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ホントは売れてるの? 売れてないの? 世界のEV市況が鳴らす日本への警鐘

2024.02.02 デイリーコラム 森口 将之
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実際のところ、どうなの?

2023年の後半ぐらいから、それまで伸び盛りだったEV(電気自動車)の勢いがなくなりつつあるというニュースが出まわるようになった。

例えば、テスラでは2023年10月~12月の営業利益が前年同期の半分近くにまで落ちた。安さを武器に販売を伸ばす中国勢に対抗して、値下げをしたことが理由といわれている。またフォルクスワーゲン(VW)は、彼らの最大の得意先である中国で「ID.」シリーズが伸び悩んでいるという。おひざ元のドイツでも、「新型コロナウイルス対策で未使用となった予算を、気候変動対策に転用するのは憲法違反」と判断されたことを受け、2023年12月でEV補助金が終了するという逆風が吹いた。

さらには、これまでEVシフトが強力に推し進められていた中国でも、プラグインハイブリッド車(PHEV)が急成長。2023年にテスラを抜いてEV販売世界一になったBYDも、PHEVの販売台数がEVに近づきつつある。

いっぽうで、2024年に入ると今度はEVの好調を示す話も耳にするようになった。「欧州の2023年新車販売台数で、EVが初めてディーゼル車を抜いた」というニュースがそれだ。BMWグループも、2023年の新車販売台数が前年比6.5%増なのに対してEVは74.4%も増え、販売に占めるEV比率が約15%になったとアナウンス。メルセデス・ベンツもEVの販売台数が73%も伸びたとしている。

いったい何が正しいのか? いろいろな資料を見たところ、ひとつ言えるのはプレミアムブランドか否かで温度差があるということだ。

2023年は「モデルY」が“世界で一番売れたクルマ”となるなど(120万台)、羽振りのいい話も多いテスラだが、中国勢との値下げ競争でその利益は大幅減。EV市場でも、量販セグメントではし烈な販売競争が繰り広げられているのだ。
2023年は「モデルY」が“世界で一番売れたクルマ”となるなど(120万台)、羽振りのいい話も多いテスラだが、中国勢との値下げ競争でその利益は大幅減。EV市場でも、量販セグメントではし烈な販売競争が繰り広げられているのだ。拡大
EVの好調が成長をけん引したBMW。2026年にはミュンヘン工場で「ノイエクラッセ」の生産を開始する予定で、伝統ある同工場でのエンジン車の生産は、2027年末に終了となる。
EVの好調が成長をけん引したBMW。2026年にはミュンヘン工場で「ノイエクラッセ」の生産を開始する予定で、伝統ある同工場でのエンジン車の生産は、2027年末に終了となる。拡大
前年比1.5%増の成長を果たした2023年のメルセデス・ベンツ。特にEVは22万2600台と、73%増を記録した。新車販売に占めるEVの比率は11%だ。
前年比1.5%増の成長を果たした2023年のメルセデス・ベンツ。特にEVは22万2600台と、73%増を記録した。新車販売に占めるEVの比率は11%だ。拡大

VWだってマルチパスウェイ

EVのユーザーは自宅で充電できる人が多く、つまり一軒家に住んでいる確率が高い。しかも、満充電でも航続距離に限りがあり、充電時間も長いというEVの特性を思うと、複数所有のオーナーが多いことも予想される。

富裕層の新たなシンボルとして、プレミアムブランドのEVが定着しつつあるという話は、日本でも聞かれる。彼らがそれまで愛用していたのは、大排気量のガソリンエンジンを積んだメルセデスAMGやBMWのM、アウディのRSなどだった。しかし、世界がカーボンニュートラルを目指すなか、こういうクルマでブイブイいわせるのは、社会的立場が大事な彼らにとって不都合になる。でもEVであれば、カーボンニュートラルと高性能を両立できる。テスラが提示したこの新しい価値観が、付加価値で勝負するプレミアムブランドの戦略に合致することを発見して、よそが追随。それがマーケットにもハマったというのが僕なりの見方だ。

では、その他の消費者はどうかというと、この層については欧米でも「EVは高価で庶民には手が届かない」という声が高まっているようだ。そもそも「当面はEV以外の選択肢が必要」という意見は、かねて自動車業界からも出ていた。

