アストンマーティンDBX707(4WD/9AT)
サーキットも守備範囲 2023.08.22 試乗記 日本屈指の高速サーキット、富士スピードウェイで「アストンマーティンDBX707」に試乗。「DBX」を157PS上回る最高出力707PSのパワーユニットと、強化されたシャシーが織りなす「世界で最もパワフルなラグジュアリーSUV」の走りを確かめた。サーキットで707PSを解き放つ
DBX707はここであらためて紹介するまでもなく、アストンマーティンが誇るハイパフォーマンスSUV、DBXの性能を引き上げたスポーツモデルである。車名の“707”はその最高出力に由来したもので、字面がなんとなく似ているアストンマーティンといえば……の、世界一有名なスパイが登場する映画を意識した数値でもあるという。
フロントに搭載されるエンジンはDBXの4リッターV8ツインターボをチューンしたものだ。精度が高く高性能なボールベアリングターボチャージャーを採用し、ベース車を157PS上回る707PS/6000rpmの最高出力と、200N・m上回る900N・m/2750-4500rpmの最大トルクを実現。157PSの強化と簡単に言うが、その出力を実現するための改良はエアの吸入から排気、そしてクーリングシステムまで多岐に及んでいるという。
今回は、そのDBX707を富士スピードウェイで試すことができる報道関係者向けのイベントである。翌日にはほぼ同じフォーマットで顧客向けの試乗イベントが開催されるとのことで、アストンマーティンにしてみればそちらが本番であるに違いない。デジタルやバーチャルが一般化した令和の時代だからこそ、リアルなユーザーエクスペリエンスには特別な価値を見いだせる。プレミアムブランドにとって、こうしたイベントはいまや必要不可欠なコンテンツだ。
DBX707の最高出力は、既に紹介したように707PSである。700PSオーバーのSUVといえばフェラーリの「プロサングエ」が725PSで、先代ジープの「グランドチェロキー トラックホーク」が710PSだったことを思い出す。ポルシェやランボルギーニ、ベントレーは現状600PS台で、700PSオーバーSUVの列に並んでドアを開ける準備を進めているような状況だ。つまりSUVにして700PSオーバーの実力は、スーパーカーブランドを含めてもひときわ特別な存在なのである。
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実力はまるでV12のスーパーカー
DBX707がハイパフォーマンスSUVのトップランカーに位置するモデルだと考えながらプロフィールをチェックすると、DBXとの違いが目に留まる。大パワーに対応すべくトルコン式ATに替えて搭載された湿式多板クラッチ式の9段AT、900N・mの大トルクに耐えられるように採用された新型の電子制御式リアディファレンシャル(e-diff)、冷却効率を高めるという大型のフロントグリルなど、その変更は広範囲にわたる。
e-diffはコーナリング時の俊敏性やスポーティーなドライブフィールなどにも寄与し、リアアクスルに最大で100%の駆動力を伝達することも可能とされる4WDシステムも電子制御系に専用チューンが施されている。エアサスや電動パワステ、そしてカーボンセラミックディスクが標準で装備されるブレーキシステムも同様だ。走行モードを切り替える「ダイナミックドライブモード」は、「Sport+」モードで“完璧なコントロール性を維持しながら最高の発進加速を実現する”というローンチコントロールが使用できるオマケつきである。
パワートレインとシャシー、そして空力性能にも磨きをかけ、結果DBXのパフォーマンスは0-100km/h加速が3.3秒、最高速が310km/hに達するという。この数値だけを見ると、まるでV12エンジンを搭載するスーパーカーのスペックシートを見ているような錯覚に陥る。
試乗はプロドライバーが乗る先導車に続く、いわゆるカルガモ走行方式が採られた。割り当てられたグループのインストラクターは、スーパー耐久やSUPER GTでその名をはせている佐藤晋也選手。親ガモの後ろにつく2番目の子ガモ以降、インストラクターの走行ラインを忠実にトレースしながら富士スピードウェイを周回する。事前のレクチャーで「後ろのペースが上がってきたら、先導車両もそれに合わせてペースアップしていきますので、サーキット走行を楽しんでください」と言われていたこともあり、DBX707の車群は徐々にスピードを上げていった。
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フルブレーキング時の安定感は抜群
気温30度を超えるレーシングコースをよそに、DBX707のコックピットはエアコンも効いている。ダイナミックドライブモードで「GT」を選びレーシングスピード一歩手前の(と思われる)スピードをキープしながら周回するぶんには平和そのものだ。およそ2.2tとなるヘビー級のボディーをいとも簡単に加速させる4リッターV8ツインターボの実力に感心し、ステアリング操作にリニアな動きを見せるシャシーやタイヤのグリップに目を見張るだけである。路面が完璧に整備されたサーキットゆえに、乗り心地も文句なしだ。
