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メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC(4WD/9AT)

“新しい普通”のリーダー 2023.11.21 試乗記 鈴木 真人 カスタマーが望むのは5年後、10年後に買いたい商品ではなく、いま欲しいクルマだ。メルセデス・ベンツは意欲的な電動化のプランを示す一方で、このことをきちんと理解している。「GLE」の最新モデルはどこかが突出しているわけではないが、高級SUVとしてケチのつけようのない仕上がりだ。
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マイナス要素がない

この記事のタイトルに「メルセデス・ベンツ-1.0」というのを考えた。もちろん、大ヒット上映中の映画『ゴジラ-1.0』にあやかろうとしたのである。でも、やめた。映画を見て作品の出来を知ってしまったこともあるし、何よりも試乗した「GLE300d 4MATIC」にマイナス要素が見当たらなかったからだ。メルセデスが提供する王道のSUVであり、ユーザーが求める要素を満遍なく盛り込んでいる。

GLEは2019年に2代目となっていて、2023年9月にマイナーチェンジモデルが日本に導入された。2015年に発売された初代は、「Mクラス」から改称されて「Eクラス」の一員という位置づけになった。Mクラスは1997年デビューである。現在では多数のSUVがラインナップされているが、特殊な成り立ちの「Gクラス」を除けばメルセデス・ベンツにとって初めてのSUVといっていいだろう。そして、今もブランドを代表する主力商品であり続けている。

今回の改良では、内外装のデザイン、パワートレイン、インフォテインメントシステム、運転支援システムと、全方位で変更が施された。ひと目で分かる外観の違いは、フロントグリルに「スターパターン」が採用されたことだ。小さなスリーポインテッドスターが全面に配されたもので、メルセデス・ベンツでは新しいモデルで次々に取り入れている。新たなアイデンティティーにしようという考えがあるようだ。

エクステリアデザインはオーソドックスともいえるが、運転席では最新のインストゥルメントパネルに向き合うことになる。横長の大型ディスプレイが2枚並べられているのはトレンドとなっている意匠で、先進的な印象を与える。新しくなったのはステアリングホイールだ。スポーク上のスイッチでさまざまな設定ができる。

今回の試乗車は「メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC」。マイルドハイブリッドの4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載したエントリーグレードだ(1376万円もするが)。
今回の試乗車は「メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC」。マイルドハイブリッドの4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載したエントリーグレードだ(1376万円もするが)。拡大
「スターパターンフロントグリル」が採用された。小さなスリーポインテッドスターを組み合わせて網目を形成している。
「スターパターンフロントグリル」が採用された。小さなスリーポインテッドスターを組み合わせて網目を形成している。拡大
現行モデルは前身の「Mクラス」から数えて4代目。リアのピラーとウィンドウの意匠は歴代モデルが守り続けているポイントだ。
現行モデルは前身の「Mクラス」から数えて4代目。リアのピラーとウィンドウの意匠は歴代モデルが守り続けているポイントだ。拡大
ユニットの形状は変わっていないが、テールランプの発光パターンも新しくなっている。
ユニットの形状は変わっていないが、テールランプの発光パターンも新しくなっている。拡大
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ISGを得た熟成エンジン

パワートレインの大きな変更点は、「ISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)」が組み合わされたことだ。エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟む構造で、要するにマイルドハイブリッドである。48Vの電気システムと回生ブレーキにより、容量約1kWhのリチウムイオンバッテリーに充電する。ISGはスターターモーターとしても働くので、確かに始動時の振動は小さい。低回転時の動力補助機能もあるというが、運転していて気づくほどではなかった。

GLE300dは2リッター4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載する。3リッター6気筒ディーゼルターボの「GLE400d」があるのでエントリーグレードということになるが、価格は1300万円超え。気軽には買えない。この4気筒エンジンはメルセデス・ベンツの多くのモデルで使われてきたもので、熟成が進んでいる。振動やノイズはそれなりに感じるが、不快というほどではない。弱点を洗い出して地道に改善を続けているのだろう。

低速走行でのコントロール性は悪くないので、街なかの運転で過度に神経を使うことはない。ただ、全幅が2m超えで全長は5mに迫り、最小回転半径は5.6mというサイズである。高い視点から見渡すことができるとはいえ、狭い道の多い都市部では苦労するかもしれない。合成映像で車両の下の様子を確認できる「トランスペアレントボンネット」機能が新たに加わっているが、これを使えるのは「オフロード」モードを選んだときだけである。

