第40回:小沢コージのカートレンド分析! あざとかわいさ全開の「デリカミニ」 「かわいい年下の男の子」作戦はなぜ成功したのか?
2023.07.26 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズCM限定じゃなかった「年下の男の子」戦略
「モチーフはやんちゃぼうずです。社内には実際に男の子の写真が貼ってあって、4~5歳ぐらいですかね。気張ってキッとこっちをにらんでるんです(笑)」(三菱自動車開発企画・厚海貴裕さん)
♪つぶらな瞳デリカミニ……あいつはあいつは……。みなさん、独特の曲調覚えてますよね? 昭和の流行歌、キャンディーズの『年下の男の子』の替え歌が印象的なデリカミニのテレビCMです。
ご存じ、2023年春発売の三菱流スーパーハイトワゴンSUVで、5月に発売されるなり7月後半時点で受注が2万1000台と絶好調。
成功のキモは独特の生意気キュートフェイスもさることながら、イメージと見事に一致した秀逸なCM作戦があります。昭和の替え歌と気が強そうな美人女優の水川あさみさん、そしてかわいい怒り顔の子犬キャラクター「デリ丸。」。久々にすべてがマッチして大きな相乗効果を生んでいるように思われます。ある意味、イメージ戦略が見事に成功した好例かと。
ぶっちゃけ「eKクロス スペース」は失敗だった
一方、取材して意外だったのがこの年下の男の子作戦がCM限定ではなく商品戦略の相当初めの時点からあったことです。なぜならこのプロジェクトは「反省」から始まっています。事実、開発企画の厚海さんはこう吐露しました。
「ひとことで言えば(「eKクロス スペース」が)失敗しましたと。われわれが想定していたユーザーに刺さらなかった」
webCG読者には釈迦(しゃか)に説法かもしれませんが、このデリカミニは完全な新型ではなく単なるビッグマイナーチェンジです。骨格はもちろん、内外装も走りもほとんど2020年発売の三菱eKクロス スペース。しかし、それが予想以上に売れなかったためにわずか3年チョイで一部外装どころか顔に車名まで変えてしまいました。そこには前述したeKクロス スペースの失敗があります。
「結局スライドドアの軽のメインユーザーはファミリー層なんです。なかでも若い、特に小さいお子さんをお持ちの30~40代の女性に刺さっていなかったのがeKクロス スペースの反省」
結果として生まれたのが今回の年下の男の子作戦であり、露骨にお姉さんウケを狙ったのがこのキュートな男の子フェイスなのです。
マイナーチェンジゆえの限界も
事実、今回の成功はほぼ狙いに狙ったエクステリアデザイン戦略によるものだと思います。「ディフェンダー」のような半にらみの半円LEDライトにバンパーのヒゲのようなガード風デザイン。まさしくかわいくも小憎らしい男の子の具現。
ただし、女性ユーザーだけではなく、同時にデリカユーザーであり、コアな三菱ファンも取り込もうと思ったのが新型デリカミニの面白くも欲張りなところ。
バンパーの“ヒゲ”はかつての「デリカスターワゴン」のパイプガードにも似てますし、丸目ライトも同じ。絶妙に2つのモチーフのいいとこ取りを狙っています。
さらにうまくいったのが4駆イメージの強化でしょう。ご存じ、デリカミニは4駆モデルに限って外径がほぼ20mmデカい大径タイヤと専用チューニングのダンパーを採用しました。
それに比べると内装は結構eKクロス スペースのままで、シート生地を専用のはっ水素材とし、助手席前の物置パネルの樹脂カラーを変えた程度。
聞けばデリカミニはeKクロス スペースとの違いや差別化ポイントをたくさん盛り込みたかったのと同時に、マイナーチェンジゆえの限界があったそうです。鉄板デザインはもちろん、衝突安全に関わる部分も変えられなかった。
実際、外装だけでなく、内装に足まわりまで変えたら価格はとんでもなくハネ上がります。デリカミニの価格はほぼ180万円スタートで、4駆のターボモデルは200万円を超えます。これはeKクロス スペースはもちろん、セールスリーダーの「N-BOX」を大幅に上回る価格帯。
そこで今回は内装にはあまり手をつけず、キュート&ワイルドな外観と4駆を得意とする三菱らしい足まわりの強化に絞ったのです。
狙いは見事に当たり、販売台数が順調に伸びているのはもちろん、現在売れている半数以上が4駆のターボグレードだといいます。
もちろん今の競争の厳しい軽スーパーハイトワゴン市場で、今後もどれだけバリューを保ち続けられるかは未知数。でも、現在デリカミニが見事なCM戦略を含めたイメチェンを成功させ、そこに戦略の集中と選択があったのは事実。
シンプルにかわいくなっただけのように見えるヒット作にも深淵なる背景と戦略があるのです。
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
-
第51回:290万円の高額グレードが約4割で受注1万台! バカ売れ「デリカミニ」の衝撃 2025.11.28 わずか2年でのフルモデルチェンジが話題の新型「三菱デリカミニ」は、最上級グレードで300万円に迫る価格でも話題だ。ただし、その高額グレードを中心に売れまくっているというから不思議だ。小沢コージがその真相を探った。
-
第50回:赤字必至(!?)の“日本専用ガイシャ” 「BYDラッコ」の日本担当エンジニアを直撃 2025.11.18 かねて予告されていたBYDの日本向け軽電気自動車が、「BYDラッコ」として発表された。日本の自動車販売の中心であるスーパーハイトワゴンとはいえ、見込める販売台数は限られたもの。一体どうやって商売にするのだろうか。小沢コージが関係者を直撃!
-
第49回:国交省を再直撃! 結局なにが問題なのか? トヨタは悪くない……は本当なのか? 2024.6.17 ダイハツの出荷再開で一件落着のように思われていた自動車メーカーによる認証不正問題が、再びキナ臭くなってきた。「より厳しい試験のデータだから問題ない」という声も聞かれたが、それは本当なのだろうか。小沢コージが国交省の担当者に聞いた。
-
第48回:しょ、植物からクルマをつくるだとぉ! トヨタ車体の「タブウッド」に結構驚いた件 2024.6.4 小沢コージが「人とくるまのテクノロジー展2024」で見つけたのはトヨタ車体が手がける「タブウッド」だ。ある種の自動車用合成素材だが、なんと主要な材料のひとつに木材が使われているのである。エンジニアをつかまえてアレコレ聞いてきました。
-
第47回:都庁の担当者を質問攻め! フォーミュラEができたんだから公道F1グランプリできませんか? 2024.4.17 2024年3月末に東京で開催されたフォーミュラEの「東京E-Prix」。日本初上陸ということで大いに盛り上がったわけだが、日本では異例の公道フォーミュラレースの開催にはどんな障壁があり、それをどう乗り越えたのか。小沢コージが東京都の担当者に聞いてきた。
-
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。







































