足つき性は悪くない。後方には耐荷重8kgのキャリアが装備される。拡大
ホンダ の中古車webCG中古車検索

“ナナハン”なのにリラックスして楽しめる

タララランッ! と優しいパルス感が気持ちいい270°クランクの並列2気筒エンジンは、ゼロ発進から高速域までとても扱いやすい。主張しすぎないパワーを操りながらジェントルなペースで街なかをスイスイと進んでいく。ナナハンだぜ、の威張りは背高ボディー以外にそれほど見当たらないが、ミドルクラスらしいトルクフルなエンジンとたおやかな乗り味は、緊張していた筆者をどんどんリラックスさせてくれた。

特にボディーは下半身でホールドするパートが存外にスリムなので、過ぎた不安や気構えはすぐに消える。ちょっとしたダートに入る寄り道や、隘路(あいろ)でのUターンなどでも気負いはそれほどいらない。いっぽう街なかでは、「すり抜け? まあこの車格だから無理して前に出ることないか」とノンビリを決め込むことがたやすい。信号バトルの第一線から退くタイミングをなかなか計れない熟年、もとい熟練ライダーには、きっといいキッカケをトランザルプは与えてくれる。

とはいえ、いくら優しげなパワーカーブでもトランザルプのパラレルツインは最高出力91PSを発生する。前方が開けたまっすぐな道でスロットルをワイドに開ければ、100km/hオーバーなんてあっという間だ。目の前にあるフロントスクリーンの面積は小さく、乗車前はこれで効果のほどは? といぶかしがったが、結論から言うと十二分。視界の広さとウインドプロテクションのバランスを真剣に考えて、Do More With Less。最小にして最大の効果が得られるベストデザインだと判断した開発スタッフには「ブラボー!」を贈りたい。試乗中、思わず何度もステップの上でスタンディングしたくなった視点の高さも、高ハイトなアドベンチャーモデルならではのセリングポイントだろう。

さらに褒めたいのはハンドリング。90mmトレッドの21インチのフロントタイヤにスポーツバイクのような機敏さは求めていなかったが……いやいや、これがなかなかシャープでなおかつ安心感もアリという優れもの。もちろんクイックというほどではないが、大径ホイールなりの重さを感じるのはほんのわずか、倒し込みの一瞬だけ。タイヤのグリップ力に過度に頼ることなくナチュラルに、加えて右に左にリズミカルに旋回することがすぐに楽しくなってくる。その澄んだフィーリングは、なかなかなじめない前傾スーパースポーツの“向き”をムリヤリ変えるよりも、ずっと健全な気がする。……というのは、ヤツらとなかなかなじめない僕の私見です(笑)。

車両骨格にはリアフレーム一体型のスチール製ダイヤモンドフレームを採用。コンパクトな設計のエンジンとも相まって、車重は208kgに抑えられている。
車両骨格にはリアフレーム一体型のスチール製ダイヤモンドフレームを採用。コンパクトな設計のエンジンとも相まって、車重は208kgに抑えられている。拡大
エンジンは754ccの排気量を持つ新開発の直列2気筒SOHC 4バルブ。軽量コンパクトな設計や、出力の高さ、低・中速域での力強いトルク特性などを特徴としている。
エンジンは754ccの排気量を持つ新開発の直列2気筒SOHC 4バルブ。軽量コンパクトな設計や、出力の高さ、低・中速域での力強いトルク特性などを特徴としている。拡大
ライディングモードは、既定の「SPORT」「STANDARD」「RAIN」「GRAVEL」に、各設定を任意で調整可能な「USER」を加えた全5種類。ウイリーコントロール機能付きのトルクコントロールとリアのABSは、オフにすることも可能だ。
ライディングモードは、既定の「SPORT」「STANDARD」「RAIN」「GRAVEL」に、各設定を任意で調整可能な「USER」を加えた全5種類。ウイリーコントロール機能付きのトルクコントロールとリアのABSは、オフにすることも可能だ。拡大
ETC2.0車載器やUSB Type-Cソケット、スマートフォンのボイスコントロールシステムを標準で備えるなど、装備は充実。ウインカーには車線変更や右左折の終了後に自動で点滅を停止する、オートキャンセル機能も備わっている。
ETC2.0車載器やUSB Type-Cソケット、スマートフォンのボイスコントロールシステムを標準で備えるなど、装備は充実。ウインカーには車線変更や右左折の終了後に自動で点滅を停止する、オートキャンセル機能も備わっている。拡大
フロントスクリーンの形状については、風防性能や前方視界の確保に加え、空力性能にも配慮。同じく空力を考慮したフェアリングとも相まって、走行安定性の向上に寄与している。
フロントスクリーンの形状については、風防性能や前方視界の確保に加え、空力性能にも配慮。同じく空力を考慮したフェアリングとも相まって、走行安定性の向上に寄与している。拡大
足まわりは、前がストローク量200mmのショーワ製SFF-CA倒立フォーク、後ろがアクスルトラベル190mmのプロリンクとアルミ製スイングアームの組み合わせだ。最低地上高は210mmとなっている。
足まわりは、前がストローク量200mmのショーワ製SFF-CA倒立フォーク、後ろがアクスルトラベル190mmのプロリンクとアルミ製スイングアームの組み合わせだ。最低地上高は210mmとなっている。拡大
ブレーキは、前がφ310mmのダブルディスク、後ろがφ256mmのシングルディスクの組み合わせで、リニアな制動フィールを追求している。
ブレーキは、前がφ310mmのダブルディスク、後ろがφ256mmのシングルディスクの組み合わせで、リニアな制動フィールを追求している。拡大
存在感のある大型のアドベンチャーツアラーでありながら、親しみやすく、もちろん走りもいい。「XL750トランザルプ」は、長距離ツーリングのお供として文句ナシのマシンに仕上がっていた。
存在感のある大型のアドベンチャーツアラーでありながら、親しみやすく、もちろん走りもいい。「XL750トランザルプ」は、長距離ツーリングのお供として文句ナシのマシンに仕上がっていた。拡大

