ポルシェ・ボクスター(MR/7AT)【試乗記】
美味さがわかる素のポルシェ 2010.12.27 試乗記 ポルシェ・ボクスター(MR/7AT)……760万9000円
いまやスーパースポーツからSUV、4ドアセダンまで取りそろえるポルシェ。巨匠 徳大寺有恒が、最も魅力的なモデルに「ボクスター」を挙げる、そのワケは……?
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とっても「スポーツカー」
松本英雄(以下「松」):今日はポルシェのラインナップのなかで、もっともベーシックな「ボクスター」に乗ってみようと思うんですが、いかがでしょう?
徳大寺有恒(以下「徳」):いいね。スポーツカーとしての資質は、「911」より「ボクスター」や「ケイマン」のほうが優れていると、前々から思っていたから。
松:それはどんな理由で?
徳:俺が思うに、911は豪華になりすぎて、値段も高くなりすぎた。今の911はスポーツカーというよりGTだろ。
松:そうですね。実際のところ、メルセデスの「SL」やマセラティの「グラントゥーリズモ」あたりと比較する購買層が少なくないそうですから。ところで、巨匠の初めてのポルシェ体験というと?
徳:「356」だったと思うから1960年代のはじめかな。あまり印象に残ってないんだ。
松:そういえばスポーツカーの体験談はよく伺ったけど、ポルシェの話は聞いたことがないですね。今までにポルシェを買ったことはあるんですか?
徳:これがどうしたものか、まったくないんだよ。
松:驚きですね。100台じゃきかない巨匠のクルマ遍歴のなかにポルシェが1台もないとは! 忘れてるだけで、なにかあるんじゃないですか?
徳:自分でもそう思って(笑)、記憶の糸をたぐってみたけど、やっぱりないな。
松:いったいどうしてなんでしょう?
徳:若い頃はスポーツカーといえば英国車が好みだったし、ポルシェを欲しいと思ったときには金がなかったりといった具合で、ありていにいえば縁がなかったのだろう。
松:なるほど、そんなものですかねえ。
徳:そういうキミはけっこうポルシェが好きだよな? どんなのに乗ったんだい?
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松:61年の「356Bカブリオレ」と67年の「911S」です。
徳:ほう。67年の911Sといえば、2リッター時代のすばらしくシャープなモデルじゃないか。
松:さすがよくご存じで。フラット6のレスポンスがカミソリのように鋭く、「これが乗りこなせればポルシェ乗りとして一人前!」という評判にひかれて買ったんですが……。
徳:調子が悪くて走らなかったとか?
松:いや、これが想像を上回る代物だったんです。針の動きが激しすぎてタコメーターが壊れちゃうんじゃないかと思うほど回転の上がり下がりが素早く、気を付けてないとすぐにオーバーレブさせちゃいそうで。はじめのうちは、スムーズに発進させるのに一苦労でした。
徳:たしかに少々気むずしいエンジンではあったけど、それほどまでだったかなあ。
松:そう思うでしょう? じつはノーマルじゃなかったんですよ。エンジンをオーバーホールしたときにわかったんですが、なんと「906」(注)のカムシャフトが入っていたんです。
徳:906って「カレラ6」だよな。ってことは、かなりチューンしてあったんだな。
松:そうなんです。
徳:カレラ6って、レーシングカーとしてはとても乗りやすいクルマだったけどな。しかし、そんなクルマに当たる機会なんてそうないだろうから、いい経験をしたんじゃないか?
松:ええ。おかげで運転、また整備に関しても鍛えられましたね。というところで、そろそろ乗ってみますか。
(注)ポルシェ906……1966年にデビューしたポルシェのレーシングスポーツで、別名「カレラ6」。日本でも67年日本グランプリ優勝をはじめ数々の好成績を残している。
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速さに文句はないけれど
徳:なかなかいい色じゃないか。
松:濃色だとボディが引き締まって見えますね。
徳:実際のサイズはどれくらいなんだい?
松:全長が4.3mちょっとで、全幅はちょうど1.8mあります。
徳:けっこう幅広なんだな。車重は?
松:この7段PDK仕様で、ちょうど1.4トンですね。
徳:3リッター近いエンジンを積んだ現代のクルマとしては普通なんだろうが、決して軽いとはいえないな。
松:そうですね。ライトウェイトスポーツと呼ぶには、いささか立派すぎるでしょう。
徳:ああ。ミドシップでベーシックなポルシェということで、つい「914」が頭に浮かんでしまうのだが、あれの現代版というわけじゃないんだよな。
松:巨匠は914が好きだったんですか?
徳:うん。あとから出た2リッターのフラット4を積んだ「2.0S」っていうのがすごく気に入って、欲しかったんだけど買えなかった。さっき話したように、縁がなかったんだな。
松:914 2.0Sはスペックから想像するよりずっと速いクルマですよね。軽やかな走りという点では、あれとボクスターには共通するものがありますよ。
徳:そうかい。
