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ポルシェはなぜヒット作「マカン」を電気自動車にしてしまうのか?

2024.02.26 デイリーコラム 佐野 弘宗
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やれるやつからやるしかない

去る2024年1月末に、新しい「ポルシェ・マカン」が登場した。新型マカンは通算2代目にあたり、初代マカンが2013年11月だったので、じつに10年半ぶりの新型登場となる。

で、すでにご承知の向きも多いように、その新型マカンはバッテリー電気自動車(BEV)である。同じフォルクスワーゲン グループ内のBEV専用プラットフォームPPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)を土台としているので、追ってエンジンモデルが追加される可能性もゼロ。皆無である。

次期マカンがBEV専用車になることはかねて公言されていたことなのだが、こうして実像が明らかになると、ファンの間にはそれなりの不安と動揺もあるようだ。なにせ、マカンはポルシェでも屈指の稼ぎ頭。昨2023年もグローバルで8万7000台以上を売り上げて、ポルシェ最多だった「カイエン」に続く2位の台数だった。しかも、カイエンとの差は数百台。温情ある審判なら“同率首位”としても不思議ではない(?)くらいの僅差だった。BEVの普及には地域や国ごとの温度差が大きい。ファンならずとも「稼ぎ頭がいきなりBEV専用車って大丈夫かよ?」と心配になる。

しかし、ポルシェは2030年までに新車の8割以上をBEVに切り替える……という目標を掲げている。この目標そのものはヨーロッパの高級車ブランドとしては平均的だが、エンジン車の片手間にBEVをやっていたのでは、とうてい実現不可能な数字でもある。また、ポルシェで最後までエンジンを残すのは、カリスマスポーツカーの「911」ともいわれる。

早い話が、ポルシェにしてもBEV化は待ったなし。とにもかくにも、BEV化しやすいモデルから、どんどん手をつけていくしかない。

一般的に商品としてBEV化しやすいのは、比較的コンパクトなモデルとされている。ポルシェの既存ラインナップでいえば、それはマカンであり、スポーツカーなら「718ボクスター/ケイマン」だ。実際、ポルシェはマカンに続いて、2020年代なかば(1~3年以内?)にボクスター/ケイマンもBEV化すると公言している。

さらにいうと、マカンは初代から「アウディQ5」とプラットフォームを共有していた。新型のPPEプラットフォームも、基礎的な設計開発は、どちらかといえばアウディ主導。アウディはポルシェ以上にBEV化に積極的であり、マカンがBEV化の先導役となるのは、自然な流れというほかない。

2024年1月25日に発表された新型「ポルシェ・マカン」。写真のモデルは「マカン ターボ」を名乗るが、過給機など付かない100%BEVである。
2024年1月25日に発表された新型「ポルシェ・マカン」。写真のモデルは「マカン ターボ」を名乗るが、過給機など付かない100%BEVである。拡大
「あの『マカン』が『タイカン』のようなBEVに」!? しかし、ポルシェは「2030年までに新車の8割以上をBEVに切り替える」と明言しており、マカンの件は電動化の序曲にすぎない。
「あの『マカン』が『タイカン』のようなBEVに」!? しかし、ポルシェは「2030年までに新車の8割以上をBEVに切り替える」と明言しており、マカンの件は電動化の序曲にすぎない。拡大
水平基調のインストゥルメントパネルが目を引く、新型「マカン」のインテリア。12.6インチの自立型インストゥルメントクラスターと10.9インチのセンターディスプレイが並ぶ。
水平基調のインストゥルメントパネルが目を引く、新型「マカン」のインテリア。12.6インチの自立型インストゥルメントクラスターと10.9インチのセンターディスプレイが並ぶ。拡大
2020年代なかばには、MRスポーツカー「718ボクスター/ケイマン」もBEV化される見通しだ。写真はガソリンエンジンの高性能モデル「ポルシェ718スパイダーRS」。
2020年代なかばには、MRスポーツカー「718ボクスター/ケイマン」もBEV化される見通しだ。写真はガソリンエンジンの高性能モデル「ポルシェ718スパイダーRS」。拡大
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排ガス対策だけではない

もっとも、今回のマカンのBEV化については、ポルシェもいくばくかの保険をかけている。新型マカンはたしかにBEV専用車だが、マカンがいきなりBEVに完全移行するわけでもない。なんだか言葉遊びのように聞こえるかもしれないが、つまりは、エンジンを積む従来型マカンも継続生産されて、しばらくは新旧マカンが併売されるのだ。

これも2019年にマカンのBEV化が明らかになったときから公言されていたことで、ポルシェのオリバー・ブルーメCEOも当時は「2~3年は併売する予定。従来型マカンをEU(ヨーロッパ連合)の最新排ガス規制に対応させて、継続販売をどうするかは発売までに決める」とインタビューに答えていた。

しかし、結局のところは、EU域内のマカンは従来型との併売はされず、すっぱりと新型に“フルモデルチェンジ”されるという。ただ、その最大の理由は排ガス規制ではなく、最近話題のサイバーセキュリティー規制をクリアできないためだ。

この2024年7月以降にEU域内で販売されるクルマは、新型車・継続生産車にかかわらず、ハッキング防止対策が義務づけられる。2013年発売の初代マカンにはその種の対策はまったく考慮されておらず、あらためて対応するにも多大なコストがかかる。従来型マカンの残り販売期間を考えても、同規制への対応は断念されたらしい。

世界的にもBEV化圧力が強いEUではあるが、EUでもマカンは2023年だけで2万台以上を売り上げており、高級DセグメントSUV市場での人気は圧倒的だ。それもあって、マカンがBEVに移行してしまう2024年は、EUでのポルシェの業績が不安視されるほどである。ただ、ポルシェにとって最大市場の北米では今のところサイバーセキュリティー規制の影響はなく、グローバルでの新旧マカンの併売計画に変更はないようだ。

サイバーセキュリティー規制の義務化については、日本もEUと歩調を合わせているが、継続生産車のあつかいについては同じではない。関係者によると「日本でもしばらくは、新旧マカンが併売されるようだ」とのことである。とはいえ、併売期間もそう長くはないはず。従来型マカンをご所望のみなさん、諦めるのは早いが、待ったなしである。

(文=佐野弘宗/写真=ポルシェ/編集=関 顕也)

こちらは従来型のエンジン搭載の「マカン」。日本市場においては、しばらくはBEV化したマカンと併売されるものと思われる。
こちらは従来型のエンジン搭載の「マカン」。日本市場においては、しばらくはBEV化したマカンと併売されるものと思われる。拡大
EUでは今後、新型車・継続生産車にかかわらずハッキング防止対策が義務づけられる。その対策が、BEV化を前提としたフルモデルチェンジというわけだ。
EUでは今後、新型車・継続生産車にかかわらずハッキング防止対策が義務づけられる。その対策が、BEV化を前提としたフルモデルチェンジというわけだ。拡大
最高出力639PS、0-100km/h加速3.3秒を誇る、新型「マカン ターボ」。一方で、591kmもの一充電走行距離(WLTPモード)を実現している。
最高出力639PS、0-100km/h加速3.3秒を誇る、新型「マカン ターボ」。一方で、591kmもの一充電走行距離(WLTPモード)を実現している。拡大
新型「マカン」は、ドイツ・ライプツィヒ工場で生産される。日本での予約受注の開始日や価格、仕様などについては、現時点では未定だ。
新型「マカン」は、ドイツ・ライプツィヒ工場で生産される。日本での予約受注の開始日や価格、仕様などについては、現時点では未定だ。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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