ホンダ・オデッセイe:HEVアブソリュートEXブラックエディション(FF)
みんなのためのミニバン 2024.02.21 試乗記 「ホンダ・オデッセイ」が復活! といっても姿かたちや基本的な装備等は日本を去った2021年末とほとんど変わっておらず、「販売再開」くらいのニュアンスが正しい。ま、それはともかくとして、遠方より来る朋と久しぶりのドライブに繰り出してみた。2年の空白
ラグジュアリーでスポーティー、本革シートはドレープ入りで、広いスペースを持っている。お隣のチャイナ生まれのオデッセイ。新しいばかりがよしでなし。帰ってきた元祖ホンダのミニバンは温故知新を教えてくれている……ような気もした。
基本的には2020年秋のマイナーチェンジで登場した、分厚いグリルの高級車顔を特徴とするバージョンで、パワートレインは2リッター直4エンジン&2モーターの「e:HEV」に絞り、サスペンションと内外装はスポーティーな「アブソリュート」のみで、装備が異なる3グレードが設定されている。再販にあたり、先進安全支援システムの「ホンダセンシング」をアップデート、オデッセイ初搭載となる車載通信モジュール「ホンダコネクト」を用意して、2年の空白を埋める。
試乗車は「e:HEVアブソリュートEXブラックエディション」という最上級モデルで、フロントグリルのメッキやリアのランプのレンズ、それに18インチのホイール等がブラックになっているのはもちろんブラックエディションだからだ。
でっかくて高級だ
全タイプの2列目に4ウェイパワーシートを採用し、オットマンとリクライニングの操作を電動化している。
動的機能面では減速セレクターが新しい。ステアリングホイールの左側のパドルで減速感を3段階に変えられる。長い坂道でエンジンブレーキと同様の使い方ができる、いまや電動車ではおなじみのシステムである。
2013年に登場した5代目オデッセイは微妙な大きさと、低床・低重心を特徴とする。現行「ステップワゴン」比で最大60mm長くて70mm幅広く、最大145mm低い。2900mmのホイールベースは10mm長いだけ。ミニバンなのに室内空間の広さではなくて、高級感とドライバビリティーにこだわっているところがホンダ流。もしかして令和の時代にはちょっとズレた価値観かもしれない……。おじさんは支持するけど。
取材日の朝、まだ真っ暗なうちにオデッセイに乗り込む。箱根に8時半集合だからだ。乗り込むと、あらためてでっかくて高級だと感じる。トヨタの「アルファード/ヴェルファイア」より小さく、「ノア/ヴォクシー」やステップワゴンより大きい。その間を埋めるアッパーミドル、という位置づけがオデッセイを独自の存在にしている。それはそれでいい。
エンジンは脇役
スタートボタンを押すと、発電のためにエンジンが始動する。電池のエネルギー残量が少ないらしい。始動しても遮音がしっかりしており、室内の静粛性は保たれている。ガチャンというドアロックの音が響くほどに。
ミニバンなのにステアリングがスポーティーカーみたいに重いのはアブソリュートだから、だろう。乗り心地も適度にファームで引き締まっている。街なかでは基本的にEV走行するので、大変静かでスムーズである。225/50R18サイズのタイヤは、高い静粛性をうたうヨコハマの「アドバンdB V551V」が選ばれている。
1993ccの直4 DOHCはボア×ストロークが81.0×96.7mmのロングストローク型で、13.5という高圧縮のアトキンソンサイクル。最高出力145PS/6200rpm、最大トルク175N・m/3500rpmという平凡な数字は、ハイブリッドの脇役だからだ。
モーターは184PS/5000-6000rpm、315N・m/0-2000rpmと、内燃機関だったら3リッター並みの大トルクを誇る。車重2t近い重量級にして軽やかな出だし。力があるっていいですねぇ。ただし、フル加速しても穏やかな性格で、さほど速くはない。
慌てず急がず
西の空に浮かぶ月がとっても大きく見える。センチメンタルな気持ちになるのは、世の中の多くの人はまだ寝ており、室内が静謐(せいひつ)だからだ。
低床・低重心といっても、そこはミニバンである。山道だとステアリングはスローに感じる。ノーズが気持ちよくインに向かないし、アトキンソンサイクルの直4は回してもくぐもったサウンドを発するだけ。ただ、その曲がりにくくて、快音を発するわけでもないミニバンをなだめながら走らせるのも、運転の楽しみであることは疑いない。
気になったのはe:HEVの制御である。高速走行や全開走行を続けていると、電池を守るためにパワーを落とす。だから、けっこう速い、と感じるときと、あれ? 加速しない……と感じるときがある。オデッセイのe:HEVは初期型だから致し方ない。ドライバー重視のミニバンだから、って熱くなってはいけない。家族や友だちとワイワイいいながら、どこかへ出かけよう。それがミニバンってもんだ。
(文=今尾直樹/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・オデッセイe:HEVアブソリュートEXブラックエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4860×1820×1695mm
ホイールベース:2900mm
車重:1950kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
エンジン最高出力:145PS(107kW)/6200rpm
エンジン最大トルク:175N・m(17.8kgf・m)/3500rpm
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ヨコハマ・アドバンdB V551V)
燃費:19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:516万4500円/テスト車=562万9800円
オプション装備:11.4インチホンダコネクトナビ(29万2600円) ※以下、販売店オプション ETC2.0車載器 ナビ連動タイプ(1万9800円)/フロアカーペットマット(8万5800円)/ドライブレコーダー(6万7100円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1033km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:317.2km
使用燃料:24.8リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:12.8km/リッター(満タン法)/12.8km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。