メルセデス・ベンツE200(FR/9AT)/E220d 4MATIC(4WD/9AT)/E400e 4MATIC(4WD/9AT)
確たる存在感 2023.07.25 試乗記 「メルセデス・ベンツEクラス」がフルモデルチェンジ。新型はEクラスとしては6代目だが、源流から数えると11代目にあたるという。メルセデスの保守本流を務めるラグジュアリーサルーンは、7年でどんな進化を遂げたのだろうか。日本導入を前にウィーンで試した。微妙なポジション
新型Eクラス(W214)の試乗会前に、現行Eクラス(W213)を拝借して予習・復習をしてみた。「E220d」のISG仕様。これが上出来だった。“最終型が最良”という都市伝説的な言い伝えに偽りなしだった。乗り心地よし、操縦性よし、ディーゼルなのに静粛性も動力性能もよし。「これならフルモデルチェンジしなくてもいいじゃん」とさえ思うほど、バランスのいい上質なセダンだった。
そうはいってもやっぱり気がかりなのは、Eクラスというモデルの現在の微妙な立ち位置である。現行「Cクラス」は「Sクラス」と同じプラットフォームを共有し、動的にも静的にもクラスを超えたレベルに到達している。そして何よりボディーが大きくなって、いまやW124のEクラスよりも立派な体格になってしまった。さらに始末が悪いのは、そんなCクラスでも「まだちょっと大きいなあ」と感じる人に向けて、「Aクラス」にも「セダン」が用意されている事実である。ひと昔前のCクラスの役目をAクラス セダンが担っているとするならば、現行CクラスはEクラスの代役としてほぼほぼ通用してしまうからだ。
こんなふうにAとCとEのセダンの境界がちょっとゴチャゴチャし始めているのに、Sクラスの領域だけは絶対に死守するあたりにメルセデスのしたたかさみたいなものがうかがえるのだけれど、それはともかく、少なくとも日本市場におけるEクラスの存在感は希薄になっていると言わざるを得ない。欧州では“フリート”といういわゆる社有車としての需要がこのセグメントで大きなシェアを占めているものの、フリート制度がない日本ではなおのことなかなか厳しいのではないか。なんてことを考えながら試乗会場のウィーンへと向かったのであった。
これが最後のFRプラットフォーム
メルセデスのミディアムサイズのセダンが“Eクラス”と呼ばれるようになったのはW124から。そこから数えると新型のW214は6代目となる。さらにさかのぼってその起源は“ポントン”の愛称で親しまれたW120とされていたのだけれど、メルセデスはいつの間にかさらにその前の「170V」(W136・1947年)をEクラスのご先祖さまとして祭っていた。それを初代とすると、W120が2代目、フィンテールのW110が3代目、縦目になったW115が4代目、初めてワゴンが加わったW123が5代目となり、新型はなんと11代目、76年もの歴史を携えていることになる。
新型Eクラスのボディーサイズは全長4949mm、全幅1880mm、全高1468mm。現行型と比べると9mm長く、30mm広く、13mm高くなり、ホイールベースも22mm長くなっている。お約束のようにまた大きくなってはいるものの、どうにか全長を5m以内、全幅を1900mm以内にとどめようとしたようだ。プラットフォームはSクラスやCクラスと同じ「MRA II」を使用。メルセデスは内燃機用プラットフォームの新規開発はしないと明言しているので、おそらくこれが最後のFRプラットフォームとなる。ボンネットが長くフロントオーバーハングが短く、キャビンがやや後方に寄っているスタイルは、メルセデスがセダンに用いる“クラシック・プロポーション”と呼ぶものである。
デザインの評価というものは、多分に個人の趣味趣向が反映されるので基本的には言及しないのだけれど、光るグリル(オプション)とスリーポインテッドスターを模したテールライトはさすがにちょっとどうなんだろうと思う。光るグリルはいまやメルセデスだけではないので、おそらく最近の流行に乗っかったのだろう。テールランプは以前寄稿したデザインワークショップの内容から察するに、メルセデスはスリーポインテッドスターをルイ・ヴィトンのモノグラム柄のようなテクスチャーにしたいのではないかと推測できる。「EQ」のグリルや一部モデルの内装にもスリーポインテッドスターがちりばめられているからだ。でも個人的には、スリーポインテッドスターがボンネット先端にそそり立つ“エレガンス顔”を新型にも残してくれたのが(不幸中の?)幸いだった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
すべてのパワートレインを電動化
パワートレインは計8種類が用意されている。「E200」「E220d」「E220d 4MATIC」はガソリンとディーゼルの4気筒ターボでマイルドハイブリッドのISG仕様。「E300e」「E300e 4MATIC」「E400e 4MATIC」「E300de」は4気筒+モーターのプラグインハイブリッド、そして「E450 4MATIC」が唯一の6気筒(ISG仕様)となる。つまり、全モデルが電動化ユニットで半分がプラグインハイブリッド車(PHEV)という構成である。いずれも既存のユニットだが、ISGのスタータージェネレーターの出力が15kWから17kWへ増えた点が新しい。日本仕様はまだ決まっていないらしいが、取りあえずE200/E220dあたりで始めて追ってプラグインハイブリッド、みたいな戦略を勝手に想像している。
試乗会ではE220d 4MATICやE400eも試したけれどE200にも乗ることができた。初見のクルマはベースグレードのほうが何かと本質を探りやすい。とはいうものの、オプションのエアサスと後輪操舵が装着されていた。
ボディーに格納されたドアノブ(これもオプション)に触れるとスッと姿を現し、ドアを開けてドライバーズシートへ。試乗車にはこれまたオプションの「MBUXスーパースクリーン」が装着されていた。「EQS」でお披露目された「MBUXハイパースクリーン」との違いは、ガラスで覆われる部分がダッシュボード全体ではなく、助手席側からステアリング付近までとなり、ドライバーの目の前にはメーター類を表示する独立した液晶モニターが備わること。「『EQE』との差別化を図るため」との説明だったが、本当のところはコストだと思う。MBUXハイパースクリーンは大変高価な代物で、実はEQSよりボディーサイズが小さいEQEにまったく同じものをどうにかはめ込んでいる。パッケージが異なる新型Eクラスには流用できなかったのだろう。加えて、フリート対象車はできるだけ本体価格を抑える必要がある。だからいろんな装備がいちいちオプション扱いなのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
