ディフェンダー90 V8カルパチアンエディション(4WD/8AT)
男の子は我慢できない 2024.03.02 試乗記 最新の「ディフェンダー90」では5リッターV8スーパーチャージドエンジンが選べるようになった。実際は4気筒や6気筒で十分かもしれないが、やはりV8の響きは重い。そして豊かなパワーと優れた感触を味わってしまうと、「やっぱこれかな」と心が迷宮入りしてしまうのだった。伝統のV8ユニット
世を挙げての電動化などどこ吹く風とでも言いたげな、ディフェンダーのラインナップの充実ぶりはどうだろう。もちろんマイルドハイブリッドやプラグインハイブリッドモデルなどをそろえて(電気自動車<BEV>投入も明らかにされている)将来への対応もおろそかにしてはいないが、何しろディフェンダーの本領たる砂漠や密林のなかには急速充電器などないのだから内燃エンジンを早々と捨てるわけにはいかない。
日本導入当初は2リッター4気筒ガソリンターボの「110」しか選べなかったディフェンダーだが、その後3ドア・ショートホイールベース仕様の90が加わり、3リッター直6ディーゼルターボ、ロングボディーの「130」とモデルを増やし、今回の2024年モデルでは90にも待望の3リッター直列6気筒ディーゼルターボモデルが追加されただけでなく、90と110に5リッターV8スーパーチャージドエンジンを積んだモデルが国内導入された。「インジニウム」と称するジャガー・ランドローバー自慢のモジュラーエンジンシリーズのなかでも白眉(はくび)といえる3リッター6気筒ディーゼルターボ(マイルドハイブリッド)で十分以上であることは百も承知のうえでのV8である。
今どき? といぶかしく思う人もいるかもしれないが、V8搭載の武闘派ライバルがいる限り対応するのは当然だし、そもそも分割再編される前のローバーといえばV8(しかも元をたどればV8王国の米GMビュイック製だ)という時代もあった。「レンジローバー」は1970年の初代モデルから3.5リッターV8エンジンを積んでいたし、そのローバーV8ユニットはMGからTVR、モーガンに至るまで英国自動車産業を長く支えてきたのである。ランドローバーも折に触れて、V8ディフェンダーを近年では記念モデルとして発売してきた経緯がある。
直6ディーゼルは名機だけど……
あれ、これは本当にディーゼルエンジンだったっけ? とあらためて確認したくなるほど、スムーズで滑らかで静粛。しかも48Vマイルドハイブリッドシステムのおかげで始動が滑らかなのはもちろん、車外で聞いても非常に静かなことがインジニウム6気筒ディーゼルの美点である。プレミアムを名乗る直6ディーゼルならばこうでなくちゃ、という見本のようなエンジンで、現行6気筒ディーゼルとしてはメルセデス、アルピナと並んでメジャーリーグプレーヤーといっていい。それゆえ兄貴分のレンジローバーにも積まれている。それほど“推し”を自認していたつもりだったのだが、さらに余裕のあるV8を知ると、ああやっぱりこっちかなあ、と心が揺らぐ。V8には当たり前だが、V8ならではの滑らかなパワーデリバリーと独特のビートがある。男の子にとっては永遠の魔法の記号である。
ディフェンダーには、レンジローバーに搭載されるBMW由来の4.4リッターV8ツインターボではなく、由緒正しい(?)ジャガーAJ-V8(1996年デビュー)の進化版であるAJ133型スーパーチャージャー付き5リッターV8が積まれる。最高出力と最大トルクは525PS/6500rpmと625N・m/2500-5500rpm、ジャガー向けよりはちょっと抑え気味だが、本格的クロスカントリービークルに必要なのか、と思うほど強力だ。
90 V8の車重は2310kgもあるが、これだけの押し出しで2.3t程度なら軽いほうじゃないか、と思うようになった自分がちょっと恐ろしい。3tを目前にしたBEVの数字を見慣れたせいかもしれない。ちなみに0-100km/h加速は5.2秒(110は5.4秒)、最高速は240km/hという。実際、速いです。そのうえ大排気量V8は低速でも非常に扱いやすい。荒地をゆっくり歩むようなペースで踏み分けなければいけないオフローダーにとって、低速トルクと扱いやすさは必須である。
相変わらずのスマートさ
いわば最上級グレードの「カルパチアンエディション」は専用の内外装を備える。「カルパチアングレー(サテンフィニッシュ)」のボディーカラーや22インチホイール(スタンダードは20インチ)、4本出しのエキゾーストシステムなどが迫力ものだが、それに対してインテリアが控えめで上品かつモダンであることが最近のランドローバー各車の特徴だ。今やランドローバーがこの分野でのリーダーではないだろうか。とりわけビーガンレザーなどサステイナブル素材を使った内装の洗練度は見事である。このディフェンダーにはエボニーウィンザーレザーとディナミカスエードクロスのコンビネーショントリムがおごられていた。
「Dinamica」とは旭化成の登録商標であり、リサイクルマイクロファイバーを使用した人工スエード素材のこと。他にもランドローバーは「ウルトラファブリックス」(日本の旧第一化成の製品)や、ご存じアルカンターラ(こちらはもともと東レの製品)など、新素材を積極的にスマートに採り入れている。日本企業が開発した新素材をランドローバーで知る、というのは何というかうれしくも寂しくもあり、ではないか。
細かいことだが、ランドローバーのステアリングホイールの細身で堅く長円形のリムもお気に入り。握り心地にこだわっているように感じるのは他にはポルシェ、マクラーレンぐらいである。
使いこなしている
ご承知のように「90」とはもともとホイールベースの長さ(インチ)を示していたが、今では90のホイールベースは2585mmもある。とはいえ3020mmの110に比べれば、ボディーは非常にコンパクトであり、そこにスーパーチャージャー付きV8を積んでいるのだから、剽悍(ひょうかん)でないわけがない。「テレインレスポンス2」に新たに「ダイナミック」モードも追加されたディフェンダーV8は、こんなに巨大なマスがこれほど敏しょうに走り回っていいのか? と不安になるほどキリッと走る。
もちろん事実上オンロードしか走らないスーパーSUVとは素性が違うので油断は禁物だが、サーキットにでも持ち込まない限り、これで不足があるとは思えない。ちょっとだけオフロードも試してみたが、頼もしさは相変わらず、王者の実力である。525PSのV8モデルは2024年限定という。いいなあ、と言いながら価格表は見ないようにする。円安の昨今、何と1500万円以上もするのである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ディフェンダー90 V8カルパチアンエディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4510×1995×1970mm
ホイールベース:2585mm
車重:2310kg
駆動方式:4WD
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ スーパーチャージャー
トランスミッション:8段AT
最高出力:525PS(386kW)/6500rpm
最大トルク:625N・m(63.7kgf・m)/2500-5500rpm
タイヤ:(前)275/45R22 115W M+S XL/(後)275/45R22 115W M+S XL(コンチネンタル・クロスコンタクトRX)
燃費:--km/リッター
価格:1598万円/テスト車=1656万0080円
オプション装備:Wi-Fi接続<データプラン付き>(3万6000円)/ツインカップホルダー<フロント、カバー付き>(0円)/シグネチャーグラフィック<収納スペース付き>(2万2000円)/22インチ“スタイル5098”<サテンダークグレーフィニッシュ>(35万5000円)/22インチフルサイズスペアホイール(2万1000円)/オールシーズンタイヤ(0円)/スペアホイールカバー<ボディー同色>(7万9000円)/ホイールロックナット(9000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(5万8080円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1637km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:297.9km
使用燃料:52.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.7km/リッター(満タン法)/6.6km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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