カーボンパーツの将来性について

2023.07.18 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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高性能スポーツカーなどでよく見られるカーボンパーツは、軽量・高剛性なのが特徴とされていて、価格も非常に高価です。炭素繊維や樹脂といった素材からは、より低いコストで生産できそうな印象を受けますが、今後安く広く普及する可能性はあるのでしょうか? 逆に、そうできない理由があれば教えてください。

カーボンパーツについては、スポーツカーだけでなく、車体が重くなりがちなEVでの使用も念頭に、多くのメーカーが注目していた時期がありました。それで各社はカーボンパーツのコストダウンに取り組んだのですが、思ったほど安くなっていない……というのが今の状況です。

コスト以外のカーボンパーツの大きな欠点としては、「リサイクルがうまくいかない」という点が挙げられます。ご存じのとおり近年は環境負荷に対する意識が高まっていて、そんななかで「(リサイクルに向かない素材を)普及させようとしています」というのは、企業として難しい。それでなかなかうまくいかないという面もあります。

私が思うに、これからパーツの材質として期待されるのは、カーボンよりもアルミでしょう。

単にアルミ製というだけではなく、テスラの「ギガプレス」に代表される、大型製造マシンでの一体プレス成型技術が重要です。これにより、いままで数十個で構成していたプラットフォームの部品がひとつになる。結果、圧倒的に安いプラットフォームができるのです。

それに、アルミ材は再利用が可能です。今はこの技術が有望視されていて、トヨタも「ギガキャスト」なる同様の工法を採用すると発表していますね。

純粋に軽さ・強さだけでみれば、今のところ、カーボンを超える材質はないと思います。しかし、製造コスト、環境面の問題をどうするか。ここをクリアできないと、カーボン材はなかなか主流にはなっていかないのです。レーシングカーなど、特殊な世界で少量に限って使われることになるでしょう。

多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。