Sクラスとは違う高級感
MBUXは現行Aクラスとともにデビューを果たし、EQSで2世代目としてMBUXハイパースクリーンに進化。そして新型EクラスのMBUXスーパースクリーンは見た目だけでなくソフトウエアが最新型にアップデートされている。ひとり乗車の時は「ハイ、メルセデス」と言わなくても、いきなり「ちょっと寒い」と言えばエアコンの温度設定を上げてくれるし、「室温が12度以下になったらシートヒーターをオンにして、アンビエントライトを暖色系に変更」といったコマンドをあらかじめ設定しておくことも可能。社外アプリにも順次対応していくなど、拡張性の高い電子プラットフォームを採用している。
走りだして間もなく考え込んでしまった。出来が悪かったからではない。むしろ想像以上によかったからである。資料によるとボディーのCd値は0.23で、ボンネットやAピラーまわりのシーリングを徹底したという。確かに100km/h付近では風切り音がほとんど聞こえない。パワートレインのノイズがないPHEVのEVモード対策だとは思うがお見事である。そして何より乗り心地が素晴らしい。もちろんエアサスの恩恵もある。でもこの乗り心地はそもそもボディーやシャシーの剛性が高く、サスペンションの設計が優れていることに由来するものだろう。おそらく、コンベンショナルなサスペンションでも乗り心地は悪くないはずだ。静粛性が高く乗り心地がいい。この2つがえも言われぬ上質感を醸し出している。それは明らかにCクラスよりも上等であり、しかしSクラスの重厚感とは異なる類いでもある。何をどうすればこんな絶妙な味つけができるのか、自分ごときにはまったく分からなかった。
E200であっても動力性能は必要にして十分、レスポンスもいいからストレスはまったくない。操縦性は例によって正確無比なコントロール性と盤石な安定感を併せ持っている。そして乗り味はまごうかたなきEクラスのそれだった。孤高のSクラスはひとまず置いといて、Cクラスに乗ると「これで十分じゃん」と思うがEクラスに乗ると「やっぱりCでいいや」ではなく、「やっぱりEは違うな」と納得させなくてはならない。高級ドライバーズサルーンとしてのEクラスの存在意義はまさにそこにあり、新型Eクラスはちゃんと「やっぱりEは違うな」になっていたのである。
(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)
![]() |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE200
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4949×1880×1468mm
ホイールベース:2961mm
車重:1825kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:204PS(150kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/1600-4000rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)
タイヤ:(前)225/60R17/(後)225/60R17
燃費:7.3-6.4リッター/100km(約13.7-15.6km/リッター。WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
メルセデス・ベンツE220d 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4949×1880×1469mm
ホイールベース:2961mm
車重:1975kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/3600rpm
エンジン最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)/1800-2800rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)
モーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)
タイヤ:(前)225/55R18/(後)225/55R18
燃費:5.7-4.9リッター/100km(約17.5-20.4km/リッター。WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
![]() |
メルセデス・ベンツE400e 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4949×1880×1480mm
ホイールベース:2961mm
車重:2265kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:252PS(185kW)/5800rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/3200-4000rpm
モーター最高出力:129PS(95kW)
モーター最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)
システム最高出力:381PS(280kW)
システム最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)
タイヤ:(前)245/40R19/(後)275/35R19
ハイブリッド燃料消費率:0.9-0.6リッター/100km(約111.1-166.7km/リッター。WLTCモード)
EV走行換算距離:95-109km(WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:95-109km(WLTPモード)
交流電力量消費率:21.5-19.2kWh/km(WLTPモード)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

渡辺 慎太郎
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。