周回を重ねつつ、ダイナミックドライブモードを「Sport」、そしてSport+へと切り替えながら挙動の変化を確認する。GT→Sport→Sport+とレベルを上げるに従ってエンジンレスポンスがシャープになり、エキゾーストサウンドのボリュームもアップ。段階を踏んで足が硬くなる様子も感じ取れた。GTからSportへの切り替えでは走行フィールの変化が明確で、ボディーの密度がグッと高まったような印象を覚える。SportとSport+の違いはそこまでではなく、しかし、変速時間が短くなり、ステアリングの手応えも増している。
GTは快適なキャビン環境を演出するにふさわしいモードで、Sportは今まさに富士スピードウェイを走ることに集中できるモードである。タイトなヘアピン形状の「アドバンコーナー」を抜け300Rまで加速しながら、ダンロップコーナーの手前でブレーキング。左に強いGを感じながらグングンと加速するそのセクションでの挙動と推進力は素晴らしい。ステアリングを直進に戻したと同時に行う強力なブレーキングで完全なフロント荷重になっても、リアがまったく不安定にならず4輪がしっかりと路面を捉えて離さない様子に、これぞアストンマーティンのスポーツカーと舌を巻く。
子ガモの体もクルマも温まった2回目の走行時で、運よく親ガモの直後に位置する車両が割り当てられた。現役レーシングドライバーのレコードラインを間近で見ることのできるチャンス……ではなく、遅れることなく追従し、ペースを上げてもいいとインストラクターが判断したなら、よりDBX707の最速に近いスピードレンジで周回することができる。
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ドライブフィールはスポーツカーそのもの
1回目の走行よりも確実にスピードが上がったこの回は、Sport+を選択。つい1コーナーと呼んでしまう「TGRコーナー」から「グリーンファイト100R」までの下り区間では、後輪がしっかりと車両を前に押し出すようなドライブフィールが味わえる。アクセルコントロールのみで「コカ・コーラコーナー」をクリアし、その先のグリーンファイト100Rを経て「アドバンコーナー」に至る難所では横Gの発生をリニアに感じながらのステアリング操作がスリリングに楽しめる。サーキットを超高速で、しかも背の高いSUVでドライブしているという感覚はいい意味で希薄だ。
アドバンコーナーの手前で強めにブレーキをかけ、ステアリングホイールを回しながらすぐさま加速態勢に入ると、前輪の手応えがグッと増す。前輪の角度とアクセルペダルの開度に連動して、必要な駆動力を前輪に供給しているのだろう。その加速感とボディーの動き、そしてタイヤのグリップ力が三位一体となった決まり具合は、目線が少し高いだけで、スポーツカーそのものである。
しかし、DBX707がオンザレールでグリーンファイト100Rを立ち上がっているその前で、先導車両はボディーサイドをこちらに向け、ほれぼれするようなカウンターを当てながら抜けていった。フロントタイヤがコーナーのカーブと逆方向に動く様子を後方から最前列で眺めることができるチャンスなど、そうそうあるものではない。だが、ピットに戻ると、佐藤インストラクターがプロの技を披露するためのサービスとしてドリフト走行を行っているのではないことがわかった。先導車両は550PSのDBXで、しかもオールシーズンタイヤ装着車だったからだ。
「(DBX707とは)加速性能が違うから、コーナーで追いつかれないようにするとけっこう目いっぱいで。タイヤのパフォーマンス的には、どうしてもあんな風に限界までコントロールするしかないんですよ」と佐藤インストラクター。タイヤ性能を差し引いたとしても、DBX707がベース車を圧倒する加速性能とシャシーバランスを有していることを身をもって実感した。DBX707のSUVフォルムの下には、110年間にわたり一貫してスポーツカーをつくり続けてきたアストンマーティンのDNAが、紛れもなく息づいている。
(文=櫻井健一/写真=アストンマーティン ジャパン/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アストンマーティンDBX707
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg(DIN、空荷重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:707PS(520kW)/6000rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y/(後)325/30ZR23 109Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.2リッター/100km(約7.0km/リッター、WLTPモード)
価格:3290万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:738km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

櫻井 健一
webCG編集。漫画『サーキットの狼』が巻き起こしたスーパーカーブームをリアルタイムで体験。『湾岸ミッドナイト』で愛車のカスタマイズにのめり込み、『頭文字D』で走りに目覚める。当時愛読していたチューニングカー雑誌の編集者を志すが、なぜか輸入車専門誌の編集者を経て、2018年よりwebCG編集部に在籍。
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