インディアンFTRスポーツ(6MT)
不滅のブロンコ魂 2023.09.05 試乗記 フラットトラッカーのレーサーレプリカという、孤高のスタイルで存在感を放っていた「インディアンFTR」が、より身近で乗りやすいモデルに進化。前後に17インチのタイヤを履いた現行モデルでも、FTRの“らしさ”は健在か? 実際に乗って確かめた。本気すぎた初期型の反動か?
2019年に登場した「インディアンFTR 1200」は、一切妥協のないフラットトラックレーサーレプリカだった。フロント19インチ、リア18インチというホイールサイズで、競技をイメージした専用タイヤを装着してしまったのだから、どれだけ本気だったのかがよく分かる。
ただ一方で、足つき性はよくなかったしタイヤの選択肢もなかった。パワーがあってスポーツ性が高いバイクだけにハイグリップタイヤを装着したいと考えるオーナーは少なくなかった。本国アメリカではホイールを17インチ化したカスタムも登場していたほどである。
こういったマーケットのニーズを考えれば、後年に前後ホイールを17インチ化したFTRが発売されることになったのも当然の流れ。ただ残念なのは、日本で19/18インチモデルがラインナップから消えてしまったこと。本国では両モデルが併売されているのだが、そもそもフラットトラックレースに親しみのない日本では、なかなかその魅力が伝わりにくいということなのだろう。アメリカンレースカルチャーが大好きなテスターとしては、一抹の寂しさを覚えるところだ。
という個人的な思いはひとまず置いておいて、マシンのインプレである。カタログ写真などで見るとスタイルはあまり変わらないような感じがしていたが、実際に見たらずいぶん雰囲気が違う。デザインは相変わらず個性的だし、仕上げも美しい。基本的なスタイルが大きく変わったわけではないのにこう感じてしまったのは、「FTR=フラットトラックオーラがプンプン」という個人的な刷り込みがあったからかもしれない。
ロードスポーツとして順当なディメンション
前後ホイールが小さくなったことで、足つきはずいぶん改善された。ただし良好な部類ではない。標準的なスポーツネイキッドレベル、もしくはやや高めという感じだ。
気になるのは、17インチ化でハンドリングがどうなっているかという点。同じバイクでフロントホイールを小径化する場合、キャスターが立ってトレールが減少する。小径化によってクイックな方向になる反面、安定成分が不足してしまう可能性があるのだ。ところがFTRの場合、変えているのは前後サスペンションの長さとセッティングだけだという。それで対応できるのかとも思うのだが、FTRはもともとフラットトラックレーサーレプリカとして開発されたから、ステムのオフセット量がフロント19インチとしては異例なくらい小さかった(=トレールが大きかった)。それでダートを走っていたアメリカ人ライダーたちに聞くと、「フラットトラックを走るには最高のセッティングだ。でもオンロードでは少しナーバスかな」といった具合だった。
ちなみに、当時のFTR 1200のキャスター角とトレール量は、26.3°と130mm。同じフロント19インチの「ホンダ400X」が27.3°と108mm。ハーレーダビッドソンの「スポーツスター883N」が30°と117mmだ。もちろん、操縦安定性にはさまざまな要因が絡み合ってくるので、トレールやキャスターだけで考えることはできないが、FTRのトレールが大きめであったことが分かる。
これが、17インチ化されたFTRではキャスター角:25.3°/トレール量:99.9mmとなった。ホンダのスポーツネイキッド「CB1000R」と近い数値である。つまり、フラットトラックを考えたディメンションでタイヤが17インチ化されたことにより、オンロードスポーツとしてちょうどいいくらいの数値に落ち着いたのである。
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低回転からトルクもりもり
実際に走らせてみると、基本的に素直でスポーティーな性格になっていた。低速では若干ステアリングの舵角が多めにつく傾向があり、バンク角を増やしていくとハンドルの操作に対してややシビアに反応するが、ある程度スピードが乗ってくる中速コーナーになると、そうした挙動は影を潜め、とても乗りやすくなっていく。個人的にはもう少しステアリングに安定感がほしいところだが、このあたりはライダーの感覚や乗り方、嗜好(しこう)によっても評価が変わってくるはず。刺激的で面白いと感じる人もいることだろう。サスペンションはスポーツ走行を考えた設定だが、動きはしなやかで、ストリートでも乗り心地の悪さは感じなかった。
もうひとつ、FTRで触れておきたいのがエンジンだ。アメ車好きでV8エンジンのチューニングにも手を染めているテスターからすると、FTRのエンジンフィーリングは最近のV8マッスルカーにとてもよく似ている。最高出力は123HPだから、同クラスの日欧のモデルに負けているようにも思える。しかし、FTRの面白さは高回転でのパワーではなく、低回転から発揮される湧き上がるような力強さだ。リッターオーバーのスポーツバイクを公道で走らせても、高回転まで引っ張れるシチュエーションは少ないが、FTRのようなエンジン特性ならストレスが少ないし、面白い。
排気音は停車時こそ元気よく聞こえるが、走っているととても静か。加速時にスロットルを大きく開けても、排気音はあまり聞こえてこない。その代わりに体を包むのは、グォっとうなるような吸気音。これはこれで迫力がある。
低回転では、振動はなくスムーズに回っている。5000rpmくらいからシートに微振動が出て、もう少し回すとタンクやハンドルにも広がっていくが、高速道路で120km/h巡航をしたとしても、トップギアだと4000rpmを少し超えたくらいだ。普段の使用で気になるレベルではない。
エンジンでひとつだけ気になったのは、スロットル操作に対する味つけ。フラットトラッカーレプリカのFTR 1200もそうだったのだが、全閉から少しだけスロットルを開けたところのレスポンスが、ずいぶんマイルドになっている。スロットル開度を8等分してみると、全閉から8分の1くらいまでのところだ。低速からトルクがあるエンジンを、乗りやすくするためだろう。この開度を超えるとレスポンスが鋭くなってくるのだが、その変化の度合いがいささか大きいのだ。
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荒削りだがそこがいい
テスターの乗り方だと、ちょうど街なかでこの付近の開度を多用するから、むしろ乗りにくいと感じることもあった。スロットルを戻して、再び開け始めるとき、ちょうどこのあたりの開度までスッと開ける。そうすると微妙な開度の違いでレスポンスが変化してしまうのである。特にモードセレクターを一番元気な「スポーツ」モードにしたときは、変化の度合いも大きくなってしまう。もっとも、実際にFTRに乗っている人たちに聞いてみると、「すぐに慣れてしまうので気にならないし、開け始めが穏やかだから乗りやすい」ということだった。
このように、客観的に見ていくと細かく指摘する部分が出てくるものの、FTRは個性的で面白いバイクだ。日本製のマシンと比較すると、全体的に荒削りな感じがするものの、適度に荒々しい感じが残っているほうが、趣味の乗り物としては刺激的でいいのではないかと思う。
最後に、アメリカにおけるインディアンのレース活動にも少し触れておこう。モトアメリカが開催する「スーパー・フーリガン」というロードレース(アップハンドル、750cc以上のツインエンジン車によって争われる)において、用品メーカーのローランド・サンズとS&Sがタッグを組み、前後17インチ化したFTRでチャンピオンを獲得した。今回紹介したFTRにも、このマシンのノウハウは生かされていることだろう。
フラットトラッ
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2223×830×1297mm
ホイールベース:1524mm
シート高:780mm
重量:227kg
エンジン:1203cc 水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:123HP/--rpm(米国仕様参考値)
最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/6000rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:278万8000円
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後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
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