映像による運転支援では、AR(Augmented Reality=拡張現実)ナビゲーションも装備された。ナビ画面に前方の光景が映し出され、進むべき方向を矢印で表示する仕組みである。歩行中にスマホで使う「Google Map」のライブビューと同じだ。どちらに行けばいいかが直感的に分かるので、方向音痴にとってはありがたい。

マイルドハイブリッドの2リッター4気筒ディーゼルターボエンジンは最高出力269PSと最大トルク550N・mを発生。パワーは改良前よりも3PS小さくなった。
マイルドハイブリッドの2リッター4気筒ディーゼルターボエンジンは最高出力269PSと最大トルク550N・mを発生。パワーは改良前よりも3PS小さくなった。拡大
直6モデルが主力のため、エンジンルームの前方にはだいぶゆとりがある。「GLEクーペ」には4気筒モデルの設定がない。
直6モデルが主力のため、エンジンルームの前方にはだいぶゆとりがある。「GLEクーペ」には4気筒モデルの設定がない。拡大
日本仕様は「AMGラインパッケージ」と「レザーエクスクルーシブパッケージ」が標準装備。内装はブラック一色の仕立ても選べる。
日本仕様は「AMGラインパッケージ」と「レザーエクスクルーシブパッケージ」が標準装備。内装はブラック一色の仕立ても選べる。拡大
「MBUX」にはARナビゲーションが標準装備になった。交差点付近になると実際の映像上に進むべき方向が映し出される。
「MBUX」にはARナビゲーションが標準装備になった。交差点付近になると実際の映像上に進むべき方向が映し出される。拡大

3列目も立派で上質

最高出力の269PSという数字は2.4tを超える巨体には心もとないように思えるが、意外なほど軽々と加速していく。低回転から大トルクを発生するディーゼルエンジンの特性を生かしているのはもちろん、9段ATの出来のよさが助けているところもあるのだろう。ISGはギアチェンジにも効果を発揮し、エンジン回転数を速やかに上げてタイムラグを減らしているそうだ。

高速巡航はGLEのアドバンテージを存分に示すステージだ。広い道を悠然と走り、乗員は安心感に包まれながら穏やかな乗り心地を楽しむ。ゆったりとした車内は質のいい素材をふんだんに使ったゴージャスな空間で、ロングドライブも苦にはならないだろう。ACCを使って安楽な運転を決め込んでいたら、突然センターディスプレイに奇妙なピンクの画像が映り、大きな音が鳴り始めた。サイケというかトライバルというか、刺激性の強い音楽である。

「バイタリティープログラム」というものらしい。一定時間運転していると、眠気覚ましのために発動するようだ。数分待っていたが止まらないので、パーキングエリアを見つけて停車するとようやく終了した。日本法人のスタッフに聞いてみたが、止める方法については情報がなかった。便利な機能や安全性を向上させる仕組みが提供されているのはいいことだが、ユーザーはきちんと取扱説明書を熟読しておいたほうがいい。

GLEは7人乗りである。人気の3列シートSUVなのだ。乗り込むには2列目シートを折りたたむ必要があり、荷室にあるスイッチで操作できる。ちょっと動きがまどろっこしいが、やはり電動は楽だ。ただし、3列目シートは手動で、結構な力で引き起こさなければならない。苦労して座席に座っても、あまり快適な空間ではない。SUVの3列目がミニバンに及ばないのは、構造上の問題である。狭いのは仕方がないとして、GLEの3列目背もたれには立派なヘッドレストが装備されている。メルセデス・ベンツとしては、上質さはここでも譲れないのだ。

最低地上高は215mmを確保。直6モデルの「450d 4MATIC」では強化アンダーフロアパネルがオプション設定されるなど、オフロード走行も視野に入れたラグジュアリーSUVだ。
最低地上高は215mmを確保。直6モデルの「450d 4MATIC」では強化アンダーフロアパネルがオプション設定されるなど、オフロード走行も視野に入れたラグジュアリーSUVだ。拡大
シート表皮はナッパレザーと本革の組み合わせ。黒と白のコントラストが目を引くカラーリングだ。
シート表皮はナッパレザーと本革の組み合わせ。黒と白のコントラストが目を引くカラーリングだ。拡大
2列目シートは荷室側から電動で格納と展開が可能。格納時に床面がフラットになるため、座面と背もたれが少し平板になっている。
2列目シートは荷室側から電動で格納と展開が可能。格納時に床面がフラットになるため、座面と背もたれが少し平板になっている。拡大
現行モデルの「GLE」は全車が3列目シートを標準装備。ヘッドレストはやけに立派だが、座面の高さやサイズは大人には厳しい。表皮も全2列とは違うレザーARTICOだ。
現行モデルの「GLE」は全車が3列目シートを標準装備。ヘッドレストはやけに立派だが、座面の高さやサイズは大人には厳しい。表皮も全2列とは違うレザーARTICOだ。拡大