オッサンを泣かせる絶妙な存在感

「気分はシリル・ヌブーか、エディー・オリオリ!」とはまったくならなかった新しいXL750トランザルプ。でもそれでいいし、それがいい。当時の甘酸っぱい記憶とワークスカラーにとらわれてしまうと、手だれのライダーは「?」と感じてしまうかもしれないが、いやいや。歴代トランザルプは後にも先にもピュアな長距離ツーリングバイクだったことを思い出そう。だったらこれでいいし、これこそがトランザルプ。

ちなみにアフリカツイン(スタンダードモデル)との価格差、37万4000円。ウェイト差は21kg。コンセプトが違うので比べちゃいけないと思いつつ、筆者のなかでは安くて軽いトランザルプの勝ち。理由はかんたん、リアリティー。特に軽いのはとても大切なことなので。

各社250ccクラスのアドベンチャーモデルのどれもが出来のいいことを考えれば、750ccという排気量とそれに伴うデカさはここ日本において、もはや蛇足なのかもしれない。けれどもナナハンであることに価値を置きたい、半身(はんみ)を前時代に残している筆者のようなロマンチスト(!)には、このXL750トランザルプあたりが抜群の落としどころ。もちろん、そこに偉そうなニュアンスは幾分もない。僕ら見えっ張りアラフィフ・ライダーの“実情”への、ホンダからのていねいな回答が新しいトランザルプにはあった。

(文=宮崎正行/写真=山本佳吾/編集=堀田剛資)

ホンダXL750トランザルプ
ホンダXL750トランザルプ拡大
 
ホンダXL750トランザルプ(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2325×840×1450mm
ホイールベース:1560mm
シート高:850mm
重量:208kg
エンジン:754cc 水冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:91PS(67kW)/9500rpm
最大トルク:75N・m(7.6kgf・m)/7250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:22.8km/リッター(WMTCモード)
価格:126万5000円

 
ホンダXL750トランザルプ(6MT)【レビュー】の画像拡大

◇◆こちらの記事も読まれています◆◇

新型アドベンチャーバイク「ホンダXL750トランザルプ」登場
スクランブラースタイルの新型バイク「ホンダCL250」がデビュー
ホンダから500ccクラスの新型スクランブラー「CL500」が登場

宮崎 正行

宮崎 正行

1971年生まれのライター/エディター。『MOTO NAVI』『NAVI CARS』『BICYCLE NAVI』編集部を経てフリーランスに。いろんな国のいろんな娘とお付き合いしたくて2〜3年に1回のペースでクルマを乗り換えるも、バイクはなぜかずーっと同じ空冷4発ナナハンと単気筒250に乗り続ける。本音を言えば雑誌は原稿を書くよりも編集する方が好き。あとシングルスピードの自転車とスティールパンと大盛りが好き。

車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

ホンダ の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連記事
関連サービス(価格.com)

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。