そのひとつの表れともいえるのが、先日発表された「VWゴルフ」のマイナーチェンジだろう(参照)。先述のとおりID.シリーズが伸び悩んでいるためもあるが、大々的に発表された内燃機関モデルへのテコ入れからは、彼らもしばらくはマルチパスウェイを目指していくというメッセージが伝わってきた。欧州に限らず、海外の人たちは自分の意見をはっきり主張する傾向にあるので、表向きはEVシフトをアピールしつつ、それ以外のパワーユニットにもしっかり対処していくというスタンスではないかと見ている。

とはいえ、彼らもEVのコストダウンにはさまざまな手法で取り組んでいる。数年後にはハイブリッド車並みの価格で買える、普通の消費者が普通に購入を検討できるような車種が出てくるかもしれない。

独プレミアムブランドが好調を記録する一方で、フォルクスワーゲンはEVで苦戦。2023年はエムデンやツビッカウ、ドレスデンなどの工場の稼働を一時停止し、生産を縮小した。
独プレミアムブランドが好調を記録する一方で、フォルクスワーゲンはEVで苦戦。2023年はエムデンやツビッカウ、ドレスデンなどの工場の稼働を一時停止し、生産を縮小した。拡大
2024年にデビュー50周年を迎える「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。同年1月に発表されたマイナーチェンジには、プラグインハイブリッドモデルの性能向上が盛り込まれていた。
2024年にデビュー50周年を迎える「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。同年1月に発表されたマイナーチェンジには、プラグインハイブリッドモデルの性能向上が盛り込まれていた。拡大
2023年3月に発表されたコンセプトモデル「ID.2 all」。2025年に欧州で発売となる予定で、価格は2万5000ユーロ(約350万円)以下となるという。
2023年3月に発表されたコンセプトモデル「ID.2 all」。2025年に欧州で発売となる予定で、価格は2万5000ユーロ(約350万円)以下となるという。拡大

裕福になった世界、ビンボーになった日本

となると気になるのが、私たちの懐具合。日本人の平均賃金がここ30年間でほとんど上がらず、約2.5倍になったアメリカやイギリス、2倍ぐらいになったドイツやフランスと比べて、相対的に貧しい国になっていることだ。仮に欧米の多くのユーザーにとって手が届くEVが登場したとしても、日本人には依然として高すぎるという状況が考えられる。

そうはいっても、新興国は当面エンジン車が中心だろうと思っている人がいるかもしれない。でも、東南アジアや南アジアでは、トゥクトゥクなどの三輪タクシーあたりから電動化が始まっているし、多くの日本メーカーが工場を構えるタイでは、BYDが現地生産を始めることになった。そのタイでは、管理職クラスの年収が日本を超えたという報道もあるほどで、欧米のように富裕層を中心にEVが浸透していくことも予想できる。

対する日本は賃金が上がらないことに加えて、新しいモノやコトに対して慎重で、まず否定から入るというマインドの持ち主が多い。加えて発電のほとんどを火力で賄っているから、EVシフトしてもカーボンニュートラルに近づくわけではない。

なので筆者は、日本はこれからもEVがあまり普及しない国であり続けると思っている。もちろん無理に他国に合わせる必要はない。でも、懐事情も電力事情も違う相手に対して、自分たちが正義だと主張するのは、恥ずかしいので控えたほうがいいと思う。

今のわが国は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」では当然なく、むしろ「不思議の国ニッポン」というタイトルがふさわしいのかもしれない。そしてこの国のユーザーを第一に考えつつ、世界で商売をしなければいけない国内メーカーには、今後さらに大変な道のりが待ち受けていると感じてしまうのである。

(文=森口将之/写真=テスラ、BMW、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン、webCG/編集=堀田剛資)

テスラを抜いて、EVの販売台数で世界No.1となったBYD。2023年秋にはアジアパシフィック地域の販売会社を中国に招き、大々的に試乗会&説明会を開くなど、同時域への進出に前のめりとなっている。
テスラを抜いて、EVの販売台数で世界No.1となったBYD。2023年秋にはアジアパシフィック地域の販売会社を中国に招き、大々的に試乗会&説明会を開くなど、同時域への進出に前のめりとなっている。拡大
森口 将之

森口 将之

モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。

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