文句のつけようがないが……

燃費は9km/リッターを上回り、悪くない数字である。高級感のある内外装で、操縦性と乗り心地のバランスがいい。室内空間は広く、乗員にとってはおもてなしの空間だ。安全装備も最新で、文句のつけようのない都会派SUVである。しかし、特筆することがあるのかと問われると困ってしまう。何というか、普通なのだ。ただし、とてつもなく高いレベルの普通である。

かつてのメルセデス・ベンツはセダンのイメージが強かったが、今はやはりSUVが主流となっている。そのラインナップのなかで、中心的存在がGLEだ。メルセデス・ベンツのセダン群が恐ろしく高水準のスタンダードだったように、今ではSUVが“新しい普通”のリーダーとして君臨しているのだと感じる。技術的な先進性を持つだけでなく、ニーズを正確に把握していることが重要だ。

4人組ダンスボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」のヒット曲『オトナブルー』は、「わかってる ほしいんでしょ?」という挑発的な言葉で始まる。認めたくはないが、そのとおり。メルセデス・ベンツがGLEをマーケットに提示するのと同じ姿勢だ。トレンドを理解し、ユーザーのプライドをくすぐる方法を心得ているから、売れ筋モデルをつくることができる。

GLEは最先端のモデルというわけではない。インテリアで未来感を醸し出してはいるが、マイルドハイブリッドのディーゼルという平凡なパワートレインのクルマだ。メルセデス・ベンツは電動化に関して意欲的なロードマップを示しているものの、現状ではまだまだこういったモデルが求められていることを知っている。『オトナブルー』には、「そのうちじゃなくて 今すぐがいいの」という歌詞もあった。完全な電動化がもうすぐモビリティーの常識になるのかもしれないが、ユーザーが今すぐ欲しいのはGLEなのだ。

(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

市街地と高速道路のみの試乗だったこともあり、今回は満タン法で9.2km/リッターと、ヘビー級のSUVとしてはなかなかの好燃費を記録した。燃料タンクの容量は85リッター。
市街地と高速道路のみの試乗だったこともあり、今回は満タン法で9.2km/リッターと、ヘビー級のSUVとしてはなかなかの好燃費を記録した。燃料タンクの容量は85リッター。拡大
ドライブモードには新たに「オフロード」が設定された。床下の凹凸などをカメラ映像で確認できる「トランスペアレントボンネット」機能が便利。
ドライブモードには新たに「オフロード」が設定された。床下の凹凸などをカメラ映像で確認できる「トランスペアレントボンネット」機能が便利。拡大
3列目シートは床面と一体でフラットに収納可能。展開・格納は手動だが、毎日使うというものでもないのでこれで十分。
3列目シートは床面と一体でフラットに収納可能。展開・格納は手動だが、毎日使うというものでもないのでこれで十分。拡大
2列目シートまで格納した場合の荷室容量は1928リッター。
2列目シートまで格納した場合の荷室容量は1928リッター。拡大

テスト車のデータ

メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4925×2020×1795mm
ホイールベース:2995mm
車重:2410kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:269PS(198kW)/4200rpm
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/1800-2200rpm
モーター最高出力:20PS(15kW)/1300-2500rpm
モーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/0-550rpm
タイヤ:(前)275/50R20 113W XL/(後)275/50R20 113W XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:14.2km/リッター(WLTCモード)
価格:1376万円/テスト車=1424万円
オプション装備:ソリッドペイント<アルペングレー>(48万円)

テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:475km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:166.1km
使用燃料:18.0リッター(軽油)
参考燃費:9.2km/リッター(満タン法)/11.2km/リッター(車載燃費計計測値)

メルセデス・ベンツGLE300d 4MATIC
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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