松:ボディは大きく、重くなりましたが、エンジンも914の2倍以上になってますから。じゃあ走ってみましょうか。
徳:これ、パワーはどれくらいあるんだい?
松:255psです。トルクは30kgm近くありますよ。
徳:“素のモデル”といえども、公道を走るぶんにはお釣りがくるぐらいだな。
松:ここ箱根ターンパイクでも、パワー不足を感じることはまずないですね。
徳:速さに関しては申し分ないだろう。
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松:ただし前回の「ポロGTI」のときも同じことを言いましたが、MTだったらさらに楽しめると思うんですよ。
徳:加速タイムなどの絶対値ではいまやPDKのほうが速いそうだが、操る楽しさに関してはまだまだMTに勝るものはないということか。
松:PDKも出た当初に比べたら、だいぶ進化しています。とはいえ、すべてこちらの望みどおりにシフトできるわけじゃないんですね。
徳:シフトダウンのタイミングがうまく合わないのかい?
松:そうなんです。落としたいと思っても、落ちてくれないことがあるんですよ。エンジンをオーバーレブさせたりすることがないよう、ある程度のマージンをとってプログラミングされてるのでしょうが、こっちに言わせりゃそんなヘマはしないよ、というわけで。
徳:その点、MTなら意のままに操れるからな。すべては自己責任で。
松:ええ。
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基本に金がかかってる
徳:これ、スポーツカーにしては乗り心地がいいんじゃないか?
松:いいですね。サスペンションの動きがしなやかです。
徳:こうしたベーシックモデルだと、シャシーの基本性能の高さがよくわかるな。
松:ええ。ポルシェは土台からお金をかけてますからね。料理にたとえると、いくら味付けに凝ったところで、素材がよくないとおいしくないじゃないですか?
徳:クルマも同じだな。いくら電子デバイスでごまかそうとしても、素材の持つ本来のクオリティは隠しきれない。その点このボクスターは、素材のよさがそのまま味に出てるよ。
松:個人的にはこうしたベーシックなクルマが好きなんですよ。ボタンを押すとサスペンションのセッティングがあれこれ変わったりするようなものよりも。
徳:同感だな。どういうわけかポルシェは昔から安いのと高いのがいいんだよ(笑)。いまでも911の「GT3」なんかはいいだろ?
松:いいですねえ。値段は高いけれど、その分の価値はあると感じますからね。買えるかどうかはさておき。
徳:俺が思うポルシェってのはさ、ノーマルのままで週末にはヒルクライムなんかの軽いスポーツイベントに出られるクルマなんだよ。
松:サンデーレーサーですね。昔ならコースまで自走していって、ホイールキャップを外して空気圧を上げ、ライトに飛散防止用のテープを貼って、といった感じの。
徳:そうそう。現実的にはオープンカーだからスポーツイベントに出るにはロールバーが必要、とかあるようだが、気分的にはボクスターはそうした使い方ができるクルマだと思うんだ。
松:GT3もそうですね。
徳:うん。でもボクスターのほうがカジュアルな感じでいいんじゃないか。ちなみにこれ、いくらするんだい?
松:672万円です。MTだと50万円ほど安くて625万円。
徳:ますますMTのほうがいいな。でも、ポルシェってオプションが高いんだよなあ。プラス100万円なんてあっという間だろう。
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松:じゃあ、ここは潔く素のままでいきましょう。その代わり内外装は好きな色にしたいですね。ポルシェって、オーダーすればどんな色にでも塗ってくれるんですが、日本からオーダーする例はほとんどないらしいですよ。
徳:不思議だよな。俺にとって好きな色を選べるかどうかは、クルマを買う際にすごく大事なことなんだが。
松:下取りを考えて色を選ぶことほどつまらないことはない、が巨匠の持論ですものね。僕もまったく同意見です。
徳:ちなみにこのボクスターなら、どんな色にする?
松:まずメタリックよりソリッドカラーですね。カフェオレみたいな色がいいかな。なぜか日本では茶系は人気がないようですが。
徳:そうだな。で、インテリアは?
松:茶系で合わせて、ごく薄いベージュでしょうか。
徳:じゃあトップもその色だな。基本に忠実にトップとインテリアを合わせて。
松:巨匠は何色にします?
徳:なんだろう? とりあえずインテリアはタンだな。それに合わせてボディを決めよう。
松:なんだか似たような感じになりそうだなあ。これも巨匠の影響ですかね?(笑)
(語り=徳大寺有恒&松本英雄/まとめ=沼田亨/写真=河野敦樹、ポルシェ・ジャパン(P))

徳大寺 有恒

